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第1章:プルミエ剣術大会

第9話:王妃様とティータイム

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「王女様、セイル様、中庭で王妃様がお待ちです」
星琉たちが城へ戻ると侍従が告げた。
「お母様が?」
イリアが怪訝な顔をする。
「シエム国から菓子が届いた、との事です」
侍従が王妃の伝言を伝えた。
「中庭でティータイムね」
それでイリアは理解したらしく、あっそうかという顔で言った。
「御案内いたします」
侍従の案内で2人は中庭に向かった。

庭園の中、薔薇に似た香りの良い優美な花に囲まれた場所。
白い丸テーブルと白い椅子が置かれていて、上品な雰囲気漂う女性が座っていた。
アリア・レーヌ・プルミエ王妃である。
イリアと似た金の髪、瞳の色は海の青。
侍従はそこへ2人を案内した後、一礼して下がって行った。
「いらっしゃい。作法など気にせずお茶を楽しむようにね」
イリアと似た顔立ちの壮年女性が、気さくな口調で言う。
侍女が椅子を引いてくれて、2人はそれぞれ席に着いた。
ティータイムに用意されたシエム国の菓子は、タルトに似た焼き菓子だった。
使われているフルーツは1つ1つ違い、様々な味が楽しめる。
サクッとしたタルト生地とフルーツの間にカスタードに似たクリームが少し入っていて、果実の酸味を程よく調和していた。
お茶は地球の紅茶に似ていて、ダージリン系の少し苦みのある味が甘いスイーツと合う。
「美味しいです。この果物はどこで採れるものなんですか?」
星琉は使われている果物に興味を示した。
「シエム国の特産フルーツ、気に入ったなら土産にお持ちなさい」
「ありがとうございます!」
想定内だったらしく、王妃が合図すると侍女たちが焼き菓子の入った箱と果物の入った籠を運んでくる。
そしてまた土産が増える星琉のストレージ。
「シエム国は母様の故郷なの。美味しいフルーツがいっぱい採れるのよ」
イリアが教えてくれた。
「いいなぁ~いつか行ってみたいなぁ」
これまで旅行の経験がほとんど無い星琉は、見知らぬ国に思いを馳せた。

「セイルは17歳と聞いているけれど、学生なのかしら?」
王妃は星琉に関する事に話を振った。
「はい。この春に3年生になります」
星琉は答えた。
「私と同じね」
イリアが言った。
プルミエ国には王族も通う学園があるという。
イリアが街での買い物に慣れていたのは、普段から通学途中で買い物に寄る事があったからだろう。
王族なら馬車から降りずに侍従に買いに行かせそうなものだが。
「日本の学園は20代まで続くものがあるそうね。セイルもそのくらいまで学ぶの?」
イリアが聞いた。
「いや、来年の春から働きたいと思ってるよ」
星琉は答える。
「3年生になったらすぐ就職活動を始めなきゃ」
「卒業まで1年もあるのに?」
「就職難で、早く始めておかないと職にあぶれてしまうから」
不思議そうなイリアに、セイルは説明した。
機械化により少ない人手で事足りる時代、新卒者でも職を得るのは困難であった。
「シロウから聞いた事はあったけれど、そのように狭き門なのねぇ」
少し同情するように王妃が言った。
「はい。バイトは今もしてるんですが、安定した職に就くのは難易度が高いんです」
春休みのバイトもあったが、大会出場のため休みをとっていた。
「セイルはどんな仕事がしたいの?」
イリアが聞いた。
「身体を動かす仕事がいいなぁ。デスクワークはどうも苦手で…」
視野に入れている職をあれこれ思い浮かべる星琉。
「出来れば住み込みで賄い付きの仕事がいいな。俺んち家族多過ぎて食費がヤバイから」
苦笑しながら言う星琉は9人兄弟で、下にはまだ幼い弟妹が6人もいる。
なるべく早く働けるようになって家計を支えたかった。
「こっちみたいに狩りが出来れば食費の足しになるんだけどなぁ」
冒険者たちと行ったミノ狩りを思い出し、星琉は言う。
食べ盛りの子供が多い家庭、肉を得られれば食費はかなり助かるだろう。
「あ、それならシロウのOK出たからフリーパスでこっちに来たらいいよ」
イリアからの朗報。
「マジで?!瀬田さんありがと~うっ!」
その場にいない人物に思わず手を合わせて感謝する星琉を見て、王妃とイリアがクスクス笑った。

その頃、渡辺と森田は本日の業務報告と共に撮影した動画を送信していた。
「こちらが1戦目です」
「ナル君か、いいね~狐系ケモ耳少年、人気出そうだね」
動画を見た瀬田がボイスチャットで言った。
「神殿からも報告がきていたよ。治療の手伝い分はボーナス期待していいよ」
『ありがとうございます!』
渡辺と森田の声がハモった。
瀬田が開発したタブレットは異世界との通信が可能である。
王族たちにも同じ物をプレゼントしており、瀬田はいつでもやりとりが可能になっていた。
イリアの「おねだり」もそのタブレットを通じてのもので、美少女に「お兄ちゃん、お願い~」と言われて轟沈したのは当人だけの内緒の話。
「セイル君とイリアちゃん、フラグ立ってるようだね」
意味深に瀬田が言う。
「はい。さっきは守護石のペンダントを渡したりして、いい雰囲気でした」
その場にいなかったのに何故分るのか謎な渡辺の発言。
「よし、そのまま見守れ」
瀬田が指示した。
「ラスタからも別件で依頼がきたし、今後の展開に期待かな」
(国王を呼び捨てな件!)
さすがに社長相手に言えないので、森田は心の中でツッコんだ。
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