相手に望む3つの条件

清杉悠樹

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18 ちょっとした出来心

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「ご飯食べて行ってくださいって言ったわりに、手抜きご飯でごめんなさい」
 コートを脱いでコタツに入って貰っていた寺井さんの前に、出来上がったばかりの鍋うどんと白菜とベーコンの炒め物を出した。
(うーん、うちのコタツに狭そうに座っている寺井さんってめちゃくちゃ違和感ありすぎる)
 1DKの部屋は週末に掃除したばかりだったから助かった。直ぐにエアコンも付けたけど、部屋が温まるまでは時間が掛るからと、2人も入ると目一杯の小さなこたつに入って貰った。
 掛け布団は白に大きなオレンジと黄色のドット柄で、見た目が可愛い。だからそこにスーツ姿の男の人がテレビを見ているという、普通ならなんとも思わない姿が明らかに部屋に馴染んでいない。
(しかも、正座してるみたいだし・・・。そりゃあ、寝転がっていれるよりはずっといいけど)
 横になって、片手で頭を支えてテレビを見ている姿だったら、それはそれで吃驚したと思うけど。でも、もうちょっとリラックスしても良いと思うんだけどなー。胡坐をかくとか。

「全然手抜きに見えませんけど。とても美味しそうです」
「手抜きですよー。あんまり料理は得意じゃないので、こういう手抜きばっかり作るんです。うどんは耐熱容器に全部の材料とネギと揚げを入れてレンジでチンして、仕上げに温泉卵を乗せただけだし、白菜とベーコンの炒めは、ごま油と鶏がらスープの顆粒で炒めて終わりですよ」
 2人分作るのに20分程しかかかっていない。
 私はいつもなら着替えをしてから料理をするのだけれど、今日はスーツの上にエプロンを付けて料理をした。エプロンを外し、寺井さんの対面に座ってコタツに入った。普段は1人が当たり前だから新鮮だ。
「自炊をほとんどしない私からすれば、とても手抜きに見えません」
「寺井さんはあまり自炊しない人なんですか?」
 そういう男の人が多いとはよく聞くけど。仕事はきっちりする人だから、私生活の食事もきっちりとしているイメージを持っていた。
「精々休みの日ぐらいですね。後は殆どコンビニです。朝もほとんど食べないですし」
「朝食べないんですか?」
「コーヒーだけが多いですね」
「ええ!?朝ごはん食べないとお昼まで体もたなくないですか?」
 私には無理。何か食べないと仕事が辛い。本当に時間がないときは、バランス栄養食をこそこそと会社で食べる程。
「もう慣れました。食べた方がいいことは分かってはいるんですけどね」
 と苦笑い。
 最近は全く食べない人も多いのは知っている。絶対に食べた方がいいと押し付けも出来ないからそれ以上は言わないことにした。

「寺井さん、冷めないうちに食べてください」
「ええ、では頂きます」
 箸を手に取り寺井さんは温かいうどんから食べた。私も遅れて食べ始めた。寒い日のうどんはやっぱり美味しいな。
「美味しいですよ、とても」
「そ、そうですか、それは良かったです」
 例え手抜きでも作ったものを褒められるのは嬉しい。
 寺井さんはうどんを引き続き食べていたけれど、暖かいうどんは眼鏡を曇らせた。暫くはその状態で食べていたけど、やはり食べづらいらしくて一度眼鏡を外して、胸元からハンカチを取り出しレンズを拭いた。
 私はその一連の動作をぽかんとしたまま見ていた。
「どうしました?桃子さん」
「顔が・・・」
 眼鏡無しの顔を初めて見たけど、いつもと違う雰囲気にまじまじと見てしまった。
「ああ、凶悪でしょう?視力が随分悪いものですから、眼鏡を外すとつい目を細めてしまう癖があるんですよ。驚いたでしょう?」
「凶悪って程じゃあ・・・」
 言ってしまってから、肯定してしまった、と後悔。焦って口を手で押さえても遅かった。
「いいんですよ、家族からも、友人達にもよく言われますから」
「ごめんなさい」
 肩身を狭くして謝った。
「いえ、ほんとのことですから」
 笑って何でもないと許してくれた。良かった。

 食事が終わる頃に、食後のデザートとして寺井さんに貰ったお土産の和菓子とコーヒーを出した。
「和菓子ならお茶のほうが合うんですけど、うちにはお茶が無くて。インスタントコーヒーでごめんなさい」
「十分です。コーヒーは好きなので全然構いません」
 私は空いた食器を一度シンクに下げてから再びコタツに座った。
「昨日も食べましたけど、和菓子二種類とも美味しかったです」
 石川のお土産に貰ったきんつばと福うさぎ。私は昨日夕食の後に1つずつ食べた。きんつばは四角い形の粒あんの周りを小麦粉を水で溶かした生地で包んで焼いたもの。福うさぎは文字通りうさぎを形どった小さな蒸し饅頭。焼き印された耳と赤い着色の目が特徴で可愛い。
「それは良かったです」
 それからはお菓子を食べながら、普段よく見るテレビ番組の話や、石川で行われた結婚式の話などをした。

 食べ終えた頃、寺井さんがテーブルの上の食器を集め出した。
「後の片づけは私がします」
「えっ、いいですよ。私やりますから」
 シンクにはまださっきの食器も置いたままになっている。
「作って貰ったのですから、これぐらいさせてください」
 寺井さんはそう言うとテーブルに手を突き立ち上がろうとして、動けず顔を顰めた。
「どうしたんですか、寺井さん?」
 急に体に不調でも現れたのだろうか。心配して声をかけた。
「済みません・・・足が痺れてしまって。動けません」
 余りにも情けなさそうにいうので、私は可笑しくて堪えきれずに笑ってしまった。
「ふふっ」
 最初は控えめに笑っていたのだが、もう一度痺れに耐えている姿を見てしまったら止まらなくなってしまった。
「あはははは」
 駄目だ、ツボに入った。可笑しすぎる。悪いとは思ったけれど、止められなかった。
「・・・笑いすぎです、桃子さん」
 笑いが止まらない私が面白くないのだろう、ふて腐ったような顔をしている。
「ご、ごめんな、さい。なんだか、ふふっ、可愛いなって、思ってしまって」
「っ、可愛いなんて、どこがですか。こんな情けない姿をしてる私のどこが。―――でも、いいです、桃子さんのそんな楽しそうな笑顔が見れましたから。むしろ本望です」
 痺れた足は少し治まってきたらしく、座り直して両足を伸ばしてきた。長い足先は私の方まで伸びて来たので、思わず出来心でやってしまった。指先でツンツンと。
「~~~桃子さんっ」
「つい」
 えへ。

 あれ、もしかして怒らせちゃった?真顔になった寺井さんにじいーっと見つめられた。
「片づけしてきますねー」
 雲行きが怪しくなってきた。私が悪いのは確実なので、ゆっくりと目線を外し、ここは一旦洗い物をしてこようと逃げることにした。私は立ち上がろうとすると、その前に寺井さんの手が素早く動いた。
「きゃっ」
 腕をぐいと引っ張られて、私は寺井さんの上に倒れ込んでしまった。
 私は一瞬閉じた目を開くと、すぐ目の前は眼鏡があってぶつかりそうな距離だった。
「!」
 顔がっ、顔がとんでもなく近いっ。
 もう少し勢いが強かったら、お互いの顔がぶつかっていたかもしれない。向かい合わせで抱きしめられた形になっている。
 わーっっっ、嘘ーっ!?
「・・・仕返しです」
 寺井さんはそう言うと、顔を少し斜めに傾けると私の後頭部に手を当てた。ゆっくりと近づいてくる寺井さんに思わず私はぎゅっと目を閉じた。
 暗くなった視界に感じたのは、頬に柔らかくて温かい何か。
 目を開けると、至近距離に悪戯が成功したことを喜ぶかのように笑う顔が。
「ここは、桃子さんから付き合いますと返事を貰ってからにします」
 そう言って寺井さんは自分の指で私の唇を撫でた。
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