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8.大迷惑な珍客

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さっきの珍客は、何だったの?!
あいにく、腕の入れ墨は確認が出来なかったけど怪しい人には変わりないわ。
恐怖で固まってないで早く騎士団詰所へ行かないと。
普段は近づかない様にしてるけど思い切って頼ろう。
ノックをして中に入ると兵士が数名常駐している。

「隣のエリコ・カワムラなんだけど。」

「おや、珍しいですね。あいにく今日の当番のレオンさんは見回りに出てまして。」

「今ね頬に傷のある変な男が店に来たの。まだその辺にいるかも。」

「それは大変だ!直ぐ探しに行きます。家の中で鍵をかけていて下さい。レオンさんにも知らせを送ります。」

兵士は、玄関まで送ってくれて鍵をかけるのを確認したら見回りに出かけた。捕まればよいのだけど。

その後、騎士レオンが訪ねて来て事情聴取をして周辺の警備強化を約束してくれた。謎の男は発見されず、店は念の為に2週間程、休んだけど変わった事が無かったので店を再開する事にした。

ここは異世界の慣れない国。日本じゃないからもっと警戒をしなきゃと思うけど、セキュリティーシステムもないのにどうしろって言うのよ。

気分転換に今まで折ってないくす玉を作っている。円錐形の同じパーツを6個もしくは12個作り面を合わせて球状にしたら完成。表面の凹凸が花のように見えて華やかだ。作業に集中していたらいきなり声がした!

「おい。それは何を折っているんだ?」

「またアナタ!」

一体、どうなっているんだろう?またドアの呼び鈴が鳴らなかったわ!
赤髪の頬に傷のある男はカウンター越しに見下ろしニヤリと笑うと折り紙を摘んだ。

「よく出来ているな。アンタが考えたのか?」

「私の国の文化だから。あ、あなた、、どうやって中に入ったの?」

声が硬く震えてしまった。
男は折り紙を戻すとサッとまた私の手を掴んできた!

「キャー!キャー!イヤ~!」

滅多に上げる事の無い叫び声が出た。
男の腕は降り解こうにもびくともしない。無表情で見下ろす男には恐怖しか無い。

「カランコロン」

ドアが勢いよく開き騎士団詰所からアルクが剣を身構えて部屋に飛び込んで来た。
男の背中に向かって叫んだ。

「おい!お前!手を離せ!」

「嫌だ。」

男はアルクを見ようともせず私の手を握り続けている。

「何?」

アルクが男に間合いを詰めて斬りかかる瞬間、男は手を離し剣で応戦した。
対峙した時、アルクから声が漏れた。

「総団長?!」

「おう、アルク。久しぶりだな。及第点だ。」

そう言って剣を締まった。

「何をやっているんです!驚かせないで下さいよ!」

「ははははっ!なーに2回目のテストさ。一回目は最悪だ。旅人嬢ちゃんは平和ボケしているし騎士団詰所の兵士は異変に気が付かない。旅人嬢ちゃん、アンタは駄目だ。教育が必要だな。」

カウンターの隅で恐怖で縮こまっていたけど、この展開にほっとして涙が止まらい。

「悪いな旅人嬢ちゃん、試させてもらった。すまないな。」

そう言って手を差し伸べるがまだショックで首を振って拒否するのが精一杯だった。

「さあ、立ちな。」

男が手を触れた瞬間、恐怖、安堵、怒り色んな感情が混じりフッと意識が飛んでしまった。



体が揺れている。ああ、私電車で寝てしまったんだ。そろそろ降りる駅かな。起きなくちゃ。

重い瞼をそっと開けると赤い物が目に付いた。何だろう?
赤髭だ!
慌てて起きあがろうとするとガッチリと抱き抱えられていて身動きが出来ない!

半分パニックになりながら叫んだ。

「は、、離して!嫌!」

大声を出すといきなり口を抑えられた。
フゴフゴと声にならない声で抗議すると静かな低い声が帰ってきた。

「シー。静かに。オマエは気絶したんだ。寝室まで運んでやるから安静にしていろ。静かに出来るな?」

私が頷くと口の手を離してくれた。
大きく深呼吸をして周りを見ると私の部屋の階段だった。

「もう大丈夫だから降ろして。」

「まだ駄目だ。安静にしていろ。」

「だって、、、重いし。」

「平気だ。じっとしていろ。」

そう言うと3階の部屋のドアを開けベットにそっと降ろし、片膝を床について屈むと私の目を見た。

「すまなかった。」

再び詫びてきた。さっきと違い真剣な様子だ。

「久々に王都に帰還したから町の警備体制をチェックしていたんだ。アンタの事は報告を受けていたから警備の確認をしに来たがアンタがこんなに驚くとは想定外だった。」

「あんまりよ。どれだけ怖かったか、、」

また涙が溢れてきた。

「すまんすまん。ここまで旅人嬢ちゃんが弱いと思わなかったんだ。気の強い町に住みたがる女と聞いていたからな。」

「何それ?どうせ宰相が言ってたんでしょ?」

「はははっ。王の前でも堂々としていたと聞いているぞ。俺も引っ掻かれそうになったがな。」

ああ、アレね。1回目に来た時に空手で手を振り払ったやつね。

「誤解してるみたいだけど私はか弱い普通の女よ。これでも自国の時より警戒しているわ。ここの警戒の仕方なんて習ってないし。知ってるわけないじゃ無い。」

頭がスッキリしてきたのでいつもの調子が戻って来た。

「ワハハハ!講釈を垂れるな。オマエはこの町で暮らすには感覚が鈍いんだ。わかった。やはり身につくまでは俺が用心棒になろう。」

「お断りします。」

ふん。誰がって心でつぶやきソッポを向いてやったわ。

「そう言っても今日は押し込んだのが俺だったから良かっただけだろ?直ぐに強化しないとな。」

「絶ーー対にイヤ!アルク達がいるから大丈夫。どうぞお帰り下さい。」

「アイツらは詰所の仕事もあるし、一緒に住むには若いからなぁ。騎士とはいえ間違いがあっては困るだろ?」

「はあ?一緒に住む?ここに?」

この人は、何を馬鹿な事を言ってるんだろう。

「ああ。隙だらけだからな。安心しろ。俺は紳士だから1階にソファーを用意してそこで寝るさ。今晩からだ。」

「ちょっと、断っているでしょ?何勝手に決めて、、ちょっと!話の途中でしょ?」

ああ、もう!この人、全然話を聞いてくれない!!
ドアへ向かった背中に枕をなげたけど当たる事無くスッと出て行った。

「ああっ腹の立つ!!」






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