東方伝奇録

橋本健太

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Ⅰ 1840〜1886年 インパクト・オブ・チャイナ

2 徐傑

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 徐傑(中国語:シュー・ジェ 日本語:じょ・けつ)は、1820年6月に広州で生まれた。徐漢人と徐寧の息子である徐楊が22歳の頃に結婚し、その3年後に徐傑を授かった。50代になった漢人と寧は、楊に跡を継いでもらっていた。この年の秋、嘉慶帝が死去。8代皇帝として道光帝が就いた。この当時、白蓮教徒の乱やアヘン密輸によるアヘン中毒者急増など、清王朝は内部から腐敗しかけていた。
「おめでとう。」
徐傑の誕生を喜ぶ家族。徐楊とその妻 徐青衣(中国語:シュー・チンイ 日本語:じょ・せいい)は仲睦まじく、2人の作る饅頭・包子・油条は人気があった。

 徐傑は、すくすく育ち、やがて、国際情勢に興味を持つようになった。清王朝は、国際貿易の拠点を広州に限定し、広東貿易と呼ばれる独自のシステムがあった。広州には、多くの外国人が来ていた。世界の工場と呼ばれるイギリスとその植民地 インドと三角貿易が行われていた。お店は、いつも繁盛していた。
「包子!!」
包子(パオズー)は点心の1つで、小麦粉の生地をこねて蒸して作る。中に具が入っている。包子を食べている客の話に、徐傑は耳を傾けた。
「最近、怪しげなものが密輸されているらしいぞ。」
「何か、それを扱ってる店もあるそうだな。白蓮教徒の乱と言い、道光帝様は何をしておるのだ。」
12歳になった徐傑は、秀才であった。彼らに質問をする。
「怪しげなものとは?」
「あぁ。アヘンだよ、アヘン。」
アヘンとは、麻薬の一種である。ケシの実(ケシ坊主)の表面に傷をつけて、出て来て固まった樹脂を削り取って精製する。樹脂には、アルカロイドが含まれ、鎮痛・陶酔作用がある。当時、イギリスは大英帝国と呼ばれ、産業革命で発展していた。インドのムガル帝国を植民地にし、そこを経由して三角貿易を始めた。
「アヘン…。」
「そうさ、広州にもアヘンを吸う為の建物が、あちこちに出来たのさ。」
「それで、アヘンでおかしくなった奴らが、いっぱい出てきたんだよ。」
アヘン中毒者が急増し、徐々に内部崩壊が始まっていた清王朝。徐傑は子どもながらにそれを感じ取った。
「坊主。それより、そんな所で油売ってていいのかい?」
「小傑、お客さんだ。案内してくれ。」
「はい!!」

 徐傑の心配事は、現実となってしまった。三角貿易が進行していくにつれ、植民地のインドでは、安い綿製品が流入したことで、産業が荒廃。清王朝では、銀が流出し、アヘンが密輸されたことで、財政難とアヘン中毒者急増という問題に見舞われた。
「現在、清王朝では、アヘン中毒者が急増し、皇族にも中毒者がおります。このままでは、アヘンで国が崩壊してしまいます。」
当時の清王朝 8代皇帝 道光帝も頭を抱える。
「加えて、イギリスとインドとの三角貿易では、銀が流出し、アヘンが密輸されたことで、我が国の財政は赤字である。」
「特に広州には、アヘン窟と呼ばれる建物が乱立し、アヘンが販売され、吸飲する者が数多くおります。」
「アヘンを何としても取り締まるぞ!!!」
徐傑が15歳になった1835年、広州の至る所にアヘン窟が出来、アヘン中毒者で溢れ返っていた。アヘン窟の中を覗いた彼は、その異様な光景に愕然とした。
「何なんだ、これは?!」

そこには、辮髪(満州人の風習で、当時の中国人のほとんどがしていた)の中国人達が、横になって、一様に長い煙管でアヘンを吸っている。アヘンは神経抑制作用があり、常用すると、神経が侵され、やがては廃人になって死に至るというものである。アヘンの煙が立ち込め、横たわりながら、虚ろな目でアヘンパイプを吸う男女。かつて栄えた大清国の面影は、微塵も感じられない。頽廃した老大国、東亜病夫そのものであった。
「あ~、あ~…。」
アヘン中毒者は、神経が侵されたことで、体がやせ細り、骨と皮同然にまで荒廃してしまっていた。幻覚を見ているのか、何もない空に手を伸ばし、何かを掴もうとしている。見ていられない徐傑は、アヘン窟から飛び出した。
「このままでは、清朝はアヘンに食い荒らされてしまう。」
清朝のために何かしたいと考える徐傑。だが、彼は当時子どもで、どうすることも出来なかった。
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