相手に望む3つの条件

清杉悠樹

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20 挙動不審

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「桃子、朝から様子が変だけど、どうかしたの?」
 お昼休憩に会社の食堂で一緒に食べている雫からの質問に私はぐふっと可笑しな音を立てた。危うくコロッケを喉に詰まらせるところだった。
「ごほっ。なっ、なにも無いよ」
 慌てて呑み込み、私は平然と答えたつもりだったが、雫には隠し通せなかったらしい。
「嘘ばっかり。完全目が泳いでるじゃない。何があったの?さっさと言った方が楽になるわよ」
「ううっ」
 理由を聞くまで絶対あきらめないだろう事は、今までの経験から分かっている。これは雫の言うようにさっさと白状したほうがいいんだろうけど。
 一応周りの席には人がいないとは言え、話しにくいな。
「や、あの、人がいっぱいいる前ではちょっと言いにくい、かな・・・」
「何、人前じゃ言えない、恋愛話なの?もしかして、昨日もデートだったの?それでついにお泊りデートで、ムフフだったの?」
「ち、違っ!多分雫の想像してるの、間違ってるからっ」
 そんなキラキラした期待に満ちた目で私の事を見ないで欲しい。大体、何、そのムフフって恥ずかしいフレーズはっ!言われたこっちが聞いてて恥ずかしいよっ。

「えー、じゃあ何?でもそれに近い事があったんでしょう?あの人と話する時だけ妙に挙動不審だったもん」
 えっ、そんなに分かり易くキョドってた?自分ではいつも通りにしていたつもりだったから、誰にもバレていないと思ってたのに。
「なんで分かったんだっていう顔してるけど、多分気づいたのは私と長谷川だけだと思うわよ」
「えっ?長谷川君も気づいてたの!?」
 午前中、顔あわせた時には何も言われなかったけど。
「うん、長谷川は私に『安川は風邪でも引いたのか?』って聞いてきたから、風邪気味っぽいみたいよって適当に答えて置いたから、大丈夫」
 いや、適当にって、あなた・・・。そんな嘘ついて。そりゃあ直接どうしたのか聞かれるより全然いいけどさー。答えに困っただろうし。だからって嘘まで言わなくたっていいのに。

「で、一体何があったの?」
 そんなにっこり良い笑みで期待されても。そんなに面白くないと思うんだけどなぁー。
「・・・昨日、雨降ったじゃない?」
 仕方なく小声で説明を始めた。
「そうね」
「だから昨日置き傘で帰ろうとしたらね―――」
 突然寺井さんが傘へと入ってきて駅へと一緒に向かったこと、結局家まで送ってくれることになったこと、スーパーに寄ったこと、自宅に招いたことを順に話し、甘い台詞は端折って簡単に説明して最後にこう結んだ。
「で、ほっぺにチューされたから真面に顔が見られなくなっただけ。以上」
 挙動不審な理由にどうせ、子供っぽいって笑われるんだろうけど。
 いいじゃない、ほっぺにチューも初めてだったから、どうしていいのか分かんなくなっちゃっても仕方ないじゃん。恥ずかしいものは、恥ずかしいんだもん。
 でも最後に自分の唇を寺井さんの指先でなぞられながら「ここは、桃子さんから付き合いますと返事を貰ってからにします」と艶っぽく言われた続きがあることは黙っておいた。この後寝れなくなってゴロゴロベッドで転がりまくってたことも内緒だ。

 鼻で笑われるのを覚悟して雫を見れば、意外にも驚いた顔をして私を見ていた。
「それほんと?」
「何が?」
「最後の一言」
「ほっぺの事?うん、ほんとだけど」
 ほっぺにチューぐらい何だと思われてるんだろうか。幼稚園児かと飽きれているんだろうか?
「・・・そのシチュエーションで、それだけで我慢って、嘘でしょう?普通の男ならその場で押し倒して、美味しくパクリ頂きますが当然でしょ」
 ええっ!?そうなの!?男の人ってそうなの!?
 ぎょっとして思わず仰け反った。
「でも、・・・そんなこと、しなかったよ」
 寺井さんは。一応名前は伏せた。
「うーん、我慢強いだけなのか、それとも・・・」
「本気だからこそ、ですよ」
 考え込む雫と、動揺している私に、不意に話の中心人物からの答えが頭上から振ってきて、大いに狼狽えた。
 ぎゃっ、寺井さん!?今のもしかしなくても聞かれてた!?
 今朝から恥ずかしくて顔を合わすのも気まずく思っているところに加え、更に今の会話まで聞かれたのかと思うと、この場から逃げ出したくなった。

「白石さんの隣、空いてますよね?お邪魔します」
「空いてますけど、向かいの席へと移動しなくていいんですか?そっちも空いてますけど」
 食事を乗せたトレーを片手に寺井さんは雫の左隣の席へと座った。心臓をバクバクさせ、何も答えられない私と違って、雫も寺井さんも涼しい顔で会話をしている。
 雫ーっ、そこは是非断って欲しい所なんですけどっ。
 自分から言う意気は無いから、念を込めてみたけれど、雫は気づいてくれなかったらしい。もしくは面白いから敢えてスルーされたのか。
 多分、こっちだな・・・。そういう所あるもんね。さめざめと心の中で泣いた。

「安川さんの隣を勧めるという事は、白石さんは安川さんからやはり私の事を聞いているんですね。では遠慮なく話が出来そうですね。ここの席がいいんです。出来れば顔を見て食事をしたいので」
「うわー。桃子に聞いていたより凄いかも」
 やってられないわという呆れ顔の雫とは真逆に、寺井さんは会社の中では見せない柔らかい笑みを浮かべながらこちらを見た。
 私はついその口元に目を吸い寄せられてしまった。
 ・・・柔らかくて温かかったな。

 はっ、私今何考えてた!?
 ここは会社、ここは会社と目を瞑りぶんぶんと頭を振って、これ以上考えないようにイメージを振り払った。
「桃子、何やってるの?」
 突然の行動に目の前の2人は驚いたようだ。
「えっ、やっ、何でもないっ。早くご飯食べないと冷めちゃうねっ」
 何でもないと言いつつ、焦りまくっているのがバレバレなまま、まだ途中だった食事を再開した。
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