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第6章:秘められたもの
第53話:仔猫の卒乳
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お城でのお昼寝タイムの後。
警戒心ゼロなフサフサ王族のみなさんに惜しまれながら、俺は研究所に帰った。
王様たちに会いに行って一緒に昼寝して帰ってくる人間なんて、多分俺くらいだろうな。
過去にはいなかったろうし、これからも俺しか人間はいないからね。
ジル陛下がお土産を届けてくれたお礼だと言って、鹿肉をくれたよ。
お城の調理場を借りて焼いたのを味見したら、血抜き処理がきっちりしてあり、牛フィレ肉のように美味い赤身肉だった。
研究所のみんなが大喜びしそうだ。
鹿肉のタタキにするか?
ミンチにしてハンバーグもいいな。
わくわくしながら調理場へ向かう通路を歩いていると、ポウ博士が怒鳴る声が聞こえてきた。
「いいかげんにしなさいっ!」
「うわぁぁぁん!」
ミカエルらしき泣き声も聞こえる。
なんだなんだ?
親子喧嘩か?
部屋のドアが開いていたので、通りすがりにチラッと見たら、伏せながらそろそろと近付くミカエルと、それに飛びかかり噛みついて猫キックしているポウ博士が視界に入る。
なかなか激しい親子喧嘩のようだ。
息子が一方的にやられてる感もあるけど。
見なかったことにして通り過ぎようとしたら、泣きながら部屋から飛び出してくるミカエルとぶつかってしまった。
「痛っ!」
「ごめんごめん、飛び出してくるとは思わなかったよ」
「あ……タマおかえり。……うぇぇぇん!」
「お出迎えか泣きつくのか、どっちなんだ?」
「う……うわぁぁぁん!」
「はいはい、泣くのが優先ね」
ミカエルは俺の足にぶつかって床に転がった。
俺が謝りながら抱き上げたら、白猫ミカエルは青い宝石みたいな目をウルウルさせてこちらを見てくる。
よしよしと撫でてあげたら、本格的に泣き出してしまった。
俺はミカエルをあやしながら、部屋の中でヤレヤレとため息をつくポウ博士の方を見た。
「えーと、事情を聞いてもいい?」
「大した事じゃないんだけど、ミカエルがいつまでも卒乳しないから叱ってやったの」
「なるほど……」
睡眠時はいつも母ちゃんのオッパイを吸っているという甘ったれ仔猫ミカエル。
生後半年を過ぎ、子孫を残せる年頃になったのにまだ甘えてるから、とうとう引導を渡されたのか。
「とりあえず、乳離れするまで俺の部屋で預かるよ」
「ありがとう。お任せするわ」
泣きすぎてプルプル震えている白猫を片手で抱っこして、もう片方の手に鹿肉が入った袋をブラ下げて、俺は調理場へ向かう。
夕飯の支度にはまだ早いので、鹿肉は冷蔵庫に保管して自分の部屋へ向かった。
「ママに嫌われちゃったよぅ……うぇぇぇん!」
「あ~、あれ嫌っててやったわけじゃないと思うぞ?」
泣きじゃくるミカエルはポゥ博士の真意を理解していないようだ。
ところで、ミカエルには兄弟がいないんだろうか?
二千年前の猫は一度に5~6匹の仔猫を産むのが普通だったけど。
「なあミカエル、お前、兄弟はいないの?」
「いないよ。僕が初めての子だってママが言ってた」
俺はミカエルを泣き止ませるため、別の話題を振ってみた。
それは成功だったようで、ミカエルはやっと泣き止んだ。
「二千年前の猫は、一度に5~6匹子供を生んでいたんだけど、今は違うのか?」
「うん。歴史の授業で習ったけど、文明の発展と共に一度に生まれる数が減っていったらしいよ」
「そうなのか」
猫たちは文明を築けるほどの知性と引き換えに、多産能力を失ったのかもしれない。
二千年前の沖縄では、野良猫たちが春から秋まで繁殖を繰り返し、一度に生まれる数も多いと8匹とか普通にあったけど。
凄まじい繁殖能力で増え過ぎて、付近住民とのトラブルも絶えなかったのを覚えている。
「昔は、生まれても大人になる前に死んじゃう子が多かったから、たくさん生んでいたんだろうって先生が言ってた」
「そっか、今はそんなに死なないから1匹や2匹生まれたら充分なのか」
その変化は例の研究の副産物だろうか?
それとも、自然な進化によるものだろうか?
「だからボクはママのたったひとりの子供なのに、嫌われちゃうのはどうして~っ?! うぇぇぇん!」
「あ~落ち着け、ママはミカエルを嫌いになったわけじゃないから」
「本当?」
「おう。だから泣くな。落ち着くまで俺が傍にいてやるよ」
「じゃあ、いっぱい抱っこして、お膝に乗せて、夜も一緒に寝てくれる?」
「ママとパパが出張してるときみたいに、ここにいればいいよ」
「ありがとう!」
とりあえず、ミカエルはしばらく俺と同居することになった。
どのくらいでママのオッパイ忘れるのか?
あとで誰かに聞いてみよう。
【53話の裏話】
画像は2016年撮影、野良猫の母子の卒乳シーンです。
見ての通りもうそんなに大きさが変わらなくなった息子が母ちゃんの乳を吸おうとして叱られています。
意外とよくあることなのかな?
警戒心ゼロなフサフサ王族のみなさんに惜しまれながら、俺は研究所に帰った。
王様たちに会いに行って一緒に昼寝して帰ってくる人間なんて、多分俺くらいだろうな。
過去にはいなかったろうし、これからも俺しか人間はいないからね。
ジル陛下がお土産を届けてくれたお礼だと言って、鹿肉をくれたよ。
お城の調理場を借りて焼いたのを味見したら、血抜き処理がきっちりしてあり、牛フィレ肉のように美味い赤身肉だった。
研究所のみんなが大喜びしそうだ。
鹿肉のタタキにするか?
ミンチにしてハンバーグもいいな。
わくわくしながら調理場へ向かう通路を歩いていると、ポウ博士が怒鳴る声が聞こえてきた。
「いいかげんにしなさいっ!」
「うわぁぁぁん!」
ミカエルらしき泣き声も聞こえる。
なんだなんだ?
親子喧嘩か?
部屋のドアが開いていたので、通りすがりにチラッと見たら、伏せながらそろそろと近付くミカエルと、それに飛びかかり噛みついて猫キックしているポウ博士が視界に入る。
なかなか激しい親子喧嘩のようだ。
息子が一方的にやられてる感もあるけど。
見なかったことにして通り過ぎようとしたら、泣きながら部屋から飛び出してくるミカエルとぶつかってしまった。
「痛っ!」
「ごめんごめん、飛び出してくるとは思わなかったよ」
「あ……タマおかえり。……うぇぇぇん!」
「お出迎えか泣きつくのか、どっちなんだ?」
「う……うわぁぁぁん!」
「はいはい、泣くのが優先ね」
ミカエルは俺の足にぶつかって床に転がった。
俺が謝りながら抱き上げたら、白猫ミカエルは青い宝石みたいな目をウルウルさせてこちらを見てくる。
よしよしと撫でてあげたら、本格的に泣き出してしまった。
俺はミカエルをあやしながら、部屋の中でヤレヤレとため息をつくポウ博士の方を見た。
「えーと、事情を聞いてもいい?」
「大した事じゃないんだけど、ミカエルがいつまでも卒乳しないから叱ってやったの」
「なるほど……」
睡眠時はいつも母ちゃんのオッパイを吸っているという甘ったれ仔猫ミカエル。
生後半年を過ぎ、子孫を残せる年頃になったのにまだ甘えてるから、とうとう引導を渡されたのか。
「とりあえず、乳離れするまで俺の部屋で預かるよ」
「ありがとう。お任せするわ」
泣きすぎてプルプル震えている白猫を片手で抱っこして、もう片方の手に鹿肉が入った袋をブラ下げて、俺は調理場へ向かう。
夕飯の支度にはまだ早いので、鹿肉は冷蔵庫に保管して自分の部屋へ向かった。
「ママに嫌われちゃったよぅ……うぇぇぇん!」
「あ~、あれ嫌っててやったわけじゃないと思うぞ?」
泣きじゃくるミカエルはポゥ博士の真意を理解していないようだ。
ところで、ミカエルには兄弟がいないんだろうか?
二千年前の猫は一度に5~6匹の仔猫を産むのが普通だったけど。
「なあミカエル、お前、兄弟はいないの?」
「いないよ。僕が初めての子だってママが言ってた」
俺はミカエルを泣き止ませるため、別の話題を振ってみた。
それは成功だったようで、ミカエルはやっと泣き止んだ。
「二千年前の猫は、一度に5~6匹子供を生んでいたんだけど、今は違うのか?」
「うん。歴史の授業で習ったけど、文明の発展と共に一度に生まれる数が減っていったらしいよ」
「そうなのか」
猫たちは文明を築けるほどの知性と引き換えに、多産能力を失ったのかもしれない。
二千年前の沖縄では、野良猫たちが春から秋まで繁殖を繰り返し、一度に生まれる数も多いと8匹とか普通にあったけど。
凄まじい繁殖能力で増え過ぎて、付近住民とのトラブルも絶えなかったのを覚えている。
「昔は、生まれても大人になる前に死んじゃう子が多かったから、たくさん生んでいたんだろうって先生が言ってた」
「そっか、今はそんなに死なないから1匹や2匹生まれたら充分なのか」
その変化は例の研究の副産物だろうか?
それとも、自然な進化によるものだろうか?
「だからボクはママのたったひとりの子供なのに、嫌われちゃうのはどうして~っ?! うぇぇぇん!」
「あ~落ち着け、ママはミカエルを嫌いになったわけじゃないから」
「本当?」
「おう。だから泣くな。落ち着くまで俺が傍にいてやるよ」
「じゃあ、いっぱい抱っこして、お膝に乗せて、夜も一緒に寝てくれる?」
「ママとパパが出張してるときみたいに、ここにいればいいよ」
「ありがとう!」
とりあえず、ミカエルはしばらく俺と同居することになった。
どのくらいでママのオッパイ忘れるのか?
あとで誰かに聞いてみよう。
【53話の裏話】
画像は2016年撮影、野良猫の母子の卒乳シーンです。
見ての通りもうそんなに大きさが変わらなくなった息子が母ちゃんの乳を吸おうとして叱られています。
意外とよくあることなのかな?
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