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武人祭
代打
しおりを挟む「・・・というわけで、三時限目の体育は中等部一年一組と高等部一年一組の合同授業だ!」
典型的な体育系のゴリマッチョ先生が仁王立ちをして俺たちの前で宣言する。
内容は「高等部の技術を中等部が見学する」というものだ。
言われる前から何となく察していたこの鉢合わせた状況。
今回は武器は使わないという事で体育館で中等部一年一組と高等部一年一組が集められていた。
そしてさっき別れたばかりのカイトたちと横に並び、先生の話を聞いていた。
「ナハハハハ、また会ったな少年♪」
「よもや自分より年下に少年呼ばわりされる日が来るとは思わなかったよ、オネーサンよ」
カイトたちと一緒にやって来たジジリと軽口を叩き合い、先生の言葉に耳を傾ける。
するとそのうち不穏な言葉を口にし始めた。
「ーーしかし、ただ俺が高等部の相手をするだけのを見てるというのもつまらんだろう?そこで、だ。今年はなんとうちの学園からSSランクの冒険者資格を取った者がいるらしい。手始めに俺とその者で軽い試合をしようと思う!」
先生は俺を見ながらそう言いニッと笑う。
嫌な予感しかしない。
横でニヤニヤしてるジジリや苦笑いしてるカイトやレナ、そしてちょっと自慢気にしてるメアとミーナの様子からももうこれからの展開が予想できていた。
もちろんソイツらだけじゃない。ほとんどの奴らがその事を知っているみたいで、俺のクラスとカイトのクラスの全員が俺を見てきた。
もう笑いを引き攣らせるしか俺にできる事はなかった。
先生も拳で戦う拳士らしく、手にサポーターを巻いて戦う気満々で準備を終えていた。
俺も特に獲物はあってもなくても戦えるので、何もせずリング(白線の中)に上がる。
先生はボクサーっぽくステップを踏んで今か今かと持ち望んでいるようだった。
「勝負の勝敗は?」
「俺が満足するまで!」
「・・・は?」
耳を疑うような脳筋発言が聞こえた気がして思わず聞き返してしまった。
「フッフッフッ・・・実は先生も昔はちょっとした有名人でな。Sランク冒険者相手に引けを取らない実力があったんだ。しかも今でも鍛錬は欠かしていない!舐めて掛かるともしかしたら君でも怪我をするかもしれないぞぉ?」
テンションがおかしくなっているのか、生徒相手に軽い試合ではなくなりそうな雰囲気になっていた。
とはいえ、たとえ生徒相手でも「SSランクの冒険者に敬意を表して」という事なら少し好感が持てるのだが・・・流石にそこまでは考えてないか。
「それじゃ、先生からどうぞ」
「では遠慮なく!ハアァァァァッ!!」
言葉通り遠慮のないスタートダッシュで真っ直ぐ走って来る教師。
それはあまりにも愚直過ぎて、思わず叩き落としてしまいそうなーー
ーーズベシ!
「ーーカペ?」
「・・・あ」
そう、思わず手刀を先生の首に斜め上から当ててしまった。
先生は一瞬で目がぐるりと白目を向いて気絶してしまう。
「「・・・え?」」
先生の自慢話もあってか、あまりにも予想外に早い決着にほとんどの生徒が唖然とする。
女とは思えないくらい爆笑して転げ回るメア。
「まぁ、そんなもんだよね」と頷くミーナ。
「あーあ、やっちゃった」と俯いて溜息を吐くカイト。
隅で見ていたノワール、ココア、ヘレナの三人は何やら何秒で教師をノックアウトするかで賭けていたようだ。ちなみに勝者はヘレナで、今日の夕食にハンバーグが追加されるらしい。
何やってんのアイツら?
視線を戻して教師の容態を見る。
・・・脈拍、骨、他異常無し。
よし。
何も「善し」としない状況のまま半開きになってる目をソッと閉じる。
立ち上がって腰に手を据え、これからどうしようかと考える。
「何を」と問われればもちろん後ろから視線を突き刺してくる生徒たちと十分も経っていない残りの授業時間をだ。
流石に今回ばかりは教師の悪ふざけという事で片付くが、やり過ぎた感がある。
というか、教師を気絶させたら授業をどうやって進行させればいいんだと。
・・・学園長呼んで来ようかな・・・いや、そしたらまた胃薬の数が増やしてしまいそうだからやめておくか。
ならばどうするか。
下手に他の教師を呼んだとしても結局学園長に伝わるだろう。
なら今できる最速最善の手は・・・
「よいしょと」
気絶した先生を担いで運び、体育館の隅に座わらせる。
そして先生が立つであろう立ち位置、生徒たちの前に立つ。
「ではこれより合同授業を始める」
俺がそう言うと生徒の中の何人かが吹いていた。お前らは後でデコピン決定だ。
「今見た通り、先生は諸事情で寝込んでしまった。だから代わりの進行を俺がしよう」
俺が挟んだジョークにクスクスと小さく笑う生徒たち。
多少場が和んだところで何をするか考える。
先生は確か「高等部の技術を中等部が見学する」というものだった筈。
なら高等部間で何かするという事なのだが・・・まぁ、それぞれの剣術と魔術のお披露目でもさせるか。
「それじゃあ、とりあえずまずは高等部で剣術が得意な奴はこっち、魔法魔術な奴はそっちに分かれてくれ。中等部は壁際で並んで見ててくれ」
俺が指示を出すと意外と素直に従ってくれた。
特に中学生当たりの年齢だとダラダラして中々動いてくれないなどありそうだったが、みんな小走りですぐに移動していた。
高等部の奴らもすでに二つのグループに分かれて次の指示待ちだった。
「んじゃ、次はそれぞれのグループから代表を選んでジャンケンしてくれ。勝った方から俺が相手してやる」
俺の言葉に騒めく。
流石にさっきの光景を見た後では気が引けるのかもしれない。
「安心しろ。相手っつってもお前らが一方的に打ってくるだけでいいから」
俺の言葉を聞いて安心したのか、ホッとした声が聞こえる。
あとは二組のグループからそれぞれ代表が出て来てジャンケンをして、最初に剣技グループからとなった。
ただ、そのグループは武器を手にすると再び困惑したような表情を見せる。
「どうした?」
俺の疑問にたまたま先頭にいた少女が答える。
「あの、誰から行けばいいんでしょうか?」
「ん?・・・ああ、そっか」
いつもの癖で適当に掛かって来いって言ったが、普通は一対一でやるものなのだろう。
俺の場合いつも一対複数が当たり前だったからな・・・まぁ、そのいつものやり方でいいだろ。
「自由にしてもらっていい。一人で挑むも良し、パーティーを組むも良し。それに奇襲不意打ち騙し討ち何でもござれだ。あ、一対一の戦いが望みなら先に言っといてくれ」
今度は違う意味でまた騒めく。
あちらはあちらでいつもと違うやり方だからか、困惑しつつもちょっと嬉しそうにしてお互い話していた。
しばらくして意見がまとまったようなので、「掛かって来い」と挑発して合図する。
まずは男女二人。
カップルかただの仲良しかは知らんが、剣と槍を振り回して来る。
しかし槍を使っている女が適当に振り回してるため、男は剣を振るう事よりも避けるだけで精一杯という感じだった。
そしてやっと剣を振るう隙ができたので、突き刺して来ようとしていた。
その剣をズラして薙ぎ払われた女の槍にぶつけてバランスを崩させる。
「残念。次」
すでに横の空中に飛んでナイフを突き刺して来ていた女を見て呟く。
いつの間に着替えたのか、暗殺者のような服装をしている辺り将来はそういう職にでも就きたいのかと思いつつ、そのナイフをヒラリと避けて次に備える。
今の三人の様子を見て遠慮しなくて良いと判断した他の生徒たちも我先にと次々に押し寄せて来る。
武器を使う中には弓などを使う奴もいるが、レナより圧倒的に精度が低いために当たる事が滅多にない。
なら下手に動かなければどうという事はない。むしろ他の奴に当たりそうになるまである。
ここまでの総合的な評価を言うなら、「本気で殴って来る学生のチャンバラ」と言ったところか。
特に秀でたものがあるわけでもなく、魔物と戦った経験がないからか剣をただの棒切れのように危機感なく適当に振るうだけ。
特にカイトとレナのような気概がある奴や、メアのように気合いがある奴がいないのも悲しい。
・・・ま、別に弟子にするわけじゃないからどうでもいい事なんだけど。
そんな事を考えつつひたすら攻撃を避けていると、とうとう全員が疲労で倒れてしまっていた。
弓の奴ですら指が痛いと嘆いている。
「・・・まぁ、しゃーないか。んじゃ、次は魔法魔術を得意とする奴らだ。邪魔にならないよう剣術派の奴らは中等部の奴らと一緒に端で見ておけ」
そう言うと今まで倒れていた奴らはゾンビのように動き出し、入れ替わるようにやって来る魔法魔術が得意と自負する奴ら。
「・・・あれ、俺たちは?」
すると最後に戦おうとでもしていたのか、ずっと壁際で待機していたメアが声を漏らす。
ミーナと二人で挑もうとでもしていたのか一緒に座っていたのだが、ミーナがうつろうつろと軽く眠そうにしていた。
「お前らはとっておきって事でコイツらの後な」
子供をあやすような言い方をし、他の準備をしている生徒たちの方へと向き直った。
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