相手に望む3つの条件

清杉悠樹

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9 拘り

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 夢を見ているのではないかと思ったものの、握られている手の感触は確かに現実として感じられる。自分とは違う暖かくて大きな手がその存在を夢ではないことを教えてくれている。
 真剣な眼差しで見つめられている瞳には、彼がふざけている様子はない。
 熱心というか、情熱的っていうのか、こんな風に見られたことがないから、なんだか全身が落ち着かない。このまま見ていると体の熱が上がってしまうような気がした。ううん、もう手遅れかも知れない。
 この私が告白されているんだよね?でもどうして私?と思わずにはいられない。

「でも、私のどこが良くてですか?得意なものもないし、見た目だってこんなだし」
 自分が自信を持ってここが優れていると胸を張って言えるところが何もない。環奈さんみたいに料理が得意でもないし、コミュニケーション能力も余り高くない。どちらかと言えば低いだろう。あったとしても精々が高すぎる身長ぐらいだ。それだって大抵の人からは敬遠されることが多いだけで、優れているとは言えない。ただの特徴だ。
 でも強いて身体的特徴で言うならば、体格的にはやや大きい胸だろうか。まさか。
「まさか―――胸?」
 自由になる方の手で、大きさ隠す様に胸を隠した。
 重くて大きくて邪魔なEカップ。
 初対面の男の人に背の高さにまず驚かれて、引かれるのはもう慣れっこで構わない。が、次に顔に視線が向かうならまだいい。それ以下へと向けられる場合は大抵ここだ。
 高校に入学した辺りから徐々に年々増えていくにしたがって、好色そうな目で見られた場合、敵認定をすることにしている。
 最近の衣料は細身のタイプが多いから、あえて丁度いいものより、サイズアップの服ばかり買うようにしている。他にも柄の大きいものストライプ柄を選ぶことが多い。(雫には宝の持ち腐れも大概にしろとよく言われる)
 ぶかぶかという程ではないが、少し太って見えても構わないから目線が下げられないことを優先にしている。

 寺井課長補佐にそういう目で見られた覚えはないのだけれど、私が気づいていない時にもしかして、そういう目で見られていたのかも知れない。
 もしそうだと分かれば、今まで尊敬できる人だと認識していたけれど、たった今から敵認定に更新しなくてはならない。
 どっちだ!?
 私は査定するために僅かな動揺も見逃すものかと、今度はこちらから相手の方へと詰め寄った。
 ぱちぱちと何回も瞬きした後、何を言われたのかようやく理解したらしくメガネの奥の目は大きく開かれ、ぎょっとしたようだった。更に寺井さんが初めて顔を赤くするというレアな表情を至近距離で見てしまった。
 結果はどちらなのか、判断に迷った。
 というか、判定そっちのけで、どきっとさせられてそれどころじゃないよっ!

 もーっっっっ、無駄に顔の良い人の照れる姿って、特に興味を勿体ない人の筈なのに、こんなにも心臓(ハート)を直撃するものなんだと初めて知りましたよっ!
 片手で覆い切れていない耳や首筋が、夜道だというのに分かる程に赤く染まっている。掴まれたままの手が、冬空の中でやけに熱く感じた。

 何、(上司で年上なのに)この可愛さはっ!?

 普段はきりっとしている大人の男の人に対して、この感想はおかしいだろうか。でも、見れば見る程、ギャップで目が離せない。
 どうしよう、とぐるぐるそんなことばかりに気を取られている間に寺井さんは元通りに戻っていた。
「いきなり何を言うのかと思えば・・・。そりゃあ自分も男ですから、今安川さんが隠している場所に魅力を感じないと言えば嘘になります。ですが、一番良いと最初思ったのは・・・」
 思ったのは?途中で話止めないで欲しいんですけど。
 さっきの照れている姿をもう一度見たいなぁなんて考えながらも、このまま尊敬出来る人としてか、敵認定とするべきかをまだ決められない。
 寺井さんは珍しく言いよどみ、葛藤しているみたいだ。余り言いたくないのか、目線が泳いでいる。
 一体どんな所がいいと思ったんですか!?胸じゃなければ、人に言えないもっとコアな所ですか!?
 って、そんなのどの部位だよと自分に突っ込みたい。(部位じゃなくて普通なら優しいとかだろうという突っ込みは端からない)

 少しの逡巡の後、いう気になったらしい。前置きから入った。
「気を悪くしたら済みません。安川さんが彼氏にするなら煙草を吸わない人と一番に理想を言うように、私にもこだわりがありまして・・・。それは、その貴方のすらりとした足にです。・・・引きました?」

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