12 / 16
Ⅰ 1840〜1886年 インパクト・オブ・チャイナ
12 中華消滅の危機
しおりを挟む
1880年代の東アジア世界の動乱を見守っていた一人の学者がいた。彼の名は、黄阿海(中国語:ホアン・アーハイ 日本語:こう・あかい)。広州出身。清王朝そのものは、1644年に北方の女真人が明を滅ぼして、北京に都を置いて成立した。清王朝の太祖とされるヌルハチ(1559~1626年)。中国王朝においては、夷狄の存在である女真族(満洲民族)を盟主とし、康煕帝・雍正帝・乾隆帝の3人の頃に全盛期を迎えた。東アジア世界の盟主として君臨した清王朝は、明王朝の頃から中華世界に属していた李氏朝鮮と琉球王国をそのまま朝貢国に加え、そこから更に台湾やシャム(タイ)、阮朝(ベトナム)などを朝貢国にし、更に中華世界を拡大させた。
広州の小さな自宅の書斎で、ここまでの研究をまとめる黄。満洲民族という、これまでの中華世界・中華思想においては夷狄という野蛮な存在であった民族が、この中華世界の盟主に立つということは、一部矛盾したものであった。康熙帝の時代には、明王朝の残党であった三藩を蹴散らし、ロシアとの戦争に勝利して、ピョートル1世とネルチンスク条約を締結して国境を決めた。これで一つ、基盤を固めることが出来た。清の皇帝は、愛新覚羅(日本語:あいしんかくら 満州語:アイチンギョロ)という姓で、満洲民族である。清の盟主となった満洲民族は、漢民族に対し、自分達の風習である辮髪という髪型を強制した。辮髪令というものを出し、「髪を留めんとすれば頭を留めず、頭を留めんとすれば髪を留めず」というようなお触れを出した。従った者には今までどおりの生活を保障するなど、威圧と懐柔を駆使した。
「康熙帝の時代には、このようなことをして基盤を固めた。」
続く雍正帝の時代に、軍機処というシステムを作った。一方で文字の獄という思想弾圧を行い、清王朝に逆らう者は処罰した。雍正帝は、清に反発する者の1人の曾静と論戦を繰り広げ、最終的には屈服させることに成功。その当時の記録として、大義覚迷録という本を出した。これにて、夷狄の満洲民族が中国王朝の盟主に立つという矛盾を克服することが出来た。続く乾隆帝の時代には、十全武功という実績に象徴されるように、朝貢国を増やし、更に清王朝の中華世界を拡大していった。東南アジアの王朝を朝貢国に加え、乾隆帝は「皇清の中夏」という結論を出した。これは漢・満・蒙・回(イスラム)・蔵(チベット)、それら全てをまとめて清王朝という極致に辿り着いた。18世紀末に中国を訪れたイギリス使節のマカートニーは、対等な立場の自由貿易を要求してきた。しかし、清は夷狄のイギリスに対し、朝貢冊封するなら認めてやる、と要求を退けた。
その後、清王朝はそれまでの秩序では対応出来ない天変地異や人口爆発などに見舞われ、徐々に衰退していく。イギリスによる植民地のインドを経由した三角貿易が展開され、イギリスは茶が輸入されたことでティータイムやアフタヌーンティーなどの文化が形成されるが、清はインドから密輸されたアヘンによって、アヘン中毒者が急増し、内部から荒廃していった。これを受け、清の道光帝は林則徐を欽差大臣に任命し、広州に派遣してアヘンを取り締まらせた。これに抗議したイギリスとの間で、1840年にアヘン戦争が勃発。産業革命を起こし、近代化したイギリスを前に清は敗北を喫し、1842年に南京条約を締結した。香港がイギリスの植民地となり、五港開港や関税自主権が認められないなど不平等な条約であった。更に洪秀全率いる太平天国の乱が起き、曽国藩や李鴻章によって鎮圧されるなど、内憂外患に苦しんだ。
「明の北虜南倭以上の問題だな。」
明王朝末期には、北の女真人(満州民族)の台頭や南の倭寇(日本の海賊)による海賊被害に苦しみ、女真人に滅ぼされた。今回はそれ以上の動乱期にあると分析。イギリスやフランスといった欧米列強は、もはや中華世界における野蛮な存在の夷狄で片づけられない存在となり、清王朝の中華世界と華夷秩序に「洋」という概念をもたらした。清仏戦争でフランスに敗北し、朝貢国のベトナムが植民地にされた。ビルマ(現ミャンマー)もイギリスの植民地にされ、明王朝から朝貢国であった琉球王国も1879年の琉球処分によって消滅、沖縄県として日本の一部に加えられた。このような形で朝貢国が次々と植民地にされていき、中華世界は消滅の危機を迎えていた。唯一残った李氏朝鮮も、国内では近代化を狙う開化派と清との関係を維持する保守派に分かれたことにより、壬午軍乱・甲申事変などのクーデターが起きた。影響力を強める日本、近い将来、日本と清の全面戦争が起こることを危惧。
「日本は明治時代になり、西洋の文化を取り入れたそうだな。清はどうだろうか。」
広州の小さな自宅の書斎で、ここまでの研究をまとめる黄。満洲民族という、これまでの中華世界・中華思想においては夷狄という野蛮な存在であった民族が、この中華世界の盟主に立つということは、一部矛盾したものであった。康熙帝の時代には、明王朝の残党であった三藩を蹴散らし、ロシアとの戦争に勝利して、ピョートル1世とネルチンスク条約を締結して国境を決めた。これで一つ、基盤を固めることが出来た。清の皇帝は、愛新覚羅(日本語:あいしんかくら 満州語:アイチンギョロ)という姓で、満洲民族である。清の盟主となった満洲民族は、漢民族に対し、自分達の風習である辮髪という髪型を強制した。辮髪令というものを出し、「髪を留めんとすれば頭を留めず、頭を留めんとすれば髪を留めず」というようなお触れを出した。従った者には今までどおりの生活を保障するなど、威圧と懐柔を駆使した。
「康熙帝の時代には、このようなことをして基盤を固めた。」
続く雍正帝の時代に、軍機処というシステムを作った。一方で文字の獄という思想弾圧を行い、清王朝に逆らう者は処罰した。雍正帝は、清に反発する者の1人の曾静と論戦を繰り広げ、最終的には屈服させることに成功。その当時の記録として、大義覚迷録という本を出した。これにて、夷狄の満洲民族が中国王朝の盟主に立つという矛盾を克服することが出来た。続く乾隆帝の時代には、十全武功という実績に象徴されるように、朝貢国を増やし、更に清王朝の中華世界を拡大していった。東南アジアの王朝を朝貢国に加え、乾隆帝は「皇清の中夏」という結論を出した。これは漢・満・蒙・回(イスラム)・蔵(チベット)、それら全てをまとめて清王朝という極致に辿り着いた。18世紀末に中国を訪れたイギリス使節のマカートニーは、対等な立場の自由貿易を要求してきた。しかし、清は夷狄のイギリスに対し、朝貢冊封するなら認めてやる、と要求を退けた。
その後、清王朝はそれまでの秩序では対応出来ない天変地異や人口爆発などに見舞われ、徐々に衰退していく。イギリスによる植民地のインドを経由した三角貿易が展開され、イギリスは茶が輸入されたことでティータイムやアフタヌーンティーなどの文化が形成されるが、清はインドから密輸されたアヘンによって、アヘン中毒者が急増し、内部から荒廃していった。これを受け、清の道光帝は林則徐を欽差大臣に任命し、広州に派遣してアヘンを取り締まらせた。これに抗議したイギリスとの間で、1840年にアヘン戦争が勃発。産業革命を起こし、近代化したイギリスを前に清は敗北を喫し、1842年に南京条約を締結した。香港がイギリスの植民地となり、五港開港や関税自主権が認められないなど不平等な条約であった。更に洪秀全率いる太平天国の乱が起き、曽国藩や李鴻章によって鎮圧されるなど、内憂外患に苦しんだ。
「明の北虜南倭以上の問題だな。」
明王朝末期には、北の女真人(満州民族)の台頭や南の倭寇(日本の海賊)による海賊被害に苦しみ、女真人に滅ぼされた。今回はそれ以上の動乱期にあると分析。イギリスやフランスといった欧米列強は、もはや中華世界における野蛮な存在の夷狄で片づけられない存在となり、清王朝の中華世界と華夷秩序に「洋」という概念をもたらした。清仏戦争でフランスに敗北し、朝貢国のベトナムが植民地にされた。ビルマ(現ミャンマー)もイギリスの植民地にされ、明王朝から朝貢国であった琉球王国も1879年の琉球処分によって消滅、沖縄県として日本の一部に加えられた。このような形で朝貢国が次々と植民地にされていき、中華世界は消滅の危機を迎えていた。唯一残った李氏朝鮮も、国内では近代化を狙う開化派と清との関係を維持する保守派に分かれたことにより、壬午軍乱・甲申事変などのクーデターが起きた。影響力を強める日本、近い将来、日本と清の全面戦争が起こることを危惧。
「日本は明治時代になり、西洋の文化を取り入れたそうだな。清はどうだろうか。」
0
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
九州三国記
芙伊 顕定
歴史・時代
時は戦国時代。
2026年NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」と同時代を熱く生き抜いた男たちが九州にいた。
薩摩の島津義弘、豊後の戸次鑑連、肥前の鍋島直茂。
彼らの生き様を描いた大河歴史小説です。
是非お読みください!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる