最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

戦う意思

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 ☆★カイト★☆


 体育館に帰るとカオスな光景が広がっていた。
 さっきまで師匠に向かって魔法魔術を放っていた生徒たちがぐったりと倒れていて、その先に師匠が地面に座り俺たちに向かって手をヒラヒラと振っていた。
 恐らく師匠が倒した、のではなく生徒たちの魔力が尽きたのだろう。
 すると師匠は立ち上がって振っていた手をチョイチョイとして「来い」というジェスチャーをしていたので、師匠の所に行ってみた。


 「先生は?」

 「途中で気が付いたんですが、大丈夫と言って一人で治療室に行きましたよ。それでみんなにあとは自習にするようにと伝えるよう言われました」

 「お、そうか。まぁ、このまま俺が指示するよりそっちの方がいいわな。じゃあ、カイトは中等部の連中に言っといてくれ。俺は高等部の方に伝えとくから」

 「はい、それじゃあーー」

 「あ、そうだ。そう伝えた後にレナも呼んで俺んとこに来てくれ」

 「えっと・・・分かり、ました?」


 分かってないけどとりあえず返事をしておく。

 何をするつもりだろうか?
 もしかしてこんなとこで修行?・・・まさかな。

 流石にこんな人目の多い場所でボコボコにされるのは恥ずかしいな、なんて思いつつ中等部のみんなに自習になった事を伝え、ジジリさんと一緒に座って話していたレナのとこへ行く。


 「アレ、カイト、君?」

 「オォ、君カ。どうしたんだ?もしかして、女の子同士の会話に混ざりたいのかイ?」


 ジジリさんが二ヒヒと笑う。
 そんな悪戯心が篭った言葉に「いやいやいや」と否定する。


 「慣れてないわけじゃないですけど遠慮しておきますよ。師匠がレナも呼んで来てくれって言われただけですから」

 「そうかイ・・・アア、そうダ。オイラたちは同学年なんだから敬語は不要だゼ?」

 「・・・そうか、分かったよ。とりあえず師匠んとこ行くか」

 「あ、うん・・・」


 レナが立ち上がると釣られるようにジジリさんも立ち上がった。


 「話し相手を取られるとこっちも暇になるんダ。オイラも行っていいダロ?」

 「んまぁ、師匠ならダメとは言わないと思うし。大丈夫だと思うぞ?」

 「あンがとサン♪んじゃ、アヤトクンのとこに行くとするカナ」


 そう言って何故か先頭を先に行くジジリさん。
 師匠の元に着くと呆れた顔をしながらもジジリさんも付いて来る事は分かっていたようだった。
 メア先輩やミーナ先輩もすでに師匠の横に待機している。


 「悪いな、レナを借りるぞ」

 「ドーゾドーゾ。オイラが一緒で良ければ」

 「どうせどこにいたって筒抜けにされそうだからな。いてもいなくてもいいさ。・・・さて、自習って事だしこうやって集まったのだから先に話しておく事がある」


 改まって神妙な顔をする師匠。
 あまりの真剣な雰囲気に固唾を呑んでしまう。


 「何かあったんですか・・・?」

 「この前、メアが他の国の王様ぶん殴っちまった話はしただろ?」


 師匠の言葉にメア先輩が「うっ・・・」と声を漏らす。
 その後の「何故今そんな話を掘り返すんだ?」とでも言わんばかりの恨めしそうな視線を師匠は平然と受け流す。


 「はい。確かグウェント王・・・でしたっけ?」

 「そう。そんでその王様が半年後、ラライナに戦争を仕掛けるって知らせをさっき学園長から聞いた」

 「「!!」」


 俺とレナ、先輩たちもその言葉に驚く。
 師匠の声はそれほど大きくはなかったから、周りの人には聞こえていなかったようだ。
 ジジリさんは「オヤオヤ」と大して驚いていない様子だった。コレも情報として知っていたのだろうか?


 「でも・・・なんでラライナに?」

 「簡単な話だ。戦争でメアを奪うためだろうよ」

 「そん、な・・・!人は・・・物じゃない、のにッ!」


 相変わらず小さかったが、確実に怒気を孕んだ声を発したレナ。
 そんなレナの怒りに師匠が軽く笑う。


 「だな。そんな奴にメアを渡すわけにはいかない。だからそんなクソ野郎をぶっ飛ばすため・・・もとい、ラライナを勝たせるために俺も参加するわけだがーー」

 「私も、行きます・・・!」


 師匠の言葉を遮るようにレナが力強く言った。
 さっきかららしくないレナの言葉に目を見開いて驚く先輩たちとジジリさんだが、この時は俺も同じ事を思った。


 「俺も行かせてください!」


 戦争、人との殺し合い。
 自分がソレに加わりたいと言っているのは理解してる。
 だけどメア先輩をそんな輩に渡したくないというのは師匠と同じだし、何よりレナだけをそんな場所に行かせるわけには行かない。
 俺たちの言葉を聞いた師匠は呆れたように笑った。


 「お前ら・・・バカだろ?」

 「ふぇっ!?」

 「酷いですね・・・師匠に言われたくありませんよ」


 師匠の言葉に俺も苦笑いでそう言い返す。
 言われると思った。だから笑ってしまう。
 戦争をしたいなんて普通の人だったら言う筈がない。


 「ハハッ、言うようになったじゃねえか」


 そう言って師匠に軽くデコピンされる。
 「軽く」と言ってもバチンッ!と音が聞こえるくらいには強く痛い。


 「いたた・・・やめてくださいよ。師匠のデコピン痛いんですから・・・」


 「痛い」で済んでるのは普段の修行でなぶられているからだろう。
 前までだったらデコピンで転げ回ってたんだから。

 ・・・嫌な慣れだな。


 「・・・まぁ、何にせよお前らの考えは理解した。元々どうするかを聞きたくてこの話をしたんだ。半年も時間があるからその間もお前たちを鍛え、それでもその気持ちが変わらなかったらお前たちも加える。分かったな?」

 「「はい!」」


 俺とレナの声が重なる。
 俺たちの返事を聞いた師匠は「よし!」と満足そうに頷くと先輩たちの方を向く。


 「おっし!もちろん俺たちもーー」

 「メア、お前は待機な」

 「ーーえ?」


 ーーーー


 学園の授業が終わった。
 未だにチラチラと視線が刺さる中、俺たちは廊下を歩いていた。
 朝の師匠たちへの告白騒動では俺たちにはなかったが、その時に少しだけ視線を感じるのは気のせいで勘違いだと思いたい。

 だって模擬戦で活躍したのは師匠たちであって俺はあまり・・・してない、よな?
 確かに決勝戦に上がるまでに何人か倒したし、決勝で一応生き残ったけども・・・模擬戦で相手を倒すのは当たり前な事だろ?

 そんなモヤモヤした感じを抱いたまま師匠たちの声に耳を傾ける。


 「ムー・・・」

 「そんなむくれんなって。しょうがないだろ?今回の相手の目的はお前だ。そのお前を万が一にも前に出すわけにはいかないんだ。わかってくれ・・・」


 なんだかちょっとした夫婦みたいな会話・・・いや、どっちかと言えば父親と娘、か?
 師匠が頬を膨らませて拗ねているメア先輩をあやそうとするそんな会話が繰り広げられていた。
 どうやら自分だけ除け者にされて不貞腐れてるらしい。
 ただ会話内容とは違って師匠が普通に先頭を歩き、その裾をチョコンと可愛らしく摘んでいるメア先輩の姿が目の前に。
 やはり怒っても構ってほしいのは変わらないらしい。
 ・・・それが少し面倒と思っちゃったのはここだけの話。
 そしてそれは完全にいじらしい恋人同士の絵だ。いや、恋人だけれども。
 おんぶ抱っこで子供扱いするところはいつも見るけど、あまりやらない事をしてるとこを見るとなんだかほっこりする。
 ちなみにジジリさんは「オイラには大事な家庭事情ってやつがあるからこれで失礼するゼ!」と放課後になった瞬間そう言ってすぐにいなくなった。
 レナも「いつもの事、だから・・・」と苦笑していた。
 そんな事はともかく、俺たちは今からある場所に向かっていた。
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