【本編完結】株式会社SETA異世界派遣部~ゲーム大会で優勝したら異世界に招待された~

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勇者セイル編

第83話:前世の名残

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プルミエ王城の地下・瀬田の研究室。
そこにある大型魔道具を星琉に抱かれた子供魔王が見詰める。
紺碧のゆりかごという意味の名をつけられたそれは、勇者の服と同じ鮮やかな青に染められた。

魔王封印専用魔道具:Azure cradle

災厄の主と呼ばれる存在を封印する為に作られた魔道具。
死亡して転生したりしないように、生命維持機能も備える。
魔力消費が激しすぎる魔王の身体は、仮死状態にすれば最低限の魔力で済む。

「もしも我を奪いに来る者がいるとしたら、それは数百年後に転生してくるロミュラであろう」
魔王は予測される未来を告げる。
「ロミュラだけが使える闇魔法存在力強奪ロブエナジーを防ぐ魔道具も開発しておけ」
カートル王都の200万人を瞬時に消し去るような闇魔法がある事を明かす。
「我は存在力エナジーを注がれると復活するが、それは貴様が我に埋め込んだ鎮魂花レエムによって防がれるだろう」
イルが魔王から人々の存在力を奪還した際、魔王を覆った鎮魂花レエムは皮膚に溶け込んだ。
それは、魔王に新たな存在力が注がれるのを阻止出来る効果を持っているという。
「故に我を目覚めさせられるのは魔力譲渡イムパートで大量の魔力を注いだ時のみ。それが可能なのは今は貴様だけだ」
自らを抱く少年を指差して、魔王は言った。

「じゃあ、俺が魔力譲渡イムパートを使わなければ永遠に眠りっぱなし?」
「そういう事だ」
星琉の問いかけに頷く。
「じゃあ、俺が魔力譲渡イムパートを使えばいつでも復活出来るって事?」
「その通りだ」
「じゃあ、魔王ロスで眠れなかったら復活させていい?」
「やめい! 魔王ロスとか意味が分からぬわ!」
そんな漫才みたいなやりとりを、瀬田が面白そうに眺めている。

やがて、何か思い付いた様子で、魔王はフッと笑みを浮かべた。
「そうだ、貴様がお手軽に復活させないように、鍵をかけておこう」
「?」
魔王はキョトンとする星琉の首に腕を回す。
愛らしい子供の顔でニッコリ微笑む。
そして顔を近付けると、あっさりと唇を奪った。
星琉、しばし呆然。
「ロック完了だ。これと同じ事をして魔力譲渡イムパートを使わねば、我は目覚めぬ」
「……………」
「貴様の性格は、こういう事が簡単に出来ないのは分っている」
魔王はニヤリと笑った。

(勇者の唇を奪う魔王なんて、アーシア史上初かな?)
魔道具の最終チェックをする瀬田が、苦笑して心の中で呟いた。
放心状態の星琉の肩を叩き、瀬田は準備が出来た事を告げる。
星琉はカプセル型の魔道具の中に魔王を寝かせた。
瀬田は横たわる子供の身体に生命維持とバイタルチェック用のチューブやケーブルを取り付ける。
「おやすみ、と言っておこう。死ぬわけではないからな」
最後にそう言うと、カプセルの蓋が閉じてゆく。
星琉からの魔力供給が無くなり、魔力切れになった魔王の意識は落ちていった。



夕方、聖王国トワの海辺。
星琉は独りで夕日を眺めていた。
最後に事故(?)はあったが、魔王は悪い子ではなかった。
虚弱体質になってしまったからかもしれないが、アーシアの世界を滅ぼそうとはこれっぽっちも思ってない様子。
前世を覚えていないので、以前はどうだったかは分からないけれど。

ぼ~っとしていると、後ろからポスッと抱きついてくる者がいた。
「セイラ…。まだ怒ってるかな?」
背中に抱きついている子供に腕を回して、自分の前に移動させて見ると、少女は膨れっ面だ。
「どうしてすぐ来てくれないの…」
拗ねた口調でセイラが言う。
「魔王封印の報告は行ったよ?」
「そっちじゃなくて!」
答えた星琉にセイラが怒って言う。

魔王封印が済んですぐ、星琉は公式に聖王国を訪問し、法王の謁見の場で報告をしていた。
後日、法王たちが封印魔道具を視察に来る予定となっている。
今はそれを終えて、トワの王都を見学していたところだ。

「どうして私に会いに来てくれないの。ずっと待ってたのに…」
セイラの瞳が潤む。
また泣かせてしまった。と星琉は申し訳無い気持ちになる。
この子は会うたびに泣いてる気がする。
彼との過去が悲し過ぎるからかもしれない。
「ごめんね。泣かせてばっかりで」
セイラを抱き締めて背中を撫でながら、星琉は謝った。
「………初代の姿を、見せてくれるなら許してあげる。聖剣に触れて願えば姿を変えられるわ」
星琉に甘えて、セイラが言う。
「………分かった」
かなり長い間あの姿だったのでしばらく変身したくなかったが、星琉は観念して答えた。

ストレージから聖剣を取り出して掴むと、それは青白い燐光を強める。
前世の生体情報マトリクスは魂の中で休眠中で、現在活性化しているのは現世。
それを入れ替える事を願うと、星琉の容姿は変化した。
黒髪黒い瞳の少年から、金髪碧眼の青年の姿へ。

「これでいい?」
「………うん………」
セイラは、ずっと逢いたかった人を抱き締めて頷いた。
遥かな古代、神に創られた兄妹。
永い間、逢えなかった双子の片割れ。
唯一の肉親がやっと転生してきてくれた。
今度はもっと長く生きてくれますように。
セイラは心の中で願っていた。
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