1 / 7
8/2は何の日?
1
しおりを挟む
『今日仕事が終わってから葵さんと買い物に行ってくるので、ちょっとだけ帰り遅くなりますね』
「送信。っと」
お昼休みに彩華はメールを送った。
送り先は去年結婚したばかりの8才年上の旦那様である中崎浩介。新婚です!
身長が155cmのチビな私と30cm程の身長差があって、すごく優しくて、イケメンで、大好きな旦那様。現在はくろちゃんという猫(雄です)と一緒に暮らしてる。秋には家族は増える予定だけどね。私のお腹には新しい命が宿っている。
浩介さんはコーヒーショップを経営しているからこの時間はランチタイムで忙しい。だからきっとメールに気づくのは後数時間後だろうけど。遅くなると心配させてしまうからこうした連絡は必ず入れることにしているのだ。
「葵さん、私と帰り一緒に買い物に行くの大丈夫ですか?」
休憩室で浩介さん手製のお弁当を食べ終えて、まったりとしているところだ。彩華の買い物に5才年上の柳原葵が付き合ってくれることになったので、確認をとっているのだ。
「勿論!妊婦な上に方向音痴の彩ちゃんを一人で買い物に行かせるのは、私の心臓が持たないもの」
「酷―い」
葵のからかう言葉に彩華は唇を尖らせた。一緒にご飯を食べていた上司で主任の上条由希子さん、同僚の二人も彩華たちの会話を聞いてくすくすと笑っている。
「だって、彩華ちゃんを一人で行かせた場合、行方不明になった挙句、旦那さんに救出願いをする確率100%でしょ?」
「うっ、それを言われると何も反論できない自分が情けない・・・」
誰もが太鼓判を押すほどの方向音痴である彩華が項垂れるのを見て、全員が爆笑した。
「あっ、彩ちゃん。旦那さんに私が自宅までちっきりと送りますって連絡入れといてね」
・・・・・・。
もちろん目的地が駄目なら、自力で帰ることも無理だということは周知されている。
「有難うございます。今日もお世話になります」
また皆に爆笑された。くすん。
季節は例年より遅かった梅雨もようやく開け、じりじりと照り付ける太陽に辟易とする毎日に突入した。
仕事帰りだというのに日差しはまだまだ気を抜けない強さでもって彩華と葵に降り注いでいる。照り付ける太陽に日傘は欠かせない必需品となっている。妊婦の歩みに合わせゆっくりと目的の店へと向かっている。
「彩ちゃんとこうして買い物に出かけるのも久々だねぇ」
彩華は妊娠してからというもの、妊娠初期に悪阻があったせいであまり買い物に出かけなくなったからだ。今は安定期に入っているので、無理をしなければ多少の運動はしたほうがいいと病院の先生にも進められている。
「ほんとに久々かも。すみません、急に誘ったりして」
「いいの、いいの。私もそろそろ新しいの買いたいなぁと思ってたところだから」
急に買い物がしたいと思い立ったのは、ラジオ放送を聞いたから。
彩華が務めている手芸店「たかやま」ではラジオが流れているのだが、8月2日の今日は何の日かということが話題となっていた。
ネット販売を中心としているが実店舗でたまたまお客さんが居なかったために、その話題が彩華達もついその話で花が咲き、葵とこうして買い物に出かけることになったのだ。
「気に入るのあるといいねー」
「はい」
たまには女の子同士で買い物をするのも楽しい。蝉の声が聞こえる中、うきうきとしながら歩みを進めるのだった。
彩華達が向かっているのは、以前葵と今産休中の義理の姉である玉岡麻央(彩華の兄である陸と結婚し、兄は婿養子に入った)と買いに来たことのあるお店。
ランジェリーショップだ。
レディースが大半を占めているが、メンズもあって、割と会社から近くて行きやすいということで決めた店だ。
浩介さんと付き合ったばかりの頃に同僚二人に連れられてセクシーなベビードールを買ったことは今となってはいい思い出だ。
そう、今日ラジオで話題になっていたのは、8月2日は『パンツの日』ということ。下着メーカーの磯貝布帛工業(現在のイソカイ)が1984年に、自社ブランド『シルビー802』の商品名に因んで制定したとのこと。後に、トランクスメーカーのオグランも「パン(8)ツ(2)」の語呂合せでこの日を記念日とした。そうラジオで流れていたのだ。
そして、『女性が本命の男性にこっそりパンツをプレゼントする日』だということも。
実は明日の8月3日は、浩介さんの30歳の誕生日。
もちろん誕生日プレゼントは用意してある。一昨年は革のブレスレット。去年は浴衣。どちらも彩華の手作りだ。
今年は合成石を使ったアートクレイシルバーのペンダントだ。ペンダントトップに一昨年のブレスレットと同じ革紐を通したもの。蒼い石を使ったけど、気に入ってもらえるかな?とわくわくしながらもちょっぴり心配もあったりして。
でも、ラジオでパンツの日って聞いて誕生日前日にサプライズもいいかなぁなんて、思っちゃったのだ。
驚くかな?もしかして、笑いが取れたりするのかな?
毎年渡す誕生日プレゼントと違って、渡したときに中から出てきたパンツを見て、どんな顔をするのか今から楽しみで仕方ない。
「どんなのがいいかなぁ」
2年前まで誰とも付き合ったことすらなかったのに、今ではこうして男性物のパンツを買うことになっているのもなんだか不思議で可笑しい彩華だった。
「送信。っと」
お昼休みに彩華はメールを送った。
送り先は去年結婚したばかりの8才年上の旦那様である中崎浩介。新婚です!
身長が155cmのチビな私と30cm程の身長差があって、すごく優しくて、イケメンで、大好きな旦那様。現在はくろちゃんという猫(雄です)と一緒に暮らしてる。秋には家族は増える予定だけどね。私のお腹には新しい命が宿っている。
浩介さんはコーヒーショップを経営しているからこの時間はランチタイムで忙しい。だからきっとメールに気づくのは後数時間後だろうけど。遅くなると心配させてしまうからこうした連絡は必ず入れることにしているのだ。
「葵さん、私と帰り一緒に買い物に行くの大丈夫ですか?」
休憩室で浩介さん手製のお弁当を食べ終えて、まったりとしているところだ。彩華の買い物に5才年上の柳原葵が付き合ってくれることになったので、確認をとっているのだ。
「勿論!妊婦な上に方向音痴の彩ちゃんを一人で買い物に行かせるのは、私の心臓が持たないもの」
「酷―い」
葵のからかう言葉に彩華は唇を尖らせた。一緒にご飯を食べていた上司で主任の上条由希子さん、同僚の二人も彩華たちの会話を聞いてくすくすと笑っている。
「だって、彩華ちゃんを一人で行かせた場合、行方不明になった挙句、旦那さんに救出願いをする確率100%でしょ?」
「うっ、それを言われると何も反論できない自分が情けない・・・」
誰もが太鼓判を押すほどの方向音痴である彩華が項垂れるのを見て、全員が爆笑した。
「あっ、彩ちゃん。旦那さんに私が自宅までちっきりと送りますって連絡入れといてね」
・・・・・・。
もちろん目的地が駄目なら、自力で帰ることも無理だということは周知されている。
「有難うございます。今日もお世話になります」
また皆に爆笑された。くすん。
季節は例年より遅かった梅雨もようやく開け、じりじりと照り付ける太陽に辟易とする毎日に突入した。
仕事帰りだというのに日差しはまだまだ気を抜けない強さでもって彩華と葵に降り注いでいる。照り付ける太陽に日傘は欠かせない必需品となっている。妊婦の歩みに合わせゆっくりと目的の店へと向かっている。
「彩ちゃんとこうして買い物に出かけるのも久々だねぇ」
彩華は妊娠してからというもの、妊娠初期に悪阻があったせいであまり買い物に出かけなくなったからだ。今は安定期に入っているので、無理をしなければ多少の運動はしたほうがいいと病院の先生にも進められている。
「ほんとに久々かも。すみません、急に誘ったりして」
「いいの、いいの。私もそろそろ新しいの買いたいなぁと思ってたところだから」
急に買い物がしたいと思い立ったのは、ラジオ放送を聞いたから。
彩華が務めている手芸店「たかやま」ではラジオが流れているのだが、8月2日の今日は何の日かということが話題となっていた。
ネット販売を中心としているが実店舗でたまたまお客さんが居なかったために、その話題が彩華達もついその話で花が咲き、葵とこうして買い物に出かけることになったのだ。
「気に入るのあるといいねー」
「はい」
たまには女の子同士で買い物をするのも楽しい。蝉の声が聞こえる中、うきうきとしながら歩みを進めるのだった。
彩華達が向かっているのは、以前葵と今産休中の義理の姉である玉岡麻央(彩華の兄である陸と結婚し、兄は婿養子に入った)と買いに来たことのあるお店。
ランジェリーショップだ。
レディースが大半を占めているが、メンズもあって、割と会社から近くて行きやすいということで決めた店だ。
浩介さんと付き合ったばかりの頃に同僚二人に連れられてセクシーなベビードールを買ったことは今となってはいい思い出だ。
そう、今日ラジオで話題になっていたのは、8月2日は『パンツの日』ということ。下着メーカーの磯貝布帛工業(現在のイソカイ)が1984年に、自社ブランド『シルビー802』の商品名に因んで制定したとのこと。後に、トランクスメーカーのオグランも「パン(8)ツ(2)」の語呂合せでこの日を記念日とした。そうラジオで流れていたのだ。
そして、『女性が本命の男性にこっそりパンツをプレゼントする日』だということも。
実は明日の8月3日は、浩介さんの30歳の誕生日。
もちろん誕生日プレゼントは用意してある。一昨年は革のブレスレット。去年は浴衣。どちらも彩華の手作りだ。
今年は合成石を使ったアートクレイシルバーのペンダントだ。ペンダントトップに一昨年のブレスレットと同じ革紐を通したもの。蒼い石を使ったけど、気に入ってもらえるかな?とわくわくしながらもちょっぴり心配もあったりして。
でも、ラジオでパンツの日って聞いて誕生日前日にサプライズもいいかなぁなんて、思っちゃったのだ。
驚くかな?もしかして、笑いが取れたりするのかな?
毎年渡す誕生日プレゼントと違って、渡したときに中から出てきたパンツを見て、どんな顔をするのか今から楽しみで仕方ない。
「どんなのがいいかなぁ」
2年前まで誰とも付き合ったことすらなかったのに、今ではこうして男性物のパンツを買うことになっているのもなんだか不思議で可笑しい彩華だった。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる