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第178話 富士の樹海16
しおりを挟む崇拝派から何とか逃げ切った俺たちは、山道を登りながらさっきの戦闘の話を振り返っていた。
「霧羽、まずは結界から救い出してくれてありがとうな!」
俺は肩で息をしながらも、素直に礼を言う。あの場面で霧羽がいなかったら、俺たちは本当に詰んでたかもしれない。
「あぁ、当然のことだ。」
霧羽は淡々と答えながら、翼を少し広げて羽を整える。相変わらず冷静だな、こいつ。
「ただな、霧羽……言いたいことがあるぜ。」
俺は歩みを止め、彼女の方を振り返った。
「言いたいこと?」
霧羽も足を止め、俺を見上げる。その目は真剣そのものだ。
「あの時、話を合わせてほしかったよ……霧羽……。」
俺はため息をつきながら、言葉を続けた。
「あの時、とは?」
霧羽は不思議そうに首を傾げる。その仕草が妙に可愛く見えて、余計に話しづらい。
「崇拝派の考えに賛同してるってフリの話だよ!水月と翠嶺が勝手に俺たちを同志だって勘違いしてた時あったろ?」
俺は、あの場面を思い出しながら指を振って説明する。
「?でも、お前たちは賛同していなかっただろう。」
霧羽の顔には、心底不思議そうな表情が浮かんでいる。いや、そうじゃねぇんだよ!
「いやいや、そういう意味じゃなくてさ!」
俺は頭をかきながら、必死に説明を続けた。
「あそこで、敢えて賛同してるように見せかけて、相手を騙して素通りするつもりだったの!ちょっとでも場の空気を読んでくれたら、崇拝派の連中をサクッとやり過ごせたのに……!」
霧羽は腕を組んで、少しだけ目を細めて俺を見つめた。
「だが、私は正しいことを言っただけだ。」
その言葉には確固たる信念が宿っていて、俺はぐっと言葉を詰まらせる。
なんだろう、霧羽には狡さがないんだよな。
誠実で真面目。それこそが彼女を形容するのにピッタリな言葉だ。だが、ああいう場面ではそれが逆に厄介なんだ。
「そりゃ、誠実さや真面目さは否定しないよ!」
俺はなんとか言葉を振り絞った。
「でもな、場面ってもんがあるだろ?時には演技も必要なんだよ。ほら、例えば——」
俺は両手を広げ、即興でシナリオを作り上げる。
「たとえば、俺が道端で会った知らない人に『ハーレム王です!』なんて名乗らないだろ?相手の反応見て、普通に『通りすがりのイケメンです』くらいに言っておくわけよ。それで相手が警戒を解いたら、さっと通り抜けられるんだ。わかるか?」
霧羽は真剣に俺の話を聞きながら、腕を組んで「ふむ」と考え込む。そして、数秒後に口を開いた。
「つまり、私は『通りすがりの天狗です』と言えばよかったのか?」
「……ちょっと違うけど、まあ、そういうことだ!」
俺は思わず笑いながら返した。
霧羽は一瞬目を丸くしたあと、「なるほど」と納得したように頷く。そして、いつも通りの冷静な顔に戻り、前を向いて歩き出した。
「今度からは気をつける。だが、お前の例えは少し奇妙だな。」
霧羽がそう呟くのを聞いて、俺は苦笑いしながら肩をすくめた。
「奇妙で結構!俺の話はだいたいそんなもんだよ。でもさ、わかればそれでいいんだ。次のピンチの時は、二人でスルッと切り抜けようぜ!」
俺は軽く肩をすくめ、前を向いた。
霧羽は「あぁ、分かった」と短く答え、再び歩き出した。
山道は相変わらず急で足場も悪いが、少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。俺たちは一歩ずつ、山頂を目指して進み続ける。
――――――――――――
俺たちは山道の脇に腰を下ろして、しばし休憩を取っていた。霧羽は手に持ったクッキーを一口ずつ丁寧に齧りながら、遠くの景色をじっと見つめている。その真剣な横顔が、妙に可愛らしく見えて思わず笑いが込み上げてきた。
俺もエネルギーバーを齧りながら、クッキーを持つ霧羽に声をかける。
「いい感じだろ?そのクッキー」
霧羽は俺の言葉に小さく頷き、少し得意げに答えた。
「あぁ、気に入った。」
クッキーを嬉しそうに齧る天狗なんて、なかなか見られるもんじゃない。俺はそんな光景を目に焼き付けながら、静かな時間を楽しんでいた。
ふと霧羽が視線を遠くに向けたまま、真剣な顔で言った。
「しかし、あの4人が心配だ。貴音、麗華、雪華、焔華……無事だろうか」
俺は軽く肩をすくめて笑った。
「あいつらなら大丈夫だろ」
霧羽が少し首を傾げて問いかける。
「どうして、そう思う?」
俺はエネルギーバーを片手で弄びながら、仲間たちの顔を思い浮かべた。
「だって、あいつらとは何度も修羅場をくぐり抜けてきたんだ。俺が一番よく知ってる。あいつらの底力は本物だってな」
霧羽がじっとこちらを見つめる中、俺は言葉を続けた。
「普段は文句ばっかり言い合ってるけど、いざって時には無敵のチームワークを見せるんだ。麗華は冷静で頼りになるし、焔華は突っ走るけど根性がある。雪華は頭が切れるし、貴音は意外と度胸があるからな」
霧羽は俺の言葉を黙って聞いていたが、やがて小さく微笑んだ。
「……信頼しているんだな」
その一言に、俺は少し照れくさくなりながらも胸を張って答えた。
「ま、な!俺の自慢のハーレムメンバーだからな!メンバーを信じなきゃ、ハーレム王なんて名乗れないだろ?」
霧羽はクッキーをまた一口齧り、口元に笑みを浮かべた。
「お前の仲間は、面白いやつらばかりだ。全員が個性的で、お互いを補い合っている。そのバランスが絶妙だ。それが、お前の言う『ハーレム』の魅力なのかもしれないな。」
俺はその言葉に少し驚きつつも、得意げに笑った。
「だろ?やっぱり俺の仲間は最高だってことだよ!」
霧羽はそんな俺を見て、小さく笑いながらまた遠くを見つめた。
そのひとときは、緊張に満ちた戦場の中では異質なほど穏やかで、温かな時間だった――その瞬間までは。
――――――ゾクッ!!
背筋を凍らせる異様な寒気が走った。突如、視界の前を鋭い何かが横切り、空間を裂くような音が耳をつんざく。
「伏せろ、霧羽ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
無意識に叫び、俺は咄嗟に霧羽を突き飛ばし、自分の体で庇うように身をかがめた。目の前で景色が裂け、空気さえも切り裂く凶悪な斬撃が通り過ぎる。ほんの一瞬でも判断を誤れば、俺たちは今ここにいなかったかもしれない。
裂けた視界の先には、重厚な鎧に身を包んだ大男が立っていた。その顔には金属製の仮面がかぶさり、瞳は妖しく赤く輝いている。全身に刻まれた無数の傷跡が、そいつの生き様――否、生き残ってきた証を物語っていた。
「――ハハッ!避けられたか」
低く楽しそうに響く声が、重苦しい空気をさらに沈ませる。獲物を追い詰める狩人のような満足感と冷酷さが混じっているのが、言葉だけで分かった。
俺は咄嗟に軽口を叩こうとするが、喉が緊張で渇いて、言葉が出ない。
その隣に立っているのは、一人の冷ややかな雰囲気を纏った女性だった。
彼女の黒髪は艶やかで、丁寧に手入れが行き届いているのが一目で分かる。
その長い髪は先がゆるやかに巻かれ、揺れるたびに上品さを際立たせている。前髪は目にかからないようきっちりと整えられており、その下から覗く鋭い切れ長の目が、冷静さと威厳を強く放っていた。
彼女の瞳は深いダークブラウンの色をしており、まるで底知れない深淵を覗いているかのような感覚を与える。その視線は射抜くように鋭く、どんな相手も一瞬で萎縮させる力を持っている。
彼女の服装は黒を基調としており、全体的にタイトなデザインがそのしなやかな体のラインを引き立てている。普段着というより、任務のために機能性を重視した装いだ。動きやすいジャケットとパンツスタイルが、戦闘を前提とした彼女の性質を物語っている。
そんな彼女が不気味に微笑みながら、冷たく響く声を投げかけてきた。その声には、まるで命を弄ぶような冷酷さと、余裕を感じさせる挑発が混じっている。
「いけませんよ、鋼牙さん。妖怪は苦しませてから死なせなくては」
それは、まるで日常会話の延長のようなトーンだった。「お茶を飲む前に砂糖を入れなくては」――そんな無邪気な言葉でも吐くかのように、血も涙もない発言を淡々と紡ぐ。
鋼牙と呼ばれた大男の手には、巨大な斧が握られていた。その斧は呪力を帯びて不気味な音を立て、まるで次に切り裂くものを待ち構えているかのようだった。圧倒的な威圧感に、俺は全身の毛穴が一気に開くような恐怖を覚える。
霧羽が冷静な目つきで相手を観察し、短く呟いた。
「……呪術師か」
鋼牙は楽しそうに嗤いながら、その斧を俺たちに向ける。
「妖怪も、その取り巻きも皆殺しだ。俺に斬られる覚悟はできてるか?」
その言葉には、狂気じみた楽しさが混じっていて、俺の全身から冷や汗が吹き出した。
「……来るぞ、霧羽!」
戦いの幕が、再び上がろうとしていた。
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