Strawberry Film

橋本健太

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第8話 1993パラダイス

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    1993年8月11日、午前9時 大阪空港で友子と落ち合い、沖縄行きの飛行機の搭乗手続きを済ませ、午前10時の大阪発那覇行きの飛行機で沖縄へ向かった。2人共、初めての飛行機だったが、機内では爆睡していた。2時間後、那覇空港に到着し、荷物を受け取り、空港を出た。南国の陽気な雰囲気と、ジリジリと太陽が照りつけ、真夏の楽園という予感がした。
「暑い~!」
「薫君は沖縄初めて?」
「初めて。北海道は行ったことないで。」
空港でレンタカーを借り、那覇市内を走る。窓を開け、南国の風を感じる。空港の自販機で買ったスイカジュースをグビグビ飲み、気分は南国モードの薫。頭の中で、ラッツ&スターやB'zの夏歌が流れていた。
「薫、ノリノリね。」
「やってさ、沖縄って、めっちゃ南国やん。しかも、今8月やし。」
しばらく走り、国際通り付近の飲食店で、1日目のランチをいただくことにした。民家のような雰囲気で、ゆったりとした時間が流れる。ランチは、沖縄名物のソーキそば。サイドメニューのスパムおにぎりも付いてきた。
「いただきまーす。」
初めての沖縄料理、薫は恐る恐る食べた。ソーキそばは豚肉の塊(ソーキ)の旨味が、スープに溶け出し、スープはあっさりしていて、ちょうどいい味わい。スパムおにぎりもスパムの程好い塩気が、マッチしている。
「美味いな。」
「そうやろ?」
初の沖縄料理に舌鼓を打ち、満足した薫は上機嫌な様子で、友子と那覇市内のドライブを楽しんだ。首里城公園に行き、復元された首里城の前で記念撮影をした。
「琉球王国の文化を感じさせる、この赤き城。雄大やな。」
夜は那覇市内のホテルに宿泊。夜はホテルのレストランで夕食を取り、初めての沖縄で疲れていた薫は、シャワーを浴びた後、パジャマに着替えて爆睡した。

   旅行2日目、起床した2人はホテルで朝食をいただき、車を飛ばして、豊見城市の美らSUNビーチに行った。水着に着替え、青い海で一緒に泳ぐ。友子は、赤いビキニを着て、どこかセクシーである。
「うわー、海が綺麗やなー!」
「そうやろ?これが南国の海やで。」
初めての沖縄の海に、薫は友子と一緒にはしゃぎ、水着姿も写真に収めた。
「南国の海と美女の水着姿、最高やね~!」
「オッパイとお尻ばっか見てる。スケベね。」
昼食は、海の家でいただく。暑さにやられた身体に、ソーキそばの旨味と程よい塩気が染み渡る。
「美味いな~!ソーキそばは。」
「気に入ってくれて嬉しい。」
午後からは、国頭郡本部町に行き、国営沖縄記念公園水族館(後の美ら海水族館)へ訪れた。沖縄の海を再現した世界観で、様々な海の生き物達と出会える。
「何やアレ?めっちゃデカいな~!」
「ジンベイザメっていう世界一大きいサメやで。」
水族館を楽しみ、夜は海の話で会話が弾んだ。

   旅行最終日。朝食を済ませ、9時にホテルをチェックアウトし、那覇市を廻る。那覇市最大の市場、国際通りに着き、沖縄のお土産を見て回る。
「国際通りか、洒落た名前やな。」
「色んなモノがあるからね。」
沖縄土産として、紅芋タルトとソーキそばセットを買った。沖縄での最後のランチは、アメリカ由来のステーキハウスでステーキをいただく。沖縄の歴史を紐解くと、その昔、琉球王国という独立した王朝があり、独自の文化が形成された。琉球王国は、当時の中国王朝に朝貢冊封し、中華世界の一員であった。近代に入り、琉球処分によって、琉球王国は消滅し、沖縄県として日本の一部となった。戦後、しばらくはアメリカの統治下にあり、生活様式や文化はアメリカの影響を受けていた。今日では、沖縄独自のものと、アメリカなどのものが入り混じったチャンプルー文化が形成され、現在に至る。2人はレアステーキを注文。薫は初めてステーキを食べる。
「うわぁ、肉そのものやん…。この分厚さ、アメリカ人はこんなモン食うてるから、デカいねんな…。」
「薫君、面白いな。」
生焼けのレアで、真っ赤な状態だが、アメリカ直輸入の牛肉は美味で、薫はライスと一緒にパクパク食べ進めた。
「ごちそうさまでした。いやー、ステーキ美味いなー。」
「美味しかったね。」
しばらく国際通りを観光し、最後は沖縄名物のブルーシールアイスを食べた。夕方に、飛行機で大阪空港に戻り、電車で京都に帰った。大学生最初の夏休みで、女の子と一緒に旅行に行くことが出来、薫は大満足した。

 夏が終わり、秋学期が始まった。薫は大学の勉強と写真館でのバイトに精力的に取り組み、人物の写真を撮る時のイメージやスタイルも考えるようになった。
(いつかは、グラビアを撮りたい…。)
友人の博信は、スポーツカメラマンを目指し、特にサッカーに熱中していた。この頃、サッカー日本代表が、15th1994FIFAW杯アメリカ大会のアジア予選に挑み、1次予選が日本とオマーンで集中開催されることが決まった。日本は1次予選で、オマーン・タイ・スリランカ・バングラデシュと対戦し、7勝1分で突破し、10月にカタールで行われるアジア最終予選に駒を進めた。博信とは、Jリーグのガンバ大阪の試合を観に行っていたが、ガンバ大阪は連戦連敗が続き、苦戦していた。
「悔しいな…。」
「タレントやな、代表級の選手がおらんのが痛い。」
その後、アジア最終予選が始まり、日本は、韓国・北朝鮮・イラン・サウジアラビア・イラクと短期決戦に挑む。代表戦がある日は、博信の家に泊まり込みで観戦し、共に熱狂した。
「1分1敗か、厳しいな…。」
「あと3試合か、巻き返せるんちゃう?」
出遅れた日本だったが、第3戦目で北朝鮮と対戦し、3‐0で快勝すると、第4戦目で宿敵の韓国に1‐0で勝利し、2勝1分1敗で出場圏内の2位に浮上した。
「おぉ、イケるんちゃう?」
「よっしゃ、これは来たで!」
10月28日、この日、薫は授業とバイトを終えると、博信の家に戻って来た。同じく博信もバイトから帰ってきて、2人で夕食をいただく。日本が勝つようにと、ゲン担ぎでトンカツを食べた。そして、迎えた第5戦 日本VSイラクが始まった。固唾を飲んで見守る2人、試合は日本がリードしたまま進行し、2-1でロスタイムを迎えた。
「あとちょっとやな。」
「あぁ、このコーナーキックをしのげるかや。」
イラクがコーナーキックを獲得。日本は皆、ゴール前で守りを固める。すると、イラクはショートコーナーを選択、意表を突かれた日本は出遅れ、ヘディングから決められ、同点に追いつかれ、2-2で試合終了。最終順位で、サウジアラビアと韓国が出場権を獲得し、日本はあと一歩で涙を飲んだ。
「嘘やん…。」
薫は何も言えず、ただ茫然と画面を見ていた。これが世に言う「ドーハの悲劇」である。

 1993年は、薫にとって新たな発見があり、友人に恵まれた充実した年であった。大晦日、年越しそばを食べ終え、友子と一緒に行った沖縄での写真を見返して、上機嫌でいた。
(最高やったな~。)
1994年になり、薫は秋学期の単位を全て取得し、満を持して2回生になった。
(今年は、グラビア写真撮るぞー!)
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