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第181話 富士の樹海19
しおりを挟む俺は鋼牙の巨体を睨みつけながら、口を開いた。
「お前のその脅威的な防御力……攻撃が当たる箇所に呪力を回して防御力を高めてるんだろ?」
鋼牙の赤い瞳が一瞬だけ驚いたように光を揺らすが、すぐに興味深そうに笑みを浮かべた。
「ほう……なかなかの洞察力じゃねぇか、ハーレム王。」
鋼牙の口調には、少しの賞賛と大きな余裕が混ざっている。その巨体がわずかに揺れ、鎧がギシリと音を立てた。
「そうだ、俺の鎧、『呪力鎧装(じゅりょくがいそう)』こいつは呪力を回せば回すほど防御力が上がる仕組みだ。攻撃がどこに来るかを予測して、その場所に呪力を集中させれば――圧倒的な防御力を発揮する、ってわけよ。」
鋼牙は自慢げに胸を張り、鎧を拳で軽く叩いてみせる。その重厚な音が辺りに響き、威圧感をさらに高める。
俺は眉をひそめながらも、冷静に言葉を続けた。
「……要するに、格闘家がやる筋肉のブレイシングみたいなもんか。相手の攻撃が当たる場所を予測して筋肉を締めてダメージを軽減する技術、それの呪術バージョンってところだな。」
鋼牙はニヤリと笑い、斧を肩に担いだまま一歩俺に近づく。その目には明らかに余裕が浮かんでいる。
「よく分かってんじゃねぇか。けどな、それが分かったところで、俺の防御を突破できるかどうかは別の話だぜ?お前の攻撃、いくらでも受け止めてやるよ。」
鋼牙の自信満々の態度に、俺は冷たい笑みを浮かべた。攻略の糸口は掴んだ。あとは、どう動くかだ――その場を静かに見据えながら、俺は次の一手を思案する。
「鋼牙、お前の“完璧”な防御、ちょっと崩させてもらうぜ。」
鋼牙はニヤリと笑い、肩に担いだ斧を軽く回しながら迫ってくる。
「やってみろよ、ハーレム王!」
その言葉と共に、俺たちの戦いはさらに激しさを増した。鋼牙の斧が唸りを上げて振り下ろされ、俺の雷の拳が火花を散らして応戦する。衝撃が爆風のように周囲に広がり、地面が抉れ、空気が震える。
鋼牙の猛攻をかわしながら、俺は一瞬の隙を狙う。
「雷撃拳――2連!!」
俺の拳が雷を纏い、鋼牙に向かって炸裂する。まずはジャブで鋼牙の意識を一点に集中させ、続けざまにストレートを叩き込む。
――バチィィン!!
雷光と共に拳が鋼牙の鎧を直撃するが、その一撃も呪力鎧装によって見事に防がれる。しかし、俺の口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
「嘘だ!!3連だっての!!」
続けざまに繰り出されたのは、フック。最初からこの流れを狙っていた。予想外の動きに鋼牙の目が一瞬だけ動揺した――だが、その直後、赤い瞳が楽しげに輝き、低い笑い声が響く。
「バレバレだぜ!ハーレム王!」
鋼牙は笑いながら俺を押し返し、その場を大きく一歩踏み込んだ。まるで余裕たっぷりといった態度だ。呪力鎧装は、攻撃の予測地点に呪力を集めることで鉄壁の防御を誇る。それを何度も繰り返し、俺の一撃を完璧に防ぎ続けている。
俺は地面を踏みしめながら舌打ちをした。
「くそっ、引っかからねぇか。やっぱり“読み”が強ぇ……!」
俺の攻撃が鋼牙に読まれる原因、それは“単純”すぎる攻撃だ。一撃必殺。それが俺の信条だった。だが、それは鋼牙のような防御型の敵にとっては、むしろ予測を容易にする欠点だった。
鋼牙はその巨大な斧を軽々と肩に担ぎ、俺を見下ろす。
「どうした、ハーレム王!そんな程度か?もっと面白ぇ攻撃を見せてみろよ!」
挑発する鋼牙を見上げながら、俺は冷静に策を練る。ここで負けるわけにはいかない――仲間たちが信じている俺が、こんなところで止まるはずがない。
「次は読ませねぇぞ……覚悟しとけよ、鋼牙!」
鋼牙はニヤリと笑い、構えを整える。
「ほう、見せてみろよ、ハーレム王。お前の本気ってやつをな!」
鋼牙の余裕たっぷりの態度が癪に障るが、ここで焦っては負けだ。俺は冷静に策を練り、これまでの単調な攻撃から“流れ”そのものを変える決意をした。鋼牙の防御力を崩すには、予測できない動きを作り出す必要がある。
そう――俺が中学生時代にYouTubeを見て憧れ、練習を重ねたトリッキングの蹴り技を“雷脚”に応用する時が来た。
「これが俺の流儀だ――行くぜ!」
俺は素早く低い姿勢を取り、地面を蹴って跳躍する。空中で180°回転しながら、雷を纏ったアウトサイドクレセントキックを鋼牙の側頭部に叩き込む。
――バチィィン!
鋼牙は即座に斧を構えて蹴りを受け止めたが、顔に驚きが浮かぶ。
「なんだ、この動きは……!」
俺はすぐに次の技に移る。
鋼牙が斧を振り回して反撃しようとするが、その軌道を読み、俺は正面向きの姿勢からひねりを加えて後ろ向きになり、跳び上がる。空中で540度回転しながら、雷脚を纏った蹴りを肩口に叩き込む。
「っ……ぐっ!」
鋼牙は呪力鎧装で防ぎつつ、斧を横薙ぎに振るってくる。しかし、俺は蹴りの勢いを活かして空中で体を回し、その斧をギリギリでかわす。
「なっ……!?そんな動き、どうなってやがる!」
鋼牙が困惑の声を上げるのを聞きながら、俺はさらに次の技に移る。
両足で地面を蹴り、さらに高く跳躍。体にひねりを加えて空中で900度回転し、先行する足で鋼牙の鎧を狙い撃つ。
「このっ……!」
鋼牙は斧を大きく振り上げ、迎撃しようとする。だが俺は、それを織り込み済みだ。蹴りの勢いを活かし、逆足で上段蹴りを放つ。鋼牙の斧の軌道を完全に外し、さらにもう一撃――初撃の足で回し蹴りを叩き込む。
「ぐあっ……!」
鋼牙の赤い瞳が揺れ、その巨体が一瞬だけふらついた。だが、それでも鋼牙は完全に崩れることはなく、踏みとどまって斧を振り回し続ける。
「こいつ……斧が当たらねぇ!?くそっ、動きが予測できねぇ!」
鋼牙が苛立ちを露わにしながらも斧を次々と振り下ろすが、俺はその一撃一撃を雷脚で跳び回りながら躱していく。そして隙を見つけては、鋼牙の防御を掻い潜るように蹴りを放ち続ける。
「おい、ハーレム王!お前、なんなんだ!?」
鋼牙の困惑した声が戦場に響くが、俺は冷たい笑みを浮かべて答えた。
「俺の動きは予測できねぇ――それが、ハーレム王の戦い方だ!」
――ドンッ!!
最後の回し蹴りが鋼牙の側頭部を直撃し、雷の閃光と共にその巨体が大きくぐらつく。鋼牙はついに膝をつき、荒い息を吐きながら俺を見上げた。
「くっ……馬鹿な……!」
鋼牙の呆然とした表情を見て、俺は勝利を確信し、拳を固く握りしめた。勝負はまだ終わっていないが、確実に流れは俺のものだ。
「このまま勝負をつけてやる!!」
鋼牙にとどめを刺すため、雷の力をさらに高めようとしたその時――視界の端に、別の異変が飛び込んできた。
霧羽――。
彼女が鎖に絡め取られ、動けなくなっている。地面から伸びた黒い鎖が霧羽の体を締め付け、彼女の翼も押さえ込まれていた。
――――――
空中に浮かぶ霧羽は鋭い目で斑鳩を見据え、日本刀を両手で構え直した。刀身には風の力が集まり、周囲の空気が渦巻き始める。
「――烈風双牙(れっぷうそうが)!」
霧羽が一喝すると同時に、彼女の日本刀から左右に巨大な風の刃が放たれた。それはまるで猛獣の牙のような形を描きながら、鋭い音を立てて斑鳩に向かって迫る。風圧は周囲の地面をえぐり、木々を揺さぶりながら進む。
〈――ゴォォォ!〉
風の牙は斑鳩を中心に一直線に突き進み、その勢いは見る者を圧倒するほどだった。しかし、斑鳩はその迫力にも動じることなく、冷静に足元をコツコツとヒールで叩いた。
「破砕の柱(はさいのはしら)」
斑鳩が静かに技名を告げると同時に、地面が低く唸りを上げ、彼女の足元から巨大な石柱が勢いよく突き出した。石柱は複数本現れ、鋭い角度で斜めに交差するように配置され、風の牙の軌道を正確に読み切ったかのように防御の壁を築き上げていく。
〈――ガキィィン!〉
風の牙が石柱に衝突し、激しい衝撃音と共に風圧が炸裂する。鋭い風の力が石柱に深い傷を刻みつけたが、それでも石柱はびくともせずに立ち続けていた。その姿は、まるで斑鳩の揺るがぬ自信そのもののようだった。
石柱の陰から悠然と姿を現した斑鳩は、冷たい微笑を浮かべながら霧羽を見上げる。その瞳には、確かな余裕と挑発の色が滲んでいた。
「徹底していますわね。制空権を活かして、安全圏からひたすら遠距離攻撃――なるほど、賢いやり方ですこと。」
その声は穏やかでありながら、どこか棘が含まれている。まるで「怖くて近づけないのですか?」と言外に挑発しているかのような言葉に、霧羽は僅かに眉を動かす。
斑鳩はさらに足元を軽くトントンと叩きながら、優雅な態度で言葉を続ける。
「ですが、それで私を倒せると本気で思っていらっしゃるのかしら?いえ、むしろ私に近づくのが怖い――そういうことでしょう?」
彼女の言葉に、霧羽の目が鋭さを増す。黒い翼を軽く広げ、静かに宙を舞う彼女の姿からは、確かな闘志が滲み出ていた。
「……近づくのが怖い、だと?」
霧羽の低く静かな声が響く。
斑鳩はその声に微塵も動揺せず、むしろその態度を面白がるかのように口元に笑みを浮かべた。鋭く切れ長の瞳を細め、彼女はわざとゆっくりとした仕草で髪を一度かき上げながら、挑発の言葉を続ける。
「まぁ、怖いのも無理はありませんわね。」
斑鳩の声には、あからさまな嘲笑が混じっていた。
「地上に降りれば、私に近づくたびに地脈からの攻撃が襲いかかる――逃げ場なんて、どこにもありませんもの。空から安全に眺めている方が、いくらか安心でしょう?」
その言葉に霧羽の目が鋭く光る。翼がわずかに広がり、空気が彼女の周囲で渦巻き始めるが、斑鳩は気にも留めない様子でさらに煽りを重ねる。
「それに――どうやら私の言葉が少々図星だったようですわね。まるで感情を抑えきれない子供のように、顔に出ていますもの。」
斑鳩は優雅に首を傾げ、微笑を深めた。
「天狗と言えば誇り高い存在だと聞きますけれど、貴方の行動はどうも――その伝説にはそぐわないようですわね。」
その一言に霧羽の肩がぴくりと動く。煽られていると分かっていても、斑鳩の冷たい言葉にはどうにも我慢ならないものがあった。
「いいだろう。なら、近づいて直接お前を叩き斬るまでだ。」
斑鳩の微笑がさらに深まる。その顔には、まるで霧羽の反応をすべて計算に入れていたかのような自信が浮かんでいる。
一方で、霧羽は空中で大きく翼を広げ、鋭い風の刃をまとった日本刀を構える。
「――――お前、自分で自分の首を絞めたことを後悔するぞ。天狗は白兵戦も得意だ。」
霧羽の翼が強くはためき、彼女の体が一気に加速する。空気を切り裂く鋭い音が周囲に響き渡り、彼女の刀が眩い光を纏いながら斑鳩に迫る。
斑鳩は彼女の動きを冷静に見据え、慌てる素振りも見せず、足元を軽くトントンと叩いた。その動作に合わせるかのように、地面から石が盛り上がり始め、斑鳩の手元に警棒のような形をした武器が形成された。
――カンッ!
鋭い音が響いた。霧羽の日本刀が斑鳩の石造りの警棒とぶつかり合い、火花が散る。
勢いそのままに霧羽は連撃を加えるが、斑鳩はその全てを警棒で受け流していく。彼女の動きには無駄がなく、時折返す攻撃が鋭い軌道を描いて霧羽を脅かした。
霧羽の眉がわずかに動き、驚きの色を滲ませる。
「なっ…………!?こいつ白兵戦もできるのか……?」
斑鳩は警棒を振り回しながら、余裕のある笑みを浮かべている。その動きは力任せではなく、鍛錬を積んだ者特有の洗練されたものだった。まるで、霧羽の攻撃をすべて読み切っているかのようだ。
「どうしました?」
斑鳩は警棒を軽く回しながら、冷ややかな声で続けた。
「空を飛ぶだけが能ではないのですよね?」
斑鳩の冷たく挑発的な声が再び響く。その言葉には、彼女自身の自信と余裕がはっきりと表れていた。
だが、霧羽も黙って受けているだけではない。
「……甘く見るなよ。」
彼女は翼を広げて後方に飛び、再び間合いを取り直すと、日本刀を握り直した。その動きには迷いはなく、次の一撃を放つ準備が整っている。両者の激突は、ますます熾烈なものになろうとしていた。
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