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第186話 富士の樹海24
しおりを挟む霧羽は焚き火の明かりに照らされた顔を少し引き締め、静かに口を開いた。
「では、私から天狗たちについて話すとしよう。」
俺たちは自然とその声に耳を傾けた。
「まず、銀嶺。彼は冷静沈着で、判断力に長けた天狗だ。戦闘では薙刀を扱い、その冷気を纏った一撃は、敵の動きを鈍らせる。彼が周囲に放つ冷気は、まるで山頂の厳冬をそのまま持ち込んだようなものだ。」
霧羽は静かに焚き火を見つめながら続けた。
「彼は一見穏やかで丁寧な口調だが、その言葉の裏には厳しさが隠れている。冷静な態度は相手を侮るものではなく、むしろ相手の本質を見極めるためのものだ。夜嵐に次ぐ存在感を持っているといっても過言ではないだろう。」
霧羽が銀嶺について語り終えた頃、ふと気づけば雪華がいつの間にかメガネをかけていた。普段は柔らかな笑みを浮かべる彼女だが、今は妙にキリッとした表情を作り、焚き火越しにこちらを見つめている。
「私も、冷静さには自信があります!」
雪華がそう言いながら、フレームの端を軽く押さえる仕草をした。その姿がまるで「知的キャラ」を意識しているようで、俺は思わず吹き出しそうになった。
「あれ!?いつの間にか眼鏡かけてる!?」
俺が突っ込むと、雪華はフッと微笑みを浮かべ、落ち着いた声で返してきた。
「冷静さを語るには、やはり見た目の説得力も重要ですからね。このメガネをかけることで、冷静な知性をより強調できるのです。」
「いや、冷静とか知性とか以前に、それただの見た目だけの話だろ!?」
俺がツッコむと、隣で麗華が呆れたようにため息をついた。
「全く……雪華、そんなことしなくても十分冷静なんだから、わざわざアピールする必要ないでしょうに。」
麗華が冷静に指摘する中、貴音が目をキラキラさせながら声を上げた。
「でも、眼鏡をかけた雪華、なんだか更に賢そうに見えるよ!そのメガネをかければ、冷気も増すかもしれないね!」
「いや、冷気とメガネは関係ねぇだろ!」
雪華はそのやり取りを軽く流し、無駄にメガネをクイクイと持ち上げて、さらに冷静アピールをしてきた。
「冷静さは態度だけでなく、こういったアクセサリーの演出でも伝わるものです。雷丸様もいかがですか?お試しになりますか?」
「いや、俺はそういうのいらねぇから!」
その言葉に、周囲からくすくすと笑い声が漏れる。雪華の行動は完全に天然だったが、その場を和ませる不思議な力があった。
霧羽は静かに雪華を見つめ、口元に微かな笑みを浮かべながら呟いた。
「…………雪華、その冷静さ、銀嶺にも匹敵するかもしれないな。」
「でしょう?」と、雪華が得意げに返す。その仕草にさらに笑いが起こる。
「次、影鷹は詩人だ。そして弓の名手でもある。彼の放つ矢は、風そのものを纏って飛び、まるで意思を持ったように敵を貫く。その弓術の正確さは、避けることがほぼ不可能だ。」
彼女は少し眉をひそめた。
「だが、厄介なのは彼の詩だ。影鷹は戦場で詩を詠む。風や自然を題材にしたそのなんとも言えない詩は、相手の精神を揺さぶり、迷いを生じさせることもある。」
その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず突っ込まずにはいられなかった。
「ちょっと待て!それ本当に厄介なのか?詩って、ただの趣味とかじゃねぇの!?」
霧羽は俺の言葉に冷静に首を振った。
「いや、雷丸。影鷹の詩はただの趣味ではない。あれは武器だ。」
「詩が武器!?どういうことだよ!?」
俺が声を荒げると、霧羽は焚き火をじっと見つめながら語り出す。
「彼の詩には独特のリズムと言葉の力がある。その声が風に乗ると、まるで自然そのものが語りかけてくるように感じられる。冷静さを失わせ、相手に迷いを植え付けるのだ。」
俺は納得いかない顔で叫んだ。
「いやいや!そんなこと言ったって、詩なんかで迷うか!?『風よ吹け!敵も飛べ!』みたいなこと言われたら普通は笑っちまうだろ!」
その俺の言葉に霧羽は真顔で反論してくる。
「確かに、詩の内容自体は突っ込みどころが多いかもしれない。だが、それが逆に効果を生むこともあるのだ。特に、人間のように感情が揺れやすい者にはな。」
「ちょっと待て、感情が揺れやすいって俺たちのことバカにしてないか!?」
霧羽は淡々と続ける。
「影鷹の詩の中には、こういったものもあった。『山の風よ、吹け吹け、敵を抱け。ついでに雷鳴も呼んでくれ。勝利は風に舞う』と。」
俺は思わず噴き出した。
「おい、それ完全に駄洒落じゃねぇか!しかもついでに雷鳴とか、風任せすぎだろ!」
霧羽は冷静に俺を見つめながら肩をすくめた。
「そうだろうな。だが、それを真剣に詠まれると、逆にこちらがどう反応すべきか迷うのだ。」
「いや、迷わねぇよ!笑う一択だろ!詩が厄介とか言ってるけど、あいつただの自分に酔ったやつなんじゃねぇのか!?」
その言葉に霧羽は少し考え込んだ後、静かに言った。
「……そうかもしれない。」
「なんだよ納得するのかよ!?俺は影鷹と戦う時、真面目にやれる自信がねぇよ!」
みんなが笑いに包まれる中、霧羽だけは真剣に焚き火を見つめ続けていた。
「……だが、詩が滑稽であっても、影鷹の弓が滑稽でないのは確かだ。戦場で彼と対峙する時、その矢を見逃すことは死を意味する。」
その言葉には鋭い重みがあって、俺たちは徐々に笑いを止めた。影鷹の詩がどれだけ滑稽でも、その矢の脅威だけは決して笑いごとじゃない。俺は少し真面目な顔に戻り、焚き火をじっと見つめた。
「次にいくぞ。煌羽は熱血漢だ。彼は双剣を扱い、炎を纏わせた剣術を得意とする。その攻撃は派手で力強く、周囲の温度を急激に上げる。燃えるような紅葉の翼を持ち、その羽ばたきだけで熱波を発生させるほどだ。」
彼女はふと間を置き、続けた。
「だが、煌羽の最大の特徴はその性格だ。彼はいつも笑みを浮かべ、戦いを楽しんでいるように見える。その無邪気さは厄介だ。彼の軽い挑発に乗ると、あっという間にリズムを崩される。注意が必要な相手だ。」
霧羽が煌羽について語り終えると、焔華がニヤリと笑みを浮かべ、椅子にどっしりと腰掛けたまま口を開いた。
「ほぉ~、その煌羽とかいうやつ、なかなか面白そうじゃのぅ。双剣で炎を纏って戦うとは、わしと気が合いそうじゃないか!」
焔華が得意げに双剣の形を空中で真似してみせる。その仕草が妙に決まっていて、なんだか本当に煌羽に対抗意識を燃やしているようだった。
霧羽は焔華の様子をじっと見つめた後、小さく首を傾げながら静かに呟いた。
「……確かに、焔華と煌羽の性格は似ているかもしれないな。どちらも自信家で、周囲の空気を熱くする。焔華も煌羽と戦えば、息が合うかもしれない。」
その言葉を聞いて、焔華がますます嬉しそうに笑った。
「ほぉ~、息が合う、か!ますますその煌羽と戦いたくなってきたわい!どっちが真の炎の使い手か、勝負するしかないのぅ!」
それに対し、貴音が勢いよく手を挙げて応援する。
「絶対勝ってね、焔華!私も応援するよ!」
焔華は嬉しそうに笑い、「任せておけ!」と胸を叩いた。そんなやり取りを横目に、霧羽が少し声を低めて話を続ける。
「黒塵は寡黙で冷酷な天狗だ。彼の扱う鎖鎌は、まるで生き物のように動き、相手の隙を狙う。その一撃一撃には重みがあり、動きを封じるだけでなく、生命力そのものを削り取るような恐怖を感じさせる。」
彼女は低い声で続けた。
「黒塵の何が怖いかと言えば、その無表情さだ。感情が見えない相手ほど恐ろしいものはない。彼は無言の圧力だけで相手を萎縮させる力を持っている。もし黒塵と対峙することになれば、心の強さが試されるだろう。」
霧羽の真剣な口調に、その場の空気が少しピリッとする。だが、そんな中で俺は口を開いた。
「それだったら麗華も負けてないぜ!」
その言葉に、麗華がピクッと反応し、じっと俺を睨む。
「……どういう意味よ?」
「いや、その……威圧感とかさ!なんかこう、怖さで言えば黒塵といい勝負じゃねぇかな~って!」
俺が慌てて手を振りながら言い訳すると、麗華はさらに目を細め、ギロリとした視線を俺に向けてくる。
「威圧感ですって……?飯田君、後で話があるわ。」
「えっ、ちょっ……そういうつもりじゃなかったって!本当に!いや、麗華さんの凄さを褒めようとしただけで!」
俺が慌てて弁解しようとすると、焔華が大笑いしながら肩を叩いてきた。
「はははっ!麗華のその目、確かに黒塵並みに冷ややかじゃのぅ!むしろこっちの方が怖いまであるぞ!」
「焔華、貴方も黙りなさい。」
その鋭い一言に、焔華は「おっと、こりゃ怖いのぅ」と言いながらも肩をすくめて笑い続けている。
その様子を見て、貴音が呆れたように深くため息をつく。
「またお兄ちゃんがお姉ちゃんを怒らせてる……本当に学ばないんだから。」
貴音は俺をじっと見つめ、小さく首を横に振った。その姿が、妙に説教じみた大人びた態度に見えて、何とも言えない居心地の悪さを感じる。
さらに追い打ちをかけるように、雪華が控えめな微笑みを浮かべながら、呟くように言葉を放つ。
「なんだか、将来的に麗華さんに尻に敷かれる雷丸様が見えますね。」
「おい!それどういう意味だよ!」
俺はすぐさま声を上げて抗議するが、雪華は小さく首を傾げながら、とても優雅に続けた。
「いえ、麗華さんのしっかりした性格と雷丸様の自由奔放な性格を考えますと、自然な結論ではないでしょうか?」
「自然じゃねぇよ!なんで俺が尻に敷かれる前提なんだよ!」
俺が必死で反論すると、貴音が小さく笑いながら口を挟んでくる。
「だって、お兄ちゃんいつも麗華お姉ちゃんに怒られてるじゃん。それで全然懲りないし、未来が見えるよね!」
「いや、見えなくていい!そんな未来いらねぇよ!」
俺が声を荒げると、隣で焔華が椅子に座りながら腹を抱えて大笑いしている。
「ははは!いやぁ、これはお主の未来像として間違いないかもしれんのぅ!麗華が一言言えば、雷丸が『はい、わかりました!』と素直に従っとる姿が目に浮かぶわ!」
「浮かばなくていいっての!」
俺の抗議も虚しく、麗華が腕を組みながら冷ややかな視線を投げかけてきた。
「まぁ、そうなったとしても別に悪くないんじゃないかしら?あなたに多少の秩序が加わるなら、世のため人のためよ。」
「ちょっと待て!俺は自由なままでいたいんだよ!」
俺が必死に叫ぶ中、貴音や雪華、そして焔華がクスクスと笑い合う。
そんな俺たちのやりとりを見て、霧羽がふっと小さく微笑みながら、ぽつりと呟いた。
「確かに麗華も、ある意味で黒塵に匹敵するかもしれない。」
霧羽はどこか満足げな表情を浮かべ、焚き火に目をやりながら話題を変えた。
「最後、リーダーの夜嵐――彼は、ただ強いだけの存在ではない。」
俺たちは自然とその言葉に耳を傾けた。霧羽の声には、どこか抑えきれない敬意と畏怖が混じっているようだった。
「彼は天狗たちの族長であり、山々を統べる存在でもある。その力は比類なきものだ。彼の羽ばたきひとつで嵐を呼び、彼の剣『嵐影(らんえい)』は、一振りで山を裂くと言われている。」
霧羽は焚き火の明かりに照らされる自分の手を見つめながら、続ける。
「夜嵐は、天狗たちの絶対的な指導者だ。冷静沈着で、感情を表に出すことはほとんどない。彼の視線ひとつで、天狗たち全員が動きを止めるほどの威圧感を持っている。その目に見据えられれば、自分がどれだけ小さな存在かを痛感させられるだろう。」
俺は霧羽の話を聞きながら、あの冷たい瞳を思い出していた。まるで人間を小さな塵のように見ているあの目だ。
霧羽は少し眉をひそめながら、焚き火の揺れる光を見つめ続けた。
「彼の信念は揺るぎない。人間は害であり、妖怪や天狗と共存する資格はない――それが夜嵐の考えだ。その信念が、彼をさらに恐ろしい存在にしている。彼は迷わない。すべての行動が、自分の理想に基づいているからだ。」
焚き火の明かりが霧羽の横顔を照らし、その瞳には微かな陰りがあった。言葉に込められた重さに、誰もが自然と息を呑む。
そして、霧羽はふっと静かに息を吐き、低く落ち着いた声で続けた。
「――そして夜嵐。彼は私の父だ。」
その一言が場の空気を一変させた。焚き火の弾ける音だけが響く中、全員が目を見開いて霧羽を見つめる。
「「「「えっ……!!??」」」」
貴音は驚きのあまり立ち上がり、瞳をキラキラさせながら声を上げた。
「じゃあ、霧羽は天狗界のプリンセス……!?すごい、すごいよ!!」
その言葉に場の空気が一気に変わった。焚き火の光に照らされた全員が、一斉に霧羽を注目する。
「プリンセス!?」と焔華が勢いよく笑いながら手を叩く。
「お主、そんな大層な肩書きを隠しておったのか!そりゃあ大したもんじゃ!」
「確かに天狗界のリーダーの娘であれば、それはもう王族と呼んでも差し支えないですね……。霧羽さん、恐れ入りました。」
雪華は妙に丁寧な言葉遣いで冗談めかした一礼をする。
麗華は腕を組みながら、少し考え込むように目を細めた。
「……そう。あなた天狗界のリーダーの娘だったのね。」
彼女は冷静な口調で言いながらも、その視線には微かな興味と探るような光が宿っていた。
一方、貴音は興奮が収まらず矢継ぎ早に質問を投げかける。
「ねえ、霧羽!天狗界ではやっぱりお城とかに住んでたの!?お姫様っぽいドレスとか着てたの!?」
霧羽はその盛り上がりを冷静に見渡し、淡々と答えた。
「……城などないし、ドレスも着たことがない。それに、私はプリンセスなどではない。ただ、夜嵐の娘というだけだ。」
だがその真面目な返答も、焔華には届かなかったようで、焔華はさらに声を張り上げる。
「いやいや!娘というだけで十分じゃ!お主は間違いなく天狗界のプリンセスじゃ!」
貴音はもう完全に妄想が膨らんでいる様子で、「そうだ!霧羽にはきっとカッコいい騎士がいて、それで……それで……!」と一人で盛り上がり続けている。
霧羽は深く息を吐き、眉間にしわを寄せた。
「……落ち着け、皆。私はただの天狗だ。プリンセスではないし、騎士もいない。ましてや城に住んでいたことなど、全くない。」
その言葉に、貴音が「えぇ……」と肩を落としたような反応をする。だが、霧羽は気にする様子もなく、焚き火をじっと見つめながらふっと息をついた。そして、穏やかだがどこか哀愁を帯びた声で続けた。
「……まぁ、銀嶺や影鷹、煌羽、黒塵には大事にしてもらったな。でもあれはプリンセスというより、叔父さんが姪を可愛がるといった感じだったかな。」
そう言って霧羽は小さく微笑んだ。その微笑みには懐かしさだけでなく、過去の記憶に寄り添うような哀しさが入り混じっていた。
そんな空気を打ち破るように、俺は勢いよく声を上げた。
「なぁ、みんな!霧羽がプリンセスなのも大事だけどさ!それよりもっと大事なことがあるだろ!?」
全員が一斉にこちらを向く。その視線を一身に浴びながら、俺は胸を張って言った。
「夜嵐が霧羽のお父さんって事はさ、夜嵐が俺たちのお義父さんになるってことだよ!」
その瞬間、焚き火の周りの空気が固まった。全員がポカンとした表情で俺を見つめ、沈黙が流れる。
「確かに……霧羽さんが私たちの家族に加われば、夜嵐さんが私達の義理のお父様になりますね……!」
静寂を破ったのは雪華だった。彼女は妙に真剣な顔で顎に手を当て、考え込んでいる。
「そうだろ!?」と俺は大きく頷く。
「ハーレムファミリーの一員が増えたら、自然とそうなるだろ!夜嵐も俺たちの家族になるってわけだ!」
その言葉に、焔華が大声で笑いながら肩を叩いてくる。
「お主、大胆すぎるわ!冷酷無比な夜嵐を“お義父さん”扱いするとは!お主、度胸だけは認めてやるぞ!」
「うんうん!お兄ちゃんって、ほんっとうに面白いよね!」
貴音は瞳をキラキラさせながら、さらに興奮して椅子から身を乗り出してくる。
「ねえねえ!お義父さんってことは、夜嵐さんと家族旅行とかしちゃうの!?山とか海とか、もしかしてバーベキューとか!?」
「バーベキュー!?それはいいな!絶対盛り上がるだろ!」
俺も即座に乗っかり、夜嵐が黙々と炭をおこしている光景を想像してしまった。
「いやいやいや!」
そこに麗華がため息混じりに手を挙げてツッコミを入れる。
「飯田君……あなた、よくもまあ次から次へとそんな馬鹿な発想が出てくるわね。どう考えても、夜嵐さんがバーベキューなんてするわけないでしょう?」
「いや、でもさ、麗華。冷酷な夜嵐が、実は絶妙な焼き加減で肉を仕上げる職人だったらどうするよ?」
「どうもしないわよ!その発想がすでにおかしいのよ!」
麗華は呆れ顔で額を押さえながら深いため息をついたが、横で焔華がニヤニヤしながら乗っかってくる。
「いやいや、麗華!想像してみろ!夜嵐が渋い顔で“この肉を焼くことで我が理想が一歩進む”とか言ってたら、逆に面白いじゃろ!」
「焔華、貴方まで何言ってるの!?そもそも、理想のために肉を焼くってどういう状況なのよ!」
麗華の真っ当すぎるツッコミに、貴音がさらに手を叩いて笑い始めた。
「お姉ちゃん、もしかしてお義父さんがバーベキューをしながら“共存とは肉の焼き加減のようなものだ”とか言うのを想像しちゃったの!?」
「してないわよ!!」
麗華が声を荒げると、雪華が冷静な表情で口を挟んできた。
「ですが、もし本当に夜嵐さんがバーベキューをするのなら、霧羽さんが“肉を焼く姿も父らしい”と感心する姿が目に浮かびますね。」
「浮かばない!浮かぶわけないでしょう!!」
麗華が雪華にまで突っ込みを入れる中、霧羽はずっと静かに焚き火を見つめていた。だが、ふっと小さくため息をつき、ポツリと呟いた。
「……父が肉を焼く姿は、確かに少し見てみたいかもしれないな。」
「霧羽まで!?」
麗華のツッコミが山中に響き渡る中、全員が「バーベキューをする夜嵐」の想像に浸りながら、笑いが止まらなくなっていた。
焔華は椅子を叩きながら笑い転げ、貴音は涙を拭いながら「お義父さんが焼くお肉、絶対おいしそう!」と叫ぶ。
雪華は口元を手で覆いながらも、肩を震わせて微笑み、霧羽すら焚き火越しに小さな笑みを浮かべていた。
俺はその光景を見て、自然と口元が緩む。こんなにバカなことで笑えるのに、次の瞬間には命を懸けた戦いが待っているかもしれない。それでも、俺たちは前を向いて進むしかない。
俺はふっと立ち上がり、焚き火を背にみんなを見渡した。
「崇拝派に殲滅派、さらには天狗……敵が増えすぎて、確かに厄介だよな。でもさ――」
俺は拳を握りしめ、堂々と言葉を続けた。
「これはお義父さんに俺たちを認めてもらう試練でもあるんだ!俺たちハーレムファミリーが最強だって証明するためのな!」
その言葉に、みんなの笑い声が少しずつ静まり、焔華が「ほほぅ」と興味深げに顔を上げた。
「ほう、認めてもらうための試練、とな?それならますます全力でやるしかないのぅ!」
「そうだよ!お兄ちゃんが言うなら、やるしかないよね!」
貴音は拳を小さく握りしめながら、目を輝かせて同意する。
雪華は冷静な表情を保ちながらも、「夜嵐さんに認めてもらえるかどうかはともかく、団結力を高める良い機会かもしれませんね」と肯定的に頷いた。
麗華は腕を組みながら、少し呆れたように目を細めた。
「飯田君……あなたのそういう前向きさだけは、評価してあげてもいいわ。でも、無茶はしないでちょうだい。無茶しても、私が助けるとは限らないわよ?」
「おい、そこは助けてくれるんだろ!」
俺が抗議すると、麗華はほんの少し微笑んだ。まったく、ツンデレが麗華の基本装備ってのは揺るがねぇな。
霧羽は静かに立ち上がり、俺の方を見て力強く頷いた。
「雷丸、私もお前について行く。夜嵐に認めてもらう必要はないが……私自身、この戦いを通じて、自分の信念を証明したい。」
その言葉に、俺の心がさらに奮い立つ。みんなが俺を信じて、俺たち自身を信じてくれている。これほど心強いことはない。
「よし、みんなで行こう!俺たちハーレムファミリーは最強だ!みんなで力を合わせれば、次は絶対負けねぇ!」
俺の宣言に、全員が一斉に頷き、拳を突き上げた。焚き火の明かりが彼らの顔を照らし、その目には確かな決意が宿っていた。
次に何が待ち受けていようとも、俺たちは進む。それが俺たち「最強ハーレムファミリー」のやり方だからだ――!
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