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武人祭
彼女は何を目指すのか
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いくつもの破裂音が辺りに鳴り響き、最後に一際大きい音を出してエリーゼの杖とアリス拳が鍔迫り合いをして止まる。
「……旦那様もお帰りになられたようですし、この辺にしておきましょうか」
「え?……あっ!」
すでに俺の存在に気付いてたエリーゼが肩の力を抜き、その発言で俺に気付くアリス。
「お、おかっ……おかかえり、アアヤト!?」
「噛み過ぎだ、落ち着け」
狼狽えるアリスを落ち着かせようと声をかける。
昨日の今日でというのもあるだろうが、自分で来ておいてここまで取り乱すのもどうなんだ……?
「ある程度の話は聞いた。満足したか?」
「勝手な行動を取ってしまい、申し訳ありませんでした……」
表情は変わらないが、少し落ち込んだ雰囲気で謝るエリーゼ。
「そこは気にしてない。俺だってその気持ちはわかるし、人のこと言えないからな」
戦いが終わって満足したのか、グレイやリアナなどはぞろぞろと屋敷の中へと戻っていく。
「ところでその人誰?またアヤトのハーレム要因の一人?」
その場に残った一人であるユウキが、冗談半分にそう言い出す。
あーしさんが去り際に振る向いて、軽蔑する眼差しを向けてきた。あーしさんって、見た目ギャルな割に硬派な考え方してるよな……
「いや、私は……」
「最近喧嘩した中だ。さっきのエリーゼたちの戦いを見ただろ?こいつはこの世界出身でも俺たちとやり合えるほどに強い」
戸惑っているアリスに変わって俺が答える。
俺の言葉にユウキが驚いた表情をしていた。
「マジでか……それってこの人もアヤトみたいな達人ってこと?」
「んー……武術は俺の真似してるだけだから、達人っていうのとはまた違うな。正確に言うと、身体能力任せの出鱈目な力だ」
そして、短くはあったが今のエリーゼとの戦いを見て、昨日よりも動きが鋭くなっていて俺たちのような武術を使っているのがわかった。
練度はまだ俺たちには及ばないが、足運びなどが昨日よりも格段に磨きがかかっている。
見ただけで簡単に相手の技術を盗み見ることができるか……天才というより鬼才というに相応しいのかもしれないな。
「……あ、アヤト?」
俺の視線を自分に向けられ続けたアリスが不安そうに見返してくる。それでも俺はアリスを見て考えを続ける。
……こういうのを見てると、俺でもズルいと思えてしまう。
人の努力をいとも簡単に自分のものにしてしまえる……俺の今までの努力はなんだったんだろうか、と。
それでも俺の心は折れてない。
たとえ力で、速さで、技術で、そして全てが劣っていたとしても、それをさらなる努力で埋めるのが武人であり武術だ。
などと考えているうちに、体が疼いてきてしまっていた。
エリーゼたちの戦いを見てからだ。昨日はそれどころじゃなかったが、普段だったら俺も喜んでアリスと手合わせを頼んだだろうな思う。
「そう言えば何の用があったんだ?」
「え……あっ、そうだった!」
この場で戦いを挑むわけにもいかないので、気を紛らわすためにも俺は話を進めた。
アリスは今まで忘れていたここに来た目的を俺に促され、ハッとして思い出した様子だった。
と言っても、何の用かは大体知っている。フィーナたちとアリスが接触したという報告を受けた時に、同時に俺に謝りに出て行ったというのも聞いていたからだ。
すると頭を勢いよく下げるアリス。
「昨日は……本当にすまなかった!」
そして謝罪の言葉。裏表のない心の底から謝っているのがわかった。
フィーナの言葉に動かされて来たらしいのだが、約束をちゃんと守ってくれているようだ。
よかった……これでまたフィーナたちに手を出そうものなら、次は本当にこいつを殺してしまっていたかもしれない。
「本来なら目を覚まして自分の意思で来るべきだが、お前のところにいる魔族の少女に促されて来た形になってしまった……しかしこの謝罪は心からの言葉だ!それは信じてくれ……」
アリスはそう言いながら、親に怒られている子供のように視線をフィーナに向けたりしてオドオドしていた。
俺も視線をメアやミーナに移してみると、二人共笑って頷く。
フィーナにも視線を向けるが、俺と目が合うとそっぽを向いてしまう。あれは一応、許してもいいってことでいいんだよな?
メアたちの反応を確認した俺はアリスの方を向き、呆れた笑みを浮かべる。
「ああ、わかった。俺との約束もしっかり守ってるみたいだし、あいつら自身も許してるようだからな。もういいよ」
「っ!」
俺がそう言うとアリスは驚いた表情になり、涙がポロポロと溢れ出してしまっていた。
あれ、何か言い方を間違えたか、俺?
「そうか……そうか、許してくれるのか……ありがとう……!」
溢れる涙は止まらず、嗚咽すら漏らし始めてしまうアリス。それを見たユウキが、状況を知っていて茶化す言い方をしてくる。
「あーあ、女の子泣かしたな?」
「うるせー、茶化すなよ。これは良い意味での涙だろ」
しかしアルニアといい、今日は女を泣かせてばかりな気がする。
すると、完全にこの状況に置いてけぼりにされてしまっていたアルニアが、俺の横に並んで恐る恐る聞いてくる。
「えっと……この人ってSSランクの冒険者だった人だよね?」
「ああ、アリス・ワランと言って、剣魔祭の催しがあった時に何度か手合わせをさせてもらったことがある。だが過去一度も勝ったことがなかったな……この人とも顔見知りだったのか?」
アルニアの疑問にミランダが答えつつ、興味津々といった感じで俺に聞いてきた。
あー……なんて言えばいいか説明が面倒だな。
告白されてその後殺し合った中?……普通にわけがわからなくなってるな。
と、そこに見かねたエリーゼが割って入ってくる。
「兎にも角にも旦那様もお帰りになられたことですし、外にいるのもお話を中でしてはいかがでしょう」
エリーゼにそう促され、俺は助かったと思いながらその場にいる全員と一緒に、言われるまま屋敷の中へと入った。
中ではすでにウルとルウが飲み物を用意してくれていて、同時にミランダはエリーゼに料理を教えるために厨房へと行く。
ただ、その様子がどことなく残念そうにしてるのはなぜだろうか……?
「お前ら、どうしたんだ?」
「ルウたちも外が見てみたかったです……」
つまり自分たちも見たかったけど、すでに事は終わってたからイジけてるのか?
「何、俺たちといればまた見る機会はあるから気にするなよ」
「兄様たち、また戦うの?」
「ルウたちもまた戦いたいです!」
気分が一転したのかキラキラとした目になり、ぴょんぴょん跳ねるウルたち。「見たい」んじゃなく「戦いたい」のかよ。
俺も人のことを言えないから口にしないが、うちには血の気が多い戦闘狂が多いんじゃないかと思う。
「その前にこの状況を説明してもらっていい?」
いつまで経っても話を進めようとしないこの状況に苛立ったフィーナが話を切り出す。
その視線はアリスではなく、俺の横に座ったミランダとアルニアに向けられていた。
メアやミーナは空気を読んだのか、何も言わずに向かいの席に座っている。たしかにフィーナでなくとも、他の奴が見たら「何この状況?」となりそうな雰囲気である。
ちなみに学園長はどちらでもない側面の椅子に座り、グレイたちは他に用意されていた机と椅子を使ってトランプをしていた。
「そうだな、まずはどこから話したものか……」
「じゃあ、まず僕から説明させてもらっていいかな?」
席に座り、お茶を一口啜ってくつろいでいたアルニアが進言する。
アルニアの顔には少し緊張の色が見えつつ、しかしメアの顔を真っ直ぐ見ようとする。
「僕もアヤト君のことが好きになってしまったんだ。もちろん一番じゃなくていい、一緒に交際させてもらえないだろうか?」
「いいぜ!」
「「かっる!?」」
メアの即答に俺やユウキ、エリと学園長が同時に叫んだ。
「いや、なんでアヤトまで驚いてるんだよ?」
「さすがに驚くわ、こんなん!?ミーナたちを同時に娶ってもいいみたいなことは言ってたけど、実際にこうも軽くOKされると思うことがあるんだよ……」
そう言いながらメアの方を見ると、二ッと笑ってグッドサインを向けてきた。それに俺は溜息を吐く。
「……俺の彼女たちはどこを目指してるんだろうって」
「どこって……ハーレムだろ?」
そしてなぜかメアが答える始末である。
「なんで本人じゃなく彼女が目指してんの?しかも逆ハーレムじゃなくて普通のハーレムを……」
「なんでって……」
俺を含めた誰もが思うであろう疑問をユウキが言ってくれると、メアの視線がミーナに、そしてフィーナに移された。
そして頬を染めながらいやらしい笑みを浮かべていた。メアがそんな表情するの珍しいな。
「むさい男が多いより、好きな男一人に可愛い女の子がいっぱいいた方がいいだろ?」
「ひっ!?」
「……に?」
メアの発言と自分に向けられた意味深な視線に、小さな悲鳴を上げて鳥肌を立ててしまったフィーナ。
前々からフィーナに対するスキンシップが過剰だとは思っていたが、まさか……女もそういう対象にしてるのか?
もしくは本当に女好きで、俺を利用してるとか……いや、そんな感じはないから心配しなくていいか。
ミーナに至っては気にした様子がない……というより意味をわかってないみたいだ。ちょくちょく下ネタに走る割に、こういうのを察せないのか?
すると、その言葉を聞いたユウキと学園長が苦笑いをしていた。
「あー……よかったな、理解のある彼女で……」
「……大丈夫だよな、これ?俺というよりメアの目的な気がするんだけど……前々から普通じゃないと思ってたけど、今この瞬間からさらに不安が大きくなったんだが……」
「いいんじゃないかい?ちゃんと自分を好きになってくれてるんなら。不満があるならしっかりと掴まえておきなよ?……これから一緒になるであろう彼女たちも含めてね」
呆れながら笑ってそう言う学園長の視線はアルニアに向けられていた。俺が複数の女を囲うことに言うことはないらしい。
流れ的にわかってたけど、もう決定してるのか……って、俺がそう言ったんだから、もう全員が賛成してるってことなんだよな。
……このままだと本当にユウキや他の奴の言う通り、ハーレムが出来上がりそうだな。俺とメア、どっちのとは言わないが。
「私はエリーゼ殿に料理を教えに来ただけだが……」
話の流れからミランダが話始めるが、その視線が俺に向けられた。
「……まさかお前もあわよくば、なんて思ってるのか?」
「ま……まさか……そんなあわよくば罵られたり物理的に殴ってくれたりなんて、そんなこと考えてなど……」
あわよくばの内容が俺と思ってるのと違っていたのには突っ込むまい……そう、たとえ学園長から蔑まれるような視線をむけられてたとしても!
「私もその少女と同じくアヤトのことが好きだ。しかし昨日はある事情があって彼とは仲違いしてしまっていた。だから謝罪に来たんだ。もちろん、迷惑をかけた他の者たちにも……」
アリスはそう言って、申し訳なさそうにメアたち三人を見る。
「拒絶されたらそれで終わりにしようと思っていたが、しかし全員私を許すと言ってくれた。だからその言葉に甘えてみようかと、な」
アリスがそう言うと、フィーナが「私は許したわけじゃないけどね」と小さく呟いたのが聞こえたが、言葉とは裏腹に怒ってるわけじゃなさそうだった。複雑ではあるようだが……
「へぇ……あの世界一強いとまで言われた彼女を惚れさせたのかい、君は?」
すると冗談混じりに学園長が会話に入ってくる。
学園長も元は冒険者だったんだっけ?それにそれだけアリスが有名だったってことか。
その顔の裏では「また厄介事を運んできたのかい?」とでも言いたげな呆れ笑いをしていた学園長。
もう完全に俺の保護者みたいになっちゃってるな……
「惚れさせるようなことはしてない。腕掴んで退かしただけなのに……それで惚れるなんて、生娘でも中々……」
俺が軽口にそう言うと、アリスが頬を膨らませてしまう。あ、いつもの調子で言っちまった……
「どうせ私はこの年までまともな恋愛経験がほとんどない女だよ……」
「君とは美味い酒が飲めそうだ」
何に共感したのか、学園長が優しい瞳でアリスを見つめてそう言い、アリスが戸惑っていた。
「えっと……そういえばこの少女は?この学園の生徒か?」
「ぐっ……僕はこの学園の責任者で、さらに言えば君よりも年上のお姉さんだよ、アリス・ワラン!」
言うだけ言ってバッと俺の方を向く学園長。
「この子嫌いだ、僕!」
その顔は幼い子供のように、涙目を浮かべていた。
「……旦那様もお帰りになられたようですし、この辺にしておきましょうか」
「え?……あっ!」
すでに俺の存在に気付いてたエリーゼが肩の力を抜き、その発言で俺に気付くアリス。
「お、おかっ……おかかえり、アアヤト!?」
「噛み過ぎだ、落ち着け」
狼狽えるアリスを落ち着かせようと声をかける。
昨日の今日でというのもあるだろうが、自分で来ておいてここまで取り乱すのもどうなんだ……?
「ある程度の話は聞いた。満足したか?」
「勝手な行動を取ってしまい、申し訳ありませんでした……」
表情は変わらないが、少し落ち込んだ雰囲気で謝るエリーゼ。
「そこは気にしてない。俺だってその気持ちはわかるし、人のこと言えないからな」
戦いが終わって満足したのか、グレイやリアナなどはぞろぞろと屋敷の中へと戻っていく。
「ところでその人誰?またアヤトのハーレム要因の一人?」
その場に残った一人であるユウキが、冗談半分にそう言い出す。
あーしさんが去り際に振る向いて、軽蔑する眼差しを向けてきた。あーしさんって、見た目ギャルな割に硬派な考え方してるよな……
「いや、私は……」
「最近喧嘩した中だ。さっきのエリーゼたちの戦いを見ただろ?こいつはこの世界出身でも俺たちとやり合えるほどに強い」
戸惑っているアリスに変わって俺が答える。
俺の言葉にユウキが驚いた表情をしていた。
「マジでか……それってこの人もアヤトみたいな達人ってこと?」
「んー……武術は俺の真似してるだけだから、達人っていうのとはまた違うな。正確に言うと、身体能力任せの出鱈目な力だ」
そして、短くはあったが今のエリーゼとの戦いを見て、昨日よりも動きが鋭くなっていて俺たちのような武術を使っているのがわかった。
練度はまだ俺たちには及ばないが、足運びなどが昨日よりも格段に磨きがかかっている。
見ただけで簡単に相手の技術を盗み見ることができるか……天才というより鬼才というに相応しいのかもしれないな。
「……あ、アヤト?」
俺の視線を自分に向けられ続けたアリスが不安そうに見返してくる。それでも俺はアリスを見て考えを続ける。
……こういうのを見てると、俺でもズルいと思えてしまう。
人の努力をいとも簡単に自分のものにしてしまえる……俺の今までの努力はなんだったんだろうか、と。
それでも俺の心は折れてない。
たとえ力で、速さで、技術で、そして全てが劣っていたとしても、それをさらなる努力で埋めるのが武人であり武術だ。
などと考えているうちに、体が疼いてきてしまっていた。
エリーゼたちの戦いを見てからだ。昨日はそれどころじゃなかったが、普段だったら俺も喜んでアリスと手合わせを頼んだだろうな思う。
「そう言えば何の用があったんだ?」
「え……あっ、そうだった!」
この場で戦いを挑むわけにもいかないので、気を紛らわすためにも俺は話を進めた。
アリスは今まで忘れていたここに来た目的を俺に促され、ハッとして思い出した様子だった。
と言っても、何の用かは大体知っている。フィーナたちとアリスが接触したという報告を受けた時に、同時に俺に謝りに出て行ったというのも聞いていたからだ。
すると頭を勢いよく下げるアリス。
「昨日は……本当にすまなかった!」
そして謝罪の言葉。裏表のない心の底から謝っているのがわかった。
フィーナの言葉に動かされて来たらしいのだが、約束をちゃんと守ってくれているようだ。
よかった……これでまたフィーナたちに手を出そうものなら、次は本当にこいつを殺してしまっていたかもしれない。
「本来なら目を覚まして自分の意思で来るべきだが、お前のところにいる魔族の少女に促されて来た形になってしまった……しかしこの謝罪は心からの言葉だ!それは信じてくれ……」
アリスはそう言いながら、親に怒られている子供のように視線をフィーナに向けたりしてオドオドしていた。
俺も視線をメアやミーナに移してみると、二人共笑って頷く。
フィーナにも視線を向けるが、俺と目が合うとそっぽを向いてしまう。あれは一応、許してもいいってことでいいんだよな?
メアたちの反応を確認した俺はアリスの方を向き、呆れた笑みを浮かべる。
「ああ、わかった。俺との約束もしっかり守ってるみたいだし、あいつら自身も許してるようだからな。もういいよ」
「っ!」
俺がそう言うとアリスは驚いた表情になり、涙がポロポロと溢れ出してしまっていた。
あれ、何か言い方を間違えたか、俺?
「そうか……そうか、許してくれるのか……ありがとう……!」
溢れる涙は止まらず、嗚咽すら漏らし始めてしまうアリス。それを見たユウキが、状況を知っていて茶化す言い方をしてくる。
「あーあ、女の子泣かしたな?」
「うるせー、茶化すなよ。これは良い意味での涙だろ」
しかしアルニアといい、今日は女を泣かせてばかりな気がする。
すると、完全にこの状況に置いてけぼりにされてしまっていたアルニアが、俺の横に並んで恐る恐る聞いてくる。
「えっと……この人ってSSランクの冒険者だった人だよね?」
「ああ、アリス・ワランと言って、剣魔祭の催しがあった時に何度か手合わせをさせてもらったことがある。だが過去一度も勝ったことがなかったな……この人とも顔見知りだったのか?」
アルニアの疑問にミランダが答えつつ、興味津々といった感じで俺に聞いてきた。
あー……なんて言えばいいか説明が面倒だな。
告白されてその後殺し合った中?……普通にわけがわからなくなってるな。
と、そこに見かねたエリーゼが割って入ってくる。
「兎にも角にも旦那様もお帰りになられたことですし、外にいるのもお話を中でしてはいかがでしょう」
エリーゼにそう促され、俺は助かったと思いながらその場にいる全員と一緒に、言われるまま屋敷の中へと入った。
中ではすでにウルとルウが飲み物を用意してくれていて、同時にミランダはエリーゼに料理を教えるために厨房へと行く。
ただ、その様子がどことなく残念そうにしてるのはなぜだろうか……?
「お前ら、どうしたんだ?」
「ルウたちも外が見てみたかったです……」
つまり自分たちも見たかったけど、すでに事は終わってたからイジけてるのか?
「何、俺たちといればまた見る機会はあるから気にするなよ」
「兄様たち、また戦うの?」
「ルウたちもまた戦いたいです!」
気分が一転したのかキラキラとした目になり、ぴょんぴょん跳ねるウルたち。「見たい」んじゃなく「戦いたい」のかよ。
俺も人のことを言えないから口にしないが、うちには血の気が多い戦闘狂が多いんじゃないかと思う。
「その前にこの状況を説明してもらっていい?」
いつまで経っても話を進めようとしないこの状況に苛立ったフィーナが話を切り出す。
その視線はアリスではなく、俺の横に座ったミランダとアルニアに向けられていた。
メアやミーナは空気を読んだのか、何も言わずに向かいの席に座っている。たしかにフィーナでなくとも、他の奴が見たら「何この状況?」となりそうな雰囲気である。
ちなみに学園長はどちらでもない側面の椅子に座り、グレイたちは他に用意されていた机と椅子を使ってトランプをしていた。
「そうだな、まずはどこから話したものか……」
「じゃあ、まず僕から説明させてもらっていいかな?」
席に座り、お茶を一口啜ってくつろいでいたアルニアが進言する。
アルニアの顔には少し緊張の色が見えつつ、しかしメアの顔を真っ直ぐ見ようとする。
「僕もアヤト君のことが好きになってしまったんだ。もちろん一番じゃなくていい、一緒に交際させてもらえないだろうか?」
「いいぜ!」
「「かっる!?」」
メアの即答に俺やユウキ、エリと学園長が同時に叫んだ。
「いや、なんでアヤトまで驚いてるんだよ?」
「さすがに驚くわ、こんなん!?ミーナたちを同時に娶ってもいいみたいなことは言ってたけど、実際にこうも軽くOKされると思うことがあるんだよ……」
そう言いながらメアの方を見ると、二ッと笑ってグッドサインを向けてきた。それに俺は溜息を吐く。
「……俺の彼女たちはどこを目指してるんだろうって」
「どこって……ハーレムだろ?」
そしてなぜかメアが答える始末である。
「なんで本人じゃなく彼女が目指してんの?しかも逆ハーレムじゃなくて普通のハーレムを……」
「なんでって……」
俺を含めた誰もが思うであろう疑問をユウキが言ってくれると、メアの視線がミーナに、そしてフィーナに移された。
そして頬を染めながらいやらしい笑みを浮かべていた。メアがそんな表情するの珍しいな。
「むさい男が多いより、好きな男一人に可愛い女の子がいっぱいいた方がいいだろ?」
「ひっ!?」
「……に?」
メアの発言と自分に向けられた意味深な視線に、小さな悲鳴を上げて鳥肌を立ててしまったフィーナ。
前々からフィーナに対するスキンシップが過剰だとは思っていたが、まさか……女もそういう対象にしてるのか?
もしくは本当に女好きで、俺を利用してるとか……いや、そんな感じはないから心配しなくていいか。
ミーナに至っては気にした様子がない……というより意味をわかってないみたいだ。ちょくちょく下ネタに走る割に、こういうのを察せないのか?
すると、その言葉を聞いたユウキと学園長が苦笑いをしていた。
「あー……よかったな、理解のある彼女で……」
「……大丈夫だよな、これ?俺というよりメアの目的な気がするんだけど……前々から普通じゃないと思ってたけど、今この瞬間からさらに不安が大きくなったんだが……」
「いいんじゃないかい?ちゃんと自分を好きになってくれてるんなら。不満があるならしっかりと掴まえておきなよ?……これから一緒になるであろう彼女たちも含めてね」
呆れながら笑ってそう言う学園長の視線はアルニアに向けられていた。俺が複数の女を囲うことに言うことはないらしい。
流れ的にわかってたけど、もう決定してるのか……って、俺がそう言ったんだから、もう全員が賛成してるってことなんだよな。
……このままだと本当にユウキや他の奴の言う通り、ハーレムが出来上がりそうだな。俺とメア、どっちのとは言わないが。
「私はエリーゼ殿に料理を教えに来ただけだが……」
話の流れからミランダが話始めるが、その視線が俺に向けられた。
「……まさかお前もあわよくば、なんて思ってるのか?」
「ま……まさか……そんなあわよくば罵られたり物理的に殴ってくれたりなんて、そんなこと考えてなど……」
あわよくばの内容が俺と思ってるのと違っていたのには突っ込むまい……そう、たとえ学園長から蔑まれるような視線をむけられてたとしても!
「私もその少女と同じくアヤトのことが好きだ。しかし昨日はある事情があって彼とは仲違いしてしまっていた。だから謝罪に来たんだ。もちろん、迷惑をかけた他の者たちにも……」
アリスはそう言って、申し訳なさそうにメアたち三人を見る。
「拒絶されたらそれで終わりにしようと思っていたが、しかし全員私を許すと言ってくれた。だからその言葉に甘えてみようかと、な」
アリスがそう言うと、フィーナが「私は許したわけじゃないけどね」と小さく呟いたのが聞こえたが、言葉とは裏腹に怒ってるわけじゃなさそうだった。複雑ではあるようだが……
「へぇ……あの世界一強いとまで言われた彼女を惚れさせたのかい、君は?」
すると冗談混じりに学園長が会話に入ってくる。
学園長も元は冒険者だったんだっけ?それにそれだけアリスが有名だったってことか。
その顔の裏では「また厄介事を運んできたのかい?」とでも言いたげな呆れ笑いをしていた学園長。
もう完全に俺の保護者みたいになっちゃってるな……
「惚れさせるようなことはしてない。腕掴んで退かしただけなのに……それで惚れるなんて、生娘でも中々……」
俺が軽口にそう言うと、アリスが頬を膨らませてしまう。あ、いつもの調子で言っちまった……
「どうせ私はこの年までまともな恋愛経験がほとんどない女だよ……」
「君とは美味い酒が飲めそうだ」
何に共感したのか、学園長が優しい瞳でアリスを見つめてそう言い、アリスが戸惑っていた。
「えっと……そういえばこの少女は?この学園の生徒か?」
「ぐっ……僕はこの学園の責任者で、さらに言えば君よりも年上のお姉さんだよ、アリス・ワラン!」
言うだけ言ってバッと俺の方を向く学園長。
「この子嫌いだ、僕!」
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