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9.番犬がやって来た

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夕方、3人掛けの長椅子と一人掛けの椅子が2脚、サイドテーブルが届けられた。
まったく、何でフルセットなのよ!
雨の中、持ってきた兵士を追い返すのも気の毒で店内のレイアウト変更を手伝う条件で渋々店内に入れたけど何ともどデカい。場所を取る。

「本当にあの赤髪の奴、腹が立つ!」

悪態が口に出て、店内の陳列棚の移動をお願いした騎士レオンから笑いが漏れた。

「随分、ご立腹ですね。でも、これからはここで商談も出来るし昼ご飯も食べれますよ。」

そうだった。町のおかみさん達が来てもカウンターに立って食べてお喋りをしていたのだ。
部屋の3分の1を占めるけどくつろげる部屋にはなったのは確かだわ。
ふん、まー良しとしとこうか。

「あの赤髪はいつもあんなに人の話を聞かないの?」

「ルドヴィカ総団長ですよね?凄く怖く厳しい人でよ。」

「そうルドヴィカ総団長と言うの。本当にやな奴よ。今晩からここに寝泊まりすると思うとまた腹が立ってきたわ。」

「まぁまぁ、押入り強盗が多発しているし貴方もこの国に不慣れですから番犬だと思ってくだされば。」

「番犬ならもっと可愛げがあるわ。」

あーイヤだ。何故こんな事になるんだろう?とにかく、あの赤髪が私の住居スペースに上がる事は絶対にないわ。


この辺りの店の閉店時間は、夕方4時頃。日本と違い陽が沈む前に日用品や食品を売る商店は店じまいをする。日が暮れても営業するのは飲食店や飲み屋や夜の店、宿屋位だ。

閉店が早いのでゆっくりと料理が出来るのが嬉しい。
こちらの素材を使った和食を作ろうとチャレンジしているが、またまだ和食には程遠い洋食だ。ま、これはこれで美味しいと思う。
今日みたいな日は、デザートの量を抑えることが出来ない。
あの赤髪のせいよ。
3階の寝室に移動するまでは2階のリビングでゆっくりとくつろぐので大好きなパイの小さなホールとハーブティーをたっぷり用意してリビングに移った。
いつものようにカード遊びをしていたら一階の店舗の呼び鈴が鳴るのが聞こえた。
奴だわ。赤髪。ルドヴィカ総団長が来たみたい。
合鍵を持っているので勝手に出入りすると聞いたけど、、、初日だから大人の礼儀として挨拶位はしておくか。

羽織り物をして、1階に降りるとルドヴィカ総団長が外套を脱ぎ袋から私物を机の上に出している所だった。

「おう。旅人嬢ちゃん、今晩から宜しくな。自己紹介がまだだったな。俺は王国騎士団総団長アルベルト・ルドヴィカだ。」

「エリコ・カワムラよ。子供じゃ無いんだから嬢ちゃんはやめてちょうだい。」

「へー、いくつなんだ?」

「30歳、立派な大人よ。」

「若く見えるんだな。俺は42歳だから俺からしたらまだまだ嬢ちゃんだ。」

「だ、か、ら、やめてって言ったでしょ?」

「はははっ!ま、これから宜しく頼む。楽しくいこうじゃないか。」

本当に人の話を聞かない!
低音の良い声だけどこの性格は何とかならないの?
返事の代わりに無言でペコリと頭を下げると自分の生活圏内へつづく階段へ駆け登った。
どうせ夜しかいないんだから割り切ろう。1日でも早く町に慣れて追い出してやるわ。
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