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第176話 富士の樹海14
しおりを挟む「あっ…………。」
俺たちが樹海の静寂の中を進んでいると、道の先で見覚えのある姿が目に入った。昨日すれ違ったばかりの崇拝派の呪術師たちだ。
空気が凍りつく。
互いに立ち止まり、一瞬で無言の張り詰めた空気が場を支配する。この広い樹海で、まさか同じ場所に出くわすなんて、運命の悪戯にもほどがある。
心臓が止まりそうになるのを必死に抑えながら、俺は目の前の彼らを見た。
まず目を引くのは、崇拝派幹部・水月。
柔らかなウェーブがかかった明るいブラウンのセミロングヘアが揺れ、優しげなヘーゼルブラウンの瞳がこちらをじっと見つめている。スリムな体型に控えめな華奢さがあり、その優雅な雰囲気がかえって不気味だ。あの穏やかな微笑みは何を考えているのか全く読めない。
彼女の隣には、同じく崇拝派幹部の翠嶺。表情は穏やかだが、その目には鋭い光が宿り、探るような視線をこちらに投げかけてくる。まるで何もかもを見透かされているような感覚に、全身の毛が逆立つ。
そしてその後ろには、三人のモブ呪術師たち。全員が整然と並び、俺たちを睨みつけている。その均整の取れた動きと威圧感は、まるで軍隊のようだ。
俺たちは全員、その場に固まり、思わず顔を見合わせる。
(ヤバい、ヤバいぞ……!)
こういうのを「鉢合わせ」って言うんじゃないか?どっちが先に動いても戦闘になりそうな空気が張り詰めている。
俺はなんとか場を和ませようと、ぎこちなく笑みを浮かべてみた。
「いや~、偶然って怖いよねぇ……はは……。」
まるで道端で知り合いに偶然会ったみたいに装ってみたけど、全員の視線はピリピリと俺たちに向けられている。内心では必死に念じていた。
(頼むから、適当に笑って立ち去ってくれ……!)
しかし、この場の緊張感は尋常じゃない。一歩動いただけで、どちらかが「ファーストアタックか?!」と勘違いしそうな危うい空気が漂っている。俺はひたすら愛想笑いをキープするしかなかった。
そんな中、翠嶺が霧羽を見つけた瞬間、彼の表情が明らかに変わった。柔らかな笑みを浮かべ、その目には、まるで救世主を見つけたかのような光が宿っている。
翠嶺が一歩前に出て、穏やかな口調で話し始めた。
「ほぉ……そちらも天狗と行動を共にしているのですね。なるほど……ならば、我らの同志、天狗・夜嵐様の意思を理解されているということでしょう。」
その瞬間、俺の頭の中が一瞬で真っ白になった。
――えっ、マジか?俺たち、今、勝手に“同志”扱いされてるぞ?
翠嶺の言葉が耳に入った瞬間、俺の思考が一瞬止まった。霧羽がいるだけで、「こいつら夜嵐派だな」って勘違いしてる?いやいや、霧羽が天狗だってだけで、俺たちの目的は真逆だぞ。でも、ここで「いや違います!」なんて言ったら、間違いなく戦闘になるし、それこそ最悪だ。
――これは……利用するしかねぇ!
俺は内心でガッツポーズを決めながら、表情だけは慎重に整え、ぎこちない笑みを浮かべた。よし、こうなったら勘違いに全力で乗っかって、無事にこの場をやり過ごす!
みんなも、俺の意図を理解してるらしく、さりげなく静かに頷いている。頼もしいぜ、俺の仲間たち!
心の中で作戦を練りながら、俺は軽く咳払いをして、なるべくそれっぽい口調で答えた。
「えぇ、もちろんですとも!」
俺はわざとらしいほどの敬意を込めて言葉を続けた。
「夜嵐様のご意思には、深い敬意を抱いております!」
言いながらも、内心では「何言ってんだ俺」と冷や汗が出る。けれど翠嶺は満足そうに頷き、水月も穏やかな笑みを浮かべている。――どうやら信じてもらえたらしい。よし、この調子で切り抜けるぞ!
「そうでしたか、我々崇拝派も、夜嵐様が風神の力を手にし、人間を浄化する日を心待ちにしているのです。殲滅派が邪魔をする気配があれば、全力で排除するつもりですので、どうぞご安心を」
翠嶺が満足げに語るその内容――いやいや、「浄化する」って、要するに人間を全滅させるってことだろ!?お前ら、そんな恐ろしい計画をドヤ顔で語れるって、どんなメンタルしてんだよ!俺の心の中では、既に赤い警告ランプがピカピカ点滅してる。
でも、ここで突っ込んだら一発アウトなのは明らかだ。戦闘なんてごめんだし、今は何とかこの場をやり過ごすしかない!
俺は必死に愛想笑いを浮かべ、喉をカラカラにしながらも、なるべくそれっぽく聞こえる言葉を口にした。
「お、おぉ……それは安心ですねぇ~。えぇと、その……私たちも全力で……助力します!はい、全力で!」
――いやいや何の助力だよ!?俺、自分でも意味が分かんねぇぞ!って心の中で絶叫しつつも、表情だけは「自信満々の賛同者」を装っている。
水月が微笑みながら、さらりと言葉を投げてきた。
「そうですか。それは心強いですね。」
翠嶺も満足げにうなずいている。――よし、これで何とか戦闘回避成功だ!
――よし、どうやら戦いはうまく回避できたっぽい!
俺、今なら「演技力だけで世界を救った男」のタイトルも名乗れる気がしてきたぜ。
で、次の瞬間、水月が冷静な笑みを浮かべながら、静かに言い出した。
「飯田雷丸様、伊集院麗華様……中立派のお二人がここで賢明な判断をしてくださったようで、何よりです。どうですか?今からでも崇拝派に入られては?」
――――いやいや、冗談きついっすよ!
俺は心の中で絶叫した。けど、うっかりそんな本音を口に出すわけにはいかない。
「え、えぇ……それは……とてもありがたいご提案ですね。」
俺はどもりながらも、必死に愛想笑いを引きつらせてキープする。そして横目で麗華をチラリと見た。「(とりあえず話、合わせとけ!)」と目配せで全力アピールする。
麗華も俺の視線を受け取って、ピクリと眉を上げる。けど、さすが伊集院家の才女、表情は冷静そのものだ。麗華は涼やかな微笑みを浮かべながら、完璧なフォローを入れてくれる。
「えぇ、崇拝派の皆様の崇高な理念はとても尊敬に値します。ぜひ、前向きに検討させていただきます」
麗華は涼やかに微笑みながら、完璧に話を合わせてくれている。こっちも「あぁ、麗華様、さすが!」って心の中で拍手喝采だ!
水月と翠嶺は、俺たちの言葉を聞いて満足げにうなずいている。なんかこっちは汗ダラダラなんだけど、どうやらこの演技、バッチリ信じてもらえたらしい。
「お二人がそのように賢明であられることを、崇拝派としても大変心強く思います」
と翠嶺が一礼し、モブ呪術師たちも神妙な顔でこっちを見つめている。
――よっしゃ、これで何とか切り抜けたか?俺たち、これならスパイ映画の主役張れるんじゃねぇか!?
だが、その安堵もつかの間――。
霧羽が首をかしげながら、何のためらいもなくポツリと口を開いた。
「ん?雷丸、麗華。二人とも何を言ってるんだ?何故崇拝派に賛同している?お前達の目的と違うのだろう?」
――――おいおいおいおい!頼むから空気読んでくれ、霧羽ぁぁぁぁぁ!!
俺と麗華はその場で完全にフリーズ。視線を感じて振り返ると、翠嶺と水月が同時に目を細めて、こちらを鋭く見つめている。まるでハンターが獲物を狙うような、その視線が刺さってくる。
「あ、いやいや、えっと、そういうことも言ってたけどね!ね!?ちょっと、ほら、冗談というか、言葉のあやというか……!」
俺は焦りまくりながら必死に誤魔化そうと手を振ったが、霧羽はそんな俺を真剣な目でじっと見つめてくる。
「言葉のあやって何だ?雷丸、お前はいつもよくわからんことを言うな。」
――いやいや、この状況でよくわからんのはお前のほうだ!俺は心の中で全力でツッコミながら、麗華に救いを求める視線を送った。
麗華もさすがに冷や汗を浮かべつつ、それでも冷静な微笑をキープ。さすが才女、こんなピンチでも毅然とした態度を崩さない。そして、霧羽の爆弾発言を受けて、一瞬で場の空気を読み、間髪入れずにフォローの言葉を口にした。
「ええと、霧羽の言う事ももちろん一理あるわ。ただ、崇拝派の皆様の理念にも尊敬すべき部分が多いと感じたの。そのため、私たちは双方の考えをしっかり理解し、最善の道を探ろうとしているのよ。」
麗華の完璧なフォローに、俺は心の中で拍手喝采。「さすが麗華様!俺たちのピンチを見事にカバー!」と叫びたくなる。
翠嶺と水月は麗華の言葉を聞いて一瞬だけ考えるそぶりを見せたが、その表情はまだどこか疑念を含んでいる。
――ヤバい、まだ完全に信じてもらえてねぇ……!
俺はさらに焦りつつ、場を何とか切り抜けるべく、ぎこちなく微笑んで言葉を続けた。
「そ、そうそう!麗華が言う通り、俺たちは柔軟な考えを大事にしてるんだよ!ほら、こういう時こそ、お互いの意見を尊重し合うのが大事っていうか……な?」
翠嶺が目を細めたまま口を開く。「ふむ……柔軟な考え、ですか。それが夜嵐様の意思を支持することと矛盾しないなら、こちらとしても問題はありませんが。」
――危ねぇ、ギリギリ信じてもらえたか?俺は内心で胸を撫で下ろしながら、なんとかこの場をやり過ごす術を模索していた。
しかし、霧羽が再び真顔で――しかもさらに追い打ちをかける一言を放った。
「でも、私たちの目的は夜嵐を止めることだぞ?」
霧羽の言葉に俺の脳内では「おわったーーー!!」という声が響き渡る。横を見ると、麗華も青ざめて、「うわぁ……これ完全にダメなやつよね……?」と、呆然としている。
水月の微笑みが徐々に消え、冷たい表情へと変わっていくのがはっきりと分かった。翠嶺も低く唸るように言葉を絞り出す。
「ほぉ……そういうことでしたか。貴方たちは我々崇拝派を欺こうとしていたのですね……。」
その声には、明らかに怒りが含まれている。俺は内心「ヤバい!」と全力で警報を鳴らしながらも、なんとかこの場を取り繕う手段を必死に考えた。けど、そんな俺の焦りなんて全く気にする様子もなく、霧羽は堂々と声を張り上げた。
「とにかくだ。人間もこの自然の一部であり、妖怪と同じくこの山と共に生きる存在だ。だからこそ、私たちは夜嵐の野望を止める。」
霧羽ぁぁぁ!!頼むから一旦黙ってくれぇぇぇ!!
俺の心の中で悲鳴が響き渡るが、霧羽はそれを無視して自分の意見を堂々と言い切る。その結果、翠嶺と水月の視線はさらに冷たく、鋭くなっていく。
数秒間の沈黙が場を支配した後、水月は薄笑いを浮かべながら低い声で囁いた。
「……つまり、あなた方は私達の敵ということですね?」
「あぁ、そうだ。」
完全に止まらない霧羽!
その瞬間、麗華が「もう無理ね……」と諦めたように小さく呟き、焔華は「ぷははっ!」と大爆笑。
「霧羽、お前、ほんと正直すぎるじゃろ!」と笑い転げている。
一方、貴音は感心したように霧羽を見つめ、「霧羽は嘘がつけないんだねぇ。素直でいいなぁ」と笑顔を見せる。
さらに雪華までもが感慨深げに頷きながら、「なんだか芯を感じますね……。正直で揺るぎないその姿勢、カッコいいです」と、霧羽を褒め始める始末。
「そんな感心してる場合じゃないだろ!?」
翠嶺と水月の表情はさらに険しくなり、周囲の空気がどんどん重くなっていくのが分かる。俺は額にじわりと滲む汗を拭いながら、決意を固めた。
「ええい、こうなりゃ腹をくくるしかねぇ!」
気合を入れ直した俺は、一歩前に出て胸を張り、翠嶺たちを睨み返した。そして、迷いを振り払うように声を張り上げる。
「そうだよ!俺たちは夜嵐の野望をぶっ潰すためにここに来たんだ!この俺、雷丸様と愉快な仲間たちがな!」
そう宣言すると、周りの空気がさらに重たくなったが、霧羽が誇らしげに俺の横に立ってくれた。もう後戻りはできねぇ!どっちにしろ、俺たちは最後まで突き進むしかないのかもしれない――そう腹をくくるしかなかった。
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