括りはスイーツ男子-猫が繋ぐ縁-

清杉悠樹

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19話

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 9月1日。とうとう8月が終わってしまった。8月が終わったと言う事は、菜々のバイトも一区切りついて終わったと言う事。

 巧は日課としている開店前のコーヒーを味わっている。目の前には新聞が広がっているが、目は字を追っているわけではない。
 今日と明日行われる校内の夏休みの課題テストを菜々が受けている時間帯だなぁとぼんやりと考える。
 その結果次第では、クレマチスのバイトは打ち切りだ。
 課題を教えていた時の事を考えるかぎり、今日の数学は大丈夫だと思う。そう思うんだが、毎日見ていた姿が見えない事でぽっかりと心に隙間が空いているような気がして、物足りなさ・・・いや、寂しいと感じている。

 そんな思いがするのも、今まで味わった事がない程の充実した1ケ月だったからだと断言できる。
 大切な思い出となった事を思い浮かべる。

 浩介が彩華と一ケ月間だけのルームシェアを始めて直ぐにプロポーズをしたのは聞いていた。付き合って一週間も経たずにプロポーズ!?と思ったが、お盆前には婚約まで話が進み更に驚いた。
 その婚約の祝いを兼ねたバーベキューを巧の自宅の屋上で開催をした。菜々、遼一、桜野も呼んで。
 丁度その日は花火大会と重なっていて、バーベキューをしながら見る花火は2人にはいい記念になったようだった。仲睦まじそうにしている2人を見て、自分もじんわりと心があったかくなった。
 なごやかな会話の中、彩華が浩介に海に遊びに行きたいと言っているのに、何故か浩介が駄目ですとの1点張りで、海へは行きませんと言われてしまった彼女はしょげていた。
 菜々が彩華に聞いた所に寄ると、浩介が行かないと言ったその理由は、彩華の水着姿を他の男に見せたくないからというものらしかった。
 その理由を聞いて菜々は爆笑していた。
 まあ、確かに笑えるよな。
 俺と遼一は呆れた目で浩介を見遣やった。理由をばらされた本人はどうも気まずいらしく、目を逸らしてた。
 だが、そこでふっと菜々の水着姿だったら自分はどうするかと考えてしまった。
 見たいか、見たくないかで言えば断然見たい。もちろん見たい。
 出来れば2人っきりで海へと行きたいが、付き合っても居ないのに2人で行くのは難しいだろう。それにその姿を他の男どもに見せる事なんて論外・・・と、これでは浩介の事は笑えないと苦笑いを誰にも悟られないよう抑えた。

 一度、見たいと思ってしまったら、思わず何年も連絡を取っていなかった疎遠にしている兄に連絡を入れてまで、うちが所有している別荘が使えないかと聞いてしまった。
 確か小さな頃(まだ両親が仲が良く、自分も力の事は分からなかった頃)連れて行って貰った記憶がある。プール付きだったのを思い出したのだ。
 別荘の段取りは昔から世話をしてもらっていた爺(執事)がしてくれて、いきなりだったのにも関わらず俺からの連絡に喜んでいた。
 浩介達にはなんとなくうちの別荘だと言いにくく、知り合いのものだと言ってしまったが。
 お盆を少し過ぎた休日にバーベキューのメンバーで行き、一泊して楽しんだ。もちろん水着姿は目に焼き付けた。ちなみにこの時の部屋割は、浩介と彩華、俺と遼一、菜々と桜野だった。

 他には、いつもなら気になったカフェやスイーツを巧は一人で食べに行っていたが、菜々のバイトが終わった後に送るついでと言って2回一緒に食べに行った事。1人で食べていた時より、楽しかったのは言うまでも無い。



 8月はこんな風に満喫しながらも、朝はバイトの時間に合うように迎えに行き、クレマチスで一息入れた後は本業の小説の仕事を数時間こなし、夕方からは菜々の勉強を見た後、日替わりで彼女の手作りのスイーツを食べて、その後はアパートまで送っていき、また仕事をする。
 そんなサイクルが、今まで以上により規則正しい生活となったらしく、体調も良かったし、張り合いがあるからか仕事のはかどりもかなり良かった。
 それが無くなったとたん、気が抜けてしまったのは自覚している。もう数日は仕方がないと諦めてもいる。もう少しで終わりに差しかかろうとしている小説も一気にやる気が目減りした。
 だが、自分以上に落ち込みが酷い奴が目の前にいて、まるで自分を見ているみたいで鬱陶しくて仕方がない。さっきから何度もため息をついては掃除の手が止まっている影が薄くなっている奴に注意した。
「浩介、そろそろ開店の時間だぞ。さっさと終わらせてしゃきっとしろ」
 自分にも同じ事が言えるので、あまり強く言えない。だが、言わないと今日の仕事に影響が出るのは目に見えている。
「彩華さんとのルームシェアが1ケ月で終わるのは分かってた事だろう?いいよな、浩介は。婚約もしたし、来年には結婚まで決まったんだから。ほら、そんな姿、客に見せるなよ?」
 まだ菜々は高校生だからと色々と自粛している我が身とつい比べてしまい、恨み事を言いたくなってしまう。
「しゃきっとしなきゃならないのはお互い様です。新聞が上下逆さまですよ」
「・・・・・・」
 反論に言い返す事が出来なかった。
 はぁ、とお互いため息を漏らした。




 秋も深まろうとし始めた頃。
 菜々がバイトに来るのも土曜日だけというのにも慣れて、その頃にはクッキーの販売が上り調子になってきた。
 店のクッキーは今では菜々が全て作る事になっていて、普通の丸い形だったものから猫の形に変更し、ラッピングにはくろの似顔絵とハートが描かれていて、お試し用のドリップパックと一緒に販売を開始したところ口コミで広がり、恋が叶うアイテムとしてかなり売り上げが伸びることになったのだ。
 作るのが土曜日だけなので、販売されるその日には女子高生の姿も増えてきた。
 だが肝心な珈琲の売り上げをもっと伸ばしたいと言うのもあって、巧はイベントを企画してみた。
 クレマチスの店内で個人的に彩華が桜野に手芸を教えているのを見て、彩華が働いている手芸店「たかやま」のグッズ販売も元々していることだし、ここでイベントをしてみませんかとたかやまの社長に提案してみたのだ。

 イベント提案はすんなりと受け入れられ、金曜日のハロウィンの日に日時が決定し、グッズや材料の販売、ワークショップも加え、ハロウィンらしく仮装もする事になった。
 イベント前日に搬入を済ませて、当日は彩華と同僚の柳原が販売員と決定した。(菜々もやりたがったが、金曜日は学校が有るので不参加だった)
 ハロウィン当日まで秘密にされていたコスプレの衣装は、彩華の手作り作品と聞いて驚いた。
 黒猫のイメージで作ったというその服装は、膝丈黒フレアワンピースで襟と袖口は白レース、とフリルが一杯なエプロンだった。
 そして2人の頭には猫耳のカチューシャまでも付けられていた。
 ・・・可愛い、似合う。
 彩華は癒し系の猫で、柳原はつれなさが堪らない猫という風に見えた。特にコスプレというものに興味がない俺でもそう思えたのだから、彩華と付き合っている浩介には堪らないものが有ったらしい。
 イベントの手伝いに来ていた遼一がコスプレした姿の2人を褒めちぎっていると、浩介は遼一を後ろから羽交い絞めをして、1m以内近寄る事を禁止させていた。相変わらずな独占欲に苦笑する。
 その日は何故か柳原に言われて、浩介まで鹿のカチューシャを付けて仕事をし、遼一はうさ耳、俺は猫耳を無理やり付けさせられ一緒に写真を取る羽目になったのだった。
 後日、たかやまのHPにはこの写真が掲載されようとしていたが、懇願して違う写真にしてもらった。

 自分もワークショップ参加してみた。
 短時間で作れる天然石ビーズのブレスレットとレジンを使ってネックレスのどちらかを選んでくださいと言われ、ブレスレットを選択した。地味な色合いの天然石を選んで作ったブレスレットは案外気に入って使っている。

 イベントは上々で終わった。
 そのイベントでは彩華の高校の友達が、次の日からクレマチスで働き始めるという出来事もあったが、これも喜ばしいこととなった。
 イベント終了後は、打ち上げで食事会を開く予定になっていた。

 その打ち上げで、自分の未来は大きく変わることになるとは、この時まだ思いもよらなかった。
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