上 下
52 / 111
第4章:カートル孤児院

第48話:カートル国へ

しおりを挟む


「シロウ様、これが私とラムルが知る限りの情報です」
バレルはそう言って、瀬田に1冊のノートを渡す。
そこには、カートル国内で多くの人間が拉致されている事、地下迷宮にいる大魔道士フォンセがそれを奴隷として支配している事、既に瀬田が解除済みの人々以外にまだ隷属紋に縛られている者のリスト、バレルたちが攫われた村、拉致された子供たちが居た孤児院などが書かれていた。
「私たちは両親の仕事中に攫われました。里親になるフリをして孤児院から拉致された子も多くいます」
「フォンセめ…誘拐に里親詐欺までするか」
瀬田は怒りを含んだ呟きを漏らす。
一方で、それを阻止する方法を考えていた。

「セイル君、ソーマ君、カートル国まで出張を頼めるかい?」
プルミエ王城地下の研究室に2人を呼び、瀬田は新たな依頼を出す。
「国王陛下が王太子の頃に戦った国ですね」
プルミエ近代史を読んでいた星琉が言う。
「そうだ。現在では友好国として交流しているが、まだ昔の名残で奴隷商や闇取引などが存在する、あまり治安の良くない国だ」
瀬田は行き先について説明した。
「聞きましたよ。人を攫って奴隷にする奴がいるって」
成り行きで隷属紋から開放された少年の心のケアをする事となった奏真も言う。
ラムル自身には攫われた時の記憶はないが、同じく拉致されて奴隷となった兄のバレルから話は聞いていた。
「それで君たちに頼みたい。カートル国への潜入、そして闇取引の実行犯を捕えてもらえるかい?」
「了解」
そして瀬田から詳しい説明を受け、使う魔道具などを渡され、星琉と奏真はカートル国へ赴く事になった。



カートル国へ農作物を売りに行く行商人一行の馬車の中、2人の子供が座っている。
農民の子と思われる粗末な服を着た、5~6歳くらいの少年たち。
1人は赤い髪に緑の瞳、顔立ちは整っているが目付きがちょっと悪い。
もう1人は金髪に青い瞳、優しそうな顔立ちをした美少年。
行商人は市場へ野菜を卸した後、子供たちを連れてカートル王都最大規模の孤児院へ向かった。

「何か御用でしょうか?」
孤児院を運営する妙齢の女性院長が、応接室に3人を迎えて問う。
「取引先の農村から依頼されまして、両親が亡くなり孤児となったこの子たちを、引き取って頂きたいのです」
行商人の男が事情を説明する。
「赤毛の子がレン、金髪の子がイルといいます」
「分かりました。容姿が良く年頃もちょうどいいので、すぐに里親が見つかると思いますよ」
院長は微笑んで了承すると、スタッフを呼んで新入りの子供たちを任せた。

孤児院の子供部屋は25室あり、4人ずつで最大100人を受け入れられるが、現在は40人ほどしかおらず、2人部屋になっている。
今日来たばかりの2人は施設内の案内をしてもらった後、空き部屋に入れてもらった。
「もしも何か分からない事があったら、いつでも聞いてね」
連れて来てくれたスタッフは若い女性で、優しい笑顔で話しかけてくれる。
「はい。ありがとうございます」
金髪の少年がニコッと微笑んで応えた。
途端に、女性スタッフがポッ顔を赤らめる。
「…あぁんもう、イル君なんでそんなに可愛いの!」
「?」
いきなりガバッと抱きつかれ、イルと呼ばれた金髪の少年はキョトンとした。
「もしも里親が決まらなかったら、お姉さんがママになってあげるからね」
「は、はい」
お姉さんに圧倒され、イルはとりあえず応えた。
「あ、いけない夕食の準備に行かなきゃ。またねイル君」
最後にほっぺチューして、女性スタッフは去って行った。

「あんなに子供好きなら、いつか誰かの里親になっちゃいそうだなぁ」
圧倒されっぱなしで、女性が去った扉を眺めて呟くイル。
「いや、それ相手がお前だからだろ」
その背後から赤毛の少年レンがジト目を向けてくる。
「え?」
「ちょっと鏡見てみろ」
キョトンとするイルを、レンが引っ張って洗面台の鏡の前に連れて行く。
「見ろ、このレディーキラー予備軍みたいな美少年っぷり」
イルの顔を両手で挟むようにして鏡を見させつつ、レンが言う。
鏡に映るのは、サラサラ金髪に睫毛長めの青い瞳をした優しい顔立ちの少年。
一緒に映っているのは、ツンツン逆立つ赤毛に吊り目気味の緑の瞳をした気の強そうな少年。
「………」
じっと鏡を見つめ、レンが片手で鏡面に触れる。
触れた位置から波紋のようなものが広がり、部屋全体を覆った。
「監視カメラみたいなのは無いみたいだな」
レンが部屋を見回して言う。
「盗聴の類も無いね」
イルも見回して言った。
「しっかし何だセイル、金髪似合い過ぎだろ」
「ソーマこそ赤毛に違和感無さ過ぎだよ?」
少年たちは顔を見合わせ、吹き出した。
2人は、瀬田が開発した魔道具で子供の姿になった星琉と奏真であった。


しおりを挟む

処理中です...