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夏休み
お前だよ
しおりを挟む「・・・で、その猫娘どうしたよ?」
突然外野が騒がしくなったと思ったら、ミーナともう一人のメイド服を着た猫人族が喧嘩を始めていたのだ。
フーッシャーッと猫のように威嚇して戦う様はまさに猫のそれだったが。
ただ唸っていたのは相手だけで、ミーナは無言で淡々と蹴りを入れていた。
少し会話が聞こえていたが、どうやら知り合いらしい。
その知り合い相手にも容赦無く蹴りを打ち込むとは・・・まぁ、そう教えたのは俺なんだけど。
そんな相手の少女はミーナに片足だけ持たれて引きずられて、嬉しくないパンツ丸見えの哀れな姿となっていた。
確かに容赦無くとは教えたが、そこまで無慈悲に扱わなくてもいいんじゃないかと思う。
「同族、私の友達」
「お前・・・友達だからって遠慮なさ過ぎだろ・・・」
「戦いにおいて非情になれと言ったのはアヤト」
「いや、俺が言いたいのは今の状況の事だが・・・」
ミーナは俺の言葉に何の事だか分からないと言ったように首を傾げる。
自覚無しでやっているのだとしたら恐ろしい。
それはそれとして横でイリアが何やらアワアワとしていた。
「ちょっ、ミーナさん!?パンツパンツ!!」
「え?」
イリアの突然の下ネタ発言にミーナが自分の下半身を見る。
「違います!貴女じゃなくて貴女が引きずってる子のです!」
ミーナが振り返ってその少女の哀れな姿を目視すると「あー」と納得した声を出す。
「どんまい」
「お前のせいだけどな?」
「そか」
「冷静に話してないで止めてあげてください!?」
そう言われてミーナは持ってる片足を下ろし、少女の反対側に回り両手を持ち引きずる。
「合ってるようで間違ってるぞ。それはそれで拷問してるようにしか見えない」
「しょうがない。背負ってて起きたら首絞められそうだし。もし起きて何かしようとしたらすぐに対処できる最善策の持ち方」
そのまま壁にでも叩き付けられるから、だとでも言うのだろうか。
とりあえず、という言うのが頭に付くが、この少女の女としての尊厳は守られたがどちらにしても(亜)人としての尊厳はメチャクチャだろう。
そのまま話を戻す。
「それで、ソイツは誰なんだ?」
「その方はシャナさんと言って、下衆な輩に襲われているところに偶然ナタリアが助けたと聞き及んでいます。あとは帰る所がないと仰っていたので、寝食を提供する代わりにここの給仕として働いていただいていますわ」
「ん、ありがと」
ミーナが友人を助けてくれた事に対し短くお礼をし、シャナもナタリアと一緒の寝室へと運ぶ事にした。
運んでいるその間、本当に引きずって連れて行っていた。
ーーーー
「なんというか・・・申し訳ない・・・」
ナタリアが寝室に寝かされてほんの数十分で目が覚めた。
隣にはミーナが着替えさせたナタが眠っていて驚かれたが、その出来事を話すと納得してくれた。
「全くだ。忠義もいいけど程々にな?相手の神経を逆撫でしたのと同じだ」
「まぁ、その事に関しても私がどうこう口を出せはしないのですが・・・でももう少しだけでも穏便に済まそうと思わなかったのですか?」
「だから下手に出んのは苦手なんだって・・・」
イリアとお互いに溜息を吐く。
その様子を見てユウキも笑っていた。
「アヤトって基本は普通だけど、喧嘩売る時はとことん挑発するよな」
「喧嘩売るも何もそもそもがおかしいだろ?立場が違うだけで敬語や態度を求められて、それに応じなかったら逆ギレしてきて・・・同じ人間なのにそこまで要求できるソイツらが逆に凄えよ」
「すっげえ屁理屈」
「そこまで行くともう感心しますわね・・・」
二人共やれやれと呆れていた。
おかしい・・・間違った事は言ってない筈なんだが。
「はぁ、次からは気を付けて下さい・・・」
「だが断る!」
「・・・・・・・・・貴方たち二人って兄弟か何かですの?」
何故かそう言って眉間にシワを寄せて青筋を浮かべるイリアと、何かがツボにハマったのか勢い良く吹き出して笑うユウキ。
あれ、予想以上にブチ切れ状態・・・。
後で聞くとユウキがすでにやったネタだったので、断られてばかりのイリアが大層ご立腹だったようだった。
その後すぐにシャナと呼ばれていた少女が目を覚ました。
「う・・・ん・・・?」
「あっ・・・」
するとサッとミーナが俺の後ろに隠れる。
何か不都合がと思ったが、さっきまで喧嘩してた上に頭部を蹴り飛ばしたのだからむしろ不都合しかないのである。
「ここは・・・?」
「私の部屋だよ、シャナ」
軽く混乱してるシャナにナタリアが声を掛けた。
しかし突然声を掛けられ、肩を跳ねさせて驚いてしまうシャナ。
「・・・ッ!?ナタリア、様!?なん、で・・・私・・・?」
「シャナ・・・」
俺の背中から頭だけ出して恐る恐る覗くミーナ。
そのミーナを鋭い目付きでシャナは睨んでいた。
そしてその視線が俺へと移り変わる。
何もしてない筈なのに。
「お前がミーナを奪った」
「・・・ん?」
何故だか身に覚えのない冤罪を掛けられた。
どこからかほのかに香る女子同士の百合を感じながら戸惑っていると、先にミーナが口を開く。
「シャナ、だから違う」
「違わない。この男がミーナを誑かした」
「そんな事言うシャナ嫌い」
「・・・・・・」
ミーナがキッパリと言ったその一言がかなり効いたみたいで、シャナは目を見開き固まったまま動かなくなる。
しばらくしても動く気配がなかったため、お詫びという名目であとはナタリアに任せる事にした。
「良かったのか、アレ・・・一応お前の親友なんだろ?」
「今回の事で「親友」から「お友達」に格下げ」
友達の頭に「お」を付けるだけで普通の友達よりかなりグレードが下がった気がするのは俺の気のせいだろう。
その場を後にして他のみんなが待機してるであろう王の間へとミーナと共に戻る。
そろそろ家が恋しくなってきたので、さっさと細かい話を切り上げて帰ろうかと思い扉を開くと、思いの外剣呑な雰囲気が漂い、ラサシスやロロナが思い詰めたような顔をしていた。
「アヤト殿、楽しい時間を過ごしていたところ悪いが、急遽別の用事ができてしまった。今日のところはここでお開きにしてもらえるか?客室があるからそちらでゆっくりーー」
「いや、もう用事がないならこれで失礼して帰りたいんだけど」
「ーーえっ?ああ、いやだが・・・ここから学園までかなり距離があるぞ?」
「そこは大丈夫、手段があるから。・・・ところで何があったか聞かせてもらう事はできないのか?」
「それは・・・ふむ、そうだな。どうせ皆に知られる事になるだろうからここで隠してもしょうがないだろう。・・・先程とある知らせが入った。ここから離れたガーストという街、その王であるヴェレン・リラ・ルディアが先日・・・城ごと凍らされた、らしい・・・」
重苦しい雰囲気の中、俺は内心で「ああ」と軽く流していた。
だって、凍らした犯人が俺の斜め後ろにいるんだもの。
他の奴らは図星突かれたようにオドオドしてるのに対し、当人であるチユキだけ他人事みたいにニコニコとしている。
「恐らく魔物の仕業に違いないが、今までにこんな前例はない・・・戦王と呼ばれた彼を殺害し、見せしめと言わんばかりに城全体を凍らせるとは・・・これまでの魔物とは違い明らかな知性を有している・・・」
ええ、だってほぼほぼ人ですもん。
チユキもそうだけど、ノワールだってそこらの人間よりハイスペックなんだから。
「まるで神話に出てくる悪魔のような力・・・」
「ような」じゃなくて悪魔なんだけどね?
比喩とかじゃなく種族的に。
そんな事を考えていると、ラサシスがチラッと俺を見る。
「どっかにこの厄介な案件請け負ってくれる人いないかな~」的な目で。
腹立つ。
「アヤト殿。物は相談なんだが、君の実力を見込んで頼みがある。その魔物の調査と、できれば討伐を依頼したい。勿論、私直々の依頼という事で報酬も弾む」
とまぁ、こんな感じになるのは分かってた。
調査も何もコイツだからなぁ・・・どうしよう?
「身内だから嫌だ」なんて答えられるわけないし・・・。
とりあえず知らないフリしながら回避するか。
「いくつか聞きたいんだが・・・凍らされたのはいつだ?そこ以外に被害はあるか?」
「正確な日は分からないが、数日前と聞いた。他に被害はないが・・・」
「なら今は保留という形でいいか?ソイツを追うにしても情報が少な過ぎるし、もしかしたらガーストの王の自業自得かもしれないしな」
「自業自得とはどういう・・・?」
「ガーストの王に関してはあまり良い噂を聞かない。もしその噂が本当ならそういう「知性を持った凶悪な魔物」に喧嘩を吹っ掛けたのかもしれないって話だ」
俺がそう言うと後ろでチユキがクスクスと笑う。
いや、そこ笑うとこじゃねえから。お前の事だから、そこ。
「もしそうなら、わざわざこっちから手を出して怒らせる必要もないしな」
「確かにあの王は過激な思考を持っていると聞いているが・・・そうだな、あい分かった。あまり後手に回って被害が拡大するのは良くないとは思うが、もう少し様子見をするとしよう」
ラサシスの判断に、俺は笑みを零す。
「ああ、その時になったらまたその依頼を受けよう」
最後にラサシスが「頼む」と言って頭を下げた。
フッ、チョロい。
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