東方伝奇録

橋本健太

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Ⅰ 1840〜1886年 インパクト・オブ・チャイナ

11 越南亡国

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 阮朝に亡命した陳天河は、徐々に東南アジアの高温多湿な気候に慣れ、現地の人とも馴染んだ。
「悪くないな。」
清王朝はアヘン戦争に敗れたことで、香港が植民地となり、夷狄であったイギリスに屈した。アロー戦争でも敗れ、欧米列強の租界地を作られた。国内でも洪秀全率いる太平天国の乱が起き、南京で激しい攻防戦が繰り広げられた。太平天国は内乱を起こして崩壊し、洪秀全は病死した。
「皆、甘露を食え。さすれば長生き出来る。」
雑草を食べるなどの訳の分からないことをやった洪秀全。曽国藩と李鴻章らが率いる湖軍・淮軍の前に、大敗を喫し、6000人以上の死者を出して太平天国は滅んだ。

 太平天国の最期を知り、彼は清朝の末路を憂う。かつては女真族の建てた王朝として、明清交代を経て、東アジアの大国に成長した。しかし、内部の腐敗や欧米列強からの侵略に対応出来ず、旧態依然とした秩序や体制を露呈。帝国主義に基づく覇権争いに巻き込まれた。欧米列強が次々とアジアに進出。阮朝も平穏無事を保てなくなってきた。
「西洋の鬼め。アジアを食い物にする気だな…。」

 東南アジアに接近してきた欧米列強の一角 フランスは1858年から1862年まで続いたコーチシナ戦争で、阮朝が南部に設置していた行政区を武力併合し、それらを統合して、フランス領コーチシナを形成、東南アジア進出の拠点にした。フランスとしては、同じ列強国のイギリスが既にインドを植民地にし、アヘン戦争で清朝に勝利して、香港を植民地にして東アジアでの拠点を持ったことから、自身もアジアでの植民地を獲得しようと乗り出したのだろう。フランスの海軍士官アンリ・リビエールが、1881年に現地フランス商人に対するベトナムの反発を調査するよう命じられ、小規模の軍勢を連れてハノイに進み、独断で阮朝軍のハノイ砦を占領した。ハノイ砦はほどなくして返還されたが、リビエールの占領行為は阮朝とその庇護者である清王朝に警戒心を与えた。

 ハノイに移住した陳天河は、日々、鍛錬に励み、来るべき戦いの日に備えていた。
「フランス軍が、ハノイ砦を占領したのだと?」
仲良くなった現地人から、日々の情報を得ている。欧米列強は確実にアジアを植民地にしようとしている、と確信した。清王朝は1840年のアヘン戦争でイギリスに敗北。香港が植民地にされた。更にアロー戦争と太平天国の乱が起き、内憂外患に苦しんだ。シャム(タイ)は朝貢冊封体制から離脱した。東アジアでも、明王朝から冊封下にいた琉球王国が、1879年の琉球処分で沖縄県として、日本に併合された。翌年、同じく清の冊封下にいた李氏朝鮮で、旧軍隊による反乱(給与米の支給の滞納、米に砂や糠が混ぜられたことへの怒り)が起き、これは壬午軍乱という大規模なものになった。

 清朝華夷秩序が揺らぎ始め、阮朝も危ないと悟った。陳天河は清朝の軍にいた経験を活かして、阮朝軍に就いて戦うことにした。1884年8月中旬、和平交渉は決裂。8月22日、フランス軍はアメデ・クールベ提督の極東艦隊に清朝の福建艦隊との決戦を命令。8月23日に馬江海戦が発生。清朝の海軍は、フランス軍を前にして1時間で撃沈され、力の差を見せつけられた。更に台湾でも戦闘があり、清朝は不利になった。フランス軍は阮朝に上陸し、阮朝の援軍である清朝軍も加わり、激しい戦闘となった。

 陳天河は前線に立ち、白兵戦で圧倒的な強さを見せた。
「西洋の鬼共め!!!この陳天河様を舐めるなよ!!!」
銃剣で腹を一突きして、頭をぶち抜くという猟奇的なやり方で、次々とフランス軍兵士を血祭りに上げる。



同年12月、朝鮮で甲申事変が起こる。朝鮮を開国させて影響下に置こうとする日本と、中華世界に置いておきたい清朝との対立が激化。朝鮮内部も日本に倣って近代化しようという開化派と清朝との冊封関係を維持したい保守派との対立が起き、開化派の金玉均(キム・オッキュン)が殺される事件が起きた。

 東アジア世界の動乱の中、陳天河も必死に戦った。だが、1886年に戦死した。清仏戦争も終わり、阮朝はフランス領インドシナとしてフランスの植民地にされた。
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