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武人祭
酔わされ
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かなり上の方で滞空していた火の玉が、徐々に加速をつけて落下する。
それが大量に凍らされたカエルの中に落ちると、火柱が天高く上がる。次にそれは半球状に広がっていき、同時に強い熱風が吹く。
その熱であたしが魔術で作った周囲の氷はいとも簡単に溶かされる。
自分を固めていた氷が溶けて抜け出そうとカエルだが、迫る火の壁からは逃げ切れずに飲み込まれてしまう。
「ゲ――」
百近くはいるのではないかという数は、次々と火の海へと消えていく。
そしてそのランカの放ったエクスプロージョンという魔術は徐々に、確実にあたしたちへと近付いてきていた。
「ちょ……これ大丈夫なの?」
「問題はありませんよ。アレはギリギリあたしたちの前で止まるよう調節しておきました……あっ」
最初は得意気にしていたランカだが、何か失態に気付いたように表情から笑みが消える。
あたしも今の言葉から嫌な予感がしていた。
離れていても熱い熱風が襲り、近付くに連れて熱さが増している気がするのだ。その発生源であるあの壁があたしたちの目の前までやってきたらどうなるのか……
「あんたら……回れ右して逃げるわよっ!」
そう言いつつ、あたしは誰よりも先に火の壁が迫ってくる方向とは逆の方に走り出していた。
「うおぉぉぉぉっ!?」
「これ、ホントにシャレにならないじゃないの!?」
「マヤ、早く!」
「リナも行くぞ!」
「ま……皆さん待ってください!」
メアも一目散に逃げ、ジェイはマヤの手を、カイトはリナの手を引く。
ランカも自分がしてしまったことを理解し、遅れて走り出した。
敵じゃなく味方の魔術にやられるなんて冗談じゃないわ!
――――
しばらくして魔術は消え、身を焼かれそうな熱風がなくなったことにより普段吹く風が涼しく感じる。
「あー……もう勘弁してよ……」
ベットリと汗で濡れた顔を拭う。
体の方も至るところが汗に塗れている。さっさと帰ってお風呂に浸かりたい気分だわ……
「ま……待って、待ってください……大量に魔術を行使した後に走ると……ちょっと吐きそうでふ……うぅっ」
ランカも別の意味で満身創痍となっていた。ま、あいつは自業自得よね。
カイトやジェイたちも大きく溜め息を吐いて尻もちを突いて座る。手を引っ張られていたリナとマヤも、息を切らしていた。
「た、たしかに疲れました……でもこれで終わりですよね?」
カイトが引きつった笑みを浮かべながら言い、その言葉に全員が振り返って現状を確認しようとする。
そこにはさっきまであった沼は蒸発して草木は燃えてなくなっており、もはや草原ではなく焼け野原となってしまっていた。
焼け跡にはカエルだったであろう炭がいくつも転がっている。
「あのねぇ……『できるだけ数を潰せるの』とは言ったけど、誰が消し炭にしろって言った!?これじゃあ、素材を取ってもただの灰じゃない!」
ちょっと強めに言ってみたけど、ランカには効いてないらしく口を尖らせていた。
「えー……だって派手な技で決めたいじゃないですか~?」
「なんであんたの趣味に身を委ねなきゃならないのよ……」
色んな意味で疲れが押し寄せてきて、あたしは大きく溜め息を漏らしてしまう。
「まぁ、どっちにしても丁度よかったんじゃないですか?さすがにこの数をさっきの技以外で倒すとなるとフィーナさんが発動した魔術を上回るくらいの威力を持つもので破壊しなければならない上に、相応の数を作り出さなければならないんですから……」
ランカが肩をすくめてそう言う。
あたしが出したあの魔術は、そこまで強力なものになっていたの……?
「……そう、やっぱり成功したのね」
小さく呟き、僅かに口元が綻びてしまっていた。
アヤト……あいつの弟子になんてなって、何が嬉しいんだろうかと思ってたけど、成長を実感するのがこうも嬉しいとは……
ちょっとだけそんな余韻に浸っていると、周囲に短い地鳴りが鳴り響く。
「……え?」
終わったと思い込んでいたところに起こった事象に、ジェイがポツリと呟く。
そして驚いたのはみんな同じで、再び揺れ出した地面にマヤが小さく悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまう。
地震……にしては不自然に感じる。
まるで地面の下で何かが動いているような……?
魔力が見えるよう目に集中する。
「……最悪、ね……」
その正体を見てしまったあたしは、口角を上げて引きつった笑いをして呟く。
地中深くに見えるのはさっきのカエル軍団のどれよりも大きく、体中にイボとトゲらしきものが形として見えていた。
魔力で位置を捉えているカエルは段々と浮上し、爆発でもしたかのような勢いで地面を割いて出てきた。
衝撃で飛び散ってきた土塊を水の壁を出して防ぎつつ、その姿を視認する。、
毒々しい紫色に赤い斑点模様が所々にあり、魔力で見た通り刺々しくイボだらけのカエル。
明らかに普通のディープフロッグじゃない……というか、今までにあんなの見たことないんだけど。
「ミーナ、アレが何か知ってる?」
魔物に関して意外と博識だとアヤトから聞いていたので、ミーナに問いかけてみる。
するとアレの存在を知っているのか、ミーナはとてつもなく嫌そうな顔をしていた。
「……一応同じディープフロッグ。でも他の個体よりも凶悪な特性を持ってることから、『酔っ払いカエル』って呼ばれてる。メア、空間魔術で布とか取り出せない?人数分」
「布?ちょっと待ってろ……」
ミーナが珍しく焦った口調になり、メアも慌ててその場で空間魔術の収納庫を開いてしまう。
ありがたいことに、ジェイとマヤは目の前に出てきたカエルに目が釘付けでそれどころじゃないみたいだけど……
そしてメアは開いた収納庫からタオルを七人分取り出した。
まずミーナが先にそのタオルを受け取り、マスクのように自らの口元に当て、後ろで結んで縛る。
「みんなも」
あたしたちにもやれ、ということなのだろうか?
まぁ、「酔っ払い」なんて言うくらいだし、何かいやらしい攻撃でもしてきそうなのには間違いないわね。
あたしとランカ、カイトとリナがミーナの指示に従ってタオルを口に巻く。
驚いて固まってしまっていたジェイとマヤにも声をかけてやらせる。
「ミーナさん、ちなみにアレの強さは……?」
「うーん……Cランクくらい?こうやって人前に出てくること自体珍しいから、わからない……とりあえず、口から出す煙みたいなのには気を付けて」
ミーナが注意を促すと、あの「酔っ払いカエル」が喉を大きく膨らませた。
「ゲロォ……」
大カエルは鳴き声なのかもわからない声を出し、口からピンク色の煙を思いっ切り吐き出した。
そういえば、酔っ払いカエルなんて呼ばれてる割りに、あいつ自身酔っ払ってる様子がないのが気になる。
もしかしてと思い、ミーナに聞いてみることにした。
「ねぇ、ミーナ?もしかしてあの煙が……」
「そう、あのカエルが酔っ払いカエルって言われてる所以。アレを吸い込むとどんな酒豪でも強制的に酔わされる」
ミーナの説明を受けて、なるほどと理解する。
たしかに凶悪だわ……酔わされて判断を鈍らされれば、普通に戦えば勝てる敵にも足元をすくわれてやられてしまうだろう。
そう思うとゾッとする。
さっきは強くなったと少し調子に乗ったことを思っていたが、その矢先にこいつに出会うなんて……いや、もしかしたら僥倖なのかもしれない。
「自分は強くなった」だなんて自惚れれば、またアヤトにバカにされた挙句叩きのめされるのがオチ。
あいつに比べれば、あたしの強くなったレベルなんてたかが知れてるだろうし……って、なんであたしがここまで自分を卑下しなきゃならないのよ!?
なぜか自分にツッコミをし、気を取り直す。
「あいつは他の奴らと同じように、直接攻撃が通り難いのよね?」
「そ。だから魔法で攻撃した方がいい……というか、近付くと凄く臭いから近付きたくない」
ミーナが今までに見たことないくらいしかめっ面をしていた。やっぱり亜人って鼻が効くから、離れた距離にいるここからでも臭っているみたい。
「つまり近付くだけで臭いが付く、さっきの奴らよりタチが悪いクソガエルってわけね……」
皮肉のつもりで言ったけれど微かに鼻につく臭いがし、口元が引き攣る。
実力云々より精神的苦痛を与えてくるとか、ずいぶんいやらしい奴ね。
すると大カエルは喉元を大きく膨らませて口からピンク色の煙を吐き出し、それは一瞬で辺り一帯に充満してあたしたちを包み込んだ。
「毒!?」
「違う。あの煙を吸うと酔うから、気を付けてにゃん」
アレがさっきミーナが言っていた強制的に酔わされるやつね……ん?
「「『にゃん』?」」
異変に気付いたのはあたしだけではなく、カイトやリナもミーナの語尾に気付いてそっちを見る。
頬は紅潮し目も虚ろ、体の軸が定まらずフラフラとしていた。その様子はまるで酔っ払いのよう……
「ってあんた、自分で注意しといて吸い込んでどうすんのよ!?」
「大、じょぶ……酔ってにゃいから……」
全く呂律の回ってないミーナ。説得力というものを屋敷に置いてきたみたい。
よく見るとランカが俯いて倒れていて、カイトも片膝に肘を突いて頬杖をしていてリナに心配され、ジェイは完全に酔っ払ってしまっているマヤに絡み付かれている状態だった。
「フィーナは大丈夫か!?」
「えぇ、あたしは大丈夫よ。でも……」
あたしと同じように無事だったメアがあたしを心配する。他はほぼ全滅だ。
もしかして大丈夫なのってあたしとメアとリナと……ジェイだけ?しかもその中で、今まともに動けるのがあたしとメアだけじゃないの、これ!?
リナとジェイの二人はそれぞれ介護に忙しいようだし、どうすんのよこの状況……いや、ここは逆にあたしとメアは無事だったと考えましょう。
そんでさっさとあいつを倒して――
その瞬間、再びカエルの喉元が大きく膨張する。
また煙を出す気?
勝手にそう思って少し安心したけれど、カエルの口から僅かに透明の液体が垂れ落ちる。
「っ……!何、この臭い!?」
「くっさ!」
一瞬で広がる悪臭にメアが嗚咽を漏らす。
鼻が曲がるなんてレベルじゃないわ……!
「うっ……!?」
と、ミーナもランカと同じように倒れてしまう。やはり鼻のいい亜人にこの臭いはキツいか……
さらにさっきまで気持ち良く酔っていたマヤが、その臭いに我慢できず嘔吐してしまう。
「フィーナ、さん……これちょっとヤバくないですか……?」
カイトがフラフラとしながら言う。少しは動けるらしい。
……というか、横のリナは目も口も見えないせいで、どんな表情してるのか全くわからないわね。いつも以上にちゃんと見えてるか心配になるわ……
でもカイトの言う通り、あまりよくない状況になってしまっている。
「酔わせて臭い体臭を発してるとか、中年オヤジかっての……!」
悪態を突いた言葉を呟きながらあたしはランカを背負ってカイトたちの方を向く。
「あんたら、一旦下がるわよ!」
「は、はい!」
「おう!」
メアとジェイが返事をする。
ジェイはマヤを、メアはミーナ背負い、リナがフラフラなカイトを支える。
幸い、あのカエルが動く気配はない。今のうちに距離を取って――
そう思って走り出した瞬間だった。
ドッという鈍い音と共に体の側面に衝撃が走り、あたしの体は宙を舞った。
――――
2019年4月17日お知らせ
現在書籍化されている「最強の異世界やりすぎ旅行記」の4巻が明日出荷されます!
早いところでは当日中に店頭に並ぶ予定です。
こちらでは魔族大陸での勇者と魔王編に決着が着いた場面が収録されています。
投稿されていた話と流れは基本的な変わりませんが、会話の内容などが所々新しくなっているので、今まで見ていただいた方もぜひ手に取って見てください!
宣伝失礼しましたm(_ _)m
それが大量に凍らされたカエルの中に落ちると、火柱が天高く上がる。次にそれは半球状に広がっていき、同時に強い熱風が吹く。
その熱であたしが魔術で作った周囲の氷はいとも簡単に溶かされる。
自分を固めていた氷が溶けて抜け出そうとカエルだが、迫る火の壁からは逃げ切れずに飲み込まれてしまう。
「ゲ――」
百近くはいるのではないかという数は、次々と火の海へと消えていく。
そしてそのランカの放ったエクスプロージョンという魔術は徐々に、確実にあたしたちへと近付いてきていた。
「ちょ……これ大丈夫なの?」
「問題はありませんよ。アレはギリギリあたしたちの前で止まるよう調節しておきました……あっ」
最初は得意気にしていたランカだが、何か失態に気付いたように表情から笑みが消える。
あたしも今の言葉から嫌な予感がしていた。
離れていても熱い熱風が襲り、近付くに連れて熱さが増している気がするのだ。その発生源であるあの壁があたしたちの目の前までやってきたらどうなるのか……
「あんたら……回れ右して逃げるわよっ!」
そう言いつつ、あたしは誰よりも先に火の壁が迫ってくる方向とは逆の方に走り出していた。
「うおぉぉぉぉっ!?」
「これ、ホントにシャレにならないじゃないの!?」
「マヤ、早く!」
「リナも行くぞ!」
「ま……皆さん待ってください!」
メアも一目散に逃げ、ジェイはマヤの手を、カイトはリナの手を引く。
ランカも自分がしてしまったことを理解し、遅れて走り出した。
敵じゃなく味方の魔術にやられるなんて冗談じゃないわ!
――――
しばらくして魔術は消え、身を焼かれそうな熱風がなくなったことにより普段吹く風が涼しく感じる。
「あー……もう勘弁してよ……」
ベットリと汗で濡れた顔を拭う。
体の方も至るところが汗に塗れている。さっさと帰ってお風呂に浸かりたい気分だわ……
「ま……待って、待ってください……大量に魔術を行使した後に走ると……ちょっと吐きそうでふ……うぅっ」
ランカも別の意味で満身創痍となっていた。ま、あいつは自業自得よね。
カイトやジェイたちも大きく溜め息を吐いて尻もちを突いて座る。手を引っ張られていたリナとマヤも、息を切らしていた。
「た、たしかに疲れました……でもこれで終わりですよね?」
カイトが引きつった笑みを浮かべながら言い、その言葉に全員が振り返って現状を確認しようとする。
そこにはさっきまであった沼は蒸発して草木は燃えてなくなっており、もはや草原ではなく焼け野原となってしまっていた。
焼け跡にはカエルだったであろう炭がいくつも転がっている。
「あのねぇ……『できるだけ数を潰せるの』とは言ったけど、誰が消し炭にしろって言った!?これじゃあ、素材を取ってもただの灰じゃない!」
ちょっと強めに言ってみたけど、ランカには効いてないらしく口を尖らせていた。
「えー……だって派手な技で決めたいじゃないですか~?」
「なんであんたの趣味に身を委ねなきゃならないのよ……」
色んな意味で疲れが押し寄せてきて、あたしは大きく溜め息を漏らしてしまう。
「まぁ、どっちにしても丁度よかったんじゃないですか?さすがにこの数をさっきの技以外で倒すとなるとフィーナさんが発動した魔術を上回るくらいの威力を持つもので破壊しなければならない上に、相応の数を作り出さなければならないんですから……」
ランカが肩をすくめてそう言う。
あたしが出したあの魔術は、そこまで強力なものになっていたの……?
「……そう、やっぱり成功したのね」
小さく呟き、僅かに口元が綻びてしまっていた。
アヤト……あいつの弟子になんてなって、何が嬉しいんだろうかと思ってたけど、成長を実感するのがこうも嬉しいとは……
ちょっとだけそんな余韻に浸っていると、周囲に短い地鳴りが鳴り響く。
「……え?」
終わったと思い込んでいたところに起こった事象に、ジェイがポツリと呟く。
そして驚いたのはみんな同じで、再び揺れ出した地面にマヤが小さく悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまう。
地震……にしては不自然に感じる。
まるで地面の下で何かが動いているような……?
魔力が見えるよう目に集中する。
「……最悪、ね……」
その正体を見てしまったあたしは、口角を上げて引きつった笑いをして呟く。
地中深くに見えるのはさっきのカエル軍団のどれよりも大きく、体中にイボとトゲらしきものが形として見えていた。
魔力で位置を捉えているカエルは段々と浮上し、爆発でもしたかのような勢いで地面を割いて出てきた。
衝撃で飛び散ってきた土塊を水の壁を出して防ぎつつ、その姿を視認する。、
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「ミーナ、アレが何か知ってる?」
魔物に関して意外と博識だとアヤトから聞いていたので、ミーナに問いかけてみる。
するとアレの存在を知っているのか、ミーナはとてつもなく嫌そうな顔をしていた。
「……一応同じディープフロッグ。でも他の個体よりも凶悪な特性を持ってることから、『酔っ払いカエル』って呼ばれてる。メア、空間魔術で布とか取り出せない?人数分」
「布?ちょっと待ってろ……」
ミーナが珍しく焦った口調になり、メアも慌ててその場で空間魔術の収納庫を開いてしまう。
ありがたいことに、ジェイとマヤは目の前に出てきたカエルに目が釘付けでそれどころじゃないみたいだけど……
そしてメアは開いた収納庫からタオルを七人分取り出した。
まずミーナが先にそのタオルを受け取り、マスクのように自らの口元に当て、後ろで結んで縛る。
「みんなも」
あたしたちにもやれ、ということなのだろうか?
まぁ、「酔っ払い」なんて言うくらいだし、何かいやらしい攻撃でもしてきそうなのには間違いないわね。
あたしとランカ、カイトとリナがミーナの指示に従ってタオルを口に巻く。
驚いて固まってしまっていたジェイとマヤにも声をかけてやらせる。
「ミーナさん、ちなみにアレの強さは……?」
「うーん……Cランクくらい?こうやって人前に出てくること自体珍しいから、わからない……とりあえず、口から出す煙みたいなのには気を付けて」
ミーナが注意を促すと、あの「酔っ払いカエル」が喉を大きく膨らませた。
「ゲロォ……」
大カエルは鳴き声なのかもわからない声を出し、口からピンク色の煙を思いっ切り吐き出した。
そういえば、酔っ払いカエルなんて呼ばれてる割りに、あいつ自身酔っ払ってる様子がないのが気になる。
もしかしてと思い、ミーナに聞いてみることにした。
「ねぇ、ミーナ?もしかしてあの煙が……」
「そう、あのカエルが酔っ払いカエルって言われてる所以。アレを吸い込むとどんな酒豪でも強制的に酔わされる」
ミーナの説明を受けて、なるほどと理解する。
たしかに凶悪だわ……酔わされて判断を鈍らされれば、普通に戦えば勝てる敵にも足元をすくわれてやられてしまうだろう。
そう思うとゾッとする。
さっきは強くなったと少し調子に乗ったことを思っていたが、その矢先にこいつに出会うなんて……いや、もしかしたら僥倖なのかもしれない。
「自分は強くなった」だなんて自惚れれば、またアヤトにバカにされた挙句叩きのめされるのがオチ。
あいつに比べれば、あたしの強くなったレベルなんてたかが知れてるだろうし……って、なんであたしがここまで自分を卑下しなきゃならないのよ!?
なぜか自分にツッコミをし、気を取り直す。
「あいつは他の奴らと同じように、直接攻撃が通り難いのよね?」
「そ。だから魔法で攻撃した方がいい……というか、近付くと凄く臭いから近付きたくない」
ミーナが今までに見たことないくらいしかめっ面をしていた。やっぱり亜人って鼻が効くから、離れた距離にいるここからでも臭っているみたい。
「つまり近付くだけで臭いが付く、さっきの奴らよりタチが悪いクソガエルってわけね……」
皮肉のつもりで言ったけれど微かに鼻につく臭いがし、口元が引き攣る。
実力云々より精神的苦痛を与えてくるとか、ずいぶんいやらしい奴ね。
すると大カエルは喉元を大きく膨らませて口からピンク色の煙を吐き出し、それは一瞬で辺り一帯に充満してあたしたちを包み込んだ。
「毒!?」
「違う。あの煙を吸うと酔うから、気を付けてにゃん」
アレがさっきミーナが言っていた強制的に酔わされるやつね……ん?
「「『にゃん』?」」
異変に気付いたのはあたしだけではなく、カイトやリナもミーナの語尾に気付いてそっちを見る。
頬は紅潮し目も虚ろ、体の軸が定まらずフラフラとしていた。その様子はまるで酔っ払いのよう……
「ってあんた、自分で注意しといて吸い込んでどうすんのよ!?」
「大、じょぶ……酔ってにゃいから……」
全く呂律の回ってないミーナ。説得力というものを屋敷に置いてきたみたい。
よく見るとランカが俯いて倒れていて、カイトも片膝に肘を突いて頬杖をしていてリナに心配され、ジェイは完全に酔っ払ってしまっているマヤに絡み付かれている状態だった。
「フィーナは大丈夫か!?」
「えぇ、あたしは大丈夫よ。でも……」
あたしと同じように無事だったメアがあたしを心配する。他はほぼ全滅だ。
もしかして大丈夫なのってあたしとメアとリナと……ジェイだけ?しかもその中で、今まともに動けるのがあたしとメアだけじゃないの、これ!?
リナとジェイの二人はそれぞれ介護に忙しいようだし、どうすんのよこの状況……いや、ここは逆にあたしとメアは無事だったと考えましょう。
そんでさっさとあいつを倒して――
その瞬間、再びカエルの喉元が大きく膨張する。
また煙を出す気?
勝手にそう思って少し安心したけれど、カエルの口から僅かに透明の液体が垂れ落ちる。
「っ……!何、この臭い!?」
「くっさ!」
一瞬で広がる悪臭にメアが嗚咽を漏らす。
鼻が曲がるなんてレベルじゃないわ……!
「うっ……!?」
と、ミーナもランカと同じように倒れてしまう。やはり鼻のいい亜人にこの臭いはキツいか……
さらにさっきまで気持ち良く酔っていたマヤが、その臭いに我慢できず嘔吐してしまう。
「フィーナ、さん……これちょっとヤバくないですか……?」
カイトがフラフラとしながら言う。少しは動けるらしい。
……というか、横のリナは目も口も見えないせいで、どんな表情してるのか全くわからないわね。いつも以上にちゃんと見えてるか心配になるわ……
でもカイトの言う通り、あまりよくない状況になってしまっている。
「酔わせて臭い体臭を発してるとか、中年オヤジかっての……!」
悪態を突いた言葉を呟きながらあたしはランカを背負ってカイトたちの方を向く。
「あんたら、一旦下がるわよ!」
「は、はい!」
「おう!」
メアとジェイが返事をする。
ジェイはマヤを、メアはミーナ背負い、リナがフラフラなカイトを支える。
幸い、あのカエルが動く気配はない。今のうちに距離を取って――
そう思って走り出した瞬間だった。
ドッという鈍い音と共に体の側面に衝撃が走り、あたしの体は宙を舞った。
――――
2019年4月17日お知らせ
現在書籍化されている「最強の異世界やりすぎ旅行記」の4巻が明日出荷されます!
早いところでは当日中に店頭に並ぶ予定です。
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投稿されていた話と流れは基本的な変わりませんが、会話の内容などが所々新しくなっているので、今まで見ていただいた方もぜひ手に取って見てください!
宣伝失礼しましたm(_ _)m
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