恋人は異世界人!召喚に巻き込まれ住む事になりました

牡丹

文字の大きさ
7 / 17

7.秘密の告白

しおりを挟む
店が終わり1階のリビングでくつろいでいると家のドアをノックする者がいた。

「誰?こんな夜中に」

「アルベルト・ギャンだーだ。」

懐かしい声。自分から彼の元を去ったのにその声に胸がドキリとした。まさか使いではなく本人が来てくれるなんて!
そっとドアを開けると深く外套服のフードを被った彼がいた。

「アル、ベルト、、、あなたがわざわざ来てくれたのね、、ありがとう。ど、どうぞ。」

アルは外にいる誰かに頷くと部屋に入りドアを閉め外套を脱いだ。5年ぶりに会うアルは、変わらずに筋肉質でイケメンで素敵だった。
けれど以前とは違い厳しい顔で笑顔はない。そりゃそうよね、結婚を約束したのに黙って逃げたのは私だもん。許してくれる訳がない。

「ハルナ。こんな田舎にいたんだな。」

「うん、、、その、、座って。お茶を淹れるから。」

か細い声で言うと逃げるようにキッチンへ向かった。手紙で「助けて」とお願いをしたけれど、いざ顔を合わすと何から話したら良いのか頭がぶっ飛んでしまう。

その時、スッと後ろから手が伸びて軽く抱きしめられた。思わず身体がビクリとして硬くなった。

嫌いになって去った訳じゃない。だけどこれはマズイ。拒否しなきゃと思うけど身体が固まって動かない。やめてと言う?振り解く?一瞬の迷いのうちに回されている腕には力が入りキツく抱きしめられた。

スッと彼の顔が耳元に降りて名前を呼ばれた。

「ハルナ、生きてて良かった。」

そう言って大きく息を吐き肩に額を置いた。彼の温もりと髪が耳に触れる。近かすぎる。どうにかして離れないとおかしくなりそう。

「あの、、アル、アルベルト」

「探したぞ。顔をよく見せてくれ。」

アルの手が頬に触れ顔を後ろに向けさせた。至近距離で目が合い堪らず視線をずらした。彼の唇が重ねられそうになり、慌てて振り返り彼の身体を押し返した。

「アル、、ベルト、ダメよ。もう私達は、、」

「シッ。黙って。」

彼に簡単に手を取られ見つめられる。
ダメだ。直視出来ない。
その時、2階で物音がして、その気配にアルベルトが見上げた。

「2階に誰か、、誰かと一緒に住んでいるのか?」

「う、うん。」

その返事をした瞬間に彼が手を離した。
そらしたままの視線は彼に戻す事が出来ずにいるから彼がどんな顔をしたかわからない。

「ソファで待ってて。お茶を、、、持って行くから。」

「ああ。」

感情のない声だわ。
これからお願いする事も合わせて説明をしないといけないけど、上手く伝えれるかしら。

お茶を持って行くと彼が探るように見つめている。けど、また直ぐに目をそらしてしまった。震える手でお茶を置き向かいに座ると、彼はポケットから緑の石のネックレスを机の上に置いた。私がマリーに伝言を頼んだ時に身分を証明する為に預けた物だ。アルからもらった私の大切な大切な宝物だ。

「これはハルナに返す。まだ持っていて嬉しかったぞ。それで、重要な要件で助けて欲しいと言う事情を詳しく聞かしてくれ。」

「う、うん。この町の町長が所有する荷馬車の前に子供が飛び出して、助ける為に私も飛び出したの。私達を避ける為に荷車が別の荷馬車にぶつかってね。2台分の弁償代が高額で、その、、、侯爵様から頂いたお金とこの家を売ったお金でも足りないの。」

「父上が渡した金額は、平民なら一生働く事なく暮らせる額だったはずだ。」

「それが王室への献上品もあったらしいの。それで、、その、、お金を払わなければ子供を奴隷に売り私は町長の嫁になれと言われてしまって。」

アルベルトがドンと拳で机を叩き大声をあげた。

「何だって?誰が誰の嫁だって?そもそも荷馬車の運転手の避け方が悪かったからだろ?」

「うん、でもね、飛び出したのはこっちだから。」

「何だって飛び出したんだ?あっちの世界でも車の前に飛び出せばどうなるかわかるだろ?」

「だって、、、子供が飛び出したから。」

「ハルナが優しいのは知っている。だからと言って自分を犠牲にする必要はないだろ?その子供の親にも責はあるんだから。」

「だからね、アルベルトにも手伝ってもらえないかなって。」

「何を?言ってる意味がわからない。」

「だから私達の子供が飛び出したの。貴方は私の事を恨んでると思う。だけど貴方の子供のグリーンベルトの為に助けて欲しいの。」

ああ。やっぱりだ。アルベルトが呆気に取られている。思ってもない告白に口を開けて目を大きく開けている。

彼はお茶をがぶ飲みすると言葉をしぼりだした。

「何処にいる?直ぐに会わせてくれ。」

2階の寝室へ案内をすると彼は膝を折り子供の顔を注視した。
彼に似た赤髪の男の子。

「名前は?」

「グリーンベルト。信じてくれるの?」

「俺がハルナを疑う訳がないし、俺達は寝室を共にしていたんだ。」

そう言うとグリーンの髪をそっとなぜ手を握りしめた。

「ハルナ、何故もっと早くに教えてくれなかったんだ?子供を隠していた事は許さないぞ。町長の件は俺が解決するから終わり次第、ハルナとはじっくりと話をしなければな。わかったか?」

彼の背中越しに発する声は声を潜めているけれど怒りに満ちていた。

「ごめんなさい。本当に、、ごめんなさい。」

私の謝罪に返事はなく彼は立ち上がると部屋を出てそのまま玄関へ向かった。

「明日、また来る。子供をグリーンベルトを宜しく頼む。」

それだけ言って扉は閉められた。怒りを宿した瞳はもう目を合わせてくれない。
当然よね。彼の初めての子供を隠していて奴隷に売られそうになったんだから。

アルからどんだけ恨まれても構わない。どんな罰でも受けるわ。
これで町長の件が片付くんなら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...