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雨
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ボスはいつも通りすぐ電話口にでた。
「ボス。任務遂行したからさっき送った場所に掃除屋よろしくな。迎えなんだけど、出来たらあの、おっさんいたらお願いしたいんだけど…。それから、俺少し休みたい。うん。ごめん。我が儘たまに聞いてくれよ。うん」
大丈夫。普通に喋れた。いつも通りだ。俺の喋り方から何も感じとっていないはずだ。左手がじんじんと痛みを通り越して熱い。とりあえず服の裾を破いて止血する。おっさん来てくれんのかな。おっさんにも普通の態度とらなきゃ。
今日迎えに来てもらって話して別れた後に死のうかな。どうせ俺がいたっていなくたって世界は変わらない。ボスが使えるコマが減って舌打ちする。そのくらいのもんだ。おっさんは?分からない。まだ俺もそこまで執着してるわけじゃない。
どうせ新しい恋人見つけるだけじゃん?いまはいないってだけで、あの人モテそうだよね。
寒い。廃墟の隅に座り直して小さく両膝を抱える。早く来てくれ。ついさっきまで生きてた肉塊と同じ場所にいる自分が無性に、どうしようもなく可哀想な存在に思えた。早く、誰か、おっさんおせぇよ…。
夢を見た。ボスの事を慕ってた頃の夢。夢の中の幼い俺は笑ってた。裏切られるとも知らずに無邪気に素敵な居場所を手にいれたと勘違いして。幼い俺も可哀想だ。
ユラユラ揺れながらそんな夢を見て目が覚めた。気を失ってたらしい。目尻から耳にかけて濡れてる。泣いたのか。しとしとと、雨も降ってるから、これは雨かもしれない。涙なんか流した記憶はないからきっと雨。
「気づきましたか?あなたあんな寒い場所で寝てたんですよ。正気ですか?風邪引きますよ」
今人の命を奪ってきた奴に『風邪引きますよ』も何もあったもんじゃない。
て、この状態この体勢はいわゆるお姫様抱っこだ…。おい。これは案外と…恥ずかしいもんだな。
「はい、乗ってください。あなたまた返り血浴びてるかもしれないと思って、後部座席にビニールシート敷いてきたんで。思ったよりは汚れてませんけど、後ろですね」
怪我の事に気づいてるはずなのに何もその事には触れない。
「あとはウェットシート置いてあるんで、せめて顔の血は拭って下さい。それとも先日みたいに、途中のモーテルでシャワー入ります?」
「いい。これで拭くから今日はおっさんちに居てもいいか?」
「そのつもりですよ。……何かありましたね?」
「別に…」
「左手の怪我といい。まぁいいです。シャワーの後でゆっくり聞かせてもらいますよ」
その会話を区切りに、車内は静かになった。聞こえてくるのはさっきより強くなった雨音だけ。雨で心の嫌なもんが流されてく気になれる。実際はそんなもんじゃ今の嫌な気分は流れていってくれない。
まだ思い出す、喉を押してくる生臭い異物。鼻を擽る湿った陰毛。思い出すと嘔吐しそうになる。思い出すな。違うことを考えろ。違うものをと思えば思う程にその事しか考えられなくなる。斜め前で運転するおっさんに助けてと言えたらどんなにいいか…。
モヤモヤ考えてる間にあのオートロックのマンションへ。そうか、住人は地下の駐車場に車を停めて、そのままエレベーターで部屋に行けるようになってるのか。
おっさんは今まで沢山働いて稼いできてる大人。だからこんな所に住めてる。年齢の差を感じてしまう。俺は、一緒に部屋に行っていいのか。
「さっ、行きますよ」
「えっ、待っ、俺立って歩けるから」
「私が抱えていきたいんだから、黙って甘やかされて下さい。そのオロオロした両手は首に回してくれると安定しするのでこちらも有難いです」
言われた通り首に手を回す。これじやまるで、丸っきり…。
「誰かいたら……」
「大丈夫ですよ、そんな偶然マンションの住人と駐車場で会ったことなんてありませんから」
その言葉通り誰にも会わず、迎えにきてもらった時同様のお姫様抱っこでエレベーターに乗り、おっさんの部屋に向かった。
「ボス。任務遂行したからさっき送った場所に掃除屋よろしくな。迎えなんだけど、出来たらあの、おっさんいたらお願いしたいんだけど…。それから、俺少し休みたい。うん。ごめん。我が儘たまに聞いてくれよ。うん」
大丈夫。普通に喋れた。いつも通りだ。俺の喋り方から何も感じとっていないはずだ。左手がじんじんと痛みを通り越して熱い。とりあえず服の裾を破いて止血する。おっさん来てくれんのかな。おっさんにも普通の態度とらなきゃ。
今日迎えに来てもらって話して別れた後に死のうかな。どうせ俺がいたっていなくたって世界は変わらない。ボスが使えるコマが減って舌打ちする。そのくらいのもんだ。おっさんは?分からない。まだ俺もそこまで執着してるわけじゃない。
どうせ新しい恋人見つけるだけじゃん?いまはいないってだけで、あの人モテそうだよね。
寒い。廃墟の隅に座り直して小さく両膝を抱える。早く来てくれ。ついさっきまで生きてた肉塊と同じ場所にいる自分が無性に、どうしようもなく可哀想な存在に思えた。早く、誰か、おっさんおせぇよ…。
夢を見た。ボスの事を慕ってた頃の夢。夢の中の幼い俺は笑ってた。裏切られるとも知らずに無邪気に素敵な居場所を手にいれたと勘違いして。幼い俺も可哀想だ。
ユラユラ揺れながらそんな夢を見て目が覚めた。気を失ってたらしい。目尻から耳にかけて濡れてる。泣いたのか。しとしとと、雨も降ってるから、これは雨かもしれない。涙なんか流した記憶はないからきっと雨。
「気づきましたか?あなたあんな寒い場所で寝てたんですよ。正気ですか?風邪引きますよ」
今人の命を奪ってきた奴に『風邪引きますよ』も何もあったもんじゃない。
て、この状態この体勢はいわゆるお姫様抱っこだ…。おい。これは案外と…恥ずかしいもんだな。
「はい、乗ってください。あなたまた返り血浴びてるかもしれないと思って、後部座席にビニールシート敷いてきたんで。思ったよりは汚れてませんけど、後ろですね」
怪我の事に気づいてるはずなのに何もその事には触れない。
「あとはウェットシート置いてあるんで、せめて顔の血は拭って下さい。それとも先日みたいに、途中のモーテルでシャワー入ります?」
「いい。これで拭くから今日はおっさんちに居てもいいか?」
「そのつもりですよ。……何かありましたね?」
「別に…」
「左手の怪我といい。まぁいいです。シャワーの後でゆっくり聞かせてもらいますよ」
その会話を区切りに、車内は静かになった。聞こえてくるのはさっきより強くなった雨音だけ。雨で心の嫌なもんが流されてく気になれる。実際はそんなもんじゃ今の嫌な気分は流れていってくれない。
まだ思い出す、喉を押してくる生臭い異物。鼻を擽る湿った陰毛。思い出すと嘔吐しそうになる。思い出すな。違うことを考えろ。違うものをと思えば思う程にその事しか考えられなくなる。斜め前で運転するおっさんに助けてと言えたらどんなにいいか…。
モヤモヤ考えてる間にあのオートロックのマンションへ。そうか、住人は地下の駐車場に車を停めて、そのままエレベーターで部屋に行けるようになってるのか。
おっさんは今まで沢山働いて稼いできてる大人。だからこんな所に住めてる。年齢の差を感じてしまう。俺は、一緒に部屋に行っていいのか。
「さっ、行きますよ」
「えっ、待っ、俺立って歩けるから」
「私が抱えていきたいんだから、黙って甘やかされて下さい。そのオロオロした両手は首に回してくれると安定しするのでこちらも有難いです」
言われた通り首に手を回す。これじやまるで、丸っきり…。
「誰かいたら……」
「大丈夫ですよ、そんな偶然マンションの住人と駐車場で会ったことなんてありませんから」
その言葉通り誰にも会わず、迎えにきてもらった時同様のお姫様抱っこでエレベーターに乗り、おっさんの部屋に向かった。
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