最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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4巻

4-2

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「大丈夫ですよ、メアさん。私はここにいます」

 優しく語りかけるように呟くリナ。そこにはいつもみたいな怯えや戸惑いはなく、言葉もハッキリとしていた。
 その時、風が吹いてリナの前髪が持ち上がる。
 宝石のように青く輝く、綺麗なひとみあらわになった。
 その美しさに見とれてしまい、いつの間にか俺の涙は止まっていた。

「メ、メア、さん……? ど、どうしたんですか……」

 しかしそれは一瞬の出来事で、リナはいつも通りの挙動不審な状態に戻った。

「……いや、もう大丈夫だ。リナのオドオドした姿を見たら、なんか落ち着いた」
「えぇ……」

『どうして?』とでも言いたげなリナ。
 しばらくして完全に落ち着いたところで、俺はリナと一緒に再び歩き出す。
 その道中で、俺が意識を失ってから何があったのかを聞かせてもらった。

「――なの、で、カイト君も師匠も、みんなバラバラになって、しまったんです……」
「マジかよ……アヤトでも何もできなかったっていうのが、一番信じられねえな」

 アヤトと知り合ってからそこまで長いわけでもないが、そのすごさは十分に実感している。
 底の見えない強さに、なんでもそつなくこなしてしまう器用さやとんでもないアイテムの作成。加えて魔空間とかいう新しい世界の創造だ。
 これは本人の前では言えないけど、もはや人間をやめてるんじゃないかと思ってしまう。
 まあ、それを直接言うのは「化け物」と言っているも同然だから、冗談でも口にはしない。

「とにかく、早くアヤトたちと合流しないとな」
「は、い……太陽も昇って、きましたし、向こうが東、であっちが西、になります、ね?」

 リナが上を指差す。
 太陽はすっかり昇って、今は真上にある。これで方角と時間はだいたい分かったな。

「よし……どの方向に行くかはリナに任せた!」
「えっ……」

 声をらしたリナが、不安そうな顔をこっちに向ける。
 長い前髪で隠れているはずの視線を感じて、俺は思わず顔を背けた。

「……すまん、俺方向音痴ほうこうおんちなんだよ……」
「そ、そう、でしたか……ごめんなさい」

 なんで謝るの!? 逆に辛くなるんだけど!

「それ、じゃあ……まずは情報収集、しましょう? せめて、魔城の場所、さえ分かれば、なんとかなる、かも……?」

 リナの提案に、俺は頷く。

「だな。場所さえ分かればみんな集まってくるだろうからな……!」

 と、その時、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ!?」
「悲鳴……こっち!」

 またしてもリナは、自ら先行するという珍しい行動を取る。
 本当にリナなのか? と疑ったりもしたが――

「うっ!?」

 走り出してすぐ、足元に転がっていた石につまずいて転んでしまった……うん、この締まらない感じ、本物だ。
 ヨロヨロと起き上がるリナを支えながら、悲鳴がした方へ急ぐ。
 進む先は下り坂で、その下には十匹ほどのおおかみに囲まれている、人間の少年少女がいた。
 どの狼も口のはしから炎が漏れていて、今にも吐き出そうとしている。
 少年たちの方に目を向ければ、二人を守るように剣ややりなどの多彩な武器が宙に浮いていた。
 剣を手にした少年は初めて見た顔だ。だが少女の方には見覚えがあった。

「イリア……?」

 俺はポツリと、その少女の名を口にする。
 美しく長い黒髪と整った顔立ちに、汚れていても身分の高さがにじている豪奢ごうしゃなドレス。
 間違いない、あれはイリアだ。
 次の瞬間、イリアに向けて狼が一斉に口から炎を吐いた。

「くっ、またそれかよ!」

 少年が叫ぶと同時、彼らを囲むようにして、鉄の壁みたいなものが現れる。
 魔術……? いや、あれは水とか土の属性じゃねえ。
 そもそも鉄を作る魔術なんて聞いたことねえし、今は結界のせいで魔術は使えないはず……って考えてる場合じゃねえな。

「っ……うおぉぉぉぉっ!」

 炎はかなり高温らしく、鉄の壁はみるみるうちに真っ赤になり、恐怖心からか少年が叫び声を上げる。

「行くぞ、リナ! あいつらを助ける!」
「は、はい! 私は遠くの敵を、ねらいますので、手前のを、お願いしま、す!」

 リナはそう言うなり、弓を構えて矢を放ち、早速離れた狼を一匹仕留める。
 それによって狼たちが俺たちの存在に気付いた。

助太刀すけだちするぜ!」
「え!?」

 壁で視界をさえぎっているせいで何が起こってるのか分かっていない少年が、困惑の声を上げる。
 俺は坂を下りつつ、鞘から抜かないままに刀を構え、一匹の狼に向けて振るう。
 ――グシャッ!
 刀を当てられた狼は、ベキベキと骨の折れる音を立てて吹き飛んでいった。

『キャインッ!?』
「うっ、なんか罪悪感が……」

 まるで犬のような悲鳴を上げられて、少し戸惑ってしまう。
 しかし他の狼は、敵と判断した俺に次々と襲いかかってくる。
 気持ちを切り替え、鞘に納めたままの刀を振るってとにかく殴った。
 だけどやはり、当てる度に申し訳ない気持ちになってしまい、身体は無傷でも精神がすり減っていく。
 五匹ほど刀で殴り飛ばしたところで、全ての狼が倒れていることに気付いた。
 リナがもう半分を倒してくれたようだ。

「ナイス、リナ! ……おい、あんたら大丈夫か?」

 未だに鉄の壁を出したままにしていた少年たちに声をかける。

「あ、ああ……あんたたちは人間、なのか……?」

 戸惑いの声が向こうから聞こえてきた。ここが魔族大陸である以上、下手をすれば魔族と戦うことになるからな、心配するのももっともだろう。

「ああ、人間だ! 他に魔族とか魔物はいないから安心しろ!」

 そんな言葉を投げかけると、鉄の壁がフッときりのようなものになって消えてしまう。
 その向こうには、今にも倒れそうなほどに疲弊ひへいした様子の少年と、いつの間に気を失ったのか、横たわっているイリアの姿があった。
 二人に近付き、フラフラとする少年の肩に手を当てて支えてやる。

「マジで大丈夫かよ……こんな場所にお前ら二人だけか?」

 心配して問うと、少年はゆっくりと頷く。

「元々人間大陸の街にいたはずなんだけどな……いつの間にかこの森の中にいたんだよ。武装したおっかない魔族がそこら中にいるし、魔物には襲われるしで散々だ……」

 息も切れ切れになりながらも、精一杯説明してくれる少年。
 街にいたはずがいつの間にか……って、まさか、こいつらも俺たちと同じように?

「と、とにかく、今はここ、を、離れません、か? それなりに大きな、音を出しちゃっています、から、もしかしたら、魔族がここに来ちゃう、かもしれません」
「え? そ、うだな……さっさとここから逃げるか」

 リナの途切れ途切れの言葉に不思議そうにしていた少年だったが、すぐに理解して同意した。
 少年はイリアを背負ってこちらに向き直ると、宙に浮かべていた剣を消した。

「っと、先に名乗っとくか。俺はあら……ユウキだ。ただのユウキ」
「おう、タダノユウキだな?」

 珍しい名前だなと思って俺が確認すると、少年は手を横に振って否定する。

「違う違う違う、『ユウキ』! ユウキだけでいい」
「そうなのか?」

 ユウキだけでいいなら『ただの』なんて付けなくていいと思うんだが……何かを隠そうとしているのか?

「まぁ、いいや。俺はメアだ」
「リナ、です……」
「メアちゃんにリナちゃん、ね。二人とも可愛いな!」

 屈託くったくのない笑みで急に褒めてくるユウキに、俺たちは戸惑う。

「か、かわ……!?」

 特にリナは顔を真っ赤にしてしまっていた。
 男に正面から褒められるなんて、そうそうあるもんじゃないからな。
 しかし俺の場合、単純に恥ずかしく感じるよりも、微妙な感情を抱いていた。
 どうせなら、アヤトに言ってほしかったな……
 っていうか可愛いとかそんなこと呑気のんきに言ってる場合じゃねえと思うんだけどな。

「いきなりなんだよ?」
「いや、なんというか……この世界には美男美女が多いなぁ、なんて……」

 ボソボソと答えていたせいで、後半がよく聞こえなかった。

「あぁん? この世界がなんだって?」
「ああいや、なんでもない。っていうか、怖い! なんでそんな不良みたいな顔でにらむの? 美人顔が台無しだぞ」

 またしてもさらっとお世辞せじを言うユウキ。なんだかアークみたいな軽い奴に思えるな。

「あー、うっせ! 口説くどいてるひまあったら、さっさと行くぞ!」

 俺たちはその場から逃げるように歩き出す。
 しばらくすると、ユウキに背負われていたイリアが目を覚ました。

「うぅっ……! わた、しは……?」
「イリア……?」

 ユウキの肩越しに名前を呼ぶと、イリアはうっすらと開けた目を向けてくる。

「メア、お姉様……? お姉様!?」

 半分も開いていなかったイリアの目が、一気に大きく開かれる。
『メアお姉様』とむずがゆい呼ばれ方をされるのも、ずいぶん久しぶりだ。
 他人の空似そらにだったらどうしようと思っていたが間違いない。
 こいつはイリア。イリア・カルサナ・ルーメル。人間大陸にあるノルントン王国の姫だ。
 ノルントンが俺の国ラライナと国交があることもあって、イリアとは何度か、幼いころに顔を合わせたことがあるのだが……俺の方が歳上というだけで、「お姉様」と呼んでくるのだ。
 イリアはユウキに背負われていることに気付いていないのか、急に身体を起こそうとした。

「うおっとっと! あまり暴れないでくれるかな、お姫様?」
「あれ、ユウキ様……というよりここは……?」

 ユウキの冗談めかした言い方に、イリアはまだ少し寝惚ねぼけているのか、現状が把握はあくできていない様子だった。
 しかし徐々に思い出してきたらしく、イリアの顔が段々と青ざめていく。

「そうでした……私たち、あの少女に連れてこられて……」

『あの少女』という気になる単語が出てきたが、まだ混乱しているだろうから問い詰めない方がいいか。とりあえず世間話でもして落ち着いてもらおう。

「相変わらず大変そうだな、イリアは」

 俺が声をかけると、イリアは現実に引き戻されたようにハッとして、こっちを向いた。

「そうです、なぜこのような場所にメアお姉様が!?」
「あー、さっきもちょっと思ったけど、知り合いなのか、この人たち?」

 イリアと俺の会話を聞いていたユウキが、意外そうな顔で俺を見てくる。
 多分というか十中八九、俺が姫様と関わりのある人間には見えないのだろう。服も学生服と私服を組み合わせたもんだし……

「知り合いというか……この方はこれでも一国の姫なのです」
「……えっ」

 イリアの言葉に、ユウキが割と本気で疑うような目を向けてくる。
 ていうか、イリアまで『これでも』とか……たしかに王族っぽくないと自覚はしているが、実際に言われると結構傷付く。
 しかしこうまであっさりバラされるとは……変に気を遣われないように名前だけ教えた意味がねぇじゃねえか。
 頭をわしゃわしゃ掻きながら、仕方無しに答える。

「ああ、そうだよ。俺はメア・ルーク・ワンド、ラライナんとこのお姫様だよ」

 半ばヤケクソな言い方をすると、「へぇー」と感心するユウキの背中でイリアが頬をふくらませて不機嫌になっていた。

「メアお姉様、まだそんな口調なのですか? もっと王族としての……いえ、それ以前に女性として――」
「ちょっ……なんで敵地のど真ん中で説教されなきゃいけないんだよ!?」
「ふ、二人とも、声が大きい、よぉ……」

 俺たちの会話に、リナが割って入ろうとする。しかし相手が初対面だからかリナの声はいつも以上に小さく、イリアに鋭い目付きで睨まれてしまっていた。

「……この方は?」

 イリアの威圧するような眼光に、リナがビクビクと震えている。

「俺の友達のリナだ。臆病おくびょうだからあんまイジメてくれるなよ?」

 そんなリナの肩をつかんで抱き寄せ、フォローする。

「イジメてなんていません! ただ、そのような……なんというか、暗い方がメアお姉様とどのような接点があってご友人になったのか、興味がありまして……」

 ……もしかしてイリアは俺に、というか王族にリナみたいな友人は相応ふさわしくないとでも言いたいのだろうか?
 だとしたら、文句の一つでも言ってやりたいが……いや、それよりも話題を元に戻そう。イリアたちなら何か知ってるかもしれないし。

「学園の行事で仲良くなったんだよ。それよりお前はなんでこんなところにいるんだ? 人のことは言えないけど、王族がいるような場所じゃないだろ、ここは?」
「分かっています、そんなことは! ……ですが、私たちもどうしてこうなったのか、よく分からないのです」

 イリアは息を整えるためにそこで区切り、ユウキの背中から下りた。

「魔族の少女らしき人物にわなめられて魔族大陸に飛ばされ、魔族や魔物をできるだけけて移動するうちにこうなった……というのが、把握できている現状です。何のために私たちを狙ったのか、理由までは定かではありませんが……」

 何のため、ね……お姫様なら誰に狙われてもおかしくないとは思うけどな。
 そのあたりの自覚がないのだろうかとは思うが、それは口にせず、話を進めることにする。

「それより今は、この状況を何とかする方が先だ」
「ですね。メアお姉様の言う通り、分からないことで悩んでいても仕方ありませんものね! ……ところで」

 するとイリアは突然、さっきまでの悩んでいた様子がうそかと思うほどの笑みを浮かべていた。

「お姉様方こそ、なぜこの場所にいるのか、聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ……いや、それは……」

 突然責めるような質問を投げかけられ、どう返したらいいか分からず言葉に詰まってしまう。

「私と同様に突然連れてこられたにしては、やけに冷静なご様子ですが……まさか自ら進んでこの地へ足を運んだなどと、一国の王族の口からそんな言葉は出ませんわよね?」

 そう言って笑顔で凄んでくるイリア。
 冷静さに関して言うなら、いきなり魔族大陸に飛ばされて泣き叫ぶわけでもなく、情報を整理しようとしているイリアこそ相当だと思う……なんてのは冗談でも今は口に出せない。怖いし。
 でも何か言い訳を思い付くわけでもなくただ戸惑っていると、イリアが大きく溜息を吐いた。

「メアお姉様、あなたは昔からやんちゃでしたが、これはいくらなんでも『やんちゃ』の域を超えています!」
「俺だって遊びでここに来たわけじゃねえぞ? それにあんま騒いでると、また魔物か魔族が来て戦うことになっちまう……さっさと行くぞ」
「ちょっ……お姉様!」

 俺が強引に話を打ち切って逃げるように歩き始めると、イリアは「まだ話は終わってませんよ!」としつこく追及しながら付いてくる。

「ではせめて、どこに向かっているのか教えてください! ここから脱出する手立てはあるのですか!?」
「まずは魔城を目指す」

 質問に簡潔かんけつに答えると、後ろから付いてきていたイリアが歩みを止める。

「魔城? 何を言って……そこは魔王が住む城ではありませんか!?」

 イリアは足音荒く、再び歩き始める。

「何を考えているのです!?」
「今は別行動になっちまってるけど、他にも仲間がいてな。全員でそこを目指してたんだ。だったら他の奴も、バラバラになった今なら魔城に向かおうとするはずだろ?」
「危険です!」

 イリアが食い下がる。しかし俺も相当ストレスが溜まっていたせいで、振り返りながら思わず声を荒らげてしまった。

「だったらどうする気だ!? 帰る手段は? ここがどの位置なのかは? ただでさえお互い飛ばされて正確な場所すら分からないのに、帰る帰ると子供みたいに駄々だだをこねる気か!?」
「メア、お姉様……? わた、しは……そんなつもりじゃ……」

 俺の怒りに身を任せた発言にその場の全員の肩が跳ね、イリアの目に少しずつ涙が溜まっていく。

「私、はただ……早くお母様とお父様を、安心させたくて……」
「あっ……」

 嗚咽を漏らすイリアを見て、沸騰ふっとうしていた頭が急激に冷めていく。
 イリアも焦っているんだ、突然知らない場所に飛ばされてしまって……
 頼りになるのは、一緒にいたユウキだけ。そこに俺とリナが現れて、「もしかしたら」という気持ちが高まってさらに焦ってしまったのだろう。
 俺はどこかにいるはずのアヤトを探そうと思っているが、イリアはこんな不安しかない状況から一刻も早く脱出したいわけだ。
 ああ、やっちまったな……

「すまねぇ、イリア。言い過ぎた……」
「いいえ……メアお姉様の言い分は間違っていません。私も少々早まりました。目指す先は魔城にしましょう」

 イリアは涙をきながら、そう提案してくる。

「い、いいのか? イリアだって早く帰りたいんじゃ……」
「メアお姉様の言う通り、ここは危険なところで、今いる場所さえも分かっていません。ならばお仲間と合流して、少しでも戦力を増やした方が得策でしょう……」

 多少の不安を残しながらも、俺たちは魔城へ向かうことにそれぞれ納得して頷くのだった。



 第3話 ダディベアー


 俺、アヤトは、目の前のダディベアーの言葉に、心の中でツッコんでいた。
 ダディなのに女言葉って、完全にオネエじゃねえか……! いや、実はメスなのか?
 何はともあれ、言葉をしっかり話す魔物に会うのは、召喚したノワールとかベル以来初めてだな。
 会話はできるんだろうか?

『おい』
『全く、虫どころか人まで入ってくるなんて……』
『おいっ!』

 普通の声量では気付く様子がなかったので、大声で叫んでみるとようやく反応があった。

『言葉が通じている……? 人間があたしの言葉を理解しているというのか?』
『まぁ、そこは神様からのおくりものってやつだな。俺もしっかり意思疎通いしそつうできる魔物はあまり見ないから少し驚いてるが……話し合いで解決させてくれるか?』

 俺が軽くそう言うと、ダディベアーは低く唸る。

『話し合い? あたし相手に話し合いだと?』

 そして大声で笑い始めた。
 あまりに大きな笑い声に、空気がピリピリと振動する。
 後ろでは、ダディベアーの注意が俺に向いたことによって、ようやく動けるようになったカイトたちが、何やらコソコソと話していた。

「っ……あのっ、もしかしなくても師匠、あの魔物と会話してます?」
「多分。ベル以外で話してるのは初めて見る」

 そうか、カイトは俺が魔物と話すのを見るのは初めてだったか。
 俺が急にグルグル唸り出して驚いただろうな。
 ……もし豚とかと話す機会があったら、俺は終始無言を貫き通すだろう。だって嫌だろ、自分がブヒブヒ言ってる姿なんて。
 なんてくだらないことを考えていると、ようやく笑い声が収まった。

『……面白い人間だね。あたしたちの言葉をしゃべれる上におくすることなく話し合おうなんて……虚勢きょせい見栄みえでなく、余程自信があるように見えるわ』
『まぁ、ビッグワームとかいう魔物を軽くぶっ飛ばせる程度には自信があるぞ』
『ビッグワーム……ああ、あの砂漠ミミズのことか』

 ダディベアーが手を口に当てて思い出そうとする仕草をし、それが少し可愛く思えてしまう。

『んで、あんたはあたしもぶっ飛ばそうっての?』

 警戒して唸り始めるダディベアー。その威圧に、後ろのカイトたちも小さく悲鳴を上げる。

『そんなわけあるか。っていうか、後ろの奴らが怯えてるからあまり威嚇しないでくれ』

 両手を挙げて戦意がないことを示すと、少しだけ落ち着いてくれるダディベアー。

『で、なんで人間……と亜人もね。こんなところにいるのかしら?』
『魔王を倒しに来たら事故った』

 雑な答え方をすると、最初は困ったようにまゆをひそめたダディベアーだったが……

『まぁ、事情があるみたいだし、すぐに出てってくれるならいいんだけど……』
『なんなら俺たちを出口まで送ってくれるとありがたいんだが?』

 ニッと笑って言ってみる。

『……クッ、クククッ……! ずいぶん図々しいことを言うわね、お前は。いいだろう、ここで会ったのも何かの縁、案内してやるわ――』

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