最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

一応夏場

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 「・・・え?今なんて?」


 エリが眉をひそめて聞き返す。
 それは聞こえなかったからではなく意味が理解できなかったからといった様子だった。
 そしてその場にはユウキもおり、聞き返した相手はウルとルウだった。


 「ウルたちも魔法魔術は無詠唱で使えて文字の読み書きと計算もできるの」

 「え・・・なんで?魔法って超難しいじゃん!?アレってグググッてところでボフンッてよくなっちゃうし!」

 「・・・凄ぇ、擬音ばっかで何言ってるか全く分かんねえ。難しいのは同意するけど」

 「うっさいし!・・・えー、こんな子供でもできちゃうとか・・・自信失くすわー・・・」

 「特に気にしなくていいんじゃないですかね?彼女たちは少し特別ですし」


 いつの間にか部屋に入り会話に混じって来たランカ。
 突然の事にエリとユウキは肩をビクリと跳ねさせる。


 「ーーックリした!?いきなり来るなし!」

 「ランカちゃんって結構気配消してるよね・・・」

 「私ってそんなに存在感ないですかね?アヤトたちとはコレで普通に会話してるのですが」

 「存在感がないっていうより足音消して歩いてっからそう感じんでねえか?さっきもオラの後ろ通った時随分静かだったしなぁ」

 「フッ、それは仕方がない。何を隠そう我は無音殺しサイレントキラーの二つ名を持つ者なのだから!」

 「はいはい中二病乙。・・・っていうか、特殊って?」


 エリはランカの言葉を軽く流すと話を戻した。


 「ルウたちは「先祖返り」だってノワール様が言ってたです」

 「「先祖返り」?」

 「はい。ルウさんは鬼神、ウルさんは魔神と呼ばれた祖先の能力を得ています。なので力も皆さんよりありますし、魔法魔術も感覚で使えてしまえるのでしょう」

 「感覚て・・・それってアヤトと同じじゃん」

 「はい、兄様と一緒です♪」

 「なの♪」


 ウルとルウは嬉しさから「一緒~♪一緒~♪」と独特な歌を歌いながらお互いの手を取り合ってダンスでも踊るかのようにクルクル回っていた。
 ソレを見たユウキやエリは溜息を吐いた。


 「羨ましいくらい好かれてんなぁ・・・」

 「・・・ロリコン」

 「正確には「ロリコン」が正しいな!」

 「うるさいこっちに近付くなし変態!」

 「ありがとうございます!」


 罵倒した筈なのに何故かお礼を言われる異常事態に「うわぁ・・・」と呟いて若干引いてしまうエリとランカ。
 ウルとルウは意味が理解できないといった感じに首を傾げる。


 「ま、冗談は置いといて、だ」


 本当に冗談だったのかというエリたちのジト目の視線を流しながら話を続けるユウキ。


 「この暇な時間をどうしようか?」


 その言葉に場がシンッと静まる。
 ユウキたちがこの世界に来る前ならばスマホを弄ったりなど娯楽が豊富で困る事はなかったが、ここではそうはいかない。
 特に提案のないウルとルウは「まだやる事があるので」と言ってその部屋から出て行く。


 「アヤトたちならいつも何してたっけな?」

 「修行か買い物か・・・あ、そういえば前にギルドってとこ行ってたし」

 「あー、冒険者か!・・・そういやこっちに来てからギルド登録も依頼も何もしてねえな」

 「なら一緒に行く?」


 ユウキとエリの会話に部屋に入って来たフィーナが混ざる。
 その姿は短パンにタンクトップというかなりラフな格好をしていた。


 「えっと・・・随分エr・・・露出が多いッスね・・・」

 「そう?暑いのよ、ここ」

 「そうだな。人間や亜人と比べれば我らには暑く感じられるだろうからな」


 続けてペルディアも入室する。
 フィーナと同じく面積の少ない服装でへそなどが出る際どい格好をしている。


 「・・・女子校じゃないんだからもう少し人目を気にしろし。ユウキが発情したらどうすんの?」

 「いやいや、エリさんや?流石に姿見ただけで襲うような獣脳はしておりませんよ?」

 「・・・胸と太ももにチラチラ目が行ってるせいで説得力ないんだけど?」


 エリに図星を突かれ、ユウキが「うっ・・・」と唸る。
 ペルディアはクスクスと困った表情で笑い、「しかし」と言葉を続ける。


 「確かに私たちの服の面積は少ないが、よりはマシだろう?」

 「「アレ?」」


 ペルディアが違う方向に目を向けると、冷蔵庫の中を探っているシャードの白衣の後ろ姿があった。


 「アレよりマシって白衣の事?別にアレのどこがーー」

 「ん?呼んだか?」


 白衣という言葉に反応し、シャードがユウキたちの方を振り向く。
 しかしシャードは


 「「ちょっ!?」」

 「・・・ああ、すまない、暑かったものでな」

 「なんで白衣だけは着るんですか?」

 「研究者のたしなみだよ」

 「代わりに淑女の嗜みを忘れてしまったんですね、可哀想に」

 「アッハッハッハ。君も中々アヤト君に毒されてきたようだね」


 格好など気にした様子もなく淡々と話す二人。
 すると突然ユウキが膝を突き、ポタポタと血を流し始めた。


 「どうしたし、ユウキ!?」

 「いやー、ハハハ・・・まさか漫画みたいにこの場面で鼻血を出すなんてな・・・」

 「笑い事じゃねえし・・・ほら、ティッシュ」

 「おう、悪い」


 呆れる表情をするエリから差し出された鼻紙を受け取ったユウキは流れる血を止めるために鼻に当てる。
 その様子を見たシャードが「ふぅむ」と唸る。


 「健全な男の子には刺激が強過ぎたかな?フィーナ君の時もアヤト君はほとんど反応を示さなかったし、カイト君もちょっと注意するくらいでここまでじゃなかったからな。アーク君やノクト君がいないからと少し失念していたよ」

 「居ようが居まいが格好くらいちゃんとしてください。せめてフィーナとペルディアくらいには」

 「やれやれ、まさかこんな小さな女の子に説教されるとはな」

 「言っておきますけど、この中ですと私が一番年上ですからね?というかさっさと服着てください。何だったらルナさんにでも作ってもらってください。あの人なら涼しい服くらい作れると思うので」


 シャードは「分かったよ」と言って、冷蔵庫から取り出したものを咥えて部屋を出て行く。
 すると代わるようにシトとチユキが部屋に入って来た。


 「彼女、どうしたんだい?痴女みたいな格好して」

 「実際痴女じゃないですか、アレは」


 シトの疑問に詳細で答えるのが面倒臭かったのか、サラッと辛辣な返しをするランカ。


 「暑さ、ね。そんなに暑いかしら?」


 チユキはシャードの格好よりも、その服装の薄さに気にした様子だった。


 「あんたの場合いつも薄着じゃん?」

 「あたしとノワールは極寒の時も灼熱の時も大体格好は同じよ?それこそお洒落する時くらいにしか着替えないもの。・・・ふーん?」


 チユキがシャードの消えた廊下を振り返り見る。


 「どしたし?」

 「・・・やっぱり男の子誘惑するなら裸になった方がいいのかしらって」

 「それは・・・まぁ、あーしには関係ないから勝手にやってくれればいいけど。あんた、でどんだけ自信があんのよ・・・」


 エリの視線がチユキの希望もない胸を捉え、チユキ自身も自らの胸を見て「むぅ・・・」と頬を膨らます。
 そして「変身なら・・・でもそれは偽り・・・だけどカイト君が喜ぶなら・・・」と延々とブツブツ呟いた。


 「それで・・・ユウキ君はどうしたのかな?」


 シトが横を向き、ずっと気になっていた事を口にする。
 そこにはユウキがソファーでぐったりしており、そんなユウキの姿を見てエリが答える。


 「・・・暑さにでもやられたんでしょ。・・・って、そういえばあんたら冷蔵庫で何ゴソゴソしてんの?」

 「え、アイス」


 シトがその言葉を発した次の瞬間、エリの手がシトの肩に乗せられメリメリと減り込んだ。


 「もちろんあーしの分もあるよね?」

 「いたたたたたたたた!?ある!あるから!だからそれ以上はっ!!」


 エリは冷蔵庫の冷凍室からキンキンに冷やされたアイスを取り出し、幸せそうに咥える。
 その隣でシトが痛む肩に手を当ててorz状態となっていた。


 「ってかさ、どうやって作ったん?またアヤト?」


 そもそもこの世界には「アイス」がない。
 アヤトたちが当たり前のように使っている冷蔵庫は一部の貴族などしか扱えない程高価な物であり、冷蔵庫が普及していないこの世界ではアイスを作るという発想自体に思い当たらないのである。


 「いや、今回はただの偶然。シャード君が研究してるものの副産物として出来上がったんだ。だから正確にはアイスとは別のものになるんだろうけど、甘味のある氷菓子と言ったらアイスだろう?」

 「・・・まぁ、元々アイスをどうやって作ってるかなんて知らないから過程なんてどうでもいいし。今この時に食えればそれで!」


 もう一口、シャリッと音を立ててアイスを食べるエリ。
 口の周りに付いたアイスを舌舐めずりで取るその姿はどことなく艶めかしい。


 「そういえば・・・コレ何味?一応美味しいけどバニラじゃないし・・・ミント?」

 「さぁ?試しにシャード君に聞いて何から作られたか聞いてみるかい?」

 「・・・いや、やめとくし」


 美味しければそれでいい。何の実験の副産物かを聞いて食欲がなくなる前にそう思い込む事にして気にしない事にした。
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