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8.親子の対面

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翌日の早朝にアルベルトがやって来た。丁度、お湯が沸いた時だったので様子を伺っていたのかもしれない。幸いな事にグリーンベルトは未だ寝ているので驚かせずに済みそうだわ。

「朝早くからすまないな。この者は、筆頭補佐官のベルガードだ。」

アルの座席の後ろに立つ彼は、挨拶が済むとカバンから何枚もの書類を取り出して机に置いた。

「早速だが、もう一度だけハルナの口から聞きたい。グリーンベルトの事だ。彼は俺の子供で間違えは無いか?他の男のと言う事は?」

ジッと微動だにせずに見つめられる。何だか尋問にあっているみたいで、心地悪いわ。

「それは無い。そんな事、あれから無かったから。貴方で間違えないわ。」

「わかった。その言葉が聞けて嬉しいよ。」

彼は、ニコリと頷くと机の書類を示した。

「昨日の件は、ここにサインをすれば全て片付く。彼らがもう2度とハルナ達と関わる事はない。」

「えっ?もう?早すぎるでしょ?」

「ああ。問題ない。1番下に全てサインをしてくれ。」

文字は以前に習ったので読よるけど、難しい言葉が並び噛み締めて読まないと理解出来ない。

「ちょっと待って。今読んでいるから。」

「大丈夫だ。誓って決して悪い様にはしない。全てが解決が出来るから、さあ、全部の書類にサインを。」

急かされて言われるままに何枚もサインをした。アルは全ての書類のサインを確認するとベルガードに渡し彼も確認をして鞄にしまった。

「では、手筈通りに頼んだぞ。」

「御意。」

ベルガードは、私に頭を下げると足早に家を出ていった。

「さあ、ハルナ。出発の用意をしよう。手伝うよ。どうしても必要な物だけでいいから。」

「まって。何の事なの?」

「2人とも侯爵邸へ来てもらう。」

「な、何を言ってるの?そんな事、今更無理よ。」

「じゃあ、グリーンベルトだけが来るかい?」

「そんな、、あの子と離れるなんてあり得ない!それに、、父親は死んだと言ってあるのよ。」

「俺の子供だし、俺から勝手に逃げたのはハルナだ。決して譲れないな。書類にもサインしただろ?」

「まさか、、」

「ああ。侯爵家の長子として籍に入れた。ハルナ、今は、俺が侯爵なんだ。父は2年前に亡くなって母も領地にいる。俺達のことに口を挟む者はもういないんだ。気にせずに一緒に来てほしい。グリーンベルトと離れたくないだろう?」

やられた!
隠れるように暮らしてたのに連絡を取ったのは自分だ。そうなると子供の事で話し合いになると思っていたけど。まさかこんなに早く手を回されてしかも私まで?

「お母さん、、、誰?」

ああ、どうしてこのタイミングで早起きするのよ!出来る事なら顔を合わせずにアルを説得して帰ってもらいたかったのに仕方がない。

「グリーン、、こっちへいらっしゃい。」

「うん。」

グリーンがアルの横を通る時、アルが話しかけた。

「おはよう。私はアルベルト・ギャンダーだ。名前は?」

「おはようございます。僕はグリーンベルト・タナカです。」

「名前に同じベルトが付くな。何故だと思う?」

「本当だ!お揃いだ。なぜなの?」

「それは私がグリーンベルトの父親、お父さんだからだ。今まで事情で会えなくてすまない。」

「お父さん?本当に?死んだんじゃないの?」

「生きてるさ。さあ、顔をもっと見せてくれ。」

そう言うと立ち上がりグリーンを抱き上げた。

「お母さん!本当に僕のお父さんなの?本当に?」

戸惑いつつも笑顔でアルベルトの顔を観察しているわ。そう言えばいつも友達のお父さんを羨ましそうに眺めていたっけ。

「うん。お父さんよ。隠していてごめんね。」

「さあ、私の家へ引越しをするから大切な物だけ集めておいで。用意が出来たら出発するぞ。」

「ちょっと、アル!待ってよ。まだ話は決まってないわ。」

「駄目だ。譲れない。俺と子供の時間を4年も奪ったんだ。素直にしたがってくれ。わかるだろ?」

奪った。確かにそうだ。だからこそアルに知られずにひっそりと生きてたかったのに。

グリーンの為にも豊かな侯爵家で教育を受けて生きるのが良いのだろうな。
グリーンは、私の支えだ。従うしない。
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