実話おもらし「コスプレしていて電車内で漏らした私」

吉野のりこ

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第8話 おもらし後

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 おしっこを………おもらし……して……しまった。
 それも電車内で……
 しかもコスプレなんて目立つカッコのときに……
 泣きたいくらいに恥ずかしい。
 恥ずかしくて私は、ずっと顔を隠してる。
 両手で吊革をもった両腕で左右から顔を覆って、隠してる。
 涙が出てきて……泣き声はあげてないけど、涙が滲んで、腕が濡れて、流れて両腋まで濡れる。
 濡れてるのは、下半身の方がひどい。
 見せパンの下着はビショビショで、
 内腿も冷たくて、
 ニーハイも、ぐっしょり濡れて、
 靴の中はダムみたいに貯まってる。
 見たくないから見てないけど、きっと足元には大きな水たまり。
 ジャージャー漏らした後、ずっと、そこに立ってる。
 逃げ出したいけど、電車に閉じ込められて、どこにも逃げ場がない。
 これが学校だったら、保健室に連れて行かれて退場できるのに、
 ずっと、おもらしした姿のまま、立ってないといけない。
 笑い声が聞こえる。
 クスクス
 キャハハハ
 あの子、おしっこ漏らした
 アハハハ
 マジで漏らしてるよ
 ギャハハハ
 私の頭の中に嘲り笑いの声がグルグル回る。
 実際には、このとき声をあげて笑ってる乗客はいなかった。
 それは録音で確認できる。
 車内は無言で、重苦しい空気。
 きっと、私のおしっこの匂いが充満してるけど、誰も何も言わない。
 おしっこ漏らしたのか?
 なんで漏らしたの?
 バカなの?
 そんな中学生みたいな質問は飛んでこない。
 事故で停止した電車内にトイレがなかったら、おもらしするしかない。
 限界まで我慢して……
 それで限界がきて決壊した……
 なんで漏らしたの? なんて質問しなくても見ればわかる。
 車内は沈黙。
 沈黙の大笑い。
 みんなが大笑いしてる記録がある。
 私がコスプレの小道具として両耳に着けてる大きなヘッドフォンは、実は内部にウェアラブル小型ビデオカメラが入っている。ヘッドフォンとしての構造は取り去られていてビデオカメラが設置できるように、レイヤー仲間の小道具造りが趣味な人が魔改造してくれた。
 曰く、君みたいにコスプレ姿で街を歩くような人なら、これ着けて周囲の人の反応を撮ってみるといいよ、と。
 それで右耳にあるヘッドフォンは前方を撮っていて、左耳は後方を撮っている。録音は両方がしている。魔改造のおかげで誰も動画撮影中なことは気づかない。
 気づかないから、普段のコスプレのときでも周囲の人の何人かが、私を指さして何か言ってたりする。
 なにあれ、オタク?
 コスプレとかする人、初めて見た。
 頭おかしい。
 スカート短っ、ってかパンツ見えてるんですけど。
 見せたいんじゃない?
 変態みたい。
 顔かわいいだけのバカな子。
 アハハハ、辛辣ぅ。
 私の背後で好き放題に街頭で言ってくれる。
 まさに、後ろ指を指される、という慣用句そのまま。
 とくに残念なのは、私の前方に居たときは物珍しさで私の姿を撮らせてと言ったり、ツーショット写真を望んだくせに、終わって私の背後に回ると、後ろ指を指して友達とヒソヒソ言ってキャハハと笑う人までいること。
 このヘッドフォンで撮影すると、人間の裏表が手に取るようにわかってしまう。
 おしっこ漏らした私の前方に居る人たちは、画角の左半分は吊革をもってる私の右腕で撮れてないけど、右半分は撮れていて、みんな重苦しく沈黙して無表情に黙ってる。
 でも、私の後方に居る人たちは、笑ってる。静かに大笑い。
 おもらしした私を指さして、隣の人とヒソヒソ言ってクスクス笑って、ひどい人なんてスマフォのカメラで撮ってくる。
 だから、私の頭の中をグルグル渦巻く嘲笑は、幻覚じゃなくて、実際の出来事だった。
 静かな大笑い。
 人間の表と裏。
 私と目が合うかもしれない前方の人たちは、重苦しい無視。
 後方の人たちは私が振り返ることはないと思って、嘲りの笑顔。
 そりゃ可笑しいよね。
 もう大人に近い歳なのに、
 子供みたいにキャラクターのカッコして、
 子供みたいにおしっこのおもらしして、
 笑っちゃうよね。
 泣こうかな………わんわん……声だして泣いたら……誰か助けてくれるかな……
 それとも、もっと笑うかな。
 おもらしして泣くなんて、ホント子供みたい、って。
 泣きたいけど……泣きたくない……もうプライドはズタズタだけど、
 それでも、せめて黙って耐えたい。
 あと何分………まだ電車は動かない………おもらし姿のまま、あと、どれぐらい私は晒し者になるの………あと何分、耐えればいいの……
 恥ずかしい………
 こんな…はずかしめ……
 死のうかな……
 ここから解放されたら、死のうかな……
 どうせ、私の写真……みんなネットにアップするに決まってる。
 ぅ……恥ずかしすぎて……吐き気がしてきた……
 死にたい。
 死にたいくらい恥ずかしい。
 
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