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第7章:海の向こうのジパング

第101話:共に生きる

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『我が命は雷斗様に捧げたもの。 殿下が望まれる道を進むのならば、それに従うのみ』
魔道具に接続され、脳波で嘘偽りのない言葉を述べるのは、雷斗の側近・重義シゲヨシ
眠りを解かれ、視界に入った子供の顔を見て、重義はそれが雷斗だと理解した。
「殿下、随分と若返られましたな」
「…って分かるんかい!」
冷静に言う重義にツッコミを入れるのは奏真。
「さすが重義、この姿でも分かるか」
ニヤッと笑うのは3~4歳の子供になっている雷斗。
「殿下がお産まれになった頃よりお仕えしておりますゆえ」
重義は起き上がると、雷斗の前で跪く。
「ジパングには戻らぬが、よいのだな?」
「構いませぬ。 殿下の望みのままに」

そして、雷斗は帝位争いから退きジパングを離れる旨を書面に記し、奏真に託す。
奏真からそれを受け取った帝・海世は公式に発表し、雷斗を一族から除籍した。
側近の重義以外の家臣たちには雷斗から指示書が送られ、帝に仕えよと伝えられた。
雇われていた暗殺者たちには、重義から作戦の終了が告げられ、以降は命を狙われなくなった海世は平穏を取り戻してゆく。

隠密護衛をする必要が無くなった星琉がプルミエに帰る日、海世はジパング産の米や味噌、干物や漬物、菓子を贈った。
「そなたの母君に礼を言っておいてくれ。母君が作る豚汁はとても美味であったとな」
「そんな事言ったら喜んじゃって、また連れて来なさいって言うよ」
「楽しみにしておこう」
賑やかで楽しそうな青野家を思い出し、海世は微笑んだ。


「では重義、我が旅の供をするがよい」
「承知致しました。 どこまでもお供しますぞ」
そしてジパングの皇族ではなくなった雷斗は、子供の姿で広い世界へ旅立つ。
雪の無い南国の森の中、木漏れ日が少年と従者を照らしていた。



「やっと帰って来たのね」
星琉がプルミエ城に帰ると、苦笑しつつイリアが迎えてくれた。
「イリアの誕生日に間に合って良かったよ」
ジパングで買った簪を土産に渡して、星琉はホッとしたように言う。
「そうね。今年の誕生日は特別だから」
手にした簪を大事そうに撫でて、イリアが微笑む。
「うん、特別な誕生日に贈る物も用意してあるよ」
星琉も笑みを浮かべて告げた。

2人は婚約時に互いの誕生日を教え合っており、星琉は7月7日、イリアは地球の日付で2月22日と伝えていた。
プルミエでは公式に婚約出来るのは18歳からで、王女イリアは18歳の誕生日に婚約者をお披露目する予定となっている。

「セイルったらなかなか帰って来ないんだもの」
頬を膨らませてイリアが抗議する。
「…す、すいません…」
イリアには頭が上がらない感じの星琉。
「間に合わなかったらシトリに影武者してもらおうかと思ってたのよ?」
「…そ、それは避けたい…」
イリアのまさかの発想に星琉は苦笑した。


そしてイリアが18歳になる日、誕生日パーティにて正式に婚約発表が行われる。
公式の祝い事なので、その日の為にオーダーした衣装を着てパーティに参加。
イリアには聖女のイメージカラーであるパールホワイトのドレスが仕立てられていた。
その左手の薬指に、星琉が贈ったエンゲージリングが光る。
星琉は勇者のイメージカラーである紺碧の騎士服、儀礼用なので豪奢な装飾が施されている。
既にプルミエ国民なら誰もが知る仲だったので、婚約の正式発表はようやくこの日がきたかという思いで迎えた人が多い。

この日のダンスタイムは主役である2人が最初に踊る。
星琉がイリアに手を差し伸べ、イリアがその手を取るのを合図に、宮廷楽師たちが音楽を奏で始める。
流れる曲はこの日の為に作曲された新曲、楽師以外で事前に演奏を聞いたのは星琉とイリアのみ。
美しい容姿で滑らかに優雅に踊る2人は、人々を魅了した。

ダンスタイムが終わると、2人は夜の庭園に出た。
花木の間を歩くと、妖精たちがフワリフワリと舞う。
星琉がアーシアに来た初日から馴染みの庭園、イリアとの距離は初期に比べてかなり近い。
「空港で初めて会った時は、まさかこんな未来があるなんて思ってもみなかったよ」
「カフェで見かけた時は面白い人たちがいるなぁって思っただけだったのに。不思議ね」
仲良く寄り添いながら話す2人の周囲を、光の妖精たちが蛍のように舞う。

「あの時、セイルが助けに来てなかったら、私は今ここにいなかったでしょうね」
「あの時、イリアを助けてなかったら、俺も今ここにいなかったと思うよ」
プルミエ王家の王女と、日本の平民の子、普通なら出会う事も親しくなる事も無かったろう。
改めて不思議な縁だと感じた2人であった。
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