近江一族物語1『融合』

七々虹海

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来訪者

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 近江貴嶺(おうえたかみね)
 僕たちよりはずっと年上、お母さんたちよりはやや年下に見えるその男はそう名乗った。

 何もない日曜日。親は早く起きて朝食を食べ、各々ゴルフの素振りや読書やら、趣味を楽しんでいたらしい。僕たち二人はまだ夢の中。小学校から中学校に上がって、まだ慣れない生活の疲れをとるべく、朝寝坊を楽しんでいた。

 そんな幸せなまどろみの中、起こしに来た母の顔はいつもと別人のように重苦しい、暗い雰囲気を漂わせていた。僕らも交えて話さなきゃならないらしい。初めましてな親戚と。

 僕らは親戚という存在を知らなかった。
 叔父さん、叔母さん、いとこって何?よく晴空の友達が話していた「従兄弟と遊んだ」「従兄弟が泊まりにきた」

 なんでも、親同士が兄弟姉妹な所の子供同士をそう呼ぶらしいが、そんな存在は生まれてこのかた会ったことなかったし、いると聞いた事もなかった。

「お正月は毎年おじぃちゃんちに行くんだ」

 おじぃちゃん?おばぁちゃん?僕たちにそんな存在がいるなんて考えた事もなかった。

 世の中にはそんな存在、血縁がいるということを知っても、別に、お母さんがいてお父さんがいて、そして晴空がいれば十分だった。じっくり話しあったわけでもないけど、晴空もそう思ってたみたいだった。

 そんな僕たちの前に突然現れた、近江貴嶺という従兄弟。何しに来たんだろう。お母さんの感じからして、良い知らせではない予感しかしなかった。




 家族と貴嶺さんの5人で和室のローテーブルの周りに座る。僕はなるべく晴空に近づいて座った。いつでも触れるくらい近く。なんとなく、守らなきゃって気がしたから。

「さて。役者は揃ったようだから話始めさせてもらうな。単刀直入に訊く。どっちが視える方だ?」

「貴嶺さん、私たちは実家とは縁を切って静かに暮らしてるのでその話は……」

「劣性は黙っときな。縁を切った?切ったと思ってるのは自分たちだけだろ。逃げ出しただけなんだから。劣性の従兄弟同士でさ」

「貴嶺さん!」

「子どもたちは知らないわけ?お父さんとお母さんは元々従兄妹同士なんですよ、従兄妹同士で島から逃げ出して子供拵えたんですよって」

 お父さんとお母さんが従兄妹…。初めて聞く話だった。

「従兄妹だから何だって言うんだ?結婚できるから結婚したんだろ?」

 晴空はすぐ適応したらしい。僕は…僕は、自分がどう感じたのか分からない。

「問題はそこじゃなくてさ、劣性同士の間に出来た双子の子ども。どちらか逸材だろ?どっちだ?どっちが視えてる?」

「いつざい?そんな言葉は聞いた事はない。俺と凪はただの一卵性の双子だ」

「お前ら本当に親から何にも聞いてないんだな。なんで親戚がいないのかって疑問にも思わなかったのかよ」

「それは…考えたことはあったけど、一度聞いた時にお母さんが困った顔をしてたから、これは聞かなくて良い事なんだって思ってた」

「はっ。親思いなんだな」

 貴嶺はバカにするかのように一瞬だけ嗤った。

「じゃぁ、もう一度聞き方を変える。どちらが、人以外の何かが視える方だ?」

「貴嶺さん!うちの子達は、劣性の私達から産まれたせいか二人とも何も見えたことがないんです。親に隠してる様子もありませんし、小さい頃も…」

「嘘だな。この家にそこそこの力をもつ者がいるって、あのばぁさんが言ったんだ。近江家は力を持ったものも持たないものも、家からは逃れられないんだよ。あのばぁさんには分かっちまうんだからな」

「力を持っていたとしても、その力は表面に出てないようです!お願いですから、私達家族の事は放っておいて下さい。あそこから離れて静かに暮らしているだけなんです」

「だからさ。それが気にいらねんだよ。誰も本家からは逃れられないのに、自分たちだけトンズラこいたってのがよ。いいぜ、逸材だけこっちに渡せば。残りの劣性三人は家族仲良くここで今まで通り暮らしなよ」

「本当に力はないんです。お願いですから1人も連れていかないで下さい、静かに平和に、邪魔はしませんから、お願いですから」

 お父さんとお母さんが必死で今の生活を守りたいのが伝わってきた。
 お父さんは仕事で忙しく会えるのは日曜くらい、平日は僕たちよりも早く起きて仕事に行き、帰りも僕たちが寝た後が多い。疲れた顔をしてても、都合が良い時にはキャッチボールをしてくれた。誕生日はどうにかみんなで夕飯を食べようと、早く帰ってきてくれた。

 お父さんもお母さんも大好きだった。その二人が実家の事を持ち出され困っている。家族には困らないで笑っていてほしい。あいつが邪魔なんだ。

「…めてよ……もう!やめて!」

 白く温かいものに包まれた感じがした後、貴嶺さんは勢いよく後ろの壁に叩きつけられていた。

「いって~、覚醒してるし力強いじゃんかよ。一先ず今日は引く。双子の大人しい方、凪だったな。また来るからな」

 何が起こったのか起こしたのか分からないままに、僕は気を失った。

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