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武人祭
シャード先生のポーション講座
しおりを挟む「シャードいるかー?」
学園から帰り、着替えてすぐにシャードの部屋へと訪れた。その場にいるのはカイト、メア、ミーナ、レナだ。
その部屋にいるであろう人物を呼びながら、扉を数回ノックするとゆっくり開き、髪の乱れたシャードが半目で出てくる。
「・・・・・・もうそんな時間か」
「お前・・・・・・寝てたな?」
恐らく朝の後から今の今まで寝てたであろうシャードをジト目で睨むが、軽く欠伸をされて受け流される。
「まあな。かの有名なSSランク冒険者様にものを教えるとなると緊張してしまってな・・・・・・つい」
それどころか皮肉で返されてしまった。
「おどれは緊張すると『つい』で寝てしまうのか」
「そうだな・・・・・・あまりにも予想外で目を背けたくなるようなことが起きると脳の活動が急激に衰え、それに伴い、脳から出される信号が途絶え始めて手足を動かす力、果ては瞼を開けている持続力すらなくなり、休眠を欲した、というわけさ」
一見それらしいことを言ってるが、人はそれを現実逃避と呼ぶ。
「それはそれとして、部屋の奥で倒れてる『アレ』はなんだ?」
「『アレ』? ・・・・・・ああ」
シャードは「あれか」と言って俺と同じものを見る。それはかなり散らかっている部屋の奥で、地面に伏して倒れているランカの姿があったからだ。
「ちょっと薬品テストのひが・・・・・・被験者になってもらっただけさ」
「何飲ませた!?」
被験者ではなく、被害者と言いそうになったシャードの言葉を、俺は聞き逃さなかった。
その後、シャードに少し待っててくれと言われ、部屋の外で十分ほど待機。
多少髪が整えられたシャードに誘われて中に入ると、むせ返るくらいの薬品臭が立ち込めていた。
さっき見た時よりもなんとなく片付けられた部屋だが、ランカだけは変わらず地面に伏していた。
「本当に何飲ませたんだ、こいつに?」
脇腹辺りを突っつくとビクビク反応を示すので死んではいないようだが。
「薬物耐性があるというのでな。基本的な毒からさらに強力な猛毒、混乱、錯覚、幻覚、幻聴、そして人の五感を一時的に失わせるものや、逆に感覚を鋭くさせるものなどなど・・・・・・」
「・・・・・・ランカに恨みでもあるのか?」
一種の拷問なんじゃないかと思えるレパートリーだった。というか、最初の毒と猛毒ですでに殺しにかかってるじゃねえか。
「それで、私は何を教えればいいのだろうか?」
「何を教えようかとかは考えてなかったのか? 時間はあったはずなのに」
俺の言葉の意味を理解して申し訳なさそうに軽く頷くシャード。
背など大きいはずなのに、この時はこいつが怒られている子供のように小さく見えた。
「そうだな・・・・・・薬師なんだから、まずは簡単な薬品はどうだ?」
「簡単な薬品・・・・・・だとすると、ポーション辺りが妥当だろうな」
ほう、ポーションか。
そういえば魔族大陸やフィーナが言ってたのを聞いた覚えがある。
回復魔術があるからポーションなんて使わなかったが、興味はあるな。
「じゃあ、それにしよう。材料はあるか?」
「ここをどこだと思ってる?」
「俺の家」
「たしかにそうだが、そうじゃなくてだな・・・・・・」
いつも余裕な表情をしているシャードが困った顔をするので、ついつい苛めたくなってしまった。
すると俺の心境を察したのか、地面で転がっているランカから小さく「この鬼畜がぁ・・・・・・」という呟いたので、その背中を足で踏む。
「何をする!? ただでさえ動けなくなっている幼女を足で踏むとは何事・・・・・・あっ、もう少し強くお願いします」
なぜかマッサージになってしまったが、その要望通り強めに踏むとランカから「あぁ~、極楽じゃ~」と老人のような呟きが聞こえてくる。
それはともかく、話を進める。
「それはそうと、この草花はどこから拾ってきたんだ?」
ガラスケースの戸棚の中に、材料と思われる保管された草花を見てふとそう思う。
シャードはほとんど外出しておらず、取りに行ったら形跡はなかったのだが・・・・・・
「いくつかは魔族大陸から持ち帰ったものだ。たまにこうやって持ち運んでいる」
「こうやって」のところで胸の谷間に自らの手を突っ込み、その中から色んな草が出してきた。
カイトは毎度のことながら赤くしているが、そろそろその現象にツッコんでいいだろうか?
「お前のそこって本当にどうなってるの? 空間魔術使ってるの? それとも素で四次元ポケットなの?」
「確かめてみるか?」
シャードは襟を下に伸ばして胸の谷間を強調してきた。
同時にレナがカイトにそれを見せまいと、赤くしながら両目を覆う。
メアやミーナは自分の胸をさすって悔やんでいる様子だった。
「そういうのいいからポーションの作り方教えろよ。はよ」
「色々台無しだな・・・・・・まぁ、あまり無駄話して時間がなくなるものも惜しいしな。始めよう」
シャードはようやく真剣な顔をして試験管や薬草などを揃えて並べる。
こうやって見ると、向こうの世界でやってた科学や理科の授業とそう大差ないな。
「ではまず、ポーションの材料となるこの薬の葉を用意した熱湯に入れる」
そう言いながら、すでに火にかけていた鍋の中に葉を投入した。
すると次に金属性の細長い棒を取り出した。
「次はこの特性の伝達筒を使って中をかき混ぜる。これも魔道具の一種なのだが、この時これに魔力を流し込むと、伝達筒を介してお湯の中に魔力が注ぎ込まれる」
説明をしながらやって見せているシャードの魔力を視認して見ると、たしかにその伝達筒を伝わって鍋の中に溜まっていった。
・・・・・・なんか汚いと思うのは魔力を見てしまっている俺だけだろうか。
「注ぎ込む魔力の量が多ければ、その分のポーションの効能も上がるが、少しだけでも十分な効果が表れるからそこそこにしておいた方がいいだろう」
伝達筒を取り出して火を止める。
そして中の葉を箸で摘んで取り出すと、さっきまでどこにでもありそうなただの葉に紫色の土がギッシリこびり付いているように見えた。
その光景を見てゾッとしてしまう。
「これは『癒しの土』というのだが・・・・・・フフフ、やはりいい気はしないようだな?」
シャードは俺の表情を見るとしてやったり顔をしていた。
「やはり」ってことは俺じゃなくても初見はみんな同じ反応をしているらしい。
横にいるメアやミーナも同じ反応をしていたし。
「とりあえず話を進めるが、単体では何の効果もないこれをすり鉢ですり潰す」
シャードは説明を続けながら、あらかじめ用意していたすり鉢の中に放り込み、ゴリゴリといい音を立てながら潰していた。
ほどなくして饅頭のような形となった紫色の何かが出来上がった。
「そしてこれを半日ほど放置するのだが、すでにあらかじめ作ったものがあるので、これと交換する」
そう言って窓際に置いてあった緑色のカサカサになったものと入れ替えた。
料理番組かよ・・・・・・。
「あの、それって緑色ですけど、さっきのと同じものなんですか?」
ここでカイトが手を挙げて質問する。
「そうだ。今のは紫色だが、時間が経つにつれて葉と同じ緑色に戻るんだ。で、これをさっき葉を茹でたお湯の上で握り潰し、粉々にしつつ中へ入れるんだ」
グツグツと煮える鍋の中にそれが投入されると、透明だったお湯が徐々に緑色へと変化していく。
「緑色になり始めたら火を止めるんだ。ここは意外と大事だから気を付けるんだぞ」
「そのまま煮続けたらどうなるんだ?」
「元の透明に戻り、ただの水になる」
なるほど、中の成分が消えて無くなってしまうのか。
「どれくらい放置するんだ?」
「まぁ、十分程度だな。それで容器に入れれば完成だ」
「たしかに工程は簡単だったな。煮て潰して干して煮て終わり、か・・・・・・材料は手に入れやすいのか?」
シャードはビーカーの中に緑色の液体を入れつつ答える。
「普通、といったところか。入手自体は簡単だが、多く群生しているわけではないからな。いくつか手に入れたらそれを栽培して増やしていくんだが・・・・・・ある意味こっちの方が手間だな」
そう言いながらフッと笑う。
どことなくいつもより楽しそうにしているのは、自分の知識を披露しているからだろうか?
そして十分が経過すると、さっきまでただの緑色の水だったものが、とろみのあるものになっていた。
「これが・・・・・・ポーション?」
「そう、直接かけても飲んでも効く代物だ。これくらいなら一つ銅貨十枚の価値だろう・・・・・・効能も試してみるか」
最後の言葉を呟くと、シャードは近くにあったナイフを持って自らの腕をーー
「待て待て待て待てっ! ちょっと待て!」
自分の腕を切ろうとしていたシャードが持っているナイフを奪い止める。
「何をする? 今は実験動物がいないのだから、自らで試してみなければちゃんと効果があるか確かめられないじゃないか・・・・・・」
「だからってリストカットみたいに平然と自分の腕を切ろうとしてんじゃねえよ! 嫁入り前の女が何してんだ、全く!」
「君は私の父か・・・・・・というか、なぜ私が結婚したことないと知っている?」
「わかるだろ、普通」
こんなすぐに自分の腕を切ろうとする頭のおかしい奴を嫁になんてしたくないだろ、普通。
とはいえ、効果は知っておきたい。
なので実践するとしたら・・・・・・
「代わりに俺がやる」
そう言って返答も聞かずに、自分の腕にナイフを突き刺す。
「いったぁ!?」
「師匠!? 仮にあんたがやるとしても、切るだけでいいじゃないですか! なんで思いっきり突き刺してるんですか!?」
責めるようなツッコミをするカイト。
そしてメアが痛々しいそうに顔をしかめて背け、レナは俯いてしまう。
その中でミーナだけは「おぉ・・・・・・」とあまり表情を変えないまま感心するような声を漏らしていた。
「まぁ、効能を調べるならより深い傷がいいかと思ってな。それに俺には回復魔術もあるし」
「君も人のことを言えないな」
シャードが呆れ気味に溜め息を吐く。
失礼な、後先考えてないお前と一緒にするんじゃない。
とか思いつつ、ポーションを傷にかける。
少し染みるが、みるみるうちに傷が塞がっていった。
「おお、凄ぇな。ここまで即効性だったとは」
とは言っても、やはり傷が深過ぎたのか、完全には治らなかったのだが。
ポーションはまだもう少し残っていたので、今度は試しに飲んでみることにしてみた。
ーーゴクッ。
「・・・・・・・・・・・・ぶっふぇあ!?」
「師匠ーっ!?」
今まで飲んだ薬剤や漢方よりも苦く、そのあまりの不味さに吹き出してしまい、俺もランカの横に倒れ飲んでしまう。
今回の教訓・・・・・・ポーションはかけても飲むな。
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