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6.専属護衛隊

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各大臣補佐官達との面談が一通り落ち着くと貴族達からの熱望で茶会が押し寄せた。
城の外へ外出する事になるので貴重な貴人に何かあってはいけないと玲奈貴人専属の護衛の騎士隊を付ける事になった。

「専属騎士隊の隊長のトールと申します。お困り事も相談していただければと思います。」

「よろしくお願いします。
その、私の為にわざわざすいません。」

「私達には栄誉な事です。それに私は個人的に貴方に会いたくて立候補したんです。」

「えっ?」

「見ての通り、私の先祖は貴方の世界の人間です。一度、お話ししたかった。」

そう言って薄茶の目でウインクした。

ここの人達は皆んな西洋な顔立ちだけれど、トールだけこげ茶の髪に薄い茶色の目の色で東洋人に近かった。
玲奈は、ここに来てから外国に放り出された気分でいたので馴染みの顔つきにホッとするものがあった。

「本当ですか?!その人は今は?帰れたの?」

「何代も前の爺様の事だからね。今はこの地で眠っています。」

そう言うと首からネックレスを取り出した。

「代々、次期当主が受け継ぐ物で爺様の国のものらしい。」

それは昔の日本の四角い穴の空いたお金だった。漢字が確認出来た。

「確かに私の国の昔の物だわ。じゃあ、、、私も帰れないの?」

「それはわからない。我が家の家訓は『縁を大切』になんだ。爺様はここで知識を求められそして新しい家族を作った。その子孫の私と玲奈貴人がこうして話をしているのも何かの縁だしね。貴方も縁を大切するといい。」

「あの、、時々、お爺様の事を聞かせてもらえますか?」

トールはニッコリ笑うと胸に手を当て礼をとった。

「では、我が実家の侯爵家に御招待しましょう。お爺様の遺品もお見せできるし。日程はアンナ秘書と相談しておきます。」

「わぁ!楽しみです。」

パッと晴れたような笑顔になった。

「いつもそんな風に笑っていれば良い。
折角の可愛い顔が台無しだよ。泣きたくなる気持ちは仕方がないけれど、爺様のように前を向いて欲しい。」

玲奈はいつも周りの視線を見ないように無表情で斜め下を向いていたのでこの世界に来て初めての心からの笑顔だった。

「そ、そんな可愛いなんて。トール隊長のお話でちょっぴり元気がでましたよ。」

(そう言えば、誰かと笑って話をした事は無かったわ。)



トール隊長との出会いで明らかに玲奈に変化が見られた。

「何で私がこんな目にあうの?」
と頑なに周りに壁を作っていたのがじょじょに騎士隊の皆んなと日常会話を楽しむようになってきた。


「今日もありがとうございます。雨なのにすいません。」

「大丈夫ですよ。我々は鍛えていますから。」

「昨日みたいに雷が鳴ならければよいですね。風邪ひかないようにして下さいね。」

「お気遣いありがとうございます。」

騎士達の評判も良い。
謙虚で孤独な年若い少女を守りたいと誰もが思った。

「玲奈貴人、我が家のシェフ自慢のパイをアンナ秘書に預けているので召し上がって下さいね。」

「チャールズさん、いつもすいません。」

「おいチャールズ、被ってしまったな。俺もさっきパイを渡したところだ。」

「アチャー、これからは順番にでもするか?はっはっはっ!」

皆、少しでも元気を出して欲しいと年頃の女性が好きそうな食べ物や花を持ってくる。

「トール隊長。私は帰る事を諦めません。だけどその日までここで生きるしか無いのなら、、進んでみます。」

ここに来てからやっと前をむき出した。
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