天然天使にご用心♡

七々虹海

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 この旅行に来る前にラビエル先輩に言われたこと…。旅行の準備してたらさ、珍しく、僕の住居にやってきたんだ。

「ルヒエル、一度真面目に話そう。お前さ、涼くんとやらと順調そうだから言うからな。迷惑だろうしお前はもう最初から分かってる事だろうけど、お前が心配だから先輩からの最後の忠告って事で一言言わせろ。涼くんとやらと付き合って、そういう事になったら、お前、天使じゃなくなるの分かってるよな?羽落とされるの覚えてるよな?」 

 あぁ、とうとうその話か。僕の優しい先輩からは一度は言われてしまうんじゃないかと思ってたんだ。だから報告はさ、怒涛の勢いで伝えてさっさと退散してたのにな。
 それなら黙ってれば良かったのにって思われるかもしれないけどさ、僕が天界でこの姿になってから、天界の事教えてくれて、ずっと面倒みてきてくれた大事な先輩なんだ。父親ってこんなかなって、勝手に思ったりもしてた。
「ラビエル先輩。もちろん分かってるよ。羽落としが天界最大の罰で、天界にいられなくなることも。天使長様には隠し通せないことも。それでも僕は涼くんの側にいる事を選んだんだ」

「分かってんなら…お前が案外頑固だから、決心しての事だって分かってたから言いたくなかったけれど…。羽を落とされて狂っていった奴らの事を考えると……もうここまでにしておけとしか俺は思えないんだ。いい思い出にすればいいんじゃないか…って」

「ありがとねラビエル先輩」

「決心は変わらないか。そうだよな…」



 羽落とし。

 天使の羽には神経が沢山通ってる。だからこそ自由自在に動かして跳ぶことが出来るんだ。天界最大の罰として、それを落とされる行為は想像を絶する激痛を伴い、気を失うものや、落とされている最中に発狂してしまうものもいるらしい。
 3分の2は落とされてる最中に発狂し、地下牢で過ごす。追放しようにも、狂った者を外に放すのは外の世界に迷惑だからと考えられている。狂った者は当然消毒など出来ないから、羽を落とした部分から腐敗していく。天使同士の共食いを始める者もいる。
 残り3分の1も、外の世界でそう幸せに生きた者はいないと聞いている。

 地下牢は一度は担当させられるから見てきてる。知っている。

 僕は、耐えきれるんだろうか。
 耐えられるつもりで、羽を落とされてその結果早死にしたとしても後悔せず、涼くんと最期を過ごしたいと思って、この恋を諦めない決心をしたんだ。のんびりずっと天界にいるのは悪くなかった。でも、徐々に老いていった涼くんが死んでしまうのを考えたら、自分が先にいなくなりたいと思った。

 涼くん。僕、絶対耐えて、君の所に戻るからね。まだその時ではないけれど。
 その時が来るまではお気楽な天使のままで君の横で笑ってたいんだ。
 
 涼くんが言っていた駅名を告げる声がする。さぁ、隣の愛しい人を起こそうか。


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