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第177話 富士の樹海15
しおりを挟む俺の宣言に激怒したモブ呪術師たちが、何やらブツブツと小難しい呪文を唱え始めた。手をかざしながら怪しげな光を纏い、「今からスゴい技を出します」って顔をしてる。まるで格ゲーの必殺技をため込んでるみたいな様子だ。
俺はそんな彼らの姿を見て、思わずニヤリと笑った。
「あーあ、残念だな。お前ら、ただの『痛いセリフ』言って終わりだぜ!」
そう言いながら、俺は指をスッと一振り。
瞬間――呪術師たちが放とうとしていた技が、まるでテレビの電源をオフにしたみたいにピタッと止まった。怪しげな光も、迫力のあるポーズも、一瞬で無意味に。
残ったのは……そう、中二病じみた痛いセリフだけだ。
呪術師たちは「あ、あれ……?」と呆然と立ち尽くす。俺は胸を張り、誇らしげに言い放った。
「これだよこれ!最近妖怪相手ばっかりで、この魔術キャンセルが使えなかったんだよな!人間相手だと、この技がバッチリ効くから、やっぱいいわ~!」
呪術師たちは未だにポカンとしていて、何か言いたげだが言葉が出ないらしい。その様子を見て、俺の背後にいた雪華がのんびりと微笑みながら口を開いた。
「あ、懐かしいですね。この技……初めて雷丸様にお会いした時を思い出します。」
彼女は遠い昔を懐かしむように呟き、優雅に微笑む。俺はそんな彼女を見て得意げに笑った。
「そうだろ?これぞ俺の十八番だからな!」
呪術師たちは、まるでハイテンションで告白した直後に「ごめん、友達でいよう」とバッサリ断られた中学生みたいに、キョトンとした顔で固まっていた
「えっ、これ、出てないよね……?」
呪術師Aがポツリと呟くと、隣の呪術師Bがそっと「いや、確かに唱えたよな?」と確認を取る。だけど全員、呪文が効いてない現実を受け止めきれず、あちこち見回すばかり。
しまいには呪術師Cが「あ、あれ……さっきの呪文、ひょっとして間違えた……とか?」と、無理やり理由をひねり出そうとするが、もう手遅れだ。言い訳なんて通用しない空気が漂っている。
俺が呪術師たちの情けない姿を見て爆笑している横で、貴音は肩を震わせながら、目を潤ませて俺に話しかけてきた。
「お、お兄ちゃん……あの人たち、ほんとに一生懸命だったのに……ふふっ……」
そんな貴音の言葉を聞いて、さらに笑いが止まらなくなる。そこへ追い打ちをかけるように、焔華が大げさに手を振りかざしながら呪術師たちのセリフを真似し始めた。
「『鮮血の契約に応えよ…………』とか言っておったが……何も起きんとはな!それに『冥界の黒炎、万物を灰に帰せよ……』とかも言ってたぞ!これが呪術か?ただの痛いセリフとポーズじゃな!」
焔華は言葉に合わせて妙にキザなポーズを取り、最後には自分でお腹を抱えて笑い転げる。呪術師たちの顔は真っ赤だ。いや、怒りというよりも羞恥心で染まっているんだろうな。
俺たちが爆笑している中、麗華が冷たい視線を送りながらため息をつく。
「……貴方達、性格悪いわよ。せめて少しは憐れんであげたらどう?」
焔華は全然気にせず笑い続け、貴音も「だって……面白いんだもん……」と小声で言い訳している。そんな中、霧羽が真顔で呆れたように首をかしげた。
「あいつらは……何がしたかったのだ?」
そのナチュラルな煽りに、俺も吹き出しそうになる。呪術師たちはプライドがズタボロになったのか、全員で俯いてガックリ肩を落としている。
俺がゲラゲラ笑っていたその瞬間――視界の端を水の光線がビュンッと掠め、後ろの岩にズドンと派手な音を立てて穴が空いた。笑い声がその瞬間にピタッと止まる。
――――え、何今の?俺は硬直したまま、ゆっくりと振り返る。
「随分楽しそうですね、飯田雷丸」
低く冷たい声が響く。そこには冷ややかな目で俺たちを見つめる水月の姿。手元には不思議に揺れる水を湛えた器があり、その液体が生き物のように蠢きながら、今にも襲いかかる勢いで俺を狙っている。
その威圧感に一歩も動けない俺に向けられたのは、明らかな殺気。
「うぉぉぉぉぉ!!魔術キャンセル!!」
俺は慌てて両手を広げ、全力でキャンセルを試みるが――ダメだ!彼女の呪術は異常なほど速い。通常ならば詠唱の途中を狙えばいいだけなのに、水月の技は呪文を省略したまま、完全に発動している。つまり、攻撃が発生した瞬間にはもう俺たちを狙っているわけで……キャンセルする暇すらない!
「こいつも麗華や鳥丸、黒瀬みたいに、呪文なしで術を使えるのかよ……!!」
俺は呟きながら、次の行動を考えようとするが、その暇もない。ビュンッ、ビュンッ!と連続して放たれる水の光線が容赦なく俺たちを襲う!
「うわぁぁぁぁっ!」
俺たちは必死にその場を飛び退き、全力で回避モードに突入。さっきまでの余裕なんてものは、跡形もなく吹っ飛んだ。
「あぁ、俺が悪かった!笑って悪かったって!でも、それで岩に穴開けるのはさすがにやりすぎだろーー!」
俺は必死で叫びながら手を振り回すが、水月は冷たい表情のまま一切の容赦を見せない。手元の器を持ち上げると、中の水が生き物のように動き、次々と光線となって俺たちを狙って放たれる。
「ビュンッ!」「ズバン!」と周囲の岩や木々が次々に削られ、俺たちの間近をかすめていく音が響く。その精度と威力に、全身の毛穴が一気に開くような感覚。
「遮蔽物がないこの場所ではひとたまりもないわ。ひとまず森に隠れるわよ、みんな!」
麗華が鋭い声で指示を飛ばす。その声で我に返り、全員が即座に頷く。
「よし、行くぞ!」
俺は声を張り上げると同時に体を翻し、森の奥へと駆け出した。背後ではなおも水月の光線が追いかけてくる音が響き、そのたびに「近い近い!」と絶叫しながら必死で走る。
光線の威力で木々がバキバキと倒れていく中、俺たちは全速力で森の中を突っ切った。追跡音がどんどん近づくたびに心臓がバクバク鳴り、息が切れるのも構わず前へ進む。
「皆さん、こっちです!」
雪華が素早く倒木を見つけ、手招きしている。
「ナイス雪華!」
俺たちは雪華の指示に従い、倒木の影に飛び込むように身を潜めた。荒い息を整えながら、全員が耳を澄ませる。水月の攻撃はなおも続いているようだが、森の木々が視界を遮ったおかげで、どうやら俺たちを見失ったらしい。
「ふぅ……なんとか撒いたか?」
俺が息を吐きながら様子を伺うと、焔華が「いやぁ、危なかったな!」と小声で安堵する。だが、その時だ――。
「ん?あれは……?」
貴音が不思議そうな声を上げ、俺たち全員がその視線の先を追う。
木々の間に、ふわふわと浮かぶ奇妙なものがいくつも見えた。それは――クラゲ?
半透明で美しい形状を持つクラゲ型の何かが、静かに漂っている。本体の傘部分は光を受けて微かに輝き、触手が柔らかく揺れている様子は幻想的ですらある。だが、その異様な雰囲気に背筋がぞくりとする。
「……なんだ、あれ?ただのクラゲじゃねぇよな……?」
俺が呟くと、麗華が鋭い目でそれを観察する。
「あれは……恐らく水月が霊水術で生成したものね。しかも触手の先に……何かが……」
俺は目を凝らしてその触手を見た。そして気づく。クラゲが揺れるたび、触手にくっついている札が怪しく光を放っていることに。
「おい、これヤバいんじゃねぇのか!?あの札ってまさか――!」
俺が叫ぶ間もなく――。
〈ズドンッ!〉
一匹のクラゲの札が輝き、その場が眩い光に包まれた。直後に大音響とともに大爆発が起き、衝撃波が木々を薙ぎ倒し、土を舞い上げる。
「おわっ!?」
俺は爆風に吹き飛ばされそうになりながら、必死に倒木の影にしがみついた。
「翠嶺の霊印術!!水月と翠嶺。二人の連携技って訳ね…………!!」
麗華の緊迫した声が響く。
しかし――そんな爆発の真っ最中にも関わらず、焔華は目を輝かせながら叫んだ。
「すごいのぅ!これぞ爆弾クラゲか!?いやぁ、最高じゃな!!」
焔華はテンション全開、むしろ爆発を楽しんでいるようだった。
「どこが最高なんですか!?これ命の危機ですよ!!」
雪華が目を見開きながら鋭くツッコむが、焔華は聞いていない。むしろ興奮が止まらない様子だ。
「爆発した瞬間のあの迫力!たまらん!!自爆したクラゲから散らばった水滴が光を受けてキラキラ輝いとる――まるで命の最後の煌めきそのものじゃ!!」
焔華は爆風で揺れる髪を気にもせず、爆弾クラゲを指差しながらさらに語る。
「これが戦場の芸術というやつじゃな!!いやぁ、素晴らしい!翠嶺、水月、ええもん作りよったのぅ!わしの琴線に触れる爆発じゃ!!」
拳を握りしめ、まるでオーディエンスを引き込むパフォーマーのように熱弁を振るう焔華。その姿には、爆風と木々の破片が舞う中でさえ、どこか輝かしいものがあった。
「芸術じゃなくて、死ぬ一歩手前なんですけど!!!焔華さん、逃げますよ!」
雪華が焔華の腕を掴み、引きずるようにして走り出す。それを合図に、俺たち全員が再び全力疾走を開始。
後ろを振り返ると、爆弾クラゲたちがふわふわと漂いながら、ゆっくりと追いかけてくる。その不気味な動きがまるで死神のようで、俺は全身に寒気を覚えた。
焔華は相変わらずニヤニヤしながら「いやぁ、わし、感動しとるぞ!」なんて言ってるが、俺の心臓は爆弾並みにドキドキだ。
「感動してる場合じゃねぇっての!もっと急げ!!」
爆発の轟音が背後から近づいてくる中、俺たちは全力で森の中を駆け抜けた――。
「――おい、まて。」
霧羽が足を止め、険しい顔で呟いた。
「何してんだ霧羽!」
俺は振り返って叫ぶが、霧羽はその場に立ち尽くし、周囲を見回している。
「何か嫌な予感がする。」
霧羽の低い声に、俺の背筋がぞくりとする。
「でも走らなきゃ死ぬぞ!?」
俺はそう叫びながら再び走り出すが、その時、周囲の空気が一変した。
〈――――――キィィィィィン〉
見えない力が場を支配する。足元の地面から淡い光が広がり、まるで地面全体が発光するかのような不気味な光景が広がる。
「!!??」
俺たち全員の動きが突然止まった。身体がまるで見えない鎖で縛られたかのように動かない。手も足もピクリとも動かせず、頭の中でパニックが渦巻く。
「おい、何だこれ!?動けねぇぞ!!」
俺の叫び声が森に響くが、誰も動けない。
その時、俺たちの前に水月と翠嶺がゆっくりと姿を現した。状況を完全に掌握していると確信しているような悠然とした歩みだった。
「お前ら…………!何をした……?」
翠嶺は不敵な笑みを浮かべ、俺たちを見下ろす。まるで教師が生徒に講義をするかのような落ち着き払った声で語り始める。
「――『印刻世界(いんこくせかい)』。無数の霊印を刻むことで、この場所一帯に結界を張り巡らせました。」
「結界……?」
俺は周囲を必死に見回した。足元に広がる淡い光がどこから来ているのかを確かめようと目を凝らす。
そして、ふと気づく。木々の幹や枝のあちこちに貼られた札――それが異様な気配を放っていた。
「あの札か……」
その札は薄い紙のようなものだが、不自然なまでに整然と配置されている。その表面には不気味な呪文や文様が描かれており、淡い光を放ちながら木々全体に力を伝えているようだった。
さらに、札が光を連動させるように点滅し、地面の光と共鳴しているように見える。
麗華が苦々しい表情で呟く。
「……なるほど、あの爆発クラゲは私たちをこの結界の中心に誘導するためのものだったのね。」
俺は喉の奥から搾り出すように呟く。
「……俺たちは完全に嵌められたってわけか……。」
必死に身体を動かそうとするが、全く動かない。汗が背中を伝い、苛立ちと焦燥が増していく。
翠嶺はさらに冷ややかな微笑を浮かべ、悠然と宣言する。
「諦めなさい。勝敗は既に決まっています。この結界の中では、あなた方にできることなど何一つありません。」
その言葉に、俺は歯を食いしばりながら叫ぶ。
「くそっ……こんなもんに負けてたまるかよ……!」
だが、その叫びも虚しく、水月が手元の器を静かに持ち上げる。彼女の表情は冷たい笑みに包まれていた。
「さあ、これで終わりにしましょう。あなた方にはここで退場していただきます。」
その声とともに、水月の器に湛えられた水が不気味に揺れ始めた。その動きは次第に激しくなり、形を変えながら俺たちを狙う。水が生き物のように動き、圧倒的な力を感じさせる。
俺は全身に冷や汗をかきながら、必死で状況を打開する方法を探そうとした。
「ん………………?」
その時、翠嶺の眉がぴくりと動いた。
「……天狗がいない?」
彼の鋭い言葉に、俺も慌てて周囲を見回す。あれ、霧羽は――どこだ?
「――――ここだ。」
突然、霧羽の鋭い声が響き渡った。その瞬間、上空に黒い影が現れる。見上げると、それは風を切って降下してくる霧羽だった。
「霧羽!?」
驚きに目を見開く俺たちを無視して、霧羽は凛とした表情のまま腰の日本刀を抜き放つ。その刃が光を反射し、次の瞬間――。
〈――――――ブンッ!!!!〉
霧羽が刀を大きく振ると、猛烈な風が周囲に巻き起こった。その風はただの風ではない。まるで暴風そのもの。轟音を伴って木々を激しく揺らし、札が貼られた枝や幹を次々と薙ぎ倒していく。さらに、風の力で足元の霊印の光も次第に薄れていくのが見えた。
「結界が……消えていく!?」
麗華が驚きの声を上げる。霧羽の風が結界を形成していた札を片っ端から吹き飛ばし、無力化しているのだ。
翠嶺と水月も目を細めて霧羽を見つめるが、風圧に押されて一瞬怯むように距離を取る。
「貴方は……!」
翠嶺が悔しそうに唸り声を上げるが、その声すら風に掻き消される。霧羽は全く意に介さず、舞い上がった木の葉や塵の中で堂々と空中に立っていた。
「やるじゃねぇか、霧羽!お前、わざと遅れてきたのか!?」
霧羽は俺の問いに振り返らず、淡々と答える。
「あぁ、嫌な予感がしたらな。」
その冷静な判断力と圧倒的な行動力に、俺は思わず舌を巻く。すげぇな、こいつ……。
翠嶺が俺たちの会話を遮るように、低い声で呟いた。
「……ほほぅ、やりますね。」
その言葉と同時に、彼の目に鋭い光が宿る。翠嶺はわずかに口元を歪めながら、冷たく言い放った。
「ですが、勝負はここからです。どちらかが全滅するまで……徹底的にやりましょう。」
「全滅って……おいおい、マジかよ……?」
俺は思わず声を上げる。翠嶺の冷酷な言葉に、体の奥底がざわついた。
「そこまでこの戦いにかけてんのか?お前?」
翠嶺はまるでその質問を当然だと言わんばかりに、淡々と答えた。
「当然でしょう。風神の儀は、我らが長年の悲願を果たすためのもの。その邪魔をする貴方たちを、皆殺しにするまで、私は止まりません。」
その声は冷酷でありながら、どこか揺るぎない狂信的な響きを持っていた。
俺はその言葉に一瞬言葉を失った。翠嶺の目は、まるで狂気じみた光を放っていて――それは完全に「ガンギマリ」という表現が相応しいものだった。
これが崇拝派の狂気か――。
大義のためには自分たちの命すら惜しまない。その覚悟と歪んだ信念に、俺は背筋が凍る思いを覚えた。
「……こいつ、マジで頭のネジ全部吹っ飛んでんじゃねぇか……」
そんな俺の冷や汗を尻目に、雪華も顔を引きつらせて小声で呟いた。
「……こんな狂気にまともに向き合っていたら、私達までおかしくなりますよ……」
その言葉に俺も深く同意する。いや、あんな奴らにまともに向き合うのは無理だ。
「あぁ、マジで付き合ってらんねぇ。しかも――」
俺は後ろを振り返り、純粋無垢な我が妹、貴音の姿を見る。
「貴音の教育に悪い。」
俺の言葉に、貴音はキョトンとしながらも小さく首を傾げる。その無邪気な仕草に、俺は余計に確信した。こんなガンギマリ野郎どもをこれ以上、貴音に見せ続けるわけにはいかない。
「こんな奴ら、貴音に悪影響だろうが。」
その言葉に、焔華が大きく頷いた。
「そうじゃな!こんな面倒な奴らに付き合うくらいなら、もっと楽しいことをするべきじゃ!」
「楽しいこと?」と麗華が呆れた顔をしながら問いかけると、焔華は目を輝かせて両手を広げた。
「うむ!たとえば――」
焔華は指を一本立て、威勢よく声を張り上げる。
「川で魚釣りじゃ!大自然を満喫しながらワカサギやヒメマスを釣って、その場で焼いて食べるんじゃ!」
「魚釣り……!それ凄くいいね!」
貴音が目をキラキラさせながら焔華に食いつく。
「だろう!?民泊で食べたのも美味かったが、外で焼き魚を食べるのは最高じゃぞ!焼けた皮がパリッとして、身はふっくらジューシー……塩をちょっと振るだけで、もうそれは芸術品じゃ!」
「絶対やりたい!!みんな!絶対やろうね!」
貴音は拳を握りしめながら俺たちに力説する。
「お、おう……でも、今はちょっと状況が――」
俺が困惑していると、焔華がさらに勢いを増して話し出した。
「まだあるぞ!」焔華は俺の言葉を遮るように声を張り上げ、さらに指を立てる。
「夜は焚き火を囲んで宴会じゃ!焼き芋やマシュマロを焼きながら、星空を眺めて語り合う……それが人生ってもんじゃろ!」
「……戦場にいることを完全に忘れてるじゃない。」
麗華がため息をつくが、どこか諦めたように微笑んでいる。
「いやいや、麗華。戦場にいるからこそ楽しいことが必要なんじゃ!」
焔華は堂々と胸を張り、自信たっぷりに続ける。
「辛いことや大変なことばっかりじゃ、心が折れるからな!楽しいことをして笑ってこそ、戦場でも力が出るってもんよ!」
その熱意に、雪華も小さく笑いながら呟いた。
「…………焔華さん、確かに一理ありますね。何だか少し元気が出てきました。」
「そうじゃろそうじゃろ!」
焔華は満足げに笑いながら、再び俺の肩を叩いた。
「雷丸、わしらには楽しいことが必要じゃ!こんな狂った奴らに付き合う暇はない!楽しいことを考えながら、さっさと逃げるんじゃ!」
その勢いに押されながらも、俺は思わず苦笑いを浮かべ、呟く。
「……まぁ、お前が言うと説得力あるな。よし、これ以上こいつらのペースには乗らねぇぞ。まずは逃げる――それしかねぇ!」
俺は一瞬で腹をくくり、仲間たちに向かって叫んだ。
「麗華、貴音、焔華、雪華!お前らは先に行け!!一旦別々に逃げるぞ!今朝決めた宿泊地で合流しよう!!」
「お兄ちゃんと霧羽は!?置いていけないよ!」
貴音が心配そうに叫ぶが、俺は手を振って返す。
「俺と霧羽は殿を務める!お前らより機動力があるから問題ない!今は全力で逃げろ!」
麗華は歯を食いしばりながらも頷いた。
「分かったわ……でも絶対に追いついてきてよ!」
「おう!!」
貴音が「また後でね!」と振り返りながら手を振り、雪華と焔華も頷いて走り出す。俺は彼女たちの背中を見送り、深呼吸をする。
「さて、と――」
冷たい視線をこちらに向けている翠嶺たちを睨み返し、皮肉な笑みを浮かべた。
「というわけだ、お前らみたいなイカれ野郎と一緒にいると、なんか俺たちまで頭おかしくなりそうなんだよな。だから逃げることにするよ。」
その言葉に、水月がムッとした表情で俺を睨む。
「ちょっと……私までイカれ野郎呼ばわりはやめてよ。」
水月の冷静な抗議に、俺は苦笑しながら首をかしげる。
――確かにコイツはあんまり狂気を感じないんだよな。翠嶺と違って。
だが、その瞬間、翠嶺が割って入るように低く言い放った。
「逃げれるとお思いですかな?」
翠嶺の冷たい声が静けさを切り裂く。
「彼女たちを逃したのは敢えてです。我々の第一目標は飯田雷丸さん、貴方なのですからな。」
その言葉を聞いて、俺は軽く肩をすくめて見せた。
「お前、それ選択ミスだぜ?」
そう呟きながら、俺は天に向かって片手を高々と掲げた。
「根源解放――――――Level 2」
瞬間、体の中で何かが爆発するように力が湧き上がった。全身を駆け巡る雷のエネルギーが過剰なほど強く、肌が焦げるような熱を感じる。
〈バチバチバチ―― 〉
全身を駆ける雷の音が空気を震わせ、周囲に強烈な威圧感を放つ。自分の体から放たれる雷は制御が難しいほど暴れ回り、息をするたびに全身が熱を持つような感覚が広がる。
俺は振り返り、霧羽に向かって叫んだ。
「霧羽!!時間を稼げ!!」
「――――分かった。」
霧羽は短く答えると、翼を大きく広げ、水月へ向かって一直線に飛び込んだ。彼女の刀がきらめき、鋭い斬撃を繰り出す。しかし、それを読んでいた翠嶺が素早く札を取り出し、空中に投げる。
「――――――霊障壁。」
その言葉とともに、透明な壁が目の前に現れる。霧羽の斬撃は正確無比だったが、その防御壁に阻まれて一歩も通さない。翠嶺は余裕の笑みを浮かべ、冷ややかに霧羽を見下ろした。
さらに、水月が器から水を放つ。その水は鋭い刃となり、空気を切り裂いて霧羽を狙う。しかし霧羽は冷静そのものだった。
翼を翻し、風を巻き起こしながら攻撃を華麗に避け、絶妙な間合いを取り続ける。彼女の動きには一切の無駄がなく、まるで踊るような戦いぶりだった。
「霧羽、充分だ!戻ってこい!!」
俺が叫ぶと、霧羽は一瞬こちらを振り返り、敵の攻撃をかわしながら巧みに引き返してきた。
今だ――。
「雷鳴砲!!」
俺は手から雷のエネルギーを解き放ち、広範囲を薙ぎ払う。
雷光が轟音とともに放たれ、周囲の木々を次々となぎ倒していく。木々が倒れる音と電撃の残響が森中に響き渡り、周囲の視界が一気に遮られた。
俺たちの姿を隠すための、即席の“森の壁”が完成した。
「よっしゃ!逃げるぞ!霧羽!!」
俺は彼女を振り返りながら叫び、全力で森の奥へと駆け出す。
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