転生トリオのシナリオ改変~ゲーム知識で断罪も滅亡も回避します~

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陽太~アストルの幼年期

ep49:陽太視点⑨

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 ソレイユの近衛騎士団長は、オロール王の弟ソワールが務めている。
 小さい頃から身体能力に優れていたソワールは、史上最年少の12歳で剣術大会優勝を果たした天才でもあった。

「叔父上、俺に剣術を教えて下さい」
「おおアストル、身体を動かすのが好きな子だとは思っていたが、私と同じ剣士を目指すか」

 俺は3歳の頃から、叔父にねだって稽古をつけてもらっていた。
 叔父も俺の立場や身体能力に過去の自分を重ねたのか、熱心に教えてくれる。

「ほれアストル、その程度で転がっておっては大会優勝は遠いぞ!」

 叔父の稽古は、騎士団の日々の鍛錬以上に厳しかった。
 毎日何回も転がされる俺を見て、騎士たちが慄いているくらいだ。

「まだまだ!」

 そのくらい厳しくしてもらう方がいい。
 俺は叔父の猛稽古に音を上げることなく、剣の道を極めていった。

「アストルは凄いなぁ。僕はとてもあんな動きについていけないよ」

 稽古を終えた俺に、兄は苦笑しながら治癒魔法を使ってくれた。
 兄のアレクサンドルは、運動はからっきしだ。
 その代わり、彼は5属性の魔法を扱う才能を授かっている。
 特に治癒魔法は奇跡レベルで、欠損した手足を再生させたり、瀕死の重傷でも完全回復させる力を持っていた。

「兄上は魔法の天才だから、剣は苦手でもいいんだよ」

 痣と擦り傷だらけの顔や手足を治療してもらいながら、俺は笑って言った。
 普通の子供は、6歳を過ぎてから魔法が使えるようになる。
 アレクサンドルは、3歳から魔法を使えるようになった。
 前世知識による転生チートを持つ俺とは違い、兄は本物の天才だ。

「はい、治療終わったよ」
「ありがとう兄上!」

 叔父の稽古でできた傷は、兄の治癒魔法でいつも完治する。
 おかげで翌日には元気いっぱいで稽古に励むことができた。


   ◇◆◇◆◇


 5歳の誕生日、運命の時がやってきた。
 この日までずっと平和だったから、魔族が襲ってくるなんて誰も予想していない。

「「「アストル、誕生日おめでとう!」」」

 今年も、父と母と兄が笑顔で誕生日を祝ってくれる。
 けれど、その後に何が起きるか、俺は知っている。

 空が、急に暗くなった。
 月も星も無い、夜空のような暗黒が頭上に広がる。

「母上、兄上、光魔法で防壁を張って下さい。この国全体に」
「「「……え?」」」

 俺は笑みを消して、真剣な顔で頼む。
 空の異変を怪訝な顔で見上げていた父と母と兄が、揃って俺の方を向いた。

「急いで!」

 俺の様子から只事ではないと感じたのだろう。
 母と兄は手を繋ぐと光の魔法を練り合わせ、ソレイユ王国全体を光の防壁で覆った。
 直後、暗黒の空から無数の赤黒い炎の玉が降ってくる。

 ソレイユが島国で良かった。
 巨大な炎の玉は、防壁に阻まれてソレイユ領土には至らず、周囲の海に落下していく。

「……こ、これは……まさか……」

 次々に飛来する炎の玉を見つめて、父が呟く。
 母と兄は、防壁を維持しながら、青ざめた顔で空を見上げた。

「陛下! ご無事ですか?!」
「この防壁は、義姉上たちでしたか」

 異変に慌てて、近衛騎士たちが駆け付ける。
 その中には叔父の姿もあった。

 映画では、炎の玉が地上を火の海にするまで、誰も魔族の襲撃に気づかなかった。
 父も母も兄も叔父も、みんな炎に包まれて息絶えている。
 周囲に黒焦げの遺体が転がる中、秘められた勇者の力に守られて、アストルだけが生き残った。
 魔族から報告を受けた魔王は、アストルを連れ帰るように命じて、魔界で洗脳を施す。

 でも、今は違う。

 赤ん坊の頃から魔力を増やし続け、筋力を鍛え、剣術も磨いてきた。
 映画のアストルには無かった力が、今の俺にはある。

『リゼ、気配探知の拡大を頼む』
「はーい」

 周囲が騒然とする中、俺は攻撃目標に意識を集中させる。
 リゼに範囲を広げてもらった結果、敵は遥か上空にいるのが分かった。
 弓矢は届かない。
 魔族は魔法耐性が強いので、宮廷魔導士たちの魔法もほとんど効かない。

 攻撃手段は、勇者だけが使える光属性攻撃魔法。
 しかし、魔力を上げていたとはいえ、今の俺に使える回数は1回だけだ。

『ポラリス、短剣の姿で出てきて』
「承知」

 聖剣の力を借りよう。
 勝手に持ち出したのがバレたら、叱られそうだけど。
 逆手に持ち、俺の手と腕の下に隠した短剣に、気づく者はいなかった。

 チャンスは1回だけ。
 慌てちゃ駄目だ。落ち着け。

 俺は気配探知の脳内レーダーに映る、大きな赤い光に狙いを定めた。

『リゼ、ロジェ、手伝って』
「「いいよ」」

 リゼには速度を、ロジェには筋力を強化してもらう。
 俺は上空の敵めがけて、小さな聖剣を投擲した。
 短剣の投擲も剣術に含まれており、叔父からしっかりと訓練を受けている。
 空が暗く、炎の玉が次々に降ってくるおかげで、飛んでいく短剣に気づくものはいない。
 それは、上空にいる魔族も同じだった。

 降り続けていた火球が、突然消えた。
 防壁に守られながら、怯えた表情で空を見上げていた侍女たちが、何事かと訝しむ。
 火球が途切れたのは、ダメージを受けたことにより、敵の魔力が乱れたことを意味している。

 同時に、俺は敵を射程に捉えた。
 放つのは、風属性を持つ攻略対象が使っていた魔法だ。

 光×風複合魔法:超光速の矢(シュプラリュミニック)

 敵は勿論、味方にも目視できないであろう攻撃魔法。
 この魔法は目立たないので、隠れて使うのにちょうどいい。

 ポラリスを通して、敵の様子が視える。
 遥か上空で、魔族は胸に刺さった短剣を抜き取ろうとしていた。
 しかし、魔族には触れるだけでも皮膚を焼かれる聖剣は、掴むのもままならない。

 苦悶に歪む、魔族の顔が視える。
 その額にある赤い宝石を光の矢が貫き、後頭部まで突き抜ける。
 魔族の男は白目を剥き、石像の如く硬直した。

 映画の中で、ソレイユを滅ぼす魔族の名は「ペリル」。
 ゲームの中では、シナリオ後半で主人公たちと戦うボスキャラの1人だ。

 ペリルは俺のシナリオ改変によって、本来の災厄をもたらすことなく、塵と化して消え去った。
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