最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

先生を

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 ☆★カイト★☆


 「・・・なんだか凄い事になってるな」


 胡座あぐらをかきながら小さく呟く。
 前方には先生の代わりとなって生徒たちの魔法魔術受ける師匠がいる。
 受けると言っても生身で受けているわけじゃなく、師匠の目の前で魔法魔術が爆発して散っているのである。
 多分空間魔術の応用なんだろうけど、他の人から見たらどうなってるのかサッパリだろう。
 実際俺の目にもそうとしか見えない。
 だからと言うのもあり、最初は遠慮していた他の生徒たちもソレを見て次々と魔法を放ち始めていた。


 「どうなってんのアレ!?」

 「アレに似てない?ほら、学園長先生が使ってたスキル!」

 「魔法無効化か!なら遠慮しなくて良いわね!」

 「えっ、それじゃあ夏休み中に課題で作った魔術の試し撃ちも・・・?」

 「ほらほら、早く次撃って!せっかく課題の成果を試せるんだから!」


 先輩たちからそんな声が聞こえて来る。
 そしてその人たちを相手にしている師匠はというとーー


 「おー撃て撃てー。お前らの夏休みの成果はそんなものかー」


 やる気のない声で喝のような言葉を投げ掛ける。
 確かに修行とは違ってただ受け身に徹するというのは暇なのかもしれないが。
 すると師匠の視線が気絶している先生に向き、「あっ」と声を漏らす。


 「おーい、誰かあの気絶してる先生を保健室ーーじゃなかった。治療室に運んでくれ。中等部でも高等部の奴でもいいから」


 師匠が言い間違えそうになったのは治療室。
 怪我をした生徒に軽い手当をする場所だ。
 師匠の世界の学校だと保健室と言うらしい。


 「「・・・・・・」」


 しかし師匠の言葉に誰も手を挙げる事はなかった。
 そんな状態に師匠が眉をひそめる。


 「え、誰もいないの?なんで?そんなにこの先生嫌われてるの?」


 いいえ、違います師匠。
 みんな先生が嫌いだとか面倒だからとかじゃなくて、師匠たちの戦いを見てみたいという好奇心から誰も行きたがらないんです。


 「仕方ねえな・・・じゃあ、カイト!それも誰かもう一人男子が付いて先生を運べ!」


 師匠に名指しされて俺のクラスのほとんどが「またお前か」という視線を向けて来た。


 「俺ですか?じゃあ・・・シン、行くぞ」

 「ん?え、俺?」


 横にいたシンに声を掛けると「なんで?」と驚いた表情をされる。
 だけどそんな事お構いなくシンの腕を強引に引っ張る。
 そうして流されるままのシンを連れて二人で担いだ。
 治療室まで運んでる途中、俺が師匠に名指しされたのが気になり過ぎているようで、シンがチラチラとこちらを見てきていた。


 「・・・言いたい事があるなら言えって」

 「あー・・・あの先輩って凄いよなーって」

 「それだけか?」

 「それだけって?」


 何か気不味いのか、直接言おうとせずオドオドしている。
 あまりに女々しく鬱陶しいので、呆れて溜息を吐きながらこっちから話を聞きやすくする事にした。


 「・・・俺とあの人がどういう関係かって思ってるんだろ?」

 「うっ・・・ま、まぁな」


 確かについ最近冒険者のSSランクになった人から当たり前のように声を掛けられるというのは気になってしょうがないのだろう。

 自慢するつもりはないが、あまり横でソワソワされても気持ち悪いだけなので白状する。


 「あの人が俺の師匠だよ」

 「・・・マジで?」

 「ああ。元々夏休み前の模擬戦の時に偶然チームが一緒になって、その時にあの人の強さを知って弟子入りしたってわけだ。おかげで今では毎日死にそうな修行を付けてもらってるよ」


 軽く苦笑いして言う。
 確かに死にそうではあるが嫌ではない。
 確実に前までできなかった事ができるようになり、自分が強くなっているのが感じられる。
 そして同時に、師匠の底知れない強さを実感する。
 師匠以外の人と手合わせしてみて自分の強さを確認し、そして師匠と戦い己の無力さを確認する。
 その繰り返しだ。
 どれだけ手を伸ばそうとも届く気がしない感覚。
 でもだからこそ、その底なしの強さに俺は惚れたんだ。


 「運か・・・いや、でもやっぱそこまでの向上心は俺にはねえよ。仮に俺があの人と同じチームになったとしても、「弟子にしてください」なんて言わなかっただろうな」

 「だったらそんなんでズルいとか言ってんじゃねえよ」

 「ズルいもんはズルいだろ!それに・・・なぁ?」


 するとシンはニヤニヤとしながら意味深な事を言う。
 その時にちょっとイラッと来たのは言うまでもない。


 「なんだよ」

 「その人んとこであんな可愛い子と知り合ったんだろ?」

 「可愛い子・・・?」


 一瞬本気で「誰?」と思ってしまったが、チユキさんが教室にやって来て騒ぎを起こした事を思い出し、「ああ!」と大きめの声を出してしまった。
 シンの言っている可愛い子とは多分チユキさんの事だろう。
 見た目は確かに可愛らしいが、本性を知っている俺たちからすれば「可愛いい」というより「恐ろしい」だったので、すぐには気が付かなかった。


 「チユキさんの事か・・・言っとくけどあの人俺たちより年上だからな?」


 それも十、二十歳どころじゃない年上のお方だ。


 「そっか、年上のお姉さんか!小さいのに年上で可愛いとか羨ましいな!」

 「あ、そう。なんならあの人の愛情をお前にも分けてやりてえよ」

 「何をー!?彼女ができたからって調子に乗りやがって!」


 いや、本当に。
 自分を殺した相手に愛されるとか、普通全力で逃げたくなるだろ。
 俺が逃げないのは師匠がいる安心感とチユキさんからは逃げられないという確信があるからだ。
 あの人なら文字通り地の果てまで追い掛けて来そう。
 そんな会話をしていると担いでいる先生から「うぅ・・・」と呻き声が聞こえた。


 「・・・ここ、は・・・?」

 「あっ、先生。気が付きました?」

 「君たちは・・・中等部の・・・」

 「カイトです。歩けますか?」

 「あ、ああ・・・俺は一体?」


 多少フラフラして危なっかしかったが、先生はなんとか体勢を持ち直して立った。


 「先生は師匠との・・・高等部のアヤト先輩と戦って負けたんですよ」

 「そうか・・・俺はあの子に何をされたか分からなかったが、お前たちは見えたか?」

 「いいえ、全く」


 先にシンが答える。
 恐らくあの場にいたほとんどの生徒が見えていなかったのだろう。
 しかし少なくとも俺はなんとなく見えていた。


 「先生の首に手刀が当てられてましたよ」

 「何?君には見えていたのか!?」

 「・・・まぁ」


 だってここ最近毎日間近で見てますもん。
 そりゃ嫌でも見えるようになりますよ、はい。


 「それはともかく。どうします?今先生を治療室に運ぼうとしていた途中でしたが」

 「あ、ああ・・・そうだな。一旦休ませてもらうとするか。・・・いやだが、授業が・・・」

 「一応今アヤト先輩が代わりに授業っぽい事をしていますよ」

 「そうかそうか!あの生徒には色々と悪い事をしてしまったな!しかしこのままでは授業にならないだろう。あとは自習だと伝えてくれ」

 「分かりました。・・・先生も治療室に行った時に生徒にやられたなんて言わないでくださいよ?」

 「もちろんだとも!俺としても敗けた事よりも生徒に勝負を仕掛けた事がバレたら減給されちまうからな!いやだが、本当に良い経験になった!アッハッハッハッハッ!!」


 調子が戻った先生は豪快に笑いながら自分の足で治療室へと向かった。
 だったらやらなきゃいいのに、と思いながらシンと共に体育館へ帰る。
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