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Ⅰ 1840〜1886年 インパクト・オブ・チャイナ
9 天国終焉
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太平天国も末期になり、1860年代に入ると、内紛が尾を引いたこともあり、清国軍の反撃に遭って敗れることが増えた。
「太平天国も、所詮は徒党の集まり。組織化された軍隊には敵わない。」
湖軍を率いる曽国藩と、その弟子 李鴻章。湖軍と淮軍は強力で、そこに外国人の傭兵部隊も加わっているので、非常に手強くなった。
「太平天国か。所詮はキリスト教の真似事に過ぎない。」
アメリカ人のウォードやイギリス人のゴードンが指揮する常勝軍に圧倒される太平天国。徐傑も日に日に絶望感が募っていく。
「清朝の支配から逃れて創り上げた地上の楽園。結局は、清の影響から離れられない…。」
キリスト教を元にした地上の楽園を作ろうとした洪秀全。清の伝統的・土着的な価値観や考え方からは逃れられず、理想と現実は極めて乖離したものであった。
理想
・キリスト教に基づく平等主義の世界
・貧困からの解放、階級差の無い平等な社会の実現
・土地制度の改革(天朝田畝制度)
1 全ての土地を9等級に分け、男女の区別無く、年齢に応じて田畑を分配する構想
2 土地の私有を認めず、25戸を1集団として生産物を国庫に納め、飢饉に備えたり、身寄りの無い者や身体の不自由な者に分配する社会を目指した
・性差の撤廃、男女平等
実態
・天朝田畝制度の未実施、形骸化
・天王 洪秀全の独裁・贅沢三昧
・1856年の天京事変と呼ばれる動乱など、指導者達の権力闘争と内紛による弱体化
・偶像破壊や儒教経典修正などの宗教弾圧
・略奪と虐殺
・儒教による歪んだ男女平等
天京事変では、多くの指導者が亡くなり、洪秀全は宮殿に引きこもって贅沢三昧していた。中国王朝で初めて女性を対象にした科挙が行われ、徐傑の恋人の毛蘭は猛勉強の末に合格した。
「やったよ!!徐傑!!」
「すごいな!!!白居易や林則徐のような偉業だぞ!!」
科挙は、隋の時代から始まった中国王朝における官僚を登用するための試験制度。倍率は非常に高い。それに合格出来て喜ぶ毛蘭だが、与えられた仕事は洪秀全の側近であり、王府で宴を賜り、寝室に侍らされるというものだった。真の意味での男女平等とは程遠い現状に毛蘭は失望した。更に内紛が続き、洪秀全の求心力も薄れていった。太平天国の落日は近づいていたのである。
1864年、新指導部となった李秀成は、洪秀全に天京を破棄することを勧めるも、洪秀全は頑なに受け入れず李秀成に防衛にあたるよう命じた。太平天国は太倉州・無錫・蘇州・杭州を失い、天京は孤立状態にあり、食糧事情は逼迫していた。
「酷い有り様だ…。」
饅頭の原料となる小麦も遂に底を尽き、餓死者が相次いだ。李秀成は洪秀全に対策を求める。
「みな甘露を食え。さすれば長生き出来る。」
そう言って洪秀全は、雑草を食べるなど訳の分からないことをやり始め、その様子に徐傑は深く絶望した。
「何をなさっている…。」
「ほれ、皆の衆。私と同じく甘露を食うのじゃ。長生き出来るぞ。ほれほれ…。」
半狂乱の状態で、雑草を貪り食う洪秀全。終わりが近づいていた太平天国。1度権力を手にすると、人間はこうも堕してしまうものなのかと、徐傑は恐ろしくなった。毛蘭と共に太平天国から逃げ出すか、それとも、最後の望みをかけて太平天国の理想とする楽園を創るか、二者択一を迫られる。
そして同年6月1日、洪秀全は栄養失調により病死した。彼は死に際に
「私は天国に上り、天父天兄から兵を借り、天京を守る。」
と述べた。太平天国最期の戦いとなる天京攻防戦が起きた。清軍と激しい戦闘になり、徐傑もそれに加わる。7月18日、李秀成の命で坑道部隊を襲撃するが、失敗し、清軍の前に敗れる。
「くそぉ…。」
戦火に包まれる天京。市街戦で清軍は太平天国軍殲滅を図り、次から次へと太平天国軍兵士を殺害。辺りに死体の山が出来る。
「所詮は出来心の反乱。天王(洪秀全)亡き貴様らに未来など無い!!!」
湖軍を率いる曽国藩、城外からトンネルを掘り進め、兵士を突入させる。
「絶対に負けてたまるか!!!」
徐傑は必死に戦うが敵わず、毛蘭は湖軍による銃撃を受けて、蜂の巣にされた。
「毛蘭!!!」
血塗れで倒れる毛蘭。徐傑は彼女を抱き抱え逃げ出す。太平天国指導者達は脱出するも、後日全員捕らえられた。天京陥落後、残された20万人もの市民達は抵抗するも、清軍により虐殺された。
「助けてくれぇ!!ぐわぁ!!」
老人だろうが子どもだろうが、刀で切り刻まれ、叩き殺された。洪秀全の墓も暴かれて焼かれた。血と煙の臭いが漂い、徐傑は崩壊した宮殿に隠れていた。
「毛蘭!!しっかりしろ!!」
「徐傑…。私はもうダメ…。徐傑だけでも生き、て…。」
毛蘭は息を引き取った。徐傑は泣き叫んだ。清軍に弓で射られ、それでも命からがら逃げ出した。瓦礫の山に隠れ、清軍の攻撃から逃れた。
「ハァハァ…。楽園は壊れた…。」
「太平天国も、所詮は徒党の集まり。組織化された軍隊には敵わない。」
湖軍を率いる曽国藩と、その弟子 李鴻章。湖軍と淮軍は強力で、そこに外国人の傭兵部隊も加わっているので、非常に手強くなった。
「太平天国か。所詮はキリスト教の真似事に過ぎない。」
アメリカ人のウォードやイギリス人のゴードンが指揮する常勝軍に圧倒される太平天国。徐傑も日に日に絶望感が募っていく。
「清朝の支配から逃れて創り上げた地上の楽園。結局は、清の影響から離れられない…。」
キリスト教を元にした地上の楽園を作ろうとした洪秀全。清の伝統的・土着的な価値観や考え方からは逃れられず、理想と現実は極めて乖離したものであった。
理想
・キリスト教に基づく平等主義の世界
・貧困からの解放、階級差の無い平等な社会の実現
・土地制度の改革(天朝田畝制度)
1 全ての土地を9等級に分け、男女の区別無く、年齢に応じて田畑を分配する構想
2 土地の私有を認めず、25戸を1集団として生産物を国庫に納め、飢饉に備えたり、身寄りの無い者や身体の不自由な者に分配する社会を目指した
・性差の撤廃、男女平等
実態
・天朝田畝制度の未実施、形骸化
・天王 洪秀全の独裁・贅沢三昧
・1856年の天京事変と呼ばれる動乱など、指導者達の権力闘争と内紛による弱体化
・偶像破壊や儒教経典修正などの宗教弾圧
・略奪と虐殺
・儒教による歪んだ男女平等
天京事変では、多くの指導者が亡くなり、洪秀全は宮殿に引きこもって贅沢三昧していた。中国王朝で初めて女性を対象にした科挙が行われ、徐傑の恋人の毛蘭は猛勉強の末に合格した。
「やったよ!!徐傑!!」
「すごいな!!!白居易や林則徐のような偉業だぞ!!」
科挙は、隋の時代から始まった中国王朝における官僚を登用するための試験制度。倍率は非常に高い。それに合格出来て喜ぶ毛蘭だが、与えられた仕事は洪秀全の側近であり、王府で宴を賜り、寝室に侍らされるというものだった。真の意味での男女平等とは程遠い現状に毛蘭は失望した。更に内紛が続き、洪秀全の求心力も薄れていった。太平天国の落日は近づいていたのである。
1864年、新指導部となった李秀成は、洪秀全に天京を破棄することを勧めるも、洪秀全は頑なに受け入れず李秀成に防衛にあたるよう命じた。太平天国は太倉州・無錫・蘇州・杭州を失い、天京は孤立状態にあり、食糧事情は逼迫していた。
「酷い有り様だ…。」
饅頭の原料となる小麦も遂に底を尽き、餓死者が相次いだ。李秀成は洪秀全に対策を求める。
「みな甘露を食え。さすれば長生き出来る。」
そう言って洪秀全は、雑草を食べるなど訳の分からないことをやり始め、その様子に徐傑は深く絶望した。
「何をなさっている…。」
「ほれ、皆の衆。私と同じく甘露を食うのじゃ。長生き出来るぞ。ほれほれ…。」
半狂乱の状態で、雑草を貪り食う洪秀全。終わりが近づいていた太平天国。1度権力を手にすると、人間はこうも堕してしまうものなのかと、徐傑は恐ろしくなった。毛蘭と共に太平天国から逃げ出すか、それとも、最後の望みをかけて太平天国の理想とする楽園を創るか、二者択一を迫られる。
そして同年6月1日、洪秀全は栄養失調により病死した。彼は死に際に
「私は天国に上り、天父天兄から兵を借り、天京を守る。」
と述べた。太平天国最期の戦いとなる天京攻防戦が起きた。清軍と激しい戦闘になり、徐傑もそれに加わる。7月18日、李秀成の命で坑道部隊を襲撃するが、失敗し、清軍の前に敗れる。
「くそぉ…。」
戦火に包まれる天京。市街戦で清軍は太平天国軍殲滅を図り、次から次へと太平天国軍兵士を殺害。辺りに死体の山が出来る。
「所詮は出来心の反乱。天王(洪秀全)亡き貴様らに未来など無い!!!」
湖軍を率いる曽国藩、城外からトンネルを掘り進め、兵士を突入させる。
「絶対に負けてたまるか!!!」
徐傑は必死に戦うが敵わず、毛蘭は湖軍による銃撃を受けて、蜂の巣にされた。
「毛蘭!!!」
血塗れで倒れる毛蘭。徐傑は彼女を抱き抱え逃げ出す。太平天国指導者達は脱出するも、後日全員捕らえられた。天京陥落後、残された20万人もの市民達は抵抗するも、清軍により虐殺された。
「助けてくれぇ!!ぐわぁ!!」
老人だろうが子どもだろうが、刀で切り刻まれ、叩き殺された。洪秀全の墓も暴かれて焼かれた。血と煙の臭いが漂い、徐傑は崩壊した宮殿に隠れていた。
「毛蘭!!しっかりしろ!!」
「徐傑…。私はもうダメ…。徐傑だけでも生き、て…。」
毛蘭は息を引き取った。徐傑は泣き叫んだ。清軍に弓で射られ、それでも命からがら逃げ出した。瓦礫の山に隠れ、清軍の攻撃から逃れた。
「ハァハァ…。楽園は壊れた…。」
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