50 / 57
陽太~アストルの幼年期
ep43:陽太視点③
しおりを挟む
未来が分かっていても、赤ん坊にできることは少ない。
魔力量を増やすには失神寸前まで魔法を使えばいいけど、赤ん坊が魔法を使っているのを見られたら大騒ぎになりそうだ。
魔法を使える赤ん坊の噂が広まったら、魔族によるソレイユ王国滅亡計画が早まるかもしれない。
俺は誰にも知られないように、魔力量を増やすことにした。
「アストル、いい子にしていてね」
頬に優しいキスを残して、母は部屋の外へ行ってしまった。
彼女は出産のダメージが少なかったので、3日休んだだけでもう公務に戻っている。
王妃であり聖女でもあるシェリルの公務は、主に神殿で行われる傷病者の治療だ。
(よし、この隙に魔法を使おう)
ベビーベッドに寝かされた俺は、自分だけに見えるステータスパネルを見つめて考える。
今の俺の能力値は、オールE表示になっている。
能力の高さは、上から順にABCDEFだった筈。
ゲームの主人公がオールFだったことを思えば、Eは赤ん坊としては高い方かもしれない。
(今すぐ使える魔法は……火、水、風、土の初級魔法か)
使用不可の文字が無い魔法は、光と闇を除く4属性。
しっかりとしたイメージさえできれば、魔法を使うことができる。
ゲームで魔法を使うシーンを何度も見ている俺には、そんなに難しくなかった。
しかし、ベッドに寝たまま火魔法を使ったら、火事になる予感しかない。
(水魔法ならいいかな)
俺はベビーベッド近くの空中に、水の球体を発生させた。
魔力量を示すゲージの減り具合から、消費した魔力が分かる。
今の俺は、ピンポン玉くらいの大きさの水球を、5個まで作れるようだ。
魔力Fの主人公の場合は、初期ステータス時に作れる水球は1個だった。
魔力Eなら、魔力消費量を増やせば、水球のサイズを拡大できると思う。
(デカイと目立つから、このくらいがいいな)
俺は水球を窓の外まで移動させた後、ぼんやり見えている樹木らしきものにぶつけて壊した。
部屋の中を濡らしたら、侍女の仕事を増やしてしまうし。
屋外にある木なら、濡れても構わないだろうと思ってのことだった。
「きゃあ!」
ところが、水球をぶつけた直後、窓の外から甲高い声が聞こえた。
やばっ。
誰かいた?!
……っていうかここ、映画と同じなら、3階の部屋の筈……
「もぉっ、誰? ボクに魔法をぶつけるなんて……」
文句を言いながら、窓から入ってくる女の子。
その姿を、俺は鮮明に見ることができた。
身体は小さく、手乗りサイズの小人。
長い銀髪に、つぶらな空色の瞳。
背中には、トンボみたいに透明な4枚の羽がある。
風景はぼやけてるのに、その娘はハッキリ見える。
女の子の姿は、視覚で感知しているわけじゃない。
ステータスパネルと同じで、脳に直接投影された姿だ。
女の子は、室内をキョロキョロと見回した後、ベビーベッドに寝ている俺に気づいた。
「隠れたって無駄だからね。ボクには魔法の残滓が視える……えっ? うそっ、赤ん坊?!」
女の子は、魔法を使ったのが誰か分かるらしい。
その特徴的な姿と、魔力の残滓が見える能力から、彼女が誰なのか分かる。
信じられないと言いた気な顔をしながら枕元まで飛んで来た小人に、俺は片手を伸ばして触れようとした。
(風の精霊か。ゲームで見た姿そっくりだな)
銀髪で空色の瞳、透き通った羽で空中を自在に飛び回るのは、風の精霊だ。
この世界には、属性ごとの精霊が存在する。
人間でその姿が視えるのは、勇者の力をもつ者だけだと言い伝えられている。
ゲームでは、勇者として覚醒した攻略対象は、自分と同じ属性の精霊が見えるようになっていた。
「えっ?! しかもボクの姿が視えるの?!」
俺が伸ばした手を見て、精霊はまた驚く。
彼女が避けようとしないので、俺はまだ満足に動かせない指先で、精霊の小さな手に触れてみた。
「……あ、そうか。君は勇者の力を持ってるんだね」
精霊は何か気づいたように、両手を俺の人差し指に添えて微笑んだ。
勇者の力をもつ者に対して、同じ属性の精霊は友好的になる。
アストルは全属性もちだから、どの属性の精霊とも親しくなれる可能性があった。
でも、映画では、赤ん坊のアストルが精霊と出会うシーンは無い。
俺が魔法を使ったことで、シナリオが分岐し始めたようだ。
魔力量を増やすには失神寸前まで魔法を使えばいいけど、赤ん坊が魔法を使っているのを見られたら大騒ぎになりそうだ。
魔法を使える赤ん坊の噂が広まったら、魔族によるソレイユ王国滅亡計画が早まるかもしれない。
俺は誰にも知られないように、魔力量を増やすことにした。
「アストル、いい子にしていてね」
頬に優しいキスを残して、母は部屋の外へ行ってしまった。
彼女は出産のダメージが少なかったので、3日休んだだけでもう公務に戻っている。
王妃であり聖女でもあるシェリルの公務は、主に神殿で行われる傷病者の治療だ。
(よし、この隙に魔法を使おう)
ベビーベッドに寝かされた俺は、自分だけに見えるステータスパネルを見つめて考える。
今の俺の能力値は、オールE表示になっている。
能力の高さは、上から順にABCDEFだった筈。
ゲームの主人公がオールFだったことを思えば、Eは赤ん坊としては高い方かもしれない。
(今すぐ使える魔法は……火、水、風、土の初級魔法か)
使用不可の文字が無い魔法は、光と闇を除く4属性。
しっかりとしたイメージさえできれば、魔法を使うことができる。
ゲームで魔法を使うシーンを何度も見ている俺には、そんなに難しくなかった。
しかし、ベッドに寝たまま火魔法を使ったら、火事になる予感しかない。
(水魔法ならいいかな)
俺はベビーベッド近くの空中に、水の球体を発生させた。
魔力量を示すゲージの減り具合から、消費した魔力が分かる。
今の俺は、ピンポン玉くらいの大きさの水球を、5個まで作れるようだ。
魔力Fの主人公の場合は、初期ステータス時に作れる水球は1個だった。
魔力Eなら、魔力消費量を増やせば、水球のサイズを拡大できると思う。
(デカイと目立つから、このくらいがいいな)
俺は水球を窓の外まで移動させた後、ぼんやり見えている樹木らしきものにぶつけて壊した。
部屋の中を濡らしたら、侍女の仕事を増やしてしまうし。
屋外にある木なら、濡れても構わないだろうと思ってのことだった。
「きゃあ!」
ところが、水球をぶつけた直後、窓の外から甲高い声が聞こえた。
やばっ。
誰かいた?!
……っていうかここ、映画と同じなら、3階の部屋の筈……
「もぉっ、誰? ボクに魔法をぶつけるなんて……」
文句を言いながら、窓から入ってくる女の子。
その姿を、俺は鮮明に見ることができた。
身体は小さく、手乗りサイズの小人。
長い銀髪に、つぶらな空色の瞳。
背中には、トンボみたいに透明な4枚の羽がある。
風景はぼやけてるのに、その娘はハッキリ見える。
女の子の姿は、視覚で感知しているわけじゃない。
ステータスパネルと同じで、脳に直接投影された姿だ。
女の子は、室内をキョロキョロと見回した後、ベビーベッドに寝ている俺に気づいた。
「隠れたって無駄だからね。ボクには魔法の残滓が視える……えっ? うそっ、赤ん坊?!」
女の子は、魔法を使ったのが誰か分かるらしい。
その特徴的な姿と、魔力の残滓が見える能力から、彼女が誰なのか分かる。
信じられないと言いた気な顔をしながら枕元まで飛んで来た小人に、俺は片手を伸ばして触れようとした。
(風の精霊か。ゲームで見た姿そっくりだな)
銀髪で空色の瞳、透き通った羽で空中を自在に飛び回るのは、風の精霊だ。
この世界には、属性ごとの精霊が存在する。
人間でその姿が視えるのは、勇者の力をもつ者だけだと言い伝えられている。
ゲームでは、勇者として覚醒した攻略対象は、自分と同じ属性の精霊が見えるようになっていた。
「えっ?! しかもボクの姿が視えるの?!」
俺が伸ばした手を見て、精霊はまた驚く。
彼女が避けようとしないので、俺はまだ満足に動かせない指先で、精霊の小さな手に触れてみた。
「……あ、そうか。君は勇者の力を持ってるんだね」
精霊は何か気づいたように、両手を俺の人差し指に添えて微笑んだ。
勇者の力をもつ者に対して、同じ属性の精霊は友好的になる。
アストルは全属性もちだから、どの属性の精霊とも親しくなれる可能性があった。
でも、映画では、赤ん坊のアストルが精霊と出会うシーンは無い。
俺が魔法を使ったことで、シナリオが分岐し始めたようだ。
0
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?
夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。
けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。
思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。
──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……?
※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。
聖女は支配する!あら?どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に。
naturalsoft
恋愛
この短編は3部構成となっております。1話完結型です。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
オラクル聖王国の筆頭聖女であるシオンは疑問に思っていた。
癒やしを求めている民を後回しにして、たいした怪我や病気でもない貴族のみ癒やす仕事に。
そして、身体に負担が掛かる王国全体を覆う結界の維持に、当然だと言われて御礼すら言われない日々に。
「フフフッ、ある時気付いただけですわ♪」
ある時、白い紙にインクが滲むかの様に、黒く染まっていく聖女がそこにはいた。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる