無実の男爵令嬢と無能チートの牢番くん~最強SSRの侯爵令嬢が出るまで過去改変を繰り返し「囚人ガチャ」を引きまくるしかないようです~

鈴林きりん

文字の大きさ
14 / 18

あなたにつなぐ全ての人と人~綺麗ごとだけでは済まされない~

しおりを挟む
「また牢獄。もう、許して。許してください、女神様」

 使用人のメアリだった。
 よりにもよって最も立場の弱い子だ。
 何らかの役割意識もなく正義感もない可能性が高い。
 やり直しをする時間は恐らくない。

「あ、ああ」
 
 頭を抱える。もう無理だ。
 この子には何かやらせるのは、おおよそ困難。
 やり直そうにも、どうしたらいいのか。
 頭が回らない。気力が底を突きかけている。
 アンナ。もう君に会えないのか。

「おい。シュテファン。おい、出てこい! 客人だ!」

 上司に当たる男に呼び出しを受け、ふらふらと出ていこうとする。
 あぁ、でもその前に。

「ごめんね。巻き込んで。そういえば、料理人の男性が君のことを好きらしいよ。彼と出来れば幸せに」

「え?」

 最後にメアリを返してやった。
 牢屋の中に入っていると思われる相手を確認せず、出て行った。
 気の毒だが、もうこれ以上の時間はない。
 処刑される前にどうにか逃がしてやりたいが、結局は誰かにそれを押し付けることになる。どうしていいのかわからない。僕は女神様ではない。誰かを裁定する権利などはない。
 無力感に苛まれて、ただ目の前の流れに身を委ねるより他はない。

 だけど。
 アンナの言葉が思い出される。 
 彼女は、これまで多くのものを与えられては、理不尽に奪われてきた。自分で何かを得る努力をもっとすべきだったと言った彼女。女神様の慈悲に泣いて縋るだけじゃいけない。そんな愚かな者にはきっと誰も微笑み返してなどくれない。

 僕は気持ちを奮い立たせる。
 そうだ。諦めてやるものか。
 愚かになるな。希望を捨てるな。
 最後の最後まで。死ぬまで足掻き続ける。
 彼女を諦めた瞬間に、僕も死ぬのだ。
 世界は闇に閉ざされ、二度と光など降り注がない。
 だから、だから、だから。
 
 そんなことを考えていると、客人に引き合わされる。

「私は侯爵令嬢オリヴィアです。一体何が起こったのでしょう」

「あ、ああああ」

 これまで絶対に牢に送られて来なかった重要人物が現れた。
 囚人たちの噂レベルの話を総合すれば、彼女は人格者の可能性が高い。アンナに対しても特段の憎しみなどは抱いていないらしい。ここに食らいつくしかない。もう二度とチャンスはないかもしれない。

 恭しく跪き、その尊いお姿に敬意を表した。
 発言の許しを請うてから、口を開く。

「初めましてオリヴィア様。私はここで牢番をしているシュテファンと申します。どうか、私の話を聞いてはいただけないでしょうか」

 果たしてこれで正しい礼儀となっているのかはわからない。 
 それでも、必死にただ己の知ることを口にし続けるしかなかった。

「なるほど。確かにアンナ様は何者かに襲われて亡くなっています。牢番であるあなたが知りえるはずもない話ですね。人伝えではありますが、様々な者からの証言もあります」

 レイラ達も動いてくれていたようだ。
 あぁ、彼女達のおかげだ。
 自分一人の力ではない。
 数々の運命と策略に振り回された者達の正義と忍耐に感謝を捧げる。
 それに対する償いは出来ない。

 せめて、自分に差し出せるものをすべて差し出すだけだ。

「あなたのお力を貸してください。そのためなら僕は全てを貴方に捧げます。この祝福をあなたのために。だから、アンナを」

「わかりました。最善を尽くしましょう。罪なき者を犠牲にするなど許されません。私が許しません。賢き者には栄誉を、愚かな者には裁きの鉄槌を下すべきでしょう」

 威風堂々としたその姿は女神のようだった。
 レイラと同様に、深く澄んだ真実の青をまとう。
 この上なく美しく、そして恐ろしい。

 今気づいたが、彼らは恐らく「伝説の英雄」だ。
 
 祖先よりも継がれし、建国王のまとった色の伝説。
 それはとても深く美しい真実の青だったと言う。
 歴史に名を残す存在、それに相応する者。
 そのような直観めいたものを感じる。

 彼女を過去に送り出す前に、地下の牢屋に誰が入っているかを確かめに行く。
 ここまで事態が動いた以上は、誰かしら知っている者な予感がした。
 予想は的中し、二人の面識ある人物が居た。

「ここまで話を進めた責任もありますので。あとできればもう一度過去に飛んでみたい」

 一人はレイラだ。
 彼女の性格を考えれば当然だったかもしれない。

「メアリに泣きつかれまして。多分どうにかなるだろうなと思って牢に」

 頬を掻くのは料理人のヨハンソンと名乗る男性だ。
 名前は言われても思い出せないが顔はわかった。
 それもまた、愛ゆえにだろうか。

 メアリを返した直後にオリヴィア様が訪れた。
 彼女にはヨハンソンについて伝えただけだ。

 オリヴィア様に取り次いでくれたのはやはり、宰相の息子だった。
 残念ながらその夜に即座に行動には移せなかったらしいが、賢明な人物であるらしく、レイラやほかの人間たちから証言を聞き、総合的な判断をした上でオリヴィア様に伝えてくれたらしい。

 過去に飛ばした者たちの記憶は最新のそれが継続している。
 大きな流れはもはや変わらないということだろう。
 
 彼に取り次いでくれた、アナスタシア嬢。
 宰相に求婚されていると言っていた彼女。
 ここでもまた愛が何かを繋いでいる。
 絶望的な状況を支えたのが人の情や繋がりであることに、僕は感じるところがあった。
 世界はそこまでまだ捨てたものではないのかもしれない。

 最もその裏で誰かを牢に放り込んでいた自分は何だと言う話ではあるが。
 世の中は綺麗ごとだけでは済まされない。

 オリヴィア様を過去に送ると同時にレイラとヨハンソンも消えた。

 これまでの囚人たちが大きな成果も出せないのは恐らく、末端であるからだ。物事の中心人物で訪れたのはアンナとオリヴィア様のみ。
 力のある人間が何らかの行動を行えば大きく展開は変わるはずだ。
 もう祈るよりほかはない。
 あぁ、アンナ。もう二度と会えなくてもいい。だから救われてくれ。
 
 牢屋へ戻ると、そこには。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ
ファンタジー
 妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。  残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。  何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。  後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。 (小説家になろうでも掲載しています)

転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ
ファンタジー
◆「悪役令嬢」の皮をかぶった「ブラック企業耐性MAXの元オーナーパティシエ」が、命を懸けた90日間のRTA(リアルタイムアタック)に挑む! 主人公リリアは、激務で過労死した元オーナーパティシエ(享年29歳)。次に目覚めたのは、乙女ゲームの**「断罪される悪役令嬢」**でした。90日後、ヒロイン・アリスが来訪する日までに、ヒステリックな女王の理不尽な命令で処刑される運命! 「二度と過労死(バッドエンド)は嫌だ!」 死刑執行(激務)から逃れるため、リリアは前世の経営スキルを発動します。彼女の目的は**「破滅回避」と「優雅なスローライフ」。恋愛なんて非効率なものは不要。必要なのは、最高の業務効率と、自らの命を守るための『最強の経営資産』**だけ! ◆美形たちを「最高の業務効率」と「お菓子」で買収! リリアは、絶望と疲弊に沈む攻略対象たちを、冷徹な『経営哲学』で救済します。 • 愚直な騎士団長ジャック:予算不足で士気が崩壊した騎士団を『エナジークッキー』と『現場理解』で再建。「貴女こそが真の主君だ!」と忠誠(独占欲)を捧げる。 • 過労死寸前の宰相ラビ:書類の山を『完璧な事務処理』と『脳疲労回復チョコ』で劇的改善。「貴女の知性は神の領域!」と行政権限(支配欲)を委譲する。 • ミステリアスな情報屋チェシャ猫:「退屈」を嫌う彼を『予測不能な策略』と『日替わり気まぐれスコーン』で餌付け。「君という最高の獲物を独占する!」と影のシナリオライターとなる。 ◆RTA成功の代償は「逃げ場のない溺愛ライフ」? 90日後、最強の布陣でヒロインの告発を論理的に打ち破り、見事RTA成功! リリアは安堵とともに「明日からは優雅なスローライフ!」と宣言しますが、彼らの溺愛は彼女の想像を超えていました。 彼らの忠誠心は、リリアの「自由」を脅かす**狂気的な『独占任務』**へと進化! 「貴女の創作活動は、この国の公務です。24時間私が管理します」 破滅フラグは折ったのに、なぜか最強の美形たちに囲まれ、自由を奪われる新たな**「難易度インフィニティの溺愛ライフ」**が幕を開ける! これは、過労死寸前王女の、甘くて恐ろしい逆ハーレムエピローグ!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」 そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。 お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。 「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」 あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。 「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。   戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」 ――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。 彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。 「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」 「……本当に、離婚したいのか?」 最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。 やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

処理中です...