最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

すでに勃発

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 ☆★☆★

 「それじゃあ、こいつらのことをよろしく頼む」
 「了解です、アヤト様!」

 俺の言葉に笑顔で返してくれる魔族の女、カシア。
 彼女の抱いている赤ん坊が俺に手を伸ばしてくるので、俺も人差し指を差し出して掴ませた。
 そんな俺の後ろにはワークラフト家にいた亜人たちが集まって立っている。
 周囲の珍しさで辺りを見渡したり、俺たちのやり取りを驚いて見ていたりしていた。

 「亜人と魔族と人間がこんなにも……本当に共存できているのか?」

 白い虎模様の奴がそう言う。

 「いさかいの一つや二つはあるだろうけど、そこら辺は同族同士でも変わらんだろ。問題があるとしたら、お前らに一緒に生活する気があるのかどうかだ」

 俺がそう言うと、亜人たちはお互い顔を見合わせる。

 「……それもそうか。だがまぁ、どちらにしろ帰る故郷のない俺たちからすればありがたい話だ。人間との溝は少し辛いが、努力しよう」
 「ああ、十分だ。ここには奴隷もなければ奴隷狩りも存在しない。気軽に畑でも耕しといてくれ」

 適当にヒラヒラと手を振って笑ってそう言い、ミランダたちのいる方を向く。
 ただし、笑みを無くして溜息を吐きながらではあるが。
 今の俺は少し困った表情をしてるんだろうなと自覚できる。

 「それで、どうするって?」

 ミランダたち一家がどうするかを、俺はもう一度尋ねる。

 「私たちは自分の家に帰るよ。まだまだ書類整理もあるしね」

 ミランダとアルニアの父、リンドールがフィアの肩を掴み寄せて言った。
 フィアもリンドールに寄り添い、誰から見ても夫婦円満の絵面である。それを見て、俺は自分の両親を思い出してしまう。
 俺たちの家族は強い。俺がシトの言う通り世界で一番だと言うのなら、間違いなく二番、三番になるくらいには。
 そしてそのバカップルぶりも、世界で五本指に入る程度には愛し合っているだろう。
 「親が心配するから帰りたい」なんてことはそこまでないが、たまには顔を見たいし見せてやりたい。
 ……なんて、リンドールたちを見て思うところもあったりする。

 「僕たちもこのまま、アヤト君の家にお邪魔させてもらっていいかな?」

 アルニアがそう言ってミランダと共に俺の左右それぞれの横に立つ。
 というか、化粧した状態で話しかけられると「こいつ誰?」ってわからなくなる。それだけアルニアが別人のように綺麗になった、とも言えるのだけれど。
 そんなこいつが俺の家に来るということは、本格的にメアたちに自分も仲間にしてほしいと許可を貰いに行くためなのだ。
 まさかアルニアがここまで本気だとは思わなかったが……

 「どうせだから泊まりに来るか?明日の学園で使う教材と寝泊まりに必要な道具だけ持って」
 「えっ、と、泊まり!?まだ告白の返事もちゃんと貰ってないのに、そんな大胆に……」
 「いやお前、この前泊まっただろうが。今更恥ずかしがってんなよ」

 顔を赤くしてモジモジするアルニアにツッコミを入れる。
 こいつ、告白してからこの短時間で一気に変わったな……恋は人を変えるなんて聞いたこともあるが、こいつの場合極端過ぎるだろ。

 「うん?アルニアはすでにアヤト君の家に泊まったことが?」

 すると俺たちの会話を聞いていたリンドールが、そんな疑問を持つ。
 あれ、アルニアから聞いてないのか?
 アルニアを見ると、苦笑いを浮かべていた。

 「父さんたちには『友達の家に』って言っちゃってたから……でもあの時までなら間違ってなかったでしょ?」
 「『男友達の家に』に変えてたら、心配されるなり怒られるなりしてたと思うけどな」

 ジト目で指摘してやると、あからさまに顔を逸らされる。

 「そこはまぁ……僕も理解した上で隠してたわけなんだけど」

 えへへ笑って発言するアルニアにリンドールが頭を抱えて溜息を吐く。
 こう聞くとアルニアも普通の女の子なんだなと実感できるな。

 「……相手がアヤト君だったからよかったものの、あまり心臓に悪いことをしないでくれ、アルニア……」
 「わかってるよ、父さん。もう二度としない……アレで最初で最後だから」

 そう言って俺に視線を向け、少し困ったような微笑みを浮かべるアルニア。
 こいつ……
 俺はアルニアが言った言葉の本当の意味を理解した。
 俺以外に同じことをすることはない、これが最初で最後の恋なのだとでも言いたいらしい……

 「……重」
 「うっ……!」

 思わずボソリと呟いた言葉が聞こえてしまったアルニアから声が漏れる。自覚はしていたような反応だな。
 だが俺は構わず肩を竦めて溜息を零し、アルニアの精神へさらに追い打ちをかける。
 アルニアは肩を落としてすっかり意気消沈してしまうが、無視して俺は話を続けた。

 「あんたらはいいのか?こいつを俺んちに泊まらせても」
 「アヤト君なら問題ないさ。きっと娘を悪いようにはしないだろうしな」
 「……『たち』?」

 なんとなく心当たりのあるミランダをジト目で睨み付ける。
 俺に睨まれたミランダは頬を染めながら微笑む。なんでこいつの反応は毎回明後日の方向に行くんだろう……?

 「そんな目で見ないでくれ、やましいことは考えていない」
 「たった今考えてるだろ?」

 俺の指摘にミランダは目を逸らす。
 睨まれただけで何を考えたんだ?気になるような、知りたくないような……いや、どうせロクなこと考えてないだろうから知りたくないわ。

 「安心してくれ。エリーゼ殿に料理を教える約束があるから、ついでにお邪魔しようかと思っただけだ」
 「……ああ、そういうことか。ならさっさとそう言えばいいのに」
 「いや、アヤト殿からの視線が思いの外……な」

 な、じゃねぇよ!……とツッコミを入れるのも面倒だし、嘘は言ってないみたいだからこれ以上興奮されても困るので何も言わないでおく。
 さっきは親の前でどうとか言ってたのに……
 話もそこそこに空間を裂いてリンドールたちを屋敷に返し、アルニアとミランダを連れて帰ることにした。

 「ああそうだ、アヤトさん。一ついいかい?」

 すると裂け目を潜る直前、声をかけてきたカジの方を「なんだ」と返事して振り返る。

 「さっき魔道具を作ってくれってあんたは言ったが、そのために魔石が必要になる。魔石の種類や大きさによって形作らにゃならんからな」
 「了解だ。杖みたい小さいものを作るなら、魔石も小さいほうがいいか?」

 そう聞くと、カジは「いや」と言いながら手を横に振って否定する。

 「どれだけ大きくても、俺たちなら削ったり割ったりできる技術を持ってるから問題ない……といっても、そんな大きな魔石なんてそうそう見付からんがな!」

 ガッハッハと豪快に笑うカジ。
 そういや、魔石自体見付けるのが困難なんだっけ?

 「ここにもないか?魔石とか……」

 あったらいいなとは思うが、同時に難しいとも思える。だってアレ、魔物から取れるけど、ここには魔物らしい生物はまだ出会ったことがないんだから。

 「どうだろうな。魔石は鉱石と違って自然にあるものじゃないからな…………それにここの未開拓場所は広そうだ。今から探すより、お前さんに持ってきてもらった方が早い」
 「わかった。それじゃあ、見付けたらまたあんたんとこに行くよ」

 俺がそう言うと、カジはグッと親指を立てる。
 男前だなぁ、なんて思いながら魔空間の奴らに見送られて屋敷へと戻った……のだけれど。

 「なんだ……これは……!?」

 屋敷の前へ出てくると、ミランダからそんな声が漏らす。

 「はぁぁぁぁっ!」
 「……ふっ!」

 その屋敷の前で、壮絶な戦闘が繰り広げられていた。
 片方はエリーゼ。伸縮する杖を武器として振り回している。
 一方、達人である彼女の動きに付いていけているもう一人の人物は……アリス・ワランだった。
 そしてその戦いを遠目に観戦している者たちの姿も……
 なぜ彼女たちが争っているのかはわからないので、とりあえずそこにいるメアやユウキたちのとこに行く。

 「よっ。どうなってんの、これ?」
 「あっ、おかえりなさい師匠」
 「おかえり、アヤト。俺たちも今帰ったところだからわかんね!」

 カイトとメアがそう言い、俺に気付いた他の奴らも「おかえり」と言ってくれる。
 フィーナだけはポカンとした表情で、エリーゼたちの戦いを呆然と眺めていた。

 「ああ、アヤト。俺もよくわからんのよ……外で爆発音みたいなのがしたから、気になって出てきたんだよ。そしたらもうこうなってた」

 ユウキがそう言うと、横で自分を変な呼ばれ方をされたあーしさんがユウキを睨み付ける。
 するとノクトが俺の横に来る。

 「僕はグレイさんたちと最初から見てたんですけど――」

 ノクトはその一部始終を説明し始めた。
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