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勇者セイル編
第91話:転移者の子孫たち
しおりを挟むジパングの天子を短刀で貫き、真冬の湖に飛び込んだ人物は、瀬田が管理する異空間の牢獄に収容された。
国の最重要人物を殺そうとした者、侍の文化が継続している国ではその場で斬首されかねないので、星琉は異空間牢に隠した。
人々は湖から現れた氷龍に気を取られていたので、それが2人の人間を掴んでいた事までは気付いていない。
刺客は天子もろとも氷水に没したが、すぐ引き上げて処置を済ませたので命に別条は無かった。
自害する可能性が極めて高いので、レム睡眠下での尋問を試す。
『殺せ』
予想通りの第一声。
やれやれと溜息をつく瀬田。
『そんなに死にたかったら事情を話せ。そうしたら死なせてやるよ』
『では殺さなくていい。断食で自死してやる』
囚人はなかなかの頑固者だ。
『それは出来ないぞ。ここには生命維持装置が充実しているからね。何十年飲まず食わずでも死ぬ事は無い』
言いながら、瀬田は魔道具を操作して囚人の意識をもう1段階落とす。
フォンセもそうだが、強い覚悟や信念のある者はレム睡眠では白状させられない。
そして、刺客はその意識を深昏睡に落とされた。
その頃、星琉と奏真は2~3歳に見える幼子たちと日本に来ていた。
雪に覆われたジパングよりと違い、こちらは常緑樹が茂っている。
幼子の1人は天子・海世、もう1人は500年前の第二皇子・空也。
星琉はジパングの帝を御忍びで城から連れ出して付き添う。
帝は命の恩人である星琉にその名を教え、名前で呼ぶようにと告げた。
一方、空也の付き添いを務める奏真は異世界に転職して以来初めての日本帰りだ。
海世と空也は日本人の子孫だが、アーシア生まれなので地球の強い重力やマナの無い環境ではまともに動けない。
そこで、魔道具で身体の小さい子供に変えてもらい、以前のシトリと同じく抱っこされての日本行きとなった。
変身の際、服装の設定は現代日本のものにしたので、目立たずに街を見て回れる。
「これが、祖先の国………」
歴史書を見て想いを馳せた国。
子供たちは興味深そうに周囲を見回す。
木造とは違う鉄筋コンクリートの建築物を不思議そうに眺めたり、車やバイクか走るのを見て目を丸くしたり。
ファーストフード店で初めて口にしたハンバーガーやポテトなども気に入った様子。
星琉と奏真の馴染みのアミューズメント施設へ行くと、常連客がわらわらと集まって来る。
「可愛い~! その子たち星琉の弟?」
チビッコ2人は星琉の身内と間違われた。
青野家が子沢山なのは、ゲーマー仲間ならみんな知っている。
「そうそう、新作ゲーム入ったんだよ」
言われて見に行くと、青い竜に乗って黒い竜と戦うライド型VRがちゃっかり出来上がっていた。
(…い、いつの間に…)
元ネタ(?)が分る星琉&奏真、苦笑。
「このストーリーモードのロリ聖女様が、カワカッコイイって人気出てるんだよ」
(…ロリ聖女…、セイラが聞いたら怒りそう)
星琉、更に苦笑。
実際は影武者・星琉なのだが、セイラの活躍としてアーシアでも日本でも知れ渡っているようだ。
デモプレイ動画を見ると、トワの街から青い海へと飛翔するヴィジュアルはリアルで、シアンが撮影協力したっぽい。
海世が乗ってみたいと言うので、星琉が後ろから抱くようにして一緒に乗った。
ライドは保護者が操作して一緒に乗れるように作られている。
晴れ渡る青空を、鮮やかな青色の竜が滑空する。
街を離れると、眼下に広がるのは青い海と緑の草原。
「素晴らしい…日本にはこんなにも魅力的な娯楽が生まれているのか…」
爽快な飛翔を楽しみながら海世が呟く。
「娯楽が豊かなのは戦をしないからだよ。ジパングも血族の殺し合いをやめて、相手を傷付けない娯楽で競えばいいんじゃないかな?」
星琉の言葉を、若き帝はその記憶に染み込ませた。
500年前の事を何も知らされずに育った海世は、空也と会ってそれを教えられて驚き、自らも同様に刺されて湖に落とされたと告げる。
「日本には【因果応報】っていう言葉があって、何かすれば未来にそれが返ってくると言われてるよ」
星琉が言う。
先祖の海斗がした事が、因果として子孫の海世に回ってきたのかもしれない。
「私は兄上と争うのが嫌でした」
今は亡き兄の子孫に空也は打ち明ける。
「政は兄上の方が優れていましたし、私はそれを支えられれば良いと思っていたんです」
500年前、それを言えていたなら。
時を戻す事は出来ないから、空也はその先に進むしかない。
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