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第6章:勇者と魔族

第84話:氷の花

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異世界アーシアの季節は秋から冬へ。
神々の間では、秋の女神レイラから冬の女神イヴェラに交代の時を迎えている。
星空に浮かぶ青く美しい惑星を見下ろしながら、女神たちは語らう。
女神レイラが纏う衣は紅葉の赤・橙・黄のグラデーション。
女神イヴェラが纏う衣は氷雪の純白。

「アイラが加護はいらないと言っていたのは、そういう事だったのね」
「セイルは創造神様が加護を与えてらしたけど、精神最適化オプティマイズはされてなかったわね」
「だからこそ生命の復活リザレクションが発動出来たとも言えるわ」
「あれは2人に慈悲の心があったからこそ起きた奇跡ね」

そして秋の女神は休暇に入った。
神々の間に残る冬の女神は、手のひらに乗せた氷の結晶にフゥッと息を吹き付ける。
結晶は砕けて細かな無数の粒となり、惑星に降り注ぐ。
そして、雪の季節が始まる………



プルミエ王立学園・魔法検定試験会場。
星琉は1本の裸木に右手を向ける。
意識を少し集中するだけで、凍気がすぐに湧き出てきた。

水属性・氷系魔法:雪花

星琉の右手から湧き出た氷の気が裸木へと飛び、木の表面を覆うと結晶化する。
雪の花が咲いたような樹氷が出来上がった。

「合格!」
判定が出た。
「威力調整が上手になったねセイル」
試験を担当した教師が微笑む。
「ありがとうございます」
星琉も笑みを浮かべた。

編入間もない頃は高すぎる魔法適正値のせいで威力を抑えるのに苦労したが。
授業で練習したり、森の中で練習したり、狩りで使ってみたりしながら技術を磨いている。
おかげで現在では全属性魔法を威力調整して扱えるようになっていた。


プルミエ王城地下・賢者シロウの研究室。
鮮やかな青色に染められた魔道具の中に1人の子供が眠っている。

魔王封印専用魔道具:Azure cradle

聖王国からそれを視察に来たのは法王と聖女。
出迎えるのはプルミエ国王と賢者。
その子供を保護した者として、星琉も同席した。

「ここに封じておけば魔王の転生を防げるのだね?」
法王クラルスが確認する。
「はい。魔王の身体は不老不死ですので、この子供が老化したり老衰で死ぬ事はありません」
賢者シロウが説明した。
「魔王に存在力エナジーを与えられるロミュラという魔族は死亡したので、数百年後に襲ってくる可能性が高いそうだ。それに関してはシロウに対策を練ってもらっている」
プルミエ王ラスタが言う。
「では現在、魔王を目覚めさせられるのはセイルだけなのね?」
聖女セイラが聞く。
魔力譲渡イムパートの魔法が使えて、妖精の群れに魔力を満たせるような人物がいたら、他の者でも可能だと思います」
ポーカーフェイスで答えているが、星琉はそれ以上詳しくは話したくなかった。
「そのような人外の魔力を持つのはセイル殿くらいであろう」
法王が笑って言った。


視察を終えた後も、法王は国王や賢者と話し込んでいる。
セイラは王妃アリアのティータイムに招かれた。
星琉とイリアも呼ばれたので同席している。
白い丸テーブルと白い椅子が置かれた庭園は、冬に咲く花が良い香りを漂わせていた。
「前世で双子の兄妹という事は、セイルがイリアと結婚したら親戚になるのかしら?」
ニコニコしながら王妃が言う。
「親戚…お義母様とお呼びしてもよいのですか?」
家族とか親戚とかいうワードに弱いセイラが夢見るような顔で聞く。
「勿論ですよ…いらっしゃい、セイラ」
微笑んで両手を差し伸べるアリアに、少し戸惑いつつもセイラが近付く。
前世の記憶があるといっても本来の心は6歳児、家族のいない寂しさを抱えている子だ。
「…おかあさま…」
小さな声でセイラが言う。
同じ金髪に青い瞳の2人は、本当の母娘のように見えた。

一方、イリアは隣にいる星琉にコッソリ耳打ちする。
「ねえねえ、前世の姿になって」
おねだりされてしまった。
しょうがないな、と思いつつストレージから聖剣を取り出す。
それを握り、活性化する生体情報マトリクスを入れ替えるように願う。
金髪碧眼美青年に変身すると、女性陣のウケが大層よろしかった。
「あら、大きい息子が来たわ。弟でもいいかしら」
王妃が笑って言う。
「一応、息子でお願いします」
星琉はお願いした。
前世の姿は20歳のものらしいので、35歳のアリアと親子は若干無理がありそうだが。
「お兄様~」
セイラが抱きついてくる。
「前世が双子なら名前呼びじゃないか?」
ツッコミを入れつつ抱っこしてあげた。
「そっちの姿だと私とも兄妹みたいね。お兄ちゃんって呼ぼうか?」
隣にいるイリアが笑いながら言う。
「そしたら妹5人目だよ…」
もう妹は間に合っている星琉であった。
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