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幼馴染みのやり直し
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1、
車道が削れて出来た水溜まりを、すれ違うクルマが跳ね上げる。
小学生の頃は、それを咄嗟に傘で防ぐのがカッコイイ気がしていた。
『ユーヤ、すごいのです! アニメの騎士様みたいなのです!』
近所に住む幼馴染が、そんな俺に目を輝かせていたっけな。
今じゃ、その幼馴染とも話さなくなった。
クルマの跳ね上げる泥水だって、被らないようにクルマが行くのを待つだけ。
年齢相応の成長。
言ってしまえばそれだけなのだが、どこか物寂しさを覚えないでもない。
ふと、大きな水音が上がるのを耳にした。
身構えて、すぐにおかしいと思い直す。
さっきの水溜まりを超えたら、またしばらくは車道側には水溜まりがなかったはずだ。
「って、おい! 大丈夫か!?」
歩道にできた大きな水溜まりに、女の子が前のめりに倒れ込んでいた。
貧血だろうか?
側頭部の左右で髪を結んだ女の子は、俺の通う高校の女子制服を着ていた。
脳内で点と点が繋がって線になり、目の前の行き倒れが誰かわかってしまった。
「みづっ……古森! どうした」
すっかり没交渉になった幼馴染、古森満月(こもり‐みづき)だった。
傘を放り出して、古森を助け起こす。
顔にへばりついた前髪をよけて、雨に打たれるがままの古森の頬を叩く。
血色がよくない。
昔から白かった肌は、今もレシートの感熱紙みたいに白い。
呼びかけながら頬を叩いても、一向に古森は目を覚まさない。
「きゅっ、救急車!」
スマホを取り出し、俺は人生で初めて一一九へと電話をかけた。
完全に力の抜けた人体は重い、と聞く。
けれども、制服が水を吸っているにも拘わらず、背負った古森は驚くほど軽い。
小柄だが、背に当たる膨らみは俺がこの状況でもドギマギするのに十分すぎるものだ。
こいつ、飯食ってないのか?
そのまま自宅へと引き返し、救急車の到着を待った。
体温が下がるとまずいだろう。
自分のと、海外赴任で家を空けている両親の使っていたバスタオルを持って来て、古森を包む。
やがて救急車が到着し、救急隊員が古森を乗せたのに続いて俺も乗り込んだ。
◆
診断結果は、栄養失調。
今から登校しても遅刻は確定だし、まだ目を覚まさない古森を置いていくのも忍びない
やむを得ず、俺は学校に欠席の連絡を入れる。
古森の件も告げておいたから、あいつの両親が迎えに来たら帰るつもりだ。
ロビーの自販機で缶ジュースを買い、雨にけぶる駐車場を眺める。
あいつ、飯食ってないのか。
『みづ、今日、オレん家でメシ食ってけよ』
『うん! 食べていくのです!』
小学校の頃、何度となく交わされたやり取りを思い出す。
あの頃は、俺の両親もまだ日本で働いていたらから、よく一緒に食卓を囲んだっけな。
中学ん時からだ、あいつがうちに来なくなったのは。
『女の子だから、そういうのはもうやめておきなさい、だって』
寂しそうに、古森は俺の誘いを断ったのだ。
それから、間を置かずしてうちの両親が海外赴任になった。
寄り添い合うことができるのに、間にセケンテイを置かれてお互い一人の夜を過ごすようになった。
俺は、ひとりの寂しさを埋めるように仲間を作った。
古森は、俺と没交渉になってから地味な女子になっていった。
高校二年になった今年、小学校を卒業してから初めて古森と同じクラスになった。
けれど、お互いに違う時間を過ごしたせいか、一度も話したことはない。
休み時間に友達と騒いでいても、ずっと一人で教室の片隅で本を読んでいる古森のことが、気になっていた。
それでも、俺は古森を放っておいた。
こうなった原因は、俺、なのだろうか?
不意に、スマホが電話の着信を知らせて来た。
知らない番号だったが、出てみると古森の母親だった。
学校にゴネて、俺の番号を聞き出したのか。
海外に出張中で帰れないため、昔のよしみで古森の面倒を見てやってくれないかとのことだった。
勝手なことを言うな。
あんたが、他ならぬあんたが俺と古森を引き裂いたんじゃないか。
セケンテイだの、マチガイがあってはイケナイだのと。
だったらせめて、もっと古森の健康や幸せに気を配ってやれよ。
「……わかりました」
言ってやりたいことは山ほどあったが、家庭の事情だ。
俺が古森の両親にキレても、何も事態は好転しないだろう。
今できる最善は、古森の予後を大切にしてあげることだ。
誰も古森を迎えに来ないとわかったので、俺はスマホゲームでもやることにした。
しかし、すぐにLINEの通知が飛んできた。
〈あの地味女の付き添いで休んだって、マ?〉
〈ユーヤ、どういう関係なん?〉
〈ああいう女が趣味か〉
〈目の前で倒れられたから、病院に付き添っただけだから〉
地味女。
ああいう女が趣味。
いじめでは、ない。
冗談で言っているのは、わかる。
けれど、冗談でも古森がこんな風に言われてしまうのは、辛かった。
だってそれは、俺が古森を自分の仲間の輪に入れなかったせいなのだから。
◆
「迷惑をかけたのです、ユーヤ」
久しぶりに俺を呼んだ声は、以前よりも落ち着いたというか、元気がない感じがした。
点滴で回復したのか、倒れていたときよりは血色がいい。
大きな垂れ目は顔にあどけなさを残していて、一方でふっくらとした唇は俺が離れていた間の成長を物語っているようだった。
着替えを持ってこられないことを、病院側が斟酌してくれたのだろう。
古森は倒れたときと同じ制服姿だったが、濡れたままではなかった。
雨はまだ降り続いている。
せっかく乾かしてもらったのに、また濡れてしまうな、と思った。
「よく俺がわかったな」
当たり前のように古森を待っていたが、こいつが一人で帰る可能性を俺はまったく考慮に入れてなかった。
実際、こうして隣に座って来たのだが。
「お姉ちゃんが、教えてくれたのです」
「お姉ちゃん……? あぁ、あの」
古森は、少し上の何もない空間に向かって親しげに目を細めている。
まだこいつには、お姉ちゃんが視えているのか。
「じゃあ、帰ろうか」
立ち上がりかけて、俺の腹がマヌケな音を立てた。
古森は首を傾げ、その大きな目をぱちくりさせた。
「……の前に、メシ食ってこうか」
スマホを取り出し、時間を見る。
そういえば、古森が戻る前に正午のサイレンを聞いていたっけ。
「ユーヤ」
「ん? どした」
「会計、まだなのです」
「あ、そうか。そうだったな」
ほどなくして、古森の名前が呼ばれた。
とてとてとて、と支払い口に向かった背中を見守っていると、不意に古森が振り向いた。
眉を下げて、俺に向かって手招きしてくるではないか。
苦笑いしつつ立ち上がり、小走りで向かう。
保険証こそ持っていた古森だが、診察料は俺が立て替えることになった。
初診料のダメージは、学生の財布には響くぜ。
「ごめんなのです。私、ユーヤに迷惑かけてしまったのです」
小動物めいた古森にぺこぺこと謝られ、慌てて制止する。
「いい、いいって、いいんだよ」
「私、やっぱり他人に迷惑をかけてしまうのです。生きるのが、ド下手くそなのです」
器用そうだとはお世辞にも言えないが、そんなに自分を卑下せんでも。
「じゃあ、メシにするか」
ロビーを出て傘を差して、そういえば古森の分の傘がないことに気が付いた。
救急車に乗り込むとき、動転しててそこまで気が回らなかったのだ。
ここで待ってるように言う直前、肘に柔らかなものが当たった。
「ッ!?」
懐に入り込んできた、古森が腕を絡めてきたのだ。
俺の知らない間に発育した部分の破壊力は凄まじく、下腹部が緊張してしまう。
しかし、こういうのはやめろと騒いで注目を浴びる方が恥ずかしい。
仕方なく俺は、ファッション誌のイケメンのようにしきりに首を痛めたふりをしながら歩き出した。
運ばれたのが、大学病院だったのが幸いしてコンビニも食堂もあったのは助かった。
コンビニのATMで金を下ろし、食堂へ向かおうとすると袖を引っ張られた。
おい、雨で靴も床も濡れてるんだから、危ないだろ。
こけて怪我してもここが病院だから安心、ってか?
やかましいわ。
無言の古森にやかましいわなどと胸中でツッコミを入れつつ、首だけで振り向いた。
「どうした」
無表情の古森がまっすぐ指差す先を見れば、おにぎりの冷蔵棚があった。
「診察料も払ってもらった上に、高いご飯を奢ってもらうのは、申し訳ないのです」
だからおにぎりで我慢するってか?
んな、フランス料理のフルコース食いに行くわけでもあるまいし。
「馬鹿言うな。お前、自分がどうして倒れたのか、医者から聞いてないわけじゃあるまいな」
「……不運、なのです?」
そいつは医者では治せんわ。
「小首傾げてんじゃねぇ、栄養失調だろ。黙って栄養のあるもんを食え」
コンビニへ寄ったついでにビニール傘を古森に買い与え、外へ出た。
少し歩いた先に、食堂はあった。
学食ですっかり慣れた券売機を眺める。
うちの学食よりは、少し高めの値段設定かもしれない。
千円札を入れてから、古森に先に買うよう促す。
メニューの下の方にあるうどんに伸びかけた古森の手を、咄嗟に掴む。
「栄養あるものにしろって、言ったよな」
「でもでも、いきなりカツカレーなんて食べられないのです」
軌道修正を図る俺が押させようとしたものを、古森は拒否する。
「なんで」
「昨日からご飯、食べてなかったのです」
そら倒れるなぁ。
断食明けに急にハイカロリーなものでは胃がびっくりする、ってやつか。
「そうか。じゃあ、せめてこっちにしろ」
うどんの横にある、サラダうどんへと古森の指を移動させる。
これなら野菜も載ってるし、素うどんよりはマシだろう。
俺は、きつねうどんにした。
「ごちそうさまなのでした」
「待てコラ」
食い終わり、席を立とうとした古森を引き留める。
「野菜食えよ」
どんぶりには、器用に避けられた水菜やらキャベツやらなんやらがガッツリ残されていた。
「いやなのです。私、逆ビーガンですので」
逆ビーガン?
それって、炭水化物を食っていい主義なのか?
「ひとの財布の心配しといて、舌の根も乾かないうちに素うどんよりも値段を吊り上げる少量の野菜を残すたぁ、どういう了見なんだテメェ、あぁん?」
「それとこれとは、話が別なのです。ユーヤが無用の施しをしたのが、いけないのです」
こいつ言ってること、めちゃくちゃだなぁ。
「しゃあねぇな……ひとまず座れ」
食器下げ口に向かおうとする古森を、もう一度席に着かせる。
野菜を食わされるのが心底嫌なのだろう。
恨みがましい上目遣いで睨んでくる。妙な迫力があって、ちょっと怖い。
そんな悪い話じゃないから、その目をやめてくれ。
「ほらよ」
最後の楽しみにとっておいた、油揚げを古森のどんぶりへと移す。
「ユーヤ、油揚げ嫌いなのにきつねうどんにしたのです?」
「んなわけあるか」
むしろ油揚げ大好きだよ。チョコレートと同じくらい好きだよ。
だから変態を見るような怯えた目をやめろ。話は最後まで聞け。
「なるほどなのです。野菜を残す私に合わせて、油揚げを残すのですね」
「異次元の解釈をしてんじゃねぇ」
食わずに下げ口に行ったら、俺は紳士であることを未来永劫に放棄してお前を殴る。
「古森、油揚げ嫌いじゃないよな」
首肯する様を確認して、続ける。
「じゃあ、油揚げの上に野菜を載せろ」
チキンライスからグリーンピースをのける子供みたいな箸遣いで、古森は嫌そうながらも俺の言う通りにした。
比喩のつもりだったが、こいつならガチでグリーンピースよけてそうだな。
「よし。そしたら、野菜を油揚げで包んで食え。思いっきり、かぶりつけ」
「うぅ、ユーヤがベジタブルハラスメント男になってしまったのです」
新しい胡乱なハラスメントを創作すな。マナー講師かお前は。
「はい、がんばれ。油揚げは美味いぞ。野菜はそんなに味はせんぞ」
「いやなのです、野菜には人体に有害な農薬と虫のフンが付着しているのです」
死にたくないのです、と目に涙を矯めて駄々をこねる古森。
逆ビーガンを唱えるのはそれゆえか。
うどんは食ったことの説明は、小麦は挽いてあるから平気とでも言うのだろうか。
「洗ってあるから平気だよ」
「水洗いじゃ、自転車のチェーンの油も落ちないのですよ? それが農薬なら何をかいわんやなのです」
「わかった、わかった」
俺は古森のどんぶりへと、ひょいっと箸を突っ込んだ。
野菜を三分の一程度摘まむと、それを自分の口へと運ぶ。
信じられないと言いたげな顔で古森に見られながら野菜を咀嚼し、完全に嚥下した。
それから、箸を持っていない方の古森の手を両手で包み込んだ。
「たとえ生まれた日、過ごした時間は違っても、死ぬときは一緒だ」
冗談めかして言うと、温度の上昇を示す水温計みたいに古森の白い肌が首から赤くなっていった。
「お、おい。どうした? まさか野菜アレルギーだったのか?」
そうならそうと早く言ってくれよ、と言いかけたが、古森はゆっくりと首を左右に振った。
野菜を包んだ油揚げを口に運ぶや、勢いよく齧りついた。
たちまち平らげたかと思うと、包み切れなかった野菜まで食べてしまった。
頑なに拒んでいたのに、どういう風の吹き回しだろう。
「食えるじゃねぇか。えらいぞ」
「ユーヤ」
「どした」
「責任、取るのですよ」
「あぁ」
残留農薬の話をする人はまあまあいるが、即死するやつはいない。
だから、責任と言われてもピンとこないが適当に流しておいた。
大丈夫、俺もお前もしばらく死なない。
食堂を後にすると、俺たちはマップアプリの案内に従ってバスと電車を乗り継いで帰宅した。
道中、小学校までの思い出話を始めると、もう止まらなかった。
自習のとき教室に入り込んで来た二頭の野良犬が、交尾を始めたこと。
運動会のマスト上りで、遠くに竜巻が発生したのを見た俺が「竜巻だーっ」と叫んで大騒ぎになったこと。
遠足で迷子になって、泣いている古森を俺が見つけたこと。
自然公園の底なし沼にはまったとき、古森が助けを呼んでくれたお蔭で助かったこと。
上級生に絡まれた古森を庇ったせいで、しばらくからかわれたこと。
懐かしい話題で盛り上がるのは、仲間とバカやるのとは違った楽しさがあった。
地味で暗い女になったと思っていた古森は、話してみたら昔と全然変わってなかった。
楽しい一方で、俺は心をチクリと刺す痛みを覚えていた。
やっぱり、俺が古森を変えていたんだ、と。
「ユーヤ、ばいばいなのです」
古森は自宅の門の前で俺に手を振った。
昔、日が暮れるまで一緒に遊んでいた、あの頃のように。
「みっ……またな、古森」
みづ、と昔の呼び名を出しそうになって、慌てて言い直した。
今の俺に、古森をそう呼ぶ資格はない。
小首を傾げるも、すぐに無邪気な笑みで「またなのです」と言って古森は家の中に入って行った。
2,
翌日。
古森は学校に来なかった。
大事を取って、休むとのことだった。
スカートを尻に手で撫でつけるや、俺の机に座る女がいた。
「ユーヤ、今日は来てくれたのね」
「真彩(まや)。おはよう」
生白い喉を晒し、髪をかき上げる。
重力に従い、ウェーブのかかった豊かな髪が零れ落ちる。
切れ長の目、高い鼻とすらりとした長身が特徴的な、いわゆるところのギャル層の女だ。
机に乗る短いスカートから露出した、白く肉感的な太腿が目の毒だ。
紫宝珠(しほうじゅ)真彩。
自分と似たような女をいつも三~四人連れて、どういうわけか再々俺の席にやってくる。
「ところで」
机に突いた手を軸に、真彩が身を乗り出して来る。
化粧品だか香水だか知らんが、人工的な甘い香りに襲われる。
「古森さん、大丈夫そうだった?」
深刻そうな顔を近づけて、真彩はそう訊いて来た。
「なんとかな。栄養失調で倒れたんだと」
「良かったぁ~、ってギャアアアッ!」
「危ない!」
オーバーに仰け反り、安堵を表現したが最後。
真彩の腰かけた俺の机が転倒した。
「あ、ありがとうユーヤ」
「もうちょっと落ち着けないのか、お前は」
咄嗟に立ち上がり、倒れ込む真彩の手を掴むことに成功した。
幸い、前の席の主は外していたので、真彩の不注意に巻き込まれる人はいなかった。
真彩の叫びと机の倒れた音で、俺が注目を浴びただけだった。
「お、落ち着いてるし! 余裕のあるオンナ、やってるし!」
転倒から助けてやった腕を、顔を上気させた余裕のあるオンナがピシピシと小刻みに叩いて来る。
「ソウダネ~、オトナノオンナダネ~」
「も、もう知らない! あんたなんか、もう連れション誘ってあげないんだから!」
「誘われても困るんだが!?」
フンガー、と肩をいからせて去って行く真彩。
取り巻きたちもその様を微笑ましそうに見守りながら、真彩について行ってしまった。
「余裕のあるオンナというか、おもしれぇ女だよな」
真彩たちと入れ替わりに、昨日LINEを送ってきた友人たちが集まって来る。
LINEだけでなく、しゃべらせても口さがない連中だ。
「付き合い出したらでいいいから、古森さんのスリーサイズだけ教えてくれ」
「やめろ。そんなんじゃねぇから」
「昨日、ヤッたんだろ」
「ようし、最初に殺すのは貴様にしてやろう」
「ヤった話が聞けると思ったら、殺られるのは俺だった件」
「古森さん、実際プロデュース次第で化けるだろうな」
「そんなに気になるなら、ズリネタにしてないで気にかけてやってくれよ」
「気にかけるより胸にかけたい」
「お前はいったい、何の話をしているんだ!?」
◆
〈具合はどうだ?〉
〈ちゃんとメシ、食ってるだろうな?〉
昼休み。
話が盛り上がった勢いで古森とLINEを交換したのを、早速利用させてもらった。
古森からは、ひとを舐め腐ったような真顔のトリがサムズアップしているスタンプが返って来た。
「ちょっと。私がいるのにスマホばっか眺めてるって、どゆこと?」
「すまんすまん」
ピロリン♪ カシャッ!
玉子焼きを口いっぱいに詰め込んだ真彩に、カメラを向けて撮影。
咀嚼の最中だからと、しっかり口を閉じたまま鼻息を荒げる真彩。
いかなるときも余裕を忘れずクチャラーに堕さない、良い子だと思う。
必死に俺のスマホをぶんどろうと、箸を持ったまま手を伸ばして来るのさえ、上品に見える。
「真彩かわいいよねぇ」
「うむ……真彩たそは癒しの権化」
「高身長クールビューティーから繰り出されるトンチキ三枚目仕草。まさにおもしれぇ女」
取り巻きたちの評価は散々だが、みんなから愛されているのがよくわかる。
昼食は、いつも口さがないバカどもと摂っているのだが、今日は一人で食うことにした。
古森が心配だったからだ。
けれど、一人で購買のパンを買ったところを真彩たちに捕まってしまったのだ。
そういうわけがあって、今の状況に至る。
「消しなさいよぉ、さっきの写真!」
玉子焼きを嚥下した真彩が、ずびしっ、と人差し指を突きつけてくる。
「はいはい、っと」
俺抜きで寂しくメシを食ってる口さがないバカどものグループに、真彩の写真を投稿する。
「消したよ」
ギャラリーのカメラロールフォルダを出して、真彩に確認させる。
しかし、それはあまりに真彩を舐めすぎていた。
というか、LINEの通知を切っていなかったのが災いした。
LINEの通知音がするや、真彩は俺のスマホを掠め取った。
古森とのやり取りを見られるのは、少し気恥ずかしい。
立場逆転。
今度は俺が、スマホを取り戻そうと手を伸ばす番だった。
しかし。
「ギャアアアアアアアアアッ!!」
攻防戦に発展するまでもなく、真彩が悲鳴を上げてひっくり返った。
なんだろうと思って、真彩が取り落としたスマホを拾うと口さがないバカどもとのグループが表示されていた。
〈抜いた〉
〈マジシコ〉
〈全部飲めよ、出すぞっ!〉
〈出会い系登録待ったなし〉
〈おっさん釣ってあそぼ〉
〈さすがに釣れないだろ〉
「あいつら……」
真彩の写真への下品なコメントに頭を抱える。
「ユーヤはいい人なんだけど」
「つるんでる友達は、なかなか看過しがたいクセがあるよね」
「さすがにやりすぎだよ、ユーヤ君」
「あいつらに投げるのは、やりすぎだったな」
この後、めちゃくくちゃ真彩に怒られた。
◆
放課後。
学校の帰りにスーパーへ立ち寄った。
カゴに鶏モモ肉、ポトフの素、ブロッコリーなどの野菜を放り込む。
レジにて精算、一路、古森宅へと向かう。
チャイムを鳴らすと、ダボッとした大き目サイズのTシャツ姿の古森が姿を現した。
「よ」
しかし、古森はあらぬ方向へ目をやると、急に切羽詰まったような顔になる。
バタンッ!
目の前で、勢いよく玄関ドアが閉められてしまった。
立ち尽くす俺。
えー、何事?
せっかくメシ作ってやろうと思ったのに。
待てよ?
ドアを閉める直前、古森は斜め上の空間とアイコンタクトのようなことをしてなかったか?
古森は、まだお姉ちゃんが視えていると言っていた。
お姉ちゃん。
別に、古森には死産流産含めて死んだきょうだいなどいない。そう聞いている。
イマジナリーフレンドとか虫の知らせというやつが、一番近いみたいだ。
昔から、あいつは何もない空間に頷いたり笑いかけたりしていた。
何をしているか訊くと、お姉ちゃんと話していると返って来た。
小学四年生の頃。
火事を想定した避難訓練のときに、急に古森が隊列を飛び出したことがあった。
あっけに取られる俺の手を引き、そのまま先生の机の下へ押し込まれた。
怒った先生が追いかけて来たが、突然、本物の地震が学校を襲ったのだ。
古森に上級生が絡んで来たのは、それを気味悪がってのことだった。
正確には、地震で怪我をした同級生が、その兄だの姉だのを焚きつけたんだっけな。
つまり、古森が俺を締めだしたのは、お姉ちゃんが危機を報せたということだ。
俺を中に入れなかったのは、さすがに地震ではなくもっと個人的なことだと信じたい。
振り返ると、視界の端で塀に隠れた者のスカートが翻ったのが見えた。
つけられただと?
一体、誰がそんなことを。
レジ袋を古森宅の玄関ドアにかけ、俺は塀の方へと走った。
上級生に目を付けられた、あの小学生の日からなんとなく身体は鍛えている。
住宅街を抜け、昨日、倒れた古森を発見した大通りへと出る。
居た。
ウェーブのかかった髪を上下させて必死に逃げるシルエットを捉え、加速する。
相手の進行方向に回り込み、立ち塞がる。
「お前、何やってんの?」
真彩だった。
観念したのか、立ち止まった真彩は膝に手を突いて息を整える。
こいつの家がどこかは知らんが、この辺りで見たのは初めてだ。
「え、えーと、その……ユーヤと一緒に、帰ろうかなー、帰りたいなーって」
もう俺ん家のすぐそこなんだが。
声をかけるタイミングを逸するにも、程があるだろ。
なるほど。
古森は、お姉ちゃんからこの不審者の接近を知らされたわけか。
「よくわからんが、目的は達せたな? 帰れ」
「ひどくない? 私、ここまで来たんだよ」
知らん。古森が怯えるだろうが。
「一緒に、カラオケでも行こうよ」
「ん、わかった」
パッ、と真彩の表情が明るくなる。
「でも俺は先にやることがある。先に行っててくれ」
即座に表情が固まる真彩。
忙しいやつだな。
口さがないバカどものグループを開き、たまたま目についた佐藤に電話をかける。
「あー、もしもし佐藤? わりぃ、なんか今、真彩がカラオケ行こうつってんだけど。お前らも集まれるか?」
『真彩? 一人? あいつの友達も呼ばせろよ』
真彩の取り巻きにご執心か。
「真彩、いつもの友達呼べ……いねぇし」
『は? 帰ったの? ったく、俺ら嫌われすぎじゃね?』
百お前らが悪いわけではないが、自分の胸に手を当てて理由を考えてみて欲しい。
「悪かったな、佐藤」
『いいよ。じゃな』
通話を切り、古森宅へと引き返した。
3,
改めて古森宅を訪問すると、普通に入れてもらえた。
上がるなり俺は、キッチンに入ってゴミ箱を覗き込んだ。
「これは……」
ゴミ箱には、カップラーメンのカップとペットボトルしか入っていないのだ。
「ちょっとユーヤ、どこを見ているのです!」
慌てた古森が、袖を引っ張ってくる。
いや、どのみち調理するんだから俺はここに陣取るぞ?
「お前が普段、どういう食事をしているかよくわかった」
流しで手を洗い、早速調理に入る。
「いいか? 俺が主導で調理はするが、見て覚えるんだぞ?」
「どうしてなのです?」
「お前がいちいち栄養失調で倒れていたら、俺まで出席日数が足りなくなるんだよ」
「私にひとりで死ねというのです? 昨日の約束をもう忘れたのですか」
「ちげーよ。お前が調理を覚えて栄養管理を覚える、お前が健康に過ごす、俺も出席日数で困らない。完璧だろ?」
「めんどくさいのです」
「わかる。わかるよ、でもやってくれ。カップ麺オンリーで倒れないでくれ」
「善処するのです」
「包丁を使うの、案外慣れると楽しいぞ」
「殺すのです?」
何をだ。主語を言え、主語を。
「まず野菜を洗って……」
簡単なポトフの作り方を実演で教え、古森からはひとまず理解したような反応を得た。
「肉を切る感触、楽しいのです」
うん、調理開始前に言ったこと、思い出せ?
「簡単だろ? カップ麺食ってんだから、湯は沸かせるもんな」
「お湯を沸かすのは、任せてくれなのです」
「あとは、野菜を洗って切って、肉を切って、ポトフの素と一緒に煮ればよし。作り置きすれば、温めただけで食える」
言いながらポトフをよそい、古森に食卓へと運ばせる。
「うまいか」
「食えるのです」
「微妙に腹の立つリアクションだな」
「鶏肉うまいのです」
「頼むから野菜も食ってくれ」
「善処するのです」
鶏肉をまた口に運ぶ古森。野菜はスープに沈んだままだ。
ところが、偏食を続ける古森の視線が空中に固定される。
凍り付いたように表情までが固まり、勢いよく首を左右に振りだした。
お姉ちゃんは一体、古森に何を吹き込んだんだ?
鶏肉を嚥下し、お姉ちゃんのいる座標とポトフを見比べる古森。
すると、意を決したように古森はフォークをブロッコリーに突き刺した。
「お……!」
穴が空きそうなほど、古森はブロッコリーを見つめる。
口元で止まったブロッコリーから、ぽたぽたとスープが垂れる。
パクリ。
目を閉じて深呼吸した後、古森はブロッコリーを一口で食べた。
「食った! 古森が食った!」
何を言ってくれたのか知らねぇが、ありがとうお姉ちゃん!
これで突破口が見えた。
その後も、古森は辛(つら)そうにしつつも、野菜を食べ進めた。
やがて完食すると、席を立って椅子ごと隣にやってきた。
「ユーヤ」
「どうした」
「完食したのです。私、偉いのです?」
「おう、偉い偉い」
小さい子みたいな素振りで、頭を俺に向けてくる。
なんだその頭は。
戸惑う俺に、何かを期待するかのような上目遣いが突き刺さる。
不意に、古森の顔が朱に染まる。
目を伏せて、恥じらいを覚えた様子で、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「お姉ちゃんが、言ったのです。野菜、ちゃんと食べたら、ユーヤが頭、撫でてくれるのです。食べなかったら、また口利いてくれなくなる、です」
やり手だな、お姉ちゃん。
古森のツボだけでなく、俺の負い目まで攻めてきやがるとは。
「これで、いいか?」
肩に頭を預けてくる古森の頭に、手を置く。
家に居るというのに、しっかり側頭部の左右で髪を結んでいる古森。
小学生の頃から、こいつずっとこの髪型だな。
ぴっちりとしてつむじの見える頭頂部を撫でたり、結んだ髪の束を手で梳いてやったりする。
よく懐いた犬猫みたいに、目を閉じて気持ちよさそうにする古森。
「古森」
「ん」
「今まで、悪かった」
目を開いた古森が、不思議そうに俺を見上げてくる。
「お前がうちに来れなくなったからって、俺、自分だけ寂しさを埋めようとして。お前のこと、全然考えてなかった。お前のこと、一人にして、すまなかった」
頭を撫でながら謝るのも、おかしいか。
ちゃんと謝るために止めようとした手を、しかし古森が掴んで来た。
「いいのです、ユーヤ。私は、ユーヤの邪魔になりたくなかったのです」
「邪魔だなんて! ……いや、俺が古森を邪険にしたんだ。悪かった」
「謝らないでほしいのです。私が、誰になんと言われようと、ユーヤの作る輪に入っていかなかったのが、そうする勇気を出せなかったのがいけないのです」
「いや! 俺が、古森が入って来づらい雰囲気を!」
「雰囲気に負けた、私が悪いのです」
「そんな、お前は悪くないよ」
「いいえ、私が悪いのです」
そこまで言って、こりゃキリがないと思っていると古森が柔らかな表情を向けてきた。
「優しいのです、ユーヤ」
「違うよ。俺は、古森を一人にした罪滅ぼしをして、自分が楽になりたいだけの卑怯な男なんだ」
「構わないのです。ユーヤは今、こうして隣に帰ってきてくれたのです」
首に、古森の腕が回される。
身を乗り出してきた古森の顔が、すぐ近くにある。
柔らかな唇が、頬に触れた。
「お前」
「今は、これが精一杯なのです。私の、ユーヤにできる、おかえりの合図なのです。帰ってきてくれてありがとう、のお礼なのです」
上気させた顔を俯けて、それでいてちらちらと俺の反応を伺っている。
「……嫌、だったのです?」
「そんなわけ、ないだろ」
もう古森を、いや、みづを一人になんてしない。
誓いを胸に、みづの肩へと手を回した。
ぴくり、みづの肩が跳ねる。
「大好きなのです、ユーヤ。これからずっと、ずっと一緒なのです」
「約束するよ」
みづの顔を覗き込む。
応えるように、みづも紅潮させた顔で俺を見上げる。
抱き寄せると、目を閉じるみづ。
その柔らかな唇に、俺は唇でそっと触れた。
4,
キッチンの片付けを終わらせたところで、気になっていたことを切り出した。
「それにしても、どうしてこんなに食が乱れていたんだ?」
ラーメンのカップも妙に小さいものが多い。
空腹感を紛らわせるためか、ペットボトルも炭酸水のものが目立つ。
「お金を、貯めているのです」
「貯めてるって、お前、親からもらった食費をケチって貯金してるのか」
素直に首肯するみづに、クソデカ溜息が出る。
「一体、何のために金貯めてるんだよ」
「ツアーに、参加したいのです」
「ツアー? 海外旅行か?」
「たぶん、国内なのです」
たぶん、て。行き先決めてないのか。
スマホを取り出すと、みづはYouTubeを開いて動画を再生し始める。
霊能者を名乗る男が、比較文化論的に神話の解説をするチャンネルだった。
「この人、色んな神域に行って、封印を解いて回っているのです。かっこいいのです!」
ふんす、とばかりに鼻息荒く霊能者の凄さを語るみづ。
ブログに詳細はあるとのことで、見てみると三日で二十万ほどだった。
ファー!!
「お前、さすがに食費ケチるだけじゃこの値段は無理だろ」
「もう、半分溜まったのです。中学の頃から、貯めてるのです」
ずいぶんと気の長い話だが、この分なら未成年の間には貯まらないだろう。
霊能者の素性はよくわからないが、金が貯まる前にみづが飽きてくれたらいいな、と思った。
「ユーヤも、お金、貯めて欲しいのです」
「は? 俺は行かんぞ? 二十万あったらもっと色々できるし」
「ずっと一緒、ユーヤ、約束したのです。嘘、だったのです?」
胸にしがみつき、うるうると目に涙を矯めるみづ。
「はいはい、わかりましたよ。トホホ、なんで俺まで」
「ユーヤも食費、削るのです? 私、ユーヤが貯まるまで、待ってるのです」
「あぁ、そうだな」
本気で貯めるなら、さすがにバイト探す一択だと思う。
俺は行きたくないが、みづを一人で行かせるのも不安だ。
仮に大学生になった後でも、こいつをこういうものに参加させるのは危険な気がする。
みづに対して感じていた後ろめたさが、和らいだと思ったらこれだ。
俺は一体、どうすればいいんだ。
◆
翌日。
〈一緒に、学校、行こうなのです〉
登校の支度中に、みづからのLINE。
自然、いつもより早く準備が完了してしまう。
が。
「待って、なのです。私、まだご飯、食べてないのです」
聞けば、朝食の習慣はなかったそうだ。
それが、昨日のポトフを食うという工程が増えたことで、戸惑っているようだ。
遅刻は遅刻で響くから、早くして欲しかった。
みづの支度が終わって、時計を見ればほぼ八時だった。
「待ってなのです! 足がもつれて、転ぶのです!」
「黙って走れ! 舌を噛んでもしらんぞーっ!」
みづとの新しい関係の始まりは、甘酸っぱいというよりも慌ただしいものだった。
なんとか間に合ったと思ったら、校門をくぐったところでみづが限界を迎えた。
「オロロロロロ……」
「うわぁ、みづぅ!」
急かしたせいで、ろくずっぽ噛めてないポトフをみづが吐いてしまった。
呆れ顔の生徒指導の先生と一緒にみづの吐瀉物を掃除し、俺たちは甘んじて遅刻を受け容れるのだった。
ずっと一緒がいいのです、と宣うみづをなだめすかして保健室に送り、HRに途中参加した。
担任の先生は、お疲れ様です、とだけ声をかけてくれた。
同情するなら、遅刻を取り消してくださいよ。
「みづ、具合はどうだ」
二時間目の休み時間、保健室にみづの様子を見に行って、予想外の人物と鉢合わせた。
保健室の扉を開くと、真彩が立っていたのだ。
昨日の放課後と同じく、取り巻きは連れずに一人で。
目を見開いて固まっていたが、やがて視線を床に落として去って行ってしまった。
どうして帰ってしまったのか訊ねたかったが、まあいいか。
ベッドに向かうと、みづは身体を起こしていた。
三時間目から、授業に復帰するのか訊ねると、みづは肯定した。
「私ね、真彩さんに、宣戦布告されたのです」
教室へと戻る道すがら、みづは不思議なことを言い出した。
「宣戦布告? 穏やかじゃないなぁ。危ないことは、するなよ」
「心配、ありがとうなのです。でも」
「でも?」
みづの側頭部で結んだ髪束が揺れる。
「私は、絶対の絶対に、負けないのです!」
俺の胸に飛び込んで来たみづが、そのまま抱き着いて頬ずりしてきた。
「ちょっ、みづ! 学校でそういうのはやめてくれ」
「嫌なのでーす。一生一緒なのでーす」
慌てて引き剥がそうとしたが、遅かった。
「みづ? ユーヤ、お前今、古森さんのこと、みづって呼んだのか?」
「ふうむ、満月(みづき)だから、みづ。いい愛称ですね」
「みづちゃ~ん、ユーヤの友達の佐藤だよ~。スリーサイズ教えて~」
口さがないバカどもは、愛すべきバカどもだが、みづには刺激が強すぎる。
「よーし、良い度胸だ! 死にたいヤツからそこへ並べ!」
みづを背後に庇い、指の関節を鳴らして凄む。
だが。
「ええと、身体測定のときは、上からきゅうじゅ……わぁ、ユーヤ! 何をするのです」
「九〇!? おおーっ!!」
「答えるな! ああいうのはセクハラつって、嫌がらせなんだよ!」
「ん? ユーヤのお友達さんが、どうして私に嫌がらせなんかするのです?」
「はぁぁ、ピュアか」
「ぐわあああああっ、ピュアすぎる!」
「なんて純真な子なんだ……ユーヤなんぞにはもったいなさすぎるぅ!」
「同い年なのに! 同い年なのに! どうしてか、この子にスリーサイズ聞くのは、犯罪臭がハンパない! 不肖佐藤、反省!」
口さがないバカどもが、みづの高純度のピュアを前に悶えている。
汚れてしまったこいつらは、悪意を知らないみづの純真さに耐えられないのだろう。
「わあ、なんだかみんな、楽しそうなのです。混ぜてなのです、行こうなのですユーヤ!」
「「「うわあああああああああああああっ、生まれて来てすみませえええええええええええええええええええええええええんっ!!」」」
殺虫剤を食らったGみたいにひっくり返るバカどもに混じって、仰向けになろうとするみづを全力で止める。
仲間が一人増えた、いや、欠けていた一番大事なメンバーが合流したことで。
俺の毎日は、これまで以上に騒がしくなりそうだ。
「ハア、ハア、ハア……みづちゃん、どんなパンツ履いてるの?」
「ユーヤが何色のパンツが好きか教えてくれたら、私も教えてあげるのです!」
「任せろ、あいつの好きなパンツはなぁ、ってギャアアアアアアアアアッ!!」
「何を訊いとるんじゃお前はあああああああっ!! あと、みづも軽々しく性的な情報を開示しようとすんじゃねぇ!!」
「はーい、なのです!」
騒がしくなりそう、というか、もはや嵐だな。
車道が削れて出来た水溜まりを、すれ違うクルマが跳ね上げる。
小学生の頃は、それを咄嗟に傘で防ぐのがカッコイイ気がしていた。
『ユーヤ、すごいのです! アニメの騎士様みたいなのです!』
近所に住む幼馴染が、そんな俺に目を輝かせていたっけな。
今じゃ、その幼馴染とも話さなくなった。
クルマの跳ね上げる泥水だって、被らないようにクルマが行くのを待つだけ。
年齢相応の成長。
言ってしまえばそれだけなのだが、どこか物寂しさを覚えないでもない。
ふと、大きな水音が上がるのを耳にした。
身構えて、すぐにおかしいと思い直す。
さっきの水溜まりを超えたら、またしばらくは車道側には水溜まりがなかったはずだ。
「って、おい! 大丈夫か!?」
歩道にできた大きな水溜まりに、女の子が前のめりに倒れ込んでいた。
貧血だろうか?
側頭部の左右で髪を結んだ女の子は、俺の通う高校の女子制服を着ていた。
脳内で点と点が繋がって線になり、目の前の行き倒れが誰かわかってしまった。
「みづっ……古森! どうした」
すっかり没交渉になった幼馴染、古森満月(こもり‐みづき)だった。
傘を放り出して、古森を助け起こす。
顔にへばりついた前髪をよけて、雨に打たれるがままの古森の頬を叩く。
血色がよくない。
昔から白かった肌は、今もレシートの感熱紙みたいに白い。
呼びかけながら頬を叩いても、一向に古森は目を覚まさない。
「きゅっ、救急車!」
スマホを取り出し、俺は人生で初めて一一九へと電話をかけた。
完全に力の抜けた人体は重い、と聞く。
けれども、制服が水を吸っているにも拘わらず、背負った古森は驚くほど軽い。
小柄だが、背に当たる膨らみは俺がこの状況でもドギマギするのに十分すぎるものだ。
こいつ、飯食ってないのか?
そのまま自宅へと引き返し、救急車の到着を待った。
体温が下がるとまずいだろう。
自分のと、海外赴任で家を空けている両親の使っていたバスタオルを持って来て、古森を包む。
やがて救急車が到着し、救急隊員が古森を乗せたのに続いて俺も乗り込んだ。
◆
診断結果は、栄養失調。
今から登校しても遅刻は確定だし、まだ目を覚まさない古森を置いていくのも忍びない
やむを得ず、俺は学校に欠席の連絡を入れる。
古森の件も告げておいたから、あいつの両親が迎えに来たら帰るつもりだ。
ロビーの自販機で缶ジュースを買い、雨にけぶる駐車場を眺める。
あいつ、飯食ってないのか。
『みづ、今日、オレん家でメシ食ってけよ』
『うん! 食べていくのです!』
小学校の頃、何度となく交わされたやり取りを思い出す。
あの頃は、俺の両親もまだ日本で働いていたらから、よく一緒に食卓を囲んだっけな。
中学ん時からだ、あいつがうちに来なくなったのは。
『女の子だから、そういうのはもうやめておきなさい、だって』
寂しそうに、古森は俺の誘いを断ったのだ。
それから、間を置かずしてうちの両親が海外赴任になった。
寄り添い合うことができるのに、間にセケンテイを置かれてお互い一人の夜を過ごすようになった。
俺は、ひとりの寂しさを埋めるように仲間を作った。
古森は、俺と没交渉になってから地味な女子になっていった。
高校二年になった今年、小学校を卒業してから初めて古森と同じクラスになった。
けれど、お互いに違う時間を過ごしたせいか、一度も話したことはない。
休み時間に友達と騒いでいても、ずっと一人で教室の片隅で本を読んでいる古森のことが、気になっていた。
それでも、俺は古森を放っておいた。
こうなった原因は、俺、なのだろうか?
不意に、スマホが電話の着信を知らせて来た。
知らない番号だったが、出てみると古森の母親だった。
学校にゴネて、俺の番号を聞き出したのか。
海外に出張中で帰れないため、昔のよしみで古森の面倒を見てやってくれないかとのことだった。
勝手なことを言うな。
あんたが、他ならぬあんたが俺と古森を引き裂いたんじゃないか。
セケンテイだの、マチガイがあってはイケナイだのと。
だったらせめて、もっと古森の健康や幸せに気を配ってやれよ。
「……わかりました」
言ってやりたいことは山ほどあったが、家庭の事情だ。
俺が古森の両親にキレても、何も事態は好転しないだろう。
今できる最善は、古森の予後を大切にしてあげることだ。
誰も古森を迎えに来ないとわかったので、俺はスマホゲームでもやることにした。
しかし、すぐにLINEの通知が飛んできた。
〈あの地味女の付き添いで休んだって、マ?〉
〈ユーヤ、どういう関係なん?〉
〈ああいう女が趣味か〉
〈目の前で倒れられたから、病院に付き添っただけだから〉
地味女。
ああいう女が趣味。
いじめでは、ない。
冗談で言っているのは、わかる。
けれど、冗談でも古森がこんな風に言われてしまうのは、辛かった。
だってそれは、俺が古森を自分の仲間の輪に入れなかったせいなのだから。
◆
「迷惑をかけたのです、ユーヤ」
久しぶりに俺を呼んだ声は、以前よりも落ち着いたというか、元気がない感じがした。
点滴で回復したのか、倒れていたときよりは血色がいい。
大きな垂れ目は顔にあどけなさを残していて、一方でふっくらとした唇は俺が離れていた間の成長を物語っているようだった。
着替えを持ってこられないことを、病院側が斟酌してくれたのだろう。
古森は倒れたときと同じ制服姿だったが、濡れたままではなかった。
雨はまだ降り続いている。
せっかく乾かしてもらったのに、また濡れてしまうな、と思った。
「よく俺がわかったな」
当たり前のように古森を待っていたが、こいつが一人で帰る可能性を俺はまったく考慮に入れてなかった。
実際、こうして隣に座って来たのだが。
「お姉ちゃんが、教えてくれたのです」
「お姉ちゃん……? あぁ、あの」
古森は、少し上の何もない空間に向かって親しげに目を細めている。
まだこいつには、お姉ちゃんが視えているのか。
「じゃあ、帰ろうか」
立ち上がりかけて、俺の腹がマヌケな音を立てた。
古森は首を傾げ、その大きな目をぱちくりさせた。
「……の前に、メシ食ってこうか」
スマホを取り出し、時間を見る。
そういえば、古森が戻る前に正午のサイレンを聞いていたっけ。
「ユーヤ」
「ん? どした」
「会計、まだなのです」
「あ、そうか。そうだったな」
ほどなくして、古森の名前が呼ばれた。
とてとてとて、と支払い口に向かった背中を見守っていると、不意に古森が振り向いた。
眉を下げて、俺に向かって手招きしてくるではないか。
苦笑いしつつ立ち上がり、小走りで向かう。
保険証こそ持っていた古森だが、診察料は俺が立て替えることになった。
初診料のダメージは、学生の財布には響くぜ。
「ごめんなのです。私、ユーヤに迷惑かけてしまったのです」
小動物めいた古森にぺこぺこと謝られ、慌てて制止する。
「いい、いいって、いいんだよ」
「私、やっぱり他人に迷惑をかけてしまうのです。生きるのが、ド下手くそなのです」
器用そうだとはお世辞にも言えないが、そんなに自分を卑下せんでも。
「じゃあ、メシにするか」
ロビーを出て傘を差して、そういえば古森の分の傘がないことに気が付いた。
救急車に乗り込むとき、動転しててそこまで気が回らなかったのだ。
ここで待ってるように言う直前、肘に柔らかなものが当たった。
「ッ!?」
懐に入り込んできた、古森が腕を絡めてきたのだ。
俺の知らない間に発育した部分の破壊力は凄まじく、下腹部が緊張してしまう。
しかし、こういうのはやめろと騒いで注目を浴びる方が恥ずかしい。
仕方なく俺は、ファッション誌のイケメンのようにしきりに首を痛めたふりをしながら歩き出した。
運ばれたのが、大学病院だったのが幸いしてコンビニも食堂もあったのは助かった。
コンビニのATMで金を下ろし、食堂へ向かおうとすると袖を引っ張られた。
おい、雨で靴も床も濡れてるんだから、危ないだろ。
こけて怪我してもここが病院だから安心、ってか?
やかましいわ。
無言の古森にやかましいわなどと胸中でツッコミを入れつつ、首だけで振り向いた。
「どうした」
無表情の古森がまっすぐ指差す先を見れば、おにぎりの冷蔵棚があった。
「診察料も払ってもらった上に、高いご飯を奢ってもらうのは、申し訳ないのです」
だからおにぎりで我慢するってか?
んな、フランス料理のフルコース食いに行くわけでもあるまいし。
「馬鹿言うな。お前、自分がどうして倒れたのか、医者から聞いてないわけじゃあるまいな」
「……不運、なのです?」
そいつは医者では治せんわ。
「小首傾げてんじゃねぇ、栄養失調だろ。黙って栄養のあるもんを食え」
コンビニへ寄ったついでにビニール傘を古森に買い与え、外へ出た。
少し歩いた先に、食堂はあった。
学食ですっかり慣れた券売機を眺める。
うちの学食よりは、少し高めの値段設定かもしれない。
千円札を入れてから、古森に先に買うよう促す。
メニューの下の方にあるうどんに伸びかけた古森の手を、咄嗟に掴む。
「栄養あるものにしろって、言ったよな」
「でもでも、いきなりカツカレーなんて食べられないのです」
軌道修正を図る俺が押させようとしたものを、古森は拒否する。
「なんで」
「昨日からご飯、食べてなかったのです」
そら倒れるなぁ。
断食明けに急にハイカロリーなものでは胃がびっくりする、ってやつか。
「そうか。じゃあ、せめてこっちにしろ」
うどんの横にある、サラダうどんへと古森の指を移動させる。
これなら野菜も載ってるし、素うどんよりはマシだろう。
俺は、きつねうどんにした。
「ごちそうさまなのでした」
「待てコラ」
食い終わり、席を立とうとした古森を引き留める。
「野菜食えよ」
どんぶりには、器用に避けられた水菜やらキャベツやらなんやらがガッツリ残されていた。
「いやなのです。私、逆ビーガンですので」
逆ビーガン?
それって、炭水化物を食っていい主義なのか?
「ひとの財布の心配しといて、舌の根も乾かないうちに素うどんよりも値段を吊り上げる少量の野菜を残すたぁ、どういう了見なんだテメェ、あぁん?」
「それとこれとは、話が別なのです。ユーヤが無用の施しをしたのが、いけないのです」
こいつ言ってること、めちゃくちゃだなぁ。
「しゃあねぇな……ひとまず座れ」
食器下げ口に向かおうとする古森を、もう一度席に着かせる。
野菜を食わされるのが心底嫌なのだろう。
恨みがましい上目遣いで睨んでくる。妙な迫力があって、ちょっと怖い。
そんな悪い話じゃないから、その目をやめてくれ。
「ほらよ」
最後の楽しみにとっておいた、油揚げを古森のどんぶりへと移す。
「ユーヤ、油揚げ嫌いなのにきつねうどんにしたのです?」
「んなわけあるか」
むしろ油揚げ大好きだよ。チョコレートと同じくらい好きだよ。
だから変態を見るような怯えた目をやめろ。話は最後まで聞け。
「なるほどなのです。野菜を残す私に合わせて、油揚げを残すのですね」
「異次元の解釈をしてんじゃねぇ」
食わずに下げ口に行ったら、俺は紳士であることを未来永劫に放棄してお前を殴る。
「古森、油揚げ嫌いじゃないよな」
首肯する様を確認して、続ける。
「じゃあ、油揚げの上に野菜を載せろ」
チキンライスからグリーンピースをのける子供みたいな箸遣いで、古森は嫌そうながらも俺の言う通りにした。
比喩のつもりだったが、こいつならガチでグリーンピースよけてそうだな。
「よし。そしたら、野菜を油揚げで包んで食え。思いっきり、かぶりつけ」
「うぅ、ユーヤがベジタブルハラスメント男になってしまったのです」
新しい胡乱なハラスメントを創作すな。マナー講師かお前は。
「はい、がんばれ。油揚げは美味いぞ。野菜はそんなに味はせんぞ」
「いやなのです、野菜には人体に有害な農薬と虫のフンが付着しているのです」
死にたくないのです、と目に涙を矯めて駄々をこねる古森。
逆ビーガンを唱えるのはそれゆえか。
うどんは食ったことの説明は、小麦は挽いてあるから平気とでも言うのだろうか。
「洗ってあるから平気だよ」
「水洗いじゃ、自転車のチェーンの油も落ちないのですよ? それが農薬なら何をかいわんやなのです」
「わかった、わかった」
俺は古森のどんぶりへと、ひょいっと箸を突っ込んだ。
野菜を三分の一程度摘まむと、それを自分の口へと運ぶ。
信じられないと言いたげな顔で古森に見られながら野菜を咀嚼し、完全に嚥下した。
それから、箸を持っていない方の古森の手を両手で包み込んだ。
「たとえ生まれた日、過ごした時間は違っても、死ぬときは一緒だ」
冗談めかして言うと、温度の上昇を示す水温計みたいに古森の白い肌が首から赤くなっていった。
「お、おい。どうした? まさか野菜アレルギーだったのか?」
そうならそうと早く言ってくれよ、と言いかけたが、古森はゆっくりと首を左右に振った。
野菜を包んだ油揚げを口に運ぶや、勢いよく齧りついた。
たちまち平らげたかと思うと、包み切れなかった野菜まで食べてしまった。
頑なに拒んでいたのに、どういう風の吹き回しだろう。
「食えるじゃねぇか。えらいぞ」
「ユーヤ」
「どした」
「責任、取るのですよ」
「あぁ」
残留農薬の話をする人はまあまあいるが、即死するやつはいない。
だから、責任と言われてもピンとこないが適当に流しておいた。
大丈夫、俺もお前もしばらく死なない。
食堂を後にすると、俺たちはマップアプリの案内に従ってバスと電車を乗り継いで帰宅した。
道中、小学校までの思い出話を始めると、もう止まらなかった。
自習のとき教室に入り込んで来た二頭の野良犬が、交尾を始めたこと。
運動会のマスト上りで、遠くに竜巻が発生したのを見た俺が「竜巻だーっ」と叫んで大騒ぎになったこと。
遠足で迷子になって、泣いている古森を俺が見つけたこと。
自然公園の底なし沼にはまったとき、古森が助けを呼んでくれたお蔭で助かったこと。
上級生に絡まれた古森を庇ったせいで、しばらくからかわれたこと。
懐かしい話題で盛り上がるのは、仲間とバカやるのとは違った楽しさがあった。
地味で暗い女になったと思っていた古森は、話してみたら昔と全然変わってなかった。
楽しい一方で、俺は心をチクリと刺す痛みを覚えていた。
やっぱり、俺が古森を変えていたんだ、と。
「ユーヤ、ばいばいなのです」
古森は自宅の門の前で俺に手を振った。
昔、日が暮れるまで一緒に遊んでいた、あの頃のように。
「みっ……またな、古森」
みづ、と昔の呼び名を出しそうになって、慌てて言い直した。
今の俺に、古森をそう呼ぶ資格はない。
小首を傾げるも、すぐに無邪気な笑みで「またなのです」と言って古森は家の中に入って行った。
2,
翌日。
古森は学校に来なかった。
大事を取って、休むとのことだった。
スカートを尻に手で撫でつけるや、俺の机に座る女がいた。
「ユーヤ、今日は来てくれたのね」
「真彩(まや)。おはよう」
生白い喉を晒し、髪をかき上げる。
重力に従い、ウェーブのかかった豊かな髪が零れ落ちる。
切れ長の目、高い鼻とすらりとした長身が特徴的な、いわゆるところのギャル層の女だ。
机に乗る短いスカートから露出した、白く肉感的な太腿が目の毒だ。
紫宝珠(しほうじゅ)真彩。
自分と似たような女をいつも三~四人連れて、どういうわけか再々俺の席にやってくる。
「ところで」
机に突いた手を軸に、真彩が身を乗り出して来る。
化粧品だか香水だか知らんが、人工的な甘い香りに襲われる。
「古森さん、大丈夫そうだった?」
深刻そうな顔を近づけて、真彩はそう訊いて来た。
「なんとかな。栄養失調で倒れたんだと」
「良かったぁ~、ってギャアアアッ!」
「危ない!」
オーバーに仰け反り、安堵を表現したが最後。
真彩の腰かけた俺の机が転倒した。
「あ、ありがとうユーヤ」
「もうちょっと落ち着けないのか、お前は」
咄嗟に立ち上がり、倒れ込む真彩の手を掴むことに成功した。
幸い、前の席の主は外していたので、真彩の不注意に巻き込まれる人はいなかった。
真彩の叫びと机の倒れた音で、俺が注目を浴びただけだった。
「お、落ち着いてるし! 余裕のあるオンナ、やってるし!」
転倒から助けてやった腕を、顔を上気させた余裕のあるオンナがピシピシと小刻みに叩いて来る。
「ソウダネ~、オトナノオンナダネ~」
「も、もう知らない! あんたなんか、もう連れション誘ってあげないんだから!」
「誘われても困るんだが!?」
フンガー、と肩をいからせて去って行く真彩。
取り巻きたちもその様を微笑ましそうに見守りながら、真彩について行ってしまった。
「余裕のあるオンナというか、おもしれぇ女だよな」
真彩たちと入れ替わりに、昨日LINEを送ってきた友人たちが集まって来る。
LINEだけでなく、しゃべらせても口さがない連中だ。
「付き合い出したらでいいいから、古森さんのスリーサイズだけ教えてくれ」
「やめろ。そんなんじゃねぇから」
「昨日、ヤッたんだろ」
「ようし、最初に殺すのは貴様にしてやろう」
「ヤった話が聞けると思ったら、殺られるのは俺だった件」
「古森さん、実際プロデュース次第で化けるだろうな」
「そんなに気になるなら、ズリネタにしてないで気にかけてやってくれよ」
「気にかけるより胸にかけたい」
「お前はいったい、何の話をしているんだ!?」
◆
〈具合はどうだ?〉
〈ちゃんとメシ、食ってるだろうな?〉
昼休み。
話が盛り上がった勢いで古森とLINEを交換したのを、早速利用させてもらった。
古森からは、ひとを舐め腐ったような真顔のトリがサムズアップしているスタンプが返って来た。
「ちょっと。私がいるのにスマホばっか眺めてるって、どゆこと?」
「すまんすまん」
ピロリン♪ カシャッ!
玉子焼きを口いっぱいに詰め込んだ真彩に、カメラを向けて撮影。
咀嚼の最中だからと、しっかり口を閉じたまま鼻息を荒げる真彩。
いかなるときも余裕を忘れずクチャラーに堕さない、良い子だと思う。
必死に俺のスマホをぶんどろうと、箸を持ったまま手を伸ばして来るのさえ、上品に見える。
「真彩かわいいよねぇ」
「うむ……真彩たそは癒しの権化」
「高身長クールビューティーから繰り出されるトンチキ三枚目仕草。まさにおもしれぇ女」
取り巻きたちの評価は散々だが、みんなから愛されているのがよくわかる。
昼食は、いつも口さがないバカどもと摂っているのだが、今日は一人で食うことにした。
古森が心配だったからだ。
けれど、一人で購買のパンを買ったところを真彩たちに捕まってしまったのだ。
そういうわけがあって、今の状況に至る。
「消しなさいよぉ、さっきの写真!」
玉子焼きを嚥下した真彩が、ずびしっ、と人差し指を突きつけてくる。
「はいはい、っと」
俺抜きで寂しくメシを食ってる口さがないバカどものグループに、真彩の写真を投稿する。
「消したよ」
ギャラリーのカメラロールフォルダを出して、真彩に確認させる。
しかし、それはあまりに真彩を舐めすぎていた。
というか、LINEの通知を切っていなかったのが災いした。
LINEの通知音がするや、真彩は俺のスマホを掠め取った。
古森とのやり取りを見られるのは、少し気恥ずかしい。
立場逆転。
今度は俺が、スマホを取り戻そうと手を伸ばす番だった。
しかし。
「ギャアアアアアアアアアッ!!」
攻防戦に発展するまでもなく、真彩が悲鳴を上げてひっくり返った。
なんだろうと思って、真彩が取り落としたスマホを拾うと口さがないバカどもとのグループが表示されていた。
〈抜いた〉
〈マジシコ〉
〈全部飲めよ、出すぞっ!〉
〈出会い系登録待ったなし〉
〈おっさん釣ってあそぼ〉
〈さすがに釣れないだろ〉
「あいつら……」
真彩の写真への下品なコメントに頭を抱える。
「ユーヤはいい人なんだけど」
「つるんでる友達は、なかなか看過しがたいクセがあるよね」
「さすがにやりすぎだよ、ユーヤ君」
「あいつらに投げるのは、やりすぎだったな」
この後、めちゃくくちゃ真彩に怒られた。
◆
放課後。
学校の帰りにスーパーへ立ち寄った。
カゴに鶏モモ肉、ポトフの素、ブロッコリーなどの野菜を放り込む。
レジにて精算、一路、古森宅へと向かう。
チャイムを鳴らすと、ダボッとした大き目サイズのTシャツ姿の古森が姿を現した。
「よ」
しかし、古森はあらぬ方向へ目をやると、急に切羽詰まったような顔になる。
バタンッ!
目の前で、勢いよく玄関ドアが閉められてしまった。
立ち尽くす俺。
えー、何事?
せっかくメシ作ってやろうと思ったのに。
待てよ?
ドアを閉める直前、古森は斜め上の空間とアイコンタクトのようなことをしてなかったか?
古森は、まだお姉ちゃんが視えていると言っていた。
お姉ちゃん。
別に、古森には死産流産含めて死んだきょうだいなどいない。そう聞いている。
イマジナリーフレンドとか虫の知らせというやつが、一番近いみたいだ。
昔から、あいつは何もない空間に頷いたり笑いかけたりしていた。
何をしているか訊くと、お姉ちゃんと話していると返って来た。
小学四年生の頃。
火事を想定した避難訓練のときに、急に古森が隊列を飛び出したことがあった。
あっけに取られる俺の手を引き、そのまま先生の机の下へ押し込まれた。
怒った先生が追いかけて来たが、突然、本物の地震が学校を襲ったのだ。
古森に上級生が絡んで来たのは、それを気味悪がってのことだった。
正確には、地震で怪我をした同級生が、その兄だの姉だのを焚きつけたんだっけな。
つまり、古森が俺を締めだしたのは、お姉ちゃんが危機を報せたということだ。
俺を中に入れなかったのは、さすがに地震ではなくもっと個人的なことだと信じたい。
振り返ると、視界の端で塀に隠れた者のスカートが翻ったのが見えた。
つけられただと?
一体、誰がそんなことを。
レジ袋を古森宅の玄関ドアにかけ、俺は塀の方へと走った。
上級生に目を付けられた、あの小学生の日からなんとなく身体は鍛えている。
住宅街を抜け、昨日、倒れた古森を発見した大通りへと出る。
居た。
ウェーブのかかった髪を上下させて必死に逃げるシルエットを捉え、加速する。
相手の進行方向に回り込み、立ち塞がる。
「お前、何やってんの?」
真彩だった。
観念したのか、立ち止まった真彩は膝に手を突いて息を整える。
こいつの家がどこかは知らんが、この辺りで見たのは初めてだ。
「え、えーと、その……ユーヤと一緒に、帰ろうかなー、帰りたいなーって」
もう俺ん家のすぐそこなんだが。
声をかけるタイミングを逸するにも、程があるだろ。
なるほど。
古森は、お姉ちゃんからこの不審者の接近を知らされたわけか。
「よくわからんが、目的は達せたな? 帰れ」
「ひどくない? 私、ここまで来たんだよ」
知らん。古森が怯えるだろうが。
「一緒に、カラオケでも行こうよ」
「ん、わかった」
パッ、と真彩の表情が明るくなる。
「でも俺は先にやることがある。先に行っててくれ」
即座に表情が固まる真彩。
忙しいやつだな。
口さがないバカどものグループを開き、たまたま目についた佐藤に電話をかける。
「あー、もしもし佐藤? わりぃ、なんか今、真彩がカラオケ行こうつってんだけど。お前らも集まれるか?」
『真彩? 一人? あいつの友達も呼ばせろよ』
真彩の取り巻きにご執心か。
「真彩、いつもの友達呼べ……いねぇし」
『は? 帰ったの? ったく、俺ら嫌われすぎじゃね?』
百お前らが悪いわけではないが、自分の胸に手を当てて理由を考えてみて欲しい。
「悪かったな、佐藤」
『いいよ。じゃな』
通話を切り、古森宅へと引き返した。
3,
改めて古森宅を訪問すると、普通に入れてもらえた。
上がるなり俺は、キッチンに入ってゴミ箱を覗き込んだ。
「これは……」
ゴミ箱には、カップラーメンのカップとペットボトルしか入っていないのだ。
「ちょっとユーヤ、どこを見ているのです!」
慌てた古森が、袖を引っ張ってくる。
いや、どのみち調理するんだから俺はここに陣取るぞ?
「お前が普段、どういう食事をしているかよくわかった」
流しで手を洗い、早速調理に入る。
「いいか? 俺が主導で調理はするが、見て覚えるんだぞ?」
「どうしてなのです?」
「お前がいちいち栄養失調で倒れていたら、俺まで出席日数が足りなくなるんだよ」
「私にひとりで死ねというのです? 昨日の約束をもう忘れたのですか」
「ちげーよ。お前が調理を覚えて栄養管理を覚える、お前が健康に過ごす、俺も出席日数で困らない。完璧だろ?」
「めんどくさいのです」
「わかる。わかるよ、でもやってくれ。カップ麺オンリーで倒れないでくれ」
「善処するのです」
「包丁を使うの、案外慣れると楽しいぞ」
「殺すのです?」
何をだ。主語を言え、主語を。
「まず野菜を洗って……」
簡単なポトフの作り方を実演で教え、古森からはひとまず理解したような反応を得た。
「肉を切る感触、楽しいのです」
うん、調理開始前に言ったこと、思い出せ?
「簡単だろ? カップ麺食ってんだから、湯は沸かせるもんな」
「お湯を沸かすのは、任せてくれなのです」
「あとは、野菜を洗って切って、肉を切って、ポトフの素と一緒に煮ればよし。作り置きすれば、温めただけで食える」
言いながらポトフをよそい、古森に食卓へと運ばせる。
「うまいか」
「食えるのです」
「微妙に腹の立つリアクションだな」
「鶏肉うまいのです」
「頼むから野菜も食ってくれ」
「善処するのです」
鶏肉をまた口に運ぶ古森。野菜はスープに沈んだままだ。
ところが、偏食を続ける古森の視線が空中に固定される。
凍り付いたように表情までが固まり、勢いよく首を左右に振りだした。
お姉ちゃんは一体、古森に何を吹き込んだんだ?
鶏肉を嚥下し、お姉ちゃんのいる座標とポトフを見比べる古森。
すると、意を決したように古森はフォークをブロッコリーに突き刺した。
「お……!」
穴が空きそうなほど、古森はブロッコリーを見つめる。
口元で止まったブロッコリーから、ぽたぽたとスープが垂れる。
パクリ。
目を閉じて深呼吸した後、古森はブロッコリーを一口で食べた。
「食った! 古森が食った!」
何を言ってくれたのか知らねぇが、ありがとうお姉ちゃん!
これで突破口が見えた。
その後も、古森は辛(つら)そうにしつつも、野菜を食べ進めた。
やがて完食すると、席を立って椅子ごと隣にやってきた。
「ユーヤ」
「どうした」
「完食したのです。私、偉いのです?」
「おう、偉い偉い」
小さい子みたいな素振りで、頭を俺に向けてくる。
なんだその頭は。
戸惑う俺に、何かを期待するかのような上目遣いが突き刺さる。
不意に、古森の顔が朱に染まる。
目を伏せて、恥じらいを覚えた様子で、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「お姉ちゃんが、言ったのです。野菜、ちゃんと食べたら、ユーヤが頭、撫でてくれるのです。食べなかったら、また口利いてくれなくなる、です」
やり手だな、お姉ちゃん。
古森のツボだけでなく、俺の負い目まで攻めてきやがるとは。
「これで、いいか?」
肩に頭を預けてくる古森の頭に、手を置く。
家に居るというのに、しっかり側頭部の左右で髪を結んでいる古森。
小学生の頃から、こいつずっとこの髪型だな。
ぴっちりとしてつむじの見える頭頂部を撫でたり、結んだ髪の束を手で梳いてやったりする。
よく懐いた犬猫みたいに、目を閉じて気持ちよさそうにする古森。
「古森」
「ん」
「今まで、悪かった」
目を開いた古森が、不思議そうに俺を見上げてくる。
「お前がうちに来れなくなったからって、俺、自分だけ寂しさを埋めようとして。お前のこと、全然考えてなかった。お前のこと、一人にして、すまなかった」
頭を撫でながら謝るのも、おかしいか。
ちゃんと謝るために止めようとした手を、しかし古森が掴んで来た。
「いいのです、ユーヤ。私は、ユーヤの邪魔になりたくなかったのです」
「邪魔だなんて! ……いや、俺が古森を邪険にしたんだ。悪かった」
「謝らないでほしいのです。私が、誰になんと言われようと、ユーヤの作る輪に入っていかなかったのが、そうする勇気を出せなかったのがいけないのです」
「いや! 俺が、古森が入って来づらい雰囲気を!」
「雰囲気に負けた、私が悪いのです」
「そんな、お前は悪くないよ」
「いいえ、私が悪いのです」
そこまで言って、こりゃキリがないと思っていると古森が柔らかな表情を向けてきた。
「優しいのです、ユーヤ」
「違うよ。俺は、古森を一人にした罪滅ぼしをして、自分が楽になりたいだけの卑怯な男なんだ」
「構わないのです。ユーヤは今、こうして隣に帰ってきてくれたのです」
首に、古森の腕が回される。
身を乗り出してきた古森の顔が、すぐ近くにある。
柔らかな唇が、頬に触れた。
「お前」
「今は、これが精一杯なのです。私の、ユーヤにできる、おかえりの合図なのです。帰ってきてくれてありがとう、のお礼なのです」
上気させた顔を俯けて、それでいてちらちらと俺の反応を伺っている。
「……嫌、だったのです?」
「そんなわけ、ないだろ」
もう古森を、いや、みづを一人になんてしない。
誓いを胸に、みづの肩へと手を回した。
ぴくり、みづの肩が跳ねる。
「大好きなのです、ユーヤ。これからずっと、ずっと一緒なのです」
「約束するよ」
みづの顔を覗き込む。
応えるように、みづも紅潮させた顔で俺を見上げる。
抱き寄せると、目を閉じるみづ。
その柔らかな唇に、俺は唇でそっと触れた。
4,
キッチンの片付けを終わらせたところで、気になっていたことを切り出した。
「それにしても、どうしてこんなに食が乱れていたんだ?」
ラーメンのカップも妙に小さいものが多い。
空腹感を紛らわせるためか、ペットボトルも炭酸水のものが目立つ。
「お金を、貯めているのです」
「貯めてるって、お前、親からもらった食費をケチって貯金してるのか」
素直に首肯するみづに、クソデカ溜息が出る。
「一体、何のために金貯めてるんだよ」
「ツアーに、参加したいのです」
「ツアー? 海外旅行か?」
「たぶん、国内なのです」
たぶん、て。行き先決めてないのか。
スマホを取り出すと、みづはYouTubeを開いて動画を再生し始める。
霊能者を名乗る男が、比較文化論的に神話の解説をするチャンネルだった。
「この人、色んな神域に行って、封印を解いて回っているのです。かっこいいのです!」
ふんす、とばかりに鼻息荒く霊能者の凄さを語るみづ。
ブログに詳細はあるとのことで、見てみると三日で二十万ほどだった。
ファー!!
「お前、さすがに食費ケチるだけじゃこの値段は無理だろ」
「もう、半分溜まったのです。中学の頃から、貯めてるのです」
ずいぶんと気の長い話だが、この分なら未成年の間には貯まらないだろう。
霊能者の素性はよくわからないが、金が貯まる前にみづが飽きてくれたらいいな、と思った。
「ユーヤも、お金、貯めて欲しいのです」
「は? 俺は行かんぞ? 二十万あったらもっと色々できるし」
「ずっと一緒、ユーヤ、約束したのです。嘘、だったのです?」
胸にしがみつき、うるうると目に涙を矯めるみづ。
「はいはい、わかりましたよ。トホホ、なんで俺まで」
「ユーヤも食費、削るのです? 私、ユーヤが貯まるまで、待ってるのです」
「あぁ、そうだな」
本気で貯めるなら、さすがにバイト探す一択だと思う。
俺は行きたくないが、みづを一人で行かせるのも不安だ。
仮に大学生になった後でも、こいつをこういうものに参加させるのは危険な気がする。
みづに対して感じていた後ろめたさが、和らいだと思ったらこれだ。
俺は一体、どうすればいいんだ。
◆
翌日。
〈一緒に、学校、行こうなのです〉
登校の支度中に、みづからのLINE。
自然、いつもより早く準備が完了してしまう。
が。
「待って、なのです。私、まだご飯、食べてないのです」
聞けば、朝食の習慣はなかったそうだ。
それが、昨日のポトフを食うという工程が増えたことで、戸惑っているようだ。
遅刻は遅刻で響くから、早くして欲しかった。
みづの支度が終わって、時計を見ればほぼ八時だった。
「待ってなのです! 足がもつれて、転ぶのです!」
「黙って走れ! 舌を噛んでもしらんぞーっ!」
みづとの新しい関係の始まりは、甘酸っぱいというよりも慌ただしいものだった。
なんとか間に合ったと思ったら、校門をくぐったところでみづが限界を迎えた。
「オロロロロロ……」
「うわぁ、みづぅ!」
急かしたせいで、ろくずっぽ噛めてないポトフをみづが吐いてしまった。
呆れ顔の生徒指導の先生と一緒にみづの吐瀉物を掃除し、俺たちは甘んじて遅刻を受け容れるのだった。
ずっと一緒がいいのです、と宣うみづをなだめすかして保健室に送り、HRに途中参加した。
担任の先生は、お疲れ様です、とだけ声をかけてくれた。
同情するなら、遅刻を取り消してくださいよ。
「みづ、具合はどうだ」
二時間目の休み時間、保健室にみづの様子を見に行って、予想外の人物と鉢合わせた。
保健室の扉を開くと、真彩が立っていたのだ。
昨日の放課後と同じく、取り巻きは連れずに一人で。
目を見開いて固まっていたが、やがて視線を床に落として去って行ってしまった。
どうして帰ってしまったのか訊ねたかったが、まあいいか。
ベッドに向かうと、みづは身体を起こしていた。
三時間目から、授業に復帰するのか訊ねると、みづは肯定した。
「私ね、真彩さんに、宣戦布告されたのです」
教室へと戻る道すがら、みづは不思議なことを言い出した。
「宣戦布告? 穏やかじゃないなぁ。危ないことは、するなよ」
「心配、ありがとうなのです。でも」
「でも?」
みづの側頭部で結んだ髪束が揺れる。
「私は、絶対の絶対に、負けないのです!」
俺の胸に飛び込んで来たみづが、そのまま抱き着いて頬ずりしてきた。
「ちょっ、みづ! 学校でそういうのはやめてくれ」
「嫌なのでーす。一生一緒なのでーす」
慌てて引き剥がそうとしたが、遅かった。
「みづ? ユーヤ、お前今、古森さんのこと、みづって呼んだのか?」
「ふうむ、満月(みづき)だから、みづ。いい愛称ですね」
「みづちゃ~ん、ユーヤの友達の佐藤だよ~。スリーサイズ教えて~」
口さがないバカどもは、愛すべきバカどもだが、みづには刺激が強すぎる。
「よーし、良い度胸だ! 死にたいヤツからそこへ並べ!」
みづを背後に庇い、指の関節を鳴らして凄む。
だが。
「ええと、身体測定のときは、上からきゅうじゅ……わぁ、ユーヤ! 何をするのです」
「九〇!? おおーっ!!」
「答えるな! ああいうのはセクハラつって、嫌がらせなんだよ!」
「ん? ユーヤのお友達さんが、どうして私に嫌がらせなんかするのです?」
「はぁぁ、ピュアか」
「ぐわあああああっ、ピュアすぎる!」
「なんて純真な子なんだ……ユーヤなんぞにはもったいなさすぎるぅ!」
「同い年なのに! 同い年なのに! どうしてか、この子にスリーサイズ聞くのは、犯罪臭がハンパない! 不肖佐藤、反省!」
口さがないバカどもが、みづの高純度のピュアを前に悶えている。
汚れてしまったこいつらは、悪意を知らないみづの純真さに耐えられないのだろう。
「わあ、なんだかみんな、楽しそうなのです。混ぜてなのです、行こうなのですユーヤ!」
「「「うわあああああああああああああっ、生まれて来てすみませえええええええええええええええええええええええええんっ!!」」」
殺虫剤を食らったGみたいにひっくり返るバカどもに混じって、仰向けになろうとするみづを全力で止める。
仲間が一人増えた、いや、欠けていた一番大事なメンバーが合流したことで。
俺の毎日は、これまで以上に騒がしくなりそうだ。
「ハア、ハア、ハア……みづちゃん、どんなパンツ履いてるの?」
「ユーヤが何色のパンツが好きか教えてくれたら、私も教えてあげるのです!」
「任せろ、あいつの好きなパンツはなぁ、ってギャアアアアアアアアアッ!!」
「何を訊いとるんじゃお前はあああああああっ!! あと、みづも軽々しく性的な情報を開示しようとすんじゃねぇ!!」
「はーい、なのです!」
騒がしくなりそう、というか、もはや嵐だな。
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