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夏休み
招待状
しおりを挟む「・・・招待状?」
魔王代理を決めた翌朝、郵便受けに二つの招待状と書かれた封筒が届いていた。
一つは差出人がガーランドとなっている。
何故連絡手段(ノワールの仕込んだ魔術)がある状態なのにわざわざ手紙を?
アレがあればノワールがガーランドの現状を把握できてる筈なんだが・・・胡散臭い。
もう一つの手紙を見る。
ノルトルンと書かれた招待状。
・・・どこコレ?
聞き覚えのない国の名が記載され、招待状と書かれた封筒。
とりあえず二つとも家の中に持って行く。
「おはようございます、師匠」
居間に向かう途中、カイトと会う。
汗ではない水滴を顔に垂らし、スッキリした様子で洗面所から出て来た。
「ああ、おはよう。相変わらず朝早いな」
まだ五時前だというのに。
「そうは言いますけど、俺師匠より早く起きた事ないですよ?」
「・・・そうだったか?まぁ、俺は鍛錬のために起きてる習慣みたいなもんだしな」
軽く雑談をしながら二人で居間に向かっていると、カイトが俺の持ってる封筒に気付く。
「なんですか、ソレ?」
「さっきポスト見たら入ってた。招待状みたいだが・・・ノルトルンってどこか分かるか?」
封筒は魔力で開封できるようになっており、シールのようなところに魔力を流してペリッと剥がし手紙を取り出す。
「ノルトルンって言ったらイリアさんの国の名前じゃないですか」
「・・・ああ」
なるほどと理解する。
何故俺をとは思うが、知り合いからの手紙というなら少し安心する。
その内容を見る。
【異世界人アヤト殿】
【貴殿と貴殿の友人、同じく異世界人のユウキ殿の活躍より我が娘イリア・カルサナ・ルーメルが魔族大陸から無事生還した事を聞き及んだ。よってアヤト殿に改めてお礼を伝えたいと思いこの手紙を送らせてもらった。この返事は手紙の下に記した印に魔力を通せばこちらに伝わる。そちらが承諾し次第、七日後に迎えの馬車を送ろう。期限はその印が消滅する三日後の日暮れまで。他にも任意で連れて来ても構わない。強制ではないが良い返事を期待している】
【ラサシス・カルサナ・ルーメル】
そう書かれており、その文面の下には確かに二つの印が押されていた。
印の上にはそれぞれご丁寧に「承諾」と「拒否」書かれてあった。
「「・・・・・・」」
俺とカイトしかいない部屋がシンッと静まる。
と、思っていたら急にカイトが俺の肩を掴み揺さぶり始めた。
「ちょっコレ!?カルサナ・ルーメルってイリアさんと同じ名前じゃないですか!?」
「落ち着け。って事はあれだろ?イリアの父親か母親のどっちかが送ってきたって事だ」
「ラサシス、さんって言ったら国王の方ですけど・・・何かしちゃったんですか、俺たち?」
ガクブルと震えるカイト。
その脳天にチョップを食らわせる。
「落ち着けって。お前アレだな?普段は普通だけどたまにレナ並みに挙動不審になるな。レナとは正反対だ」
「いやだって、王様直々のお手紙って・・・普通動揺しますよ?なんで師匠は平然としてるんですか?」
「職業柄というかなんというか・・・まぁ、慣れだな」
「王様と慣れる程触れ合える機会のある職業ってなんですか・・・」
カイトも既にその職業に片足突っ込んでるんだがなぁ・・・なんて思いつつとりあえずノルトルンからの手紙の返事は保留として、ガーランドからという名目で書かれたその封筒を同じく魔力で開ける。
「そっちは誰からですか?」
「ガーランドからだとよ」
「へー、ガーランドさんから・・・あれ?ガーランドさんにはノワールさんが魔術で見張りを付けてるって・・・」
「ああ、つまりそういう事だ」
もしガーランドが俺たちに向け手紙を書こうとしていたのなら、真っ先にノワールから何か一言がある筈なんだ。
それがないという事は、ガーランドの知らないところでこの手紙が書かれたという事になる。
十中八九罠だ。
一応手紙自体に罠がないか警戒しながら手紙を取り出す。
魔力の流れを映す「眼」で見る限りだとそう言った類のものはない・・・と思う。
コレが魔力を全て映し出せるような万能のものだったら問題ないんだが。
両目をこの状態にしていると文字が見えなくなるので、器用に片目だけ発動する事にした。
・・・これは慣れないと辛いな。
気を抜くとスッと解けたり、逆に両目で見れるようになってしまう。
バランスを保ったまま文字を見る。
【我が友アヤトよーー】
ビリィッ!
「えぇっ!?」
「・・・あっ、つい・・・」
いきなり冒頭からおかしな文面に戸惑い、紙を真っ二つに破いてしまった。
だって「我が友」とか白々しいというか図々しいというか。
別に友人ではないとは言わないけど、この言い方はいくらなんでもわざとらしいんじゃないかと思う。
しかも個人的な手紙なのに文章が堅っ苦しくて上から目線な文字が所々あるんだもの。
あと、アイツに少し前に書いてもらった時の筆跡と全く違う時点で黒だ。
とはいえ手紙は手紙。
綺麗に半分に千切れた紙を文字の見やすいようにくっ付け、再び読み始める。
【我らがガーストが王、ヴェレン・リラ・ルディア陛下が援助をしてくれた礼を貴殿にするとおっしゃっている。馬車は既に手配し、手紙が届く当日には到着するだろう。訪問し次第即刻来たれり】
【ガーランド】
ビリビリィッ!!ボッ!
「・・・いや、分かりますけどね?なんとなく感じる悪意と相手の都合考えてないこの文章を見てそうなるのは分かりますけど。ビリビリに破いた挙句、燃やさなくても良くないですか?」
「そうだな。むしろこの手紙寄越した奴とこれからやって来るって奴を燃やさなきゃ気が済まないな」
「やめてくださいよ・・・」
イライラが止まらない。
ラピィたちが自分らの王はロクでもないみたいな事を言ってたから、ガーランドに報告させれば何かアクションを起こして来ると予想してたけど・・・さっそくか。
既に来させる事を前提にしたこの文。どうせ断ったら不敬罪だとか何とか言って騒ぎ始めるんだろうな・・・。
「・・・はぁ、先にこっちを片付けないとダメかぁ・・・」
燃やした手紙の燃えカスを摘み溜息を吐く。
それにしても他にも気になる事がある。
手紙の様子、「既に馬車を手配」や「即刻来たれり」、そして筆跡などから何か焦っているのが手に取るように分かる。
ただのせっかちか、もしくは俺が早く来ないと何か都合の悪い事でもあるのか・・・。
どちらにしろ、この文面から察するに馬車は朝か昼には着くだろう。
その場合連れて行くのは・・・待て、連れて行けるよな?
ここには連れて行ける人数とか書いてないが・・・まさか俺だけ?
・・・ま、いっか。たとえ俺だけで行ってそれが罠だったとしても、特に問題はないか。
魔法魔術が使えなくなったとしても、元の世界のように「元々使えなかった状態」に戻るだけだ。
そう思いながらノルトルンの手紙に承諾印に魔力を流し、ガーストに連れて行くメンバーを選別する事にした。
ーーーー
☆★???★☆
「旦那様」
昼過ぎ、イリーナから声が掛かる。
予想通り、ガーストからの使いがやって来たようだった。
隠す気もないような華々しい豪華な馬車。
その馬の手綱を握っていた痩せ細った老人がタキシードを着て降りて来た。
「突然の訪問をお許し下さい。私はガーストからの使い、シスカスと申します。そしてこの度はガーストへ来ていただく事となり、ありがとうございます」
そう言って頭を深く下げた。
随分と白々しいことこの上ない。こちら側の返事も聞いていない癖に。
「本来ならばガーランド様もお伺いする筈でしたが、緊急の用ができたとの事でしたので・・・」
「いや、いいさ。すぐに出発か?」
「はい、できれば。何か運ぶ物があれば手伝いますが?」
「いや、行って帰って来るだけだ、手ぶらでいいさ。・・・あ、そういや招待に指名されたのは俺だけなんだけど、他にも連れて行けるのか?」
「一人までの同伴でしたら許されております」
想定済みか。
まぁ、でも一人だけでもありがたい。
「んじゃ、カイト」
見送りという体で、あらかじめ呼んでいたノワールたちの中からカイトを指名し手招きする。
名指しされたカイトは自分を指差して驚いた様子だった。
「俺、ですか?」
「ああ、勿論」
さて、敵国のど真ん中に堂々と潜入、か・・・クフフ。
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