Strawberry Film

橋本健太

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第7話 サッカー元年

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    1993年4月、薫は晴れて、京都芸術大学芸術学部美術工芸学科写真・映像コースに入学し、大学生になった。芸術大学ということもあり、個性豊かな面々に出会えた。新入生歓迎会では、コンクールをきっかけに薫を知ったという人に話しかけられた。

「香塚薫さんですね?あのヌード写真良かったです!」
「あんなセクシーな感じを繊細に表現してるな。」
(皆、僕のこと見てくれてるんや。)
そんな中、特に個性的な人がいた。ラモス瑠偉並みのドレッドヘアで髭を蓄えた同年代だが、貫禄のある風貌の男子が声をかけてきた。
「ヌード写真?女の裸撮ってたん?」
「まぁね。裸は撮ったけど、芸術として撮ってるからね。」
「裸?止まってるモン撮ってもしゃあないで。写真は躍動感やで。あとな、このチキン美味いで。食うてみ、ほら。」
「あ、ありがとう。美味いな。」
「そうや、紹介遅れた。俺は、柿原博信(ひろのぶ)。スポーツカメラマン目指してる。よろしくな!」
「僕は、香塚薫。女の子の裸と水着を撮らせたら一級品や…。」
こうして2人は意気投合した…。

    薫は、写真館でアルバイトをし、大学では写真について学ぶなど、写真漬けの日々を送った。博信は、スポーツカメラマンを目指しており、彼自身も高校までサッカーをやっていた。高校時代にサッカーの強豪校 京都橘高校でサッカー部に所属していたが、怪我やレベルの差で挫折し、そこからはカメラマンとしてサッカーに関わろうと考えた。1993年当時、日本サッカーは空前の熱狂に湧いていた。初めての外国人監督 ハンス・オフトが就任し、1992AFCアジアカップ 日本大会でアジアカップ初優勝と、成長の兆しを見せていた。そんな中、1993年5月にプロサッカーリーグとなるJリーグが開幕。10チーム(鹿島アントラーズ・浦和レッズ・ジェフユナイテッド市原・横浜マリノス・横浜フリューゲルス・ヴェルディ川崎・清水エスパルス・名古屋グランパス・ガンバ大阪・サンフレッチェ広島)で争われる。
「聞いたか?薫!Jリーグ始まるで!5月15日や!」
「Jリーグ?ヴェルディ川崎は関東やろ?ラモス瑠偉や武田修宏とカズ、年俸スゴいんやろな…。」
「喜べ!薫!チケット2枚手に入った!」
「どこの試合?」
それは、唯一の関西のチームであるガンバ大阪の試合である。

1993Jリーグ サントリーシリーズ
1993年5月15日
第1節 ガンバ大阪VS浦和レッズ
万博記念競技場

「行こうな!」
「う、うん…。」
薫は、写真一筋でスポーツには見向きもしなかった。博信はサッカー経験者で、その経験を活かして、スポーツカメラマンを目指している。
(サッカーか、観てみようか!)
識見を深める、という意味で薫は、博信の誘いに乗った。来る5月15日、日本のサッカーの歴史が大きく動いた日である。この日、薫と博信は大阪の万博記念競技場に着いた。
「始まるで、Jリーグが!」
「青いのが、ガンバ大阪やな。キーパー、男前やな。」
「お目が高いな、本並は「「浪速のイタリアーノ」」って言われてるからな。」
試合が始まり、博信は声を挙げて観戦していた。カメラマンとして、時折、試合をカメラで撮影。薫は買ってきた焼き肉弁当をパクパク食べていた。サッカーのルールはあまり分かっていないが、徐々に前のめりになって試合を観戦した。
(おお、行け、打て、あー…。)
均衡した展開が続く中、ガンバ大阪が先制した。
「お、入った。」
「おっしゃー!和田が決めたー!」
そのまま逃げ切り、1‐0でガンバ大阪が勝利した。歓喜の余韻に浸りながら、万博記念公園周辺で遅い夕食。
「やったー!勝ったで!ここからガンバ大阪の伝説始まるで~!」
「言うても、まだ1試合だけやろ…。喜ぶん早いで。」
季節は初夏だが、この日の夕食は居酒屋でモツ鍋をいただく。居酒屋には、TVが付いており、開幕したJリーグの速報が放送されていた。
「おわー、凄い!武田修宏とラモス瑠偉とキングカズ!最高やなー!」
「ほー。ラモス派手やな。てか、カレー食うただけでラモスになれる訳ないやん。」
当時の日本代表の主力である武田修宏・ラモス瑠偉・三浦知良らを擁したヴェルディ川崎は、Jリーグ最強のチームであった。アジアカップを制した勢いで悲願のW杯出場へ、と日本はサッカーブームに湧いていた。
「まぁ、薫の言う通り、まだまだこれからやな。日本のサッカーと俺達のカメラマンとしての道のりは。」
「あぁ、僕は女の子の写真が撮りたい。」
「まぁ、お互い頑張ろな!」

 写真を通じて、薫は同じゼミの女子と仲良くなった。
「薫君の撮る女の子の写真って、すっごいセクシーさの中に甘い感じがあるのね。」
「そう言ってくれるのは、嬉しいな。」
彼女の名は、宮原友子。黒髪ロングで落ち着いた雰囲気の子である。馬が合ったのか、薫は友子とよく一緒にいることが増え、夏には一緒に海へ行くことになった。日程は8月11日から13日。2泊3日で沖縄に旅行することとなった。
「沖縄かー。初めてやな。」
「電車があまり走ってへんから、車で移動やね。まぁ、私は運転免許持ってるからレンタカー借りましょう。」
「ええの?ありがとう!」
梅雨が終わり、本格的な夏を迎えた。薫は男友達と女友達の両方が出来、毎日が充実していた。博信とは、ガンバ大阪の試合をよく観に行ったが、連戦連敗を繰り返し、最下位争いに転じていた状況に、彼は萎えていた。
「オイオイ、また負けかいな…。勝たれへんなぁ…。」
「苦しんでるな。」
それから夏休みを迎え、約束の日が来た。
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