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夏休み
結局どの道
しおりを挟む☆★カイト★☆
「あらあら、ノワちゃんの登場ね。クフフ♪」
【その身の毛もよだつような言い方をやめろ】
チユキさんの言葉に反応して影越しでも向こうで嫌そうな顔をしているのが分かるくらいの声が聞こえる。
恐らく、などと予想しなくても十中八九ノワールさんだろう。
目や口のない顔で辺りを見渡す仕草をする。
【召喚陣・・・やはりアヤト様の予想通りか。しかも既に術が発動するしている・・・状況から察するに貴様、しくじったな?】
「ごめんね?」
チユキさんは両手を合わせ舌をペロッと出して「テヘッ☆」と言い、影なのに血管が浮き出ているんじゃないかってくらいイラついて見えた。
すると扉が開かれ、外から騎士のような甲冑を着た人たちがやって来た。
さっき逃げて行った人たちが装備を整えて来たのかと思ったが別の人たちのようで、年齢が俺と近そうな少年少女も混じっていた。
「「ガーランド隊長ッ!!」」
その人たちがガーランドさんの状態を見て顔を青くして叫んだ。
王は影から視線を外し、幼い騎士たちを見る。
「・・・おい、ここをどこだと思っている?貴様らが居て良い場所ではない、即刻去れ」
王の貫くような鋭い眼光に睨みに怯えすくむ騎士たち。
その前に俺をお姫様抱っこしたチユキさんが立ち塞がる。
恥ずかしいのでやめてください・・・。
「貴方たち、この子とあの人を持って行ってくれない?」
差し出された俺を見て先頭にいた人が「・・・え?」と抜けた声を出して俺をジッと見る。
そりゃそうだ。自分たちと同じくらいの男子が、その男子より小さい女の子に抱えられてるんだもの。
「あの・・・もういいですから降ろして下さい・・・」
お願いというよりもはや懇願だった。
「そう?ならカイト君もあの人運ぶのを手伝ってあげてーー」
俺が頷こうとすると、チユキさんの後ろには王が剣を大きく振りかぶっていた。
激しい金属音を上げてチユキさんがソレを防ぐ。
「私はこの人と遊んでるから」
「戯言を」
二人が鍔迫り合いをしている中、固まって動かないでいる兵たちに声を掛けてガーランドさんの元へ行く。
血塗れになっているガーランドさんを間近で見て短い悲鳴を上げる人たちもいた。
「大丈夫ですか、ガーランドさん?」
「問題ない、無駄にタフなのが取り柄なのでな。君の方こそ大丈夫か?さっきかなりの勢いで吹き飛ばされていたが」
「ええ、誰かさんのおかげで打たれ強くなりましたし」
「そうか・・・」
「誰か」が誰の事かなど一人しか思い当たらないので、お互い鼻で笑う。
【随分余裕そうですね。まぁ、アホとは言えソイツがいればそうそう滅多な事は起きないでしょうけど】
言葉を放つ魔物のような影に兵たちはビクリと驚く。
「な、ま、魔物・・・!?」
「しかも喋って!?まさかコイツがガーランド隊長を・・・!?」
「あ、いえ。この人は俺たちの仲間です」
「「・・・・・・え?」」
俺の意外な発言に長い間を空け、唖然とした返答が返ってくる。
当然と言えば当然の反応だけど、全員が同じキョトンとした表情をするのは面白い。師匠も俺たちの反応を見た時もきっと同じ気持ちだった事だろう。
そんな事を考えている間に後ろで影が「アヤト様の従者をしております、ノワールと申します」と礼儀正しく挨拶していた。
その姿勢に戸惑いつつもお辞儀を返す騎士たち
「あの・・・ではこれは一体・・・?」
【さぁ?王の御乱心とでも触れ回れば良いのでは?】
「隊長の傷は・・・」
「心配するな、この程度ならーー」
【ーー持って一時間と言ったところでしょうか】
「「隊長ォォォッ!!」」
なんだろう、この旅芸人の人たちみたいなリアクション・・・。
そんな事を思いつつガーランドさんの状態が心配になる。
「でもこのままじゃあと一時間って・・・何か応急処置を・・・」
【ああ、それなら心配には及びませんよーー】
ノワールさんのその言葉と同時に入り口とは別の壁が爆発する。
【アヤト様がそちらに向かいましたので】
ーーーー
☆★アヤト★☆
~ 数十分前 ~
「アヤト様」
俺が魔空間でカイトとフィーナ抜きのいつものメンバーで修行していると空間に亀裂が走り、開いたそこからノワールが入って来た。
そしてその不可解な現象に「ん?」と疑問を持つ。
「あれ、ここの空間って他の奴も自由に行き来できたっけ?」
「いえ、前に一度強引に繋げてからというもの、いつでも出入りが可能になりまして・・・不快なようでしたら今後控えます」
「いや、構わない。むしろノワールも来れるようになったんなら都合がいいと思うし、下手に誰彼構わず入れるような事はしないだろうからな」
「・・・信用していただきありがとうございます。では本題に戻りますがーー」
ああ、そうだ。俺が話の腰を最初から折っちまったもんだから、ノワールが言いたい事がある事を忘れていた。
俺が「ああ」と返すとノワールは言葉を続ける。
「ガーランド殿が死に掛けです」
「・・・えぇ」
何故だか呆れた声が出てしまう。
「あの子魔族大陸の時もなんだか死に掛けてたみたいじゃない?仮にもSSランク冒険者を名乗る人がなんでそんなポンポンポンポンと・・・」
「ですね。運が良いのか悪いのか・・・非常に判断に困りますね」
「運が・・・良い、か?」
「ええ、アヤト様という存在自体が」
「・・・ああ、なーる」
どこでも誰でも迅速確実に!あなたの傷を一瞬で!!・・・どこかの広告の宣伝みたい。
「そんじゃ、修行は少し早めに切り上げて、遠足にでも行きますかね」
「アヤトどっか行くのか?」
俺の呟きを聞き付けたメアが汗塗れになってやって来た。
修行で大分力が抜けたせいか、いつもの漢らしさではなく乱れた息継ぎや表情が妙に艶めかしく感じた。
「おう、やっぱガースト行く事になったわ」
「え、んじゃ俺も!!」
「いや、メアはここにいてくれ」
「・・・え?」
なんだかメアの目から光が失われた気がした。
おい待て、説明する前から絶望するんじゃない。なんか俺が約束破っちゃったみたいになるだろ。
「空間魔術ですぐ行けないから屋敷から走って行くんだよ。だけどお前今、背中に背負われる力すら残ってない状態だろ?それにそんな汗だくじゃフィーナみたく風邪引くだろうしな」
「うー・・・」
「うーじゃない。子供かお前は・・・とにかく他の奴らは屋敷に戻すから、風呂に入るよーに」
ミーナ、レナ、ルナとルウから「はーい」と返事が聞こえる。
ノクトも「兄さんも気を付けて」と言ってミーナたちと一緒にノワールの作った亀裂の中へ入る。
「メアは魔空間内の風呂に入れ。後で呼ぶから」
「え、でもあそこからガーストまでって馬車でも一日・・・あっ、いや、なんでもない」
俺の移動手段を察したメアはサッと目を背ける。
もうアレか、俺のおんぶダッシュはトラウマ級か。
そんなメアの頭にポンッと手を置く。
「そんじゃ行って来るから大人しく待ってろよ?」
「アヤトの方こそ、事故装って風呂覗くんじゃねえぞ?」
「一時間後くらいに呼ぶからそれまでに済ませとけ。じゃなかったら覗いてほしいという意思表示だと捉えて覗いてやるから。ちなみに慈悲も恥じらいもない」
「えぇ・・・」
メアが顔を薄く紅潮させながら戸惑い呟く。
そんなメアを残して屋敷に戻り、ノワールからガーストへの道筋というか、方向を教えてもらい出て行く。
すると玄関から出た瞬間、何かに足を掴まれる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
学園長のルビアだった。
笑顔ではあるが、確実に怒っていた。
コレは・・・多分アレだ、昨日の朝来た馬車についてだ。
「アヤト君、説明」
ニッコリと屈託のない笑みを向けられた。
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