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夏休み
戦王 10/16修正
しおりを挟む☆★チユキ★☆
今日はしくじりが多い。
元々人と接するという事が少ないのもあるんだろうけど、コレが一番の痛手。
まさかアヤト君たちにした事が返ってくるなんて。
「ああぁぁぁあぁあああぁぁぁぁっ!!!」
「チユキさんっ!!」
力が根こそぎ奪われていく感覚。
手も、足も、頭も、胴体も・・・体が全て引き裂かれそうだった。
「ク・・・クク・・・ハッハハハハハハ!まさか見破った貴様自ら飛び込んでくれるとは!!スキルが効かなかった時は流石に肝を冷やしたが、なんともマヌケだな・・・クククッ!」
「うぐっ・・・ガァァァァァ!!」
「しかもこれは・・・どういうカラクリか知らんが、いくつもの命を吸収しているではないか!!」
「「ッ!?」」
「どういうカラクリか」、そんな事分かりきっている。
私の超再生が働いて生と死を何度も行き来しているから。
だからこそ、私は生き続けていられるし、死に続けてしまえる。
ただ・・・痛いだけ。
「~~~~ッ!!」
「鳴き声を抑えるか。すると少々つまらなくなるな・・・」
「悪、趣味・・・!」
「ほう、喋る余裕もあるか。まぁいい、貴様のおかげで全てが整った。礼を言うぞ」
男がそう言うと足元の光が強くなり、同時に激しい衝撃に襲われ吹き飛ばされる。
壁に激突する寸前カイト君が私を受け止め、諸共叩き付けられる。
「グッ!?・・・ウグ・・・ァ・・・」
「カイト君・・・なんで・・・」
カイト君が庇わなくても私はまだ死なない。死ねない。
あれだけ強力な召喚陣の生贄にされても死に切れない。
そんな私を、すぐに死んでしまう人間であるカイト君が庇う意味などない筈なのに。
だけどその意味を私はよく知ってる。
「・・・カイト君、優しいもんね・・・だから限りある命でこんな事しちゃうんだ・・・」
なら、ほぼ無限にある命を持つ私はもっと頑張らなくっちゃ。
空間から大鎌を取り出す。
すると扉が開いて大勢の兵が流れ込み、私とカイト君に剣を突き付けて囲んで来た。
「そこの者どもを捕らえよ。最悪殺しても構わん。目的は達成したからな」
王の命令は絶対。
しかし「不本意ながら」というのがその兵たちの表情がら伺えた。
事情を知っているのか、それとも王への恐怖からか、兵たちは微かに震えていた。
・・・いや、もしかしたら私から漏れる冷気のせいかもしれないけど。
「クフフ、なら命を惜しまない子だけ掛かって来なさい♪貴方たちに親兄弟がいても、恋人がいても、子供がいても私は構わず殺す。命乞いなんてしても無駄。それでも来るなら来なさい」
手の平を差し出し、指をクイッと曲げて挑発する。
その挑発に乗った数人が斬り掛かって来た。
「「ハァァァァァァッ!!」」
「クフフフフフフフフフッ!」
たとえ精鋭などと豪語してもたかが知れてる。
何の力も持たない人間が挑んでもーー
ピキッ!
ーー触れる事なく凍り、砕け散る。
アヤト君のように魔術耐性がなければガラス細工のようになるだけ。
あたかも元から作り物だったかのように内側まで凍り、ソッと倒せばそれだけで割れて壊れてしまうものとなる。
「ヒイィ!?」
「ば、化け物・・・!!」
「そうよ~、貴方たちはそんな化け物に喧嘩を売ったのだから、責任は取ってもらうわよ?」
「ギャッ!?」
地面から氷の棘をいくつも作り出し、兵たちを牽制する。・・・何人か刺さっちゃったけど。
「う・・・うわあぁぁぁぁ!!!?」
それを見た生き残った人たちは武器を捨て、狂ったように叫びを上げて逃げ腰で立ち去って行く。その中には何気に臣下の人たちも混ざって。
「あ、そうそう」
ある事を思い出して、逃げる兵の一人を捕まえると短く「ヒッ」と短い悲鳴を漏らした。
「ここのお城の人たちには逃げた方がいいって触れ回ってくれる?」
その子から返事を貰わないまま離すと一目散に駆け出して行ってしまう。
まぁ、あれだけの人たちが逃げてるんだもの、他の人たちも気付いてくれる筈。
残ってた人がいたらーー不運だったって事ね。
人々が逃げて行く扉から振り向き、王と数人の臣下を残した寂しい部屋を見渡す。
「クフフ・・・あ~らら♪誰一人いなくなっちゃったわね?」
「フンッ、腰抜けどもが・・・まぁいい、所詮雑魚では貴様を捕らえる事などできんと理解した」
「そう?ならどうする?貴方が相手をしてくれるの?それとも貴方の隣にいる、さっきの兵よりも弱そうなその人たちが・・・?」
王の横へ避難していた臣下を一瞥するとビクッと肩を跳ねさせた。
「・・・ガーランド」
「貴様がやれ」とでも言わんばかりに王がガーランドを睨む。
「はぁ・・・あまり手荒いのは嫌だったんだが、こうなるのは最初から目に見えていた、か・・・」
ガーランドは腰に下げている剣を抜き、王に向けて構えた。
「・・・ソレは何の冗談だ?」
「ご覧の通りです、王。もう貴方に仕える事はできない。俺は抜けさせてもらう」
「そうか・・・ならもうお前は必要ない」
「王、私はーー」
ザンッ!
言葉の途中、ガーランドの胴体から真っ赤な液体が飛び散る。
驚きの声を上げる前に状況を見て理解する。
先程まで王座に座っていた筈の王が消え、いつの間にか剣を片手にガーランドの目の前に立って斬り付けていた。
「ぐぅッ!?」
「ガーランドさん!!」
更に王が自然な動きで素早い一撃をもう一度繰り出す。
ガーランドはなんとか体勢を立て直し、ソレを受けた。
「流石はSSランクの冒険者、すぐには死なんか・・・」
「王、よ・・・貴方が何を考えているかは、分からないが・・・いくら「戦王」と呼ばれた貴方でも今回は手を引いた方がいい」
「ほう、かなり深めに斬ったのだが、まだ軽口を叩く余裕が見える・・・」
「軽口などでは・・・ただ、相手が悪いのです」
「俺相手に「相手が悪い」と?冗談が上手くなったものだな!」
鍔迫り合いをしていた二人だったが、明らかに体格が上のガーランドが吹き飛ばされた。
「ッ!」
「それなりに俺の側に仕えていたお前なら理解しているだろう?俺は「王だから」その身に甘んじているだけで、貴様の実力など足元にも及ばんという事を!」
壁に叩き付けられたガーランドに凄まじい威力の蹴りが入る。
「ガハッ!?・・・ク、ソッ!」
ガーランドが剣を大振りするが、王は玉避けのように余裕で避ける。
「どうしたガーランド?それではまるで駆け出し冒険者のようではないか。・・・ん?」
ボロボロになりつつ剣を構えるガーランドの影に変化が生じる。
泥のようにドロドロとしたものが蠢き、人の形を成していく。
そういえばアヤト君があの男とユウキ君には「監視」を付けたと言っていた。
コレがそうみたいね。
「なんだ、ソイツは・・・?」
「ギ・・・ギギ・・・」
「あら、ノワちゃんの・・・それじゃあ私の出番はないかしら?」
人の形をした黒いソレはゆっくりと一歩を踏み出す。
「そうか・・・貴様がガーランドを誑かした元凶か。魔物風情が我が城に足を踏み入れるとは・・・身の程を知るがいい」
先程と同じ、常人では目で捉える事すらできない程の速度。
その剣撃が黒いソレを襲う。
しかし次の瞬間、剣が届く直前に黒いソレ・・・影の体から出てきた棘のようなものに逆に王が貫かれていた。
「ぬぅ!?」
「ギギ・・・ギィ・・・!」
ギリギリのところで剣を攻撃から防御に回し棘を僅かにズラしていたので、貫かれたのは肩の部分だった。
同時に王の片手が消え、肩に刺さっていた棘を剣で切断する。
「王の手を煩わせるか・・・下郎がッ!」
「ギギギッ!」
王が常人の目では追い切れない剣速をいくつも放つ。
その全てが影を切り刻み、バラバラとなる。・・・が、それは何事もなかったかのように一瞬で繋がる。
「フッ!!」
「・・・ギッ!」
「ッ!?」
王がもう一度斬撃を繰り出すと同時に影の腕が伸びて全てを打ち落とされ、流石の王も驚愕していた。
そして今まで魔物のようなな動きをしていた影が背を伸ばし、気品を感じさせる佇まいをしていた。
そう、まるでどこかの黒い悪魔のように。
【随分無様な姿だな、全員】
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