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さらわれた騎士団総団長の嫁ケイコ(後半)

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一行が郊外の家を出発して街中に入った頃、私ケイコはミタイ達にクッキーの紙袋を渡した。

「おやつを食べながら行きましょうよ。沢山ありますから。
はい、どうぞ。」

「中々、気が効くではないか。
良い心がけだ。」

ニッコリと貼りついた笑顔で返す。
受け取ってくれてのでホッとした。
紙袋を小脇に置き関所に着いた。

関所に付くと許可証や身分証を求められる。私の分は隣国のアリスと言う名前で用意されていた。

「えっーと、お前はタイス王国のアリスか。皆んな何を食ってるんだ?」

「クッキーよ。はい、どうぞ。」

紙袋をかざして兵士に1人づつ差し出す。

「美味い!」

「褒めてくれてありがとう。では、1袋づつどうぞ。おまけでもう3袋。」

気をよくした兵士は、すんなり関所を通してくれた。
その事に気がついたミタイは次の関所の入口と出口でも渡すように指示して来た。

「わかったわ。捨てる不格好なクッキーでも褒めてもらうと嬉しいわ!」

笑顔の裏で、マーベリック、早く見つけて!と祈っていた。

夜の関所の入国時間ギリギリに隣国との国境の街に着いた。

「今日はここで一泊する。
明日は、いよいよ帰国出来るぞ。」

「では、お嬢様とお会い出来るのですね。楽しみです。」

「ここからは悪路が続くのでしっかり寝ねさい。」

その夜は早めに皆んなが就寝をした。
男達は疲れが出ているのだろう。イビキをかいている。
いよいよ隣国ね。

マーベリック、もう貴方と会えないかもしれない。こんな別れ方になるなんて、、ごめんなさい。愛してるわ。



*****

バキッ!バキ!バン!

突然の騒音にバッと目が覚めた。

「何だ!盗賊か?」
「ギャー!」

男達が叫んでいる。
盗賊と聞き、部屋の隅でガタガタ震えているしかなかった。

バン!

突然、私の部屋のドアが開いた。
薄明かりが漏れてくるが逆光で顔が見えない。
もう観念した時、抱きしめられた。

「ケイコ遅くなってすまない。」

マーベリックだった。

「ああっ、マーベリック!マーベリック!うっ、、」

見つけてくれたんだ!
彼に抱きつき声をあげて泣いてしまった。
家の外に出た時、騎士団員囲まれているのを見てホッと安堵して気を失ってしまった。


気が付いた時はベットに寝かされていた。マーベリックが床に座り私の手を握ったままベッドに伏せて眠っていた。
剣を持つ分厚いタコの出来た手。
私を助けてくれた手だ。
握られた手を外そうとしたけれど、しっかり握れていて外れない。

遠征に2か月ほど出ていて私の捜索にも加わって。疲れはててるのね。

しばらく彼の寝顔を見つめて彼の髪を撫ぜていた。
髪と同じ赤い髭もずいぶん伸びている。
まるで赤鬼みたいね。とフフッと笑ってしまった。
その声で彼が目を覚ました。

「ケイコ。気が付いたか。」

そっと頬に手が添えられ熱い抱擁と口づけがされ生きて出会えた事を確かめ会う。

「アイツらに何もされなかったか?
大丈夫か?」

「ええ。大丈夫よ。
このまま隣国へ行くのかと思ったわ。」

私の目から涙が一雫流れ落ちた。
それをすくいながら、マーベリックがキラキラと称賛の目で見つめる。

「お前のメッセージのお陰だ。
あれが無かったら直ぐに追えなかっただろう。」

ああっ、やっぱりマーベリックだ。

「気が付いてくれたのね!」

「ああ。関所の兵士がやたらクッキーを食べていたしな。
紙袋を見た時は言葉も出なかったぞ。
アイツらの最大の失敗はお前にクッキーを焼かした事だ。」

ニヤリと笑い、

「本当にお前は良くやった。」

と言い額にまた口づけを落とす。

「あの人達は?」

ミタイ達はどうなったのだろう?

に扱い確保している。
外交のカードとして使わせてもらう。
お前が騎士団総団長の嫁とは知らなかったようだ。」

そうでなければこんなバカな事はしないだろうな。と目が鋭くなっている。
ゾクリとした。
怖い怖い。
だから私を返してと言ってたのに。

「帰るぞ。さあ、つかまれ。馬まで運んでやろう。」

「な、何を言うのよ。やめてよ。恥ずかしいわよ。あっ、」

サッと私の腰と膝裏に手を入れ抱き抱えた。とっさに揺れたので彼の望み通り首に手を回し、つかまった。

「本当に大したものだ。奥様。」

移動しながら熱い熱い視線が微笑んで見下ろしている。

私は王都でも珍しいクッキーを食べた兵士が「クッキー」を自慢して人目につくように大判振舞いをした。
そして、メモや紙袋にマーベリックが見れば居場所が判るように彼に教えていたローマ字で大きく書いたのだ。

「タイス王国ベーグル伯爵」と。

アチラの世界に帰った時に道路標識を読む為に教えたのがこんな形で役に立つなんて、、、何がどう転ぶかわからないわね。マーベリックが私の世界に寄り添ってくれたお陰ね。

「ねぇ、こっち向いて。」

「何だ?」

ニッコリ笑って珍しく自分から熱い口づけをしたのだった。
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